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2-4 労働

バレリアの喫茶店に訪れたナージャ。バレリアの頼みとは……

 店の案内と衣服の建て替えをされた借りを返しにバレリアのお願いがなんなのかを訊くため、変装喫茶という変わりものの店の奥の休憩所に来たナージャは、お互い長椅子に座って顔を向かい合う形でさっそくお願いの内容を聞いた。

 ちなみに店長はこの場におらず、バレリアとナージャ、そして隣に座るリュナの三人のみだ。


「この変装喫茶『サンライト』で一日だけ手を貸してくれないでしょうか?」

「?」


 まさかそれが店の手伝いだとは思わなかったのだが……


「実は訳がありまして、ここの従業員の娘が三人も欠員してしまったのです。しかし明日……いえ、もう今日になっていますね。今日、どうしても人手が必要なほど大切なイベントがあるのです」

「で、困っている私を見かけていろいろ恩を売ってこの店のお手伝いをさせようとする訳?」

「そうです、ナージャさん。はっきり言うとそう言う事になります」


 聞き方によっては暴言にもなるナージャの言葉を、バレリアは笑顔できれいに流す


(……この子、将来大物になるのかしら)


 バレリアは、にこやかな表情のまま話を続けた。


「私の財布、もうすでに取り戻したけど服の代金じゃなくて、人手の方が必要?」

「そうですね……もちろんナージャさんに無理はさせませんし、立て替えた代金を払ってくれるだけでも構いません。しかし、せっかくですから……」


 と、何かに欲を張るように、話の途中でバレリアはナージャから返された紙袋を持ち上げ、中身を覗き込みながら、


「ナージャさんに来てほしい服を選んで買ったのですが……」

「…………え?」


 バレリアはもう一つの要望をナージャに願った。

 つまり、リュナに着せるかも知れなかったあれらの服は皆、自分用の為に買ったようだ。

 たしかに妙にサイズが大きかった気が……


 バレリアはこの瞬間、妙に目をキラキラさせながら楽しそうに語り出す。


「ナージャさんのこと、一目見た時から私の直感がこれです、と告げていたのです。この人にはどんな変装が似合うでしょうか。クールにスタイリッシュでしょうか? それともギャップでかわいい系でしょうか? それとも色気全快で攻めましょうか? いろいろと悩んだ挙句、あの時あんなにもたくさん……!」

「仕事はとにかく、変装はしないわよ」


 ナージャがバッサリと告げた途端、バニースーツを手にしたバレリアは「え…………!?」と驚愕し硬直した。

 なぜ自分がそんな特殊な服を着ることを前提で話を進めているのだろうか、さっぱりわからない。しかも拒否をしただけで信じられないような顔をしている。


「ナージャさん……着てくれないのですか!? 手伝ってくれないのですか!?」

「手伝うわよ。けど、そんな服を着るなんてごめんよ」

「そ、そんな……そんな…………」


 なぜこれしきの事で絶望をするのだろうか。この世の終わりとなるには大げさすぎる。

 バレリアは肩をわなわなと震わせて、火傷跡の顔をうつむきながら悔しそうに呻く。


「そんな……そんなのあんまりです…………せっかく店の娘にも負けない逸材で、かつ店長もきっと認めてもらえそうな素晴らしい人材を見つけたのに、肝心の変装をしないなんて…………そんなの嫌です!!」

「…………」


 そんな、まるでどうしても譲ることのできない場面に遭遇したかのように、バレリアは命乞いでもするようなすがりつく目つきでナージャの方を掴みながら必死に懇願する。


「ナージャさん、お願いします! ジャージでもバニースーツでも修道服でもメイド服でもビジネススーツでも天使兵装でも野戦服でも浴衣でも踊り子でもビキニでも軍服でも喪服でも、なんでもいいですからとにかく着てください!!」

「…………」


 この瞬間、ナージャは目の前で必死にすがりつく少女のとんでもない本性が明らかになり、顔を脱力せざるを得なかった。

 この少女は可憐な見た目と丁寧で楚々とした振る舞いとは反対にとんでもない変装マニアだ。

 しかも、これまで似ているどころか比べるまでもない人物と目の前の少女がこの時だけ一致した。


(所長だ…………)


 この、普段は立派な所があるくせにある限定した場合に限って駄々をこねるような子供っぽいところがまさしくそっくりだ。


(こういうタイプはいくら粘ってもベタベタくっつかれるだけ…………面倒くさい)


 ナージャはこの手の扱いにはある程度理解しているつもりだ。もう早いとこ折れるしかない。

 ナージャはせめて地獄で着たことのある服を選んで妥協することにした。


「…………ビジネススーツで」


 その瞬間、バレリアの表情が、ぱあっと花が咲くようにきれいに輝きだした。

 逆にナージャは、とんでもない人間に目をつけられたと、若干後悔することとなったのだった。



          ◇



 ナージャの臨時採用が決まってしまったすぐ、『サンライト』後ろの日陰の路地にて、そこでふて腐れながら待っていたオルトが、なぜか昔のスーツ姿になっていたナージャを見て目を丸くしていた。


「おいナージャ、ずいぶん懐かしい恰好をしているじゃないか。ガサツ女から一転、仕事女か?」

「うるさいわ。とにかくこの子は眠ることになるから、子守りを頼むわ」

「は?」


 ナージャの片腕には、もうすでに目を閉じて舟をこいでいるリュナが抱えられている。

 もうすでに日は跨いだ直後ではある為、子どもが起き続けるにはつらいだろう。その上、常に明るい町中を寝続けるのは無理がありそうなため、日陰か室内でしかない。

 ナージャは横に抱えたリュナをオルトの隣に寝かせ、もう一度喫茶店の中に……


「ちょっと待て、お前何の説明もなしに何処へ行く気だ」

「ちょっと喫茶店で働くだけよ。一日だけ待ちなさい」

「どういう事!?」


 まったくもって意味の分からない説明に、理不尽ささえ感じてしまうオルトだったが、ナージャもまた違う意味で理不尽さを感じている。

 だが、こうなってしまった以上無駄に説明している必要はない。

 せめて最低限の説明だけは済ますことにする。


「あんたたちは私が働いている間、好きに休んでなさい。もし余裕があったら情報収集を頼むわ。ただし問題は起こさないでよ」

「あ、おい! ナージャ!!」


 まだ状況がよくわからないのだが、取りつく島のなく店に戻ってしまったナージャに、オルトは呆然とするしかなかった。

 だが、すぐに気を取り直すと、とにかく明日までは時間があると理解し、まずは隣で眠っているリュナを見守ることにした。

 だが……


「…………ところでなんであいつはスーツを着ているんだ?」


 そこだけはまったくわからないオルトであった。

 深く考えてみるも、隣からすぅ、すぅとリュナの安らかな寝息を聞いて、考えるだけ無駄かとあきらめるのだった。



          ◇



 そんなこんなで、なぜかナージャが一日だけビジネススーツを着用して、喫茶店の、それもよりにもよって不慣れな接客で働くことになった。

 本当はもうしばらく休んでからでも構わないと言ったが、睡眠を必要とはしない義体であるため、今すぐでも平気とナージャはすぐさま働くことになった。


 初めはバレリアが休憩に入り、代わりに他の店員の娘や店長に教えられながらもなんとか接客の姿勢は様にはなっていた。

 冷たく無機質な態度は拭えなかったが、もともと何でもありの変装喫茶の為、それがいいと逆に称賛されることもあった。

 そして……


「はい、休憩が入りました。ナージャさん、一旦ですがお疲れ様です」

「ええ、そうさせてもらうわ」


 ナージャが働き始めてからしばらくして、夜の時刻とは違いじりじりと日照りの強い真昼の頃に、ナージャたち一部の店員が休憩に入ろうとした。

 面倒ではあったが、強固な義体と持ち前の精神力で、何とか午前を乗り切った。

 バレリア以下数名が奥の休憩室に入ろうとする直前、ナージャは本来の目的を忘れず、バレリアにあることを聞いた。


「ところで、あんた。これらの顔の中で見覚えのある奴いない?」

「え?」


 ナージャはあらかじめ用意した、美獣を抜いた脱獄者たちの手配書を取り出し、バレリアに見せた。

 いきなり妙な質問をされて良くわからないが、バレリアは一つ一つ、しっかりと目を通した。

 ただ、写っている顔一つ一つが個性的なため、難しい顔をしている。


「……個性的な人たちですね。ナージャさんが探しているのですか?」

「まあそういうことよ」

「気になる答えですね…………ん?」


 と、手配書を眺めながら質問をしてくバレリアだが、ある人物の所で目を止めた。

 その時のバレリアの顔が驚きと意外性に変わりだした。


「…………パウル様?」

「え?」

「なぜパウル様が写っているのですか?」


 パウルとは、正式名称『パウル・ロキ・シェロス』と書かれており、手配書の中にある涼しげな顔をした美青年の所だ。

 バレリアのこの言葉からして、明らかに知っている様子だ。


「……ナージャさん。もしかしてパウル様のことを追い求めてここへきたのですか?」


 しかもその言葉はつまりオルトの言っていたこの街に潜む脱獄者であることに違いはない。

 そう確信したナージャはこれ以上言及しないことにする。


「……いいわ、それがわかれば十分よ」

「あ…………」


 バレリアからパウルの話を聞くのもいいが、それよりも前情報を先に知っておく必要がある。

 とにかく、休憩時間を利用してナージャは喫茶店裏の、先ほどオルトがいた所へと進んでいった。



          ◇



 さすがに時刻は真昼近くの為、いつまでもここにオルトはいない。

 だが、そんなことは構わずナージャは変装着のタイトスカートのポケットから携帯電話を取り出し、いつもの所へとつなげた。

 とある現世の実物とは構造が全く違うのに、無駄に再現されたコール音の後にいつもの声が届く。


『よう、ナージャ。勝手に電話を切るな。俺は結構寂しかったんだぞ』

「……最初の一言目がそれですか」


 さっそく、暴言と共に電話を切ったあの時のことを根に持った発言に、少々呆れるナージャだったがすぐにこの街に潜む脱獄者の正体について事細かに報告した。

 無論、財布を落としたところから喫茶で働くことになったところを省いてだが。


『……ふうむ、パウル・ロキ・シェロスか。それは本当か?』

「はい。オルトの嗅覚と情報源の発言からして、この街にいることに間違いありません」

『わかった、少し待て。奴の情報が書かれた資料は…………』


 電話の向こうからがさごそと物を漁る音が聞こえ、しばらくしていくと所長の声が戻ってきた。

 いよいよ、次の脱獄者についての詳細が語られる。

 ナージャは気を引き締めて、所長の声に耳を澄ませた。


『地獄監S級咎人、パウル・ロキ・シェロス。種族は花精かせい、性別は男。死亡年齢は120、現世番号は二番界だ』

「へぇ、聞いた限りでは普通そうですね」


 二番界とは、またの名を『霊界』とも呼ばれ、特定した実態を持たぬ霊体が住む世界とされている。

 その世界では初めに実態を持たぬ霊体として生まれ、その世界にある様々な有機に組み込まれることで実態を得て自らを『固定化』し、そこで初めて世界に干渉できるのである。

 木に組み込んだ木精、大地に組み込んだ土精、水に組み込んだ水精、神秘の力を得た妖精、未だ固定化されていない幽霊など、実体の有無を問わずさまざまな霊体の種族が生息しており、花に組み込んだ花精もまたその一つである。


『確かに二番界出身で花精は珍しくない。しかし、奴の場合は特殊なケースで生まれたのだ』

「特殊なケース?」


 花精は花に取り込んで実体化した霊体だが、取り込む花によっては、いろいろと特徴が違ってくる。

 だが、所長が言う特殊とはそれどころのレベルではない。


『奴はまだ霊体だったころ、いったい何の因果か別世界から来た異邦者のせいで二番界から離されてしまったのだ』

「別世界に離された?」


 つまり、違う世界から跨いでやってきた何者かが、しかもどういう方法を使ったのか生まれたばかりの霊体を持ち去ったのだ。そもそも二番界にどうやって来たのか、霊体のシステムをどうやって知ったのか……

 いろいろと耳を疑いそうな話だが、つまりパウルの元となった霊体は違う世界へとやってきた。


『奴の生まれは二番界だが、死亡したのは五番界だ。そこで奴は外界種の花に取り組まれた。しかもその花はかなり珍しい』

「と言いますと?」

『ナージャ、仙花せんかという花の事を知っているか』

「仙花……」


 仙花とは、魔道を礎とする五番界にのみ咲く、ありふれた珍しくない花だ。

 だが、数ではありふれているもののその生態は珍しく、はるかいにしえの時代から研究が欠かされていない花とされる。


「春夏秋冬に囚われず、世界中のどこにでも咲くことが出来るとされており、周りの環境に合わせて独自の進化を遂げるという花ですね」

『その通り。砂漠に咲けば大気から最低限の水分を吸収する生態に進化し、毒沼に咲けば毒に負けず強力な薬用のある生命力に進化し、人に踏まれ続ければ踏まれても潰えない強度に進化する』


 ついでに言うなら仙花は、形は多少違えど大元は大体同じだが、周りの環境に合わせてその色を変えることもできる。

 外敵の為の保護色にもなるし、風景と同化するような色にもなる。さらに神秘的なのは栽培で育てられた場合、育てた人間の心の暗さや清さに比例して色を変えることが出来るわけだ。


「とにかく、場所にも季節にも関係なく咲き続ける花ではありますけど、まさかパウルは……」

『そうだ。その仙花に組み込まれ、パウル・ロキ・シェロスとして生まれた。もっとも、名付け親は連れ去った仙人だが』

「へぇ…………ん?」


 と、ここまで話を訊いたナージャは、所長の最後の言葉が気になった。


「仙人?」

『霊体だった奴を連れ去ったのはただの人間ではない。魔の道を究めた人間、それでいて世界から最高位の称号である『仙人』を持つ男が、奴を生み出したのだ』


 つまり五番界でも最高位の魔道士が、それも世界の法に触れそうなかなりギリギリの事を行っていたのだ。

 その仙人は地獄に落ちてもおかしくはない。


『奴の元となった仙花もただものではない。仙人が執拗なくらい魔力を浴びせ続けて育てた、驚異的魔力含有量をもつ仙花だ。それに取り組まれた奴が、生まれた時からどれほどの力を持っているのか、言うまでもないだろ』

「そこまで念入りにされているのなら、その仙人は初めから目的があって二番界へ渡ったそうですね」

『そうだな。その上奴は仙人のもとで百余年もの修行を得ている。仙人も化け物のようにすごい。違う世界へ渡れるのも、その魔力だからこそか……』


 しかし、パウルの出自については大体分かったが、正直仙人だのなんだのはもうどうだっていい。そろそろ本題に入らねばならない。


「所長」

『わかってる。さて、奴の正体は理解したか? 次に奴の罪状について説明する』

「はい」

『奴が犯した罪は主に二つ。その一つは…………』

「…………」

『…………』

「…………所長?」


 所長は、もったいぶっているのかなぜか少し間が長い。しかも心なしかなぜか悔しそうな何かが感じそうなのだ。

 相当非道な事でもしたのだろうか、まるで言いたくもないことを、しかし言うしかないとためらうように必死に口からかろうじて出た言葉は……


『…………度を越した、重婚罪だ』

「………………はい?」


 今、いったい所長は何を言ったのだろうか。

 ナージャは思わず聞き間違いかと、違う意味で耳を疑いそうになったが、しかし……


『度を越した重婚罪だ……』

「二度も言わなくていいです」


 残念ながら聞き間違いではなかった。

 少々呆気にとられたナージャは思わず訊き直してしまう。


「え、そんなことでパウルは地獄に落ちたのですか?」

『いや違う。本題はもう一つの方だが、重婚罪もまた罪に変わりない。あんな奴は地獄に落ちて当然だ』

「…………所長?」


 いきなり悔しそうに呻いたかと思えば今度はなぜか軽く怒りに燃えてきている。

 嫉妬でもしているのだろうか、ナージャも非常に珍しく、若干戸惑っている。

 訊いてもいないのに所長の話は続く。


『いいかナージャ。あいつはな……生みの親である仙人が病死した後、たった一人で世界中を旅して渡ったそうだが、奴は行く先々で会う異性をかどわかしてばかりだったんだぞ!!』

「…………」

『歯の浮くような言葉を言えば、自己主張もするも他人の意志さえ尊重する人格者であり、その圧倒的カリスマと生まれ持った資質で、奴は次々と異性を落として言ったんだぞ!!』

「へぇ、そうですか」


 そんなこと言われても大して興味はないしどうでもいい。ちなみにそれはかどわかすとは言わない。

 自分も女ではあるが、そんなことを言われても全く興味を惹きつけない。いや、再処刑人として会わなくてはならないが……


「所長。どうでもいいですから早くもう一つの……」

『しかもあいつは男親である仙人しか知らないから、異性には非常に強い興味を持ち、惚れた女の為ならどれほど困難な状況でもいとわない、つまりは惚れっぽい性格だったそうだ!! もちろん何人もの女をつれる男など信用できない女もいるが、奴は不格好ながらも強い熱意を見せて長時間かけてその女を落としたそうだ!!』

「…………」


 ナージャの要望も聞かずに勝手に燃え上がっている所長に、ナージャはだんだんイライラするが、どうも所長は止まりそうにない。

 しかも、意識か無意識か、“奴”と呼んでいたパウルと“あいつ”と呼んでいるのだが……


『あいつのせいで行く街の先々から異性が数人は街を離れることになって、その親や友人が涙したことも多い! ただ、すでに交際している他人の彼女を奪い取る真似はしなかったが、あいつに付いて行ってしまった、まだ付き合ってもいない女に惚れていた男がいったいどれほどの数で泣いていたか……』

「所長、心底どうでもいいです。だから早くもう一つの……」

『そして!!』

「…………」


 所長はますますピートアップし、話は大詰めに入る。


『そしてあいつは、かつて仙人が住んでいた、気づかなければ誰も寄せ付けない土地に一軒の豪邸を建て、そこで今まで連れて行った女たちと婚約を交わしたそうだ。驚くことにその数なんと百八人!!』

「煩悩の数ですか」

『庶民……大統領の娘……傭兵……王女……病人……魔族……相手の社会的地位や種族なんて関係ない、純粋に“好き”という思いだけでそれだけの数を娶ったんだぞ……それがどれだけうらやま…………じゃない、けしからん事かわからないのかぁ!!』

「…………」


 もうこいつはだめだ。


『しかも…………!』

「もういいです」


 もはや呆れて暴言さえも言えないナージャはまだ話の途中で電話を切ってしまった。

 結局、パウルのもう一つの罪状を訊きだすことが出来なかった。


(確かに重婚は罪だけど、国によって、世界によって認められている所もある。それなのに地獄……しかも最重要罪人になることはまずないわ)


 ……さすがに百八人は多すぎる気がするが、そんなことはどうでもいい。

 むしろ本題はもう一つの方、それがなんなのかはわからないが今の所長では話にならない。

 しばらく頭を冷やす時間が必要だ。


『ナージャさん、昼休みがそろそろ終わりますよ。ナージャさん?』

「……そろそろ次の作業に行かないと」


 店内からナージャを呼ぶ声が聞こえてくる。

 休憩時間も終わりが近くなるため、ナージャは昼食を食べないままではあったが構わず仕事場へと戻ったのだった。

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