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1-15 饒舌に喋る子

ナージャとは違うところで動き出す人(鬼)たち……

 ある夜の事。

 何処にあるかもわからない、地図の内どこかの島で、とても暗く周りの見えないある洞窟の中を、奇妙な格好の二人組が迷う様子もなく歩いていた。

 一人は全身に黒のローブを纏って頭にフードを被り、顔の上半分に仮面をつけた小柄な少女。

 もう一人は、全身に数種類の衣服を着衣し、しかし所々切り取られたりくり抜かれた奇妙な姿と性別が分かりづらい容貌の子供が、ローブの少女と共に歩いている。


「(ジッ……)…………」


 ローブ姿の少女…………脱獄者に肉体を用意した張本人である、死霊使い(ネクロマンサー)のサラカエラは、自分の小さな手に、似合わないくらいたくさん嵌められた指輪をじっと見つめている。

 その表情は仮面のせいでよくわからないが、少なからず動揺の色がうかがえた。


「ヒハ、どうしたんだサラ?」


 すると、もう一人の方がサラカエラを不思議なように見つめていた。

 地獄からの脱獄者……シスカー・ベルベーニュは、昔とは違い翡翠色の長い髪をなびかせて、同行者のサラカエラになにがあったのかを訊いた。


「…………(スッ)」

「ん?」


 サラカエラは全ての指に指輪をはめた右手をシスカーに差し出した。

 暗に、よく見ろといった様子である。


「……おやおや、これはこれは」


 サラカエラの右手、その親指の部分に嵌めた、青くきれいに光り輝く指輪が、今にも消えてしまいそうな感じに、弱い光を放っている。

 なぜ目隠しをしているにも関わらず光が分かるのかは置いといて、ただ光っていた指輪の光が消えそうになっていることに、シスカーは大きな意味があることに気がついた。

 それは……


「私たち脱獄者の内の誰かが死んでいるね」

「…………(コクン)」

「ヒハハハ、この色は確かあの食いしん坊君の身体じゃない?」

「…………(コクン)」


 シスカーの言う食いしん坊君とは、時々様子は見るが二十年前の時点で今まで一度も会わなかったあの喰融族の男……美獣のことである。

 本能のまま喰らう獣ではあるが、ただの現世の者にやられるほど弱いはずがない。つまり……


「そう、あの再処刑人さんが復活したのねん。ヒュフフフフフ…………」

「…………(カクッ?)」


 シスカーは興味ありげににやにやと笑った。

 思い浮かんだのは二十年前、かつて自分が倒し、サラカエラが封印した地獄の使徒。封印したとはいえ、いずれは解けると読んでいたシスカーにとっては、どこか喜ばし様子で呟いた。

 嬉しそうに笑いだすシスカーに、サラカエラは不思議そうに首を横に傾げた。いったい何が嬉しくて笑っているのわからない。

 サラカエラの不思議そうな視線に、シスカーはすぐに首を横に振って否定した。


「いや、これは“嬉しい”だけで片づけちゃだめだぞ。“緊張”と“高揚”と、あとは“その他”で片づけて」

「…………?」

「でもね、初めに倒されたのがあの食いしん坊君なんてね……」

「…………(フルフル)」


 シスカーがなにか誤解している気がするので、サラカエラは首を横に振って否定した。

 すると、その様子からシスカーはサラカエラの言うことを代わりに言う。


「え? まだ魂が肉体から離れていない個体がいる? 生き残りがいるの?」

「…………(コクッ)」

「ほうほう、しかし魂も肉体も共に貧弱、ね…………つめが甘い」


 シスカーは、侮蔑も嘲りもなく淡々とそのまま思ったことを言う。

 シスカーにとって美獣など、取るに足らないような言い方だ。


 シスカーもサラカエラも、感慨に浸りながら洞窟内を歩きつつ、話を続ける。


「でもあの食いしん坊君は、最も生きる者の本質を持ち、しかし同時に最も生き延びる者の本質を外したどっちつかずでしたね、愚か者」

「…………(コクリ)?」

「いやいや、今の言葉こそどっちだよって? ヒュフフフフ……!」


 ここでシスカーは美獣の事を思い出しては評価するように語り出した。

 サラカエラはシスカーには目を向けず、前を向きながら歩いている。


「欲のままに生きることは本質の一つ。通称“遊び”! 遊びを味わい続ける彼は最も“生きている”のだったんだよ?」


 称賛と軽蔑を織り交ぜた複雑な言い回しをするが、サラカエラは相変わらずさっぱりわからない。

 目を向けなくても話は聞いているようだ。


「でもね、利口な生き物と言うのは、今よりも今よりも快適に、贅沢と幸せを求めて生きているのさ。原始から中世、中世から近代へ…………それが“考える”ってことで、これが生き延びる事なのよ。でも彼ったら引きこもってばかりで、全く考えなしの他人任せだ。ええ…………」

「…………?」


 サラカエラには分からないが、美獣は部下たちが捕まえてきた獣人を、特殊なルートで外に売り飛ばすことで、いわゆる“家畜のエサ”や“人間の素体”に“混成魔獣人ハイブリッドの新しい素体”の入手でしかなかった。

 シスカーはそれらを総合して、現状維持と称す。


「更なる上を目指すのは贅沢? いいえ、たとえどれだけ無意味で無価値で無駄な事にでも、そこに意味と価値と理由を求めるのが、遊びの向上なのだ」

「…………」

「そして“生き延びる”ことは人を強くさせるが、“生きる”ことは人を弱くさせる。なぜなら遊びと贅沢と快楽と怠惰は人間をダメにさせる。逆に禁欲と貧困と飢餓と難題は人に考え与えるのさ。まあ、不幸せな方がいいとかそう言い換えるお馬鹿さんもいるけど、間違いだよ? 見出す価値が同じとは限らないからね」

「?」


 突然多弁に喋り出すシスカー。

 サラカエラは訳が分からなさそうに首を傾げるが、とにかくシスカーは話し続ける。


「人はとにかく、なにかと求め続ける生き物さ。100%じゃ満足しない。だって感動も満足も風化して色あせる。だから終わりのない究極と斬新を、どんどん求め続ける。本当に欲張りったらありゃしない。それでも……」


 でも、

 次に続く言葉に気になりだすのか、サラカエラは自分でも少し驚くくらいシスカーの話に集中した。


「なにも考えない人間よりははるかにましだ。常に概念が書き換わり続ける中で、同じ考えが通じ続けるとは限らないからね」

「…………」

「……なーんちゃって。もしかしたら私の発言も明日には真逆に変わったりして」

「…………(コクッ?)」


 意味が解らない上にそろそろ話を聞き飽きたのか、とにかく鬱陶しく思い、自分を睨み付けてきたサラカエラにシスカーは話をいったん中断し、やれやれと頭を振ってサラカエラをなだめる。


「ヒハハ、サラ。おしゃべりってのはね、自分の感情をただ吐き出して酔って悦に入りたいことなのよ。この胸の内に湧き上がる高揚感を吐き出しまくりたいんだからもっと吐かせて!」

「…………」


 もはやサラカエラは訳が分からなくなってきた。

 話す内容もないようだが、いったい何がシスカーをここまで高揚させているのか分からない。

 やはりあの再処刑人が大きな要因なのだろうか。


「そうだよ」


 またもシスカーはサラカエラの言いたいことを読むように言葉を先取りして嬉しそうに語る。


「サラ、私がこうして高揚感を抱くのも無理はない。不老不死というとんでもないおんぶにだっこの私。安心して命がけ博打も薬物中毒もロシアンルーレットも悪の組織も正義の味方もなんだってできちゃう私。こんな私にとって、あの再処刑人さんは重要な存在よ。もちろん、私だけじゃなく皆にとってね」

「…………」

「で! そんな感じで美獣君は、欲望のままに生きるのはいいけど、何の困難もなくただ喰らい続けるのみの存在! 生き延びる力がないのは獣以下だぜ? ん~ま! ギリギリ生きているなら、まあましかな」


 そろそろシスカーは笑みの表情を消し、だんだんと静かになりながらスラスラと先へ進んでいく。

 すると、長い距離を歩き続けたため、洞窟の先に一筋の光が入ってきた。

 もうすぐ出口のようだ。


「けど、サラが言うまま終わらせちゃうのもつまんない。お話はまだ始まったばかりだぜ。面白いものだって残ってるしよ……」

「?」

「ちょこっと、おせっかいしようかね。鬼さんに頼んで…………あ、そろそろだ」


 話も終わり、サラカエラとシスカーが同時に洞窟を抜けた瞬間……


「だから私も、無意味で冒涜的なことをしまーす!」

『ムッ…………?』


 洞窟を抜けた瞬間、見えてきたのは一際広い野外と、神殿のような祭壇と、突如巨大な生き物が待ち伏せていた。

 シスカーなど軽々と覆う黒い影と、その中で鋭く光る赤い瞳がこちらを睨む。

 にもかかわらず、目的の相手を見つけたらしく、シスカーはテンション高く挨拶する。


「ヒハ、は~じめまして~! 神竜グルズミアさんですねー!」

『……何用だ?』


 現れたのは……白銀の鱗に赤い瞳の巨大な竜だった。

 しかも、全長五十メートルはくだらないほどの威圧的で巨大な竜は、いきなり自分の住処に来たシスカーたちを不審そうに見下ろしていた。

 また人間か。どうせ目的は今までと同じ自分の命だ、とこれまでの記憶から何度目かの狩り目的で来たハンターだと判断し、鬱陶しそうにあしらう。


 それに対し、シスカーは竜と言う生き物に全く怖気づくことはなく、意気揚々と要件を言い出す。


「いやね、人間よりもさらに上の存在として崇められている貴方で実験したいことがあるの!!」

『なに?』


 まさかこうも堂々と自分を使って実験などと言われるとは思わず、神竜はシスカーの言葉を聴くことにした。

 同じく意図を理解していないのか、控えめに待機するサラカエラの横でシスカーは楽しそうに口上で述べる。


「美獣君は言いました。自分よりも下等の生き物を喰らおうと地獄に落ちることはないんじゃないかって」

『地獄?』


 今、シスカーの言っている地獄と言う言葉に違和感が起きた。

 天界から堕ちた身であるからこそ分かるが、シスカーの言っている言葉がまるで知っているかのような言葉としか思えない。

 地獄を知る現世の人間などいないはずなのに、なぜかシスカーの事を怪しく見えてきた。

 そして…………


「だったら、人間より上の神竜を食ったらどうなるかな~?」


 シスカーは神竜に指を指して、大胆不敵なことを言い出した。

 さすがの内容に神竜は呆れて、しかしわずかに殺気立つ。


『……下らぬ好奇心だ』

「そうね。いや、もう私は地獄へ落ちているからね。できれば生け捕って、どっかの貧民街に連れて行って、善良な貧民に殺させて食わせるだけよ。そしたら罪に問われるかな~って…………」

『くだらない。いささか傲慢に過ぎる』

「だから言っただろ。これは無意味で冒涜的だ」


 シスカーは両手をくるくると回しながら、いきなり声を高めて、


「でも“試したい”“知りたい”“理解したい”とかいう欲求はさあ、たとえどれだけ無意味そうな事であろうと、そうさせてしまう恐ろしい事なんだぜ。でもそれが私を“生き延びらせる”! だからさあ…………」

『消えい』


 神竜はシスカーの言葉を最後まで聞かず、その大きな顎から恐ろしく綺麗で強い吐息を吐き出した。

 伊達に神の名前を持っているわけではなく、その吐息は生物の一つや二つを、痕跡すらなく消滅させてしまう。

 しかし……


「ヒハハ、人の話は最後まで…………聞け」

『!?』


 しかし、そんな言葉が聞こえてきたかと思う頃には、もうすでに神竜の身体から何かが貫いていた。

 それはとても赤く、それでいてどこか曖昧な“何か”が、神竜の硬い鱗を無視するようにただ一直線に進む。

 神竜が気が付いたときはもうすでに胴体の中央近くを刺されている時しか見えなかった。


「だめぞ、お前の心臓は強いから一刺しだけじゃあ死なないのは分かっている。けど、これで満足には動けないんじゃない?」

『…………!』


 そして、白い吐息の中から出てきたシスカーの身体は……無傷だ。

 多少衣服が千切れて消えてはいるものの、肝心の本人には掠り傷一つすらない。


 神竜には全く信じられない光景だったが、しかしすぐに考えを切り替えると、神竜は倒れまいと必死に体を起こし、意識を持っていかれないと気丈に振るう。

 油断も手抜きもできない。この正体不明は何か!? 神竜はシスカーをそう評価し、次は本気で叩き潰そうと立ち向かった。


 だが、シスカーは相変わらず自分のペースを保ったまま続ける。


「安心して、残飯は出させない! 残りはちゃんとどっかの獣が食べてくれるからね! だから安心して捕まりなさい」

『……怪物が!』


 神竜は、神聖なる魔術の力を展開する。

 大してシスカーはそのまま棒立ち、サラカエラも何か魔術を展開する。


「それじゃあ~、一狩りするぜ!」


 一見すれば全く意味のない好奇心を満たすために、シスカーとサラカエラは神竜打倒に戦闘を始めるのだった。



          ◇



「……美獣は封印できた。しかし受けた傷は深い、か…………」


 そして場所は現世から大きく変わり、地獄表層、公的機関死役所にて。

 電話型の地獄通信からナージャの報告を聴き終えた上司のラクシャーサは、とにかく美獣を捕まえられた安堵に息を吐いた。

 誰もいない所長室でただ一人ため息をつく。


「……彼女が脱獄者と対等に渡り合えることは理解した。死神の命道術まで使うのはやりすぎだが、相手が脱獄者なのがまだ救いか…………」


 しかし、脱獄者を捕らえたことは普通は金星なのだが、少しでも心の中の靄は晴れない。

 まるでこれから向かう事に、憂鬱となっていくようだ。


「報告、したくないな……」


 子供のように嫌がるラクシャーサだが、言葉とは裏腹に目的のものへと手を伸ばす。

 所長室の机の上にある、人間の頭がい骨のような物を持ち上げると、その頭がい骨を自分の正面に持ってきて向き合う形になる。


「繋げてくれ。相手は十王様の一人、五道転輪王ごどうてんりんのう様だ」

「かしこまりました。五道転輪王様の元へ、見聞を繋げます」

『来たか、ラクシャーサ。さて、報告を聴かせてもらおう』

「はい」


 頭がい骨がひとりでにしゃべったかと思うと、突如その声がとても渋く低い男の声に変わった。

 さらに眼窩の奥に赤い光が灯り、さらには目に見えぬ威圧感が漂っている。


 場所は離れてはいるが、ナージャとは違っておどろおどろしい通信に、ラクシャーサは五道転輪王に報告をしだした。

 脱獄者美獣に遭遇してから今に至るまでの所である。


 美獣が現世のとある森で、獣人と人間を使って工場のようなところで家畜として扱っていること。

 ナージャとオルトがそこに介入し、美獣を再処刑するために奮闘したこと。

 しかし、最後の最後で美獣が勘を働かせたことにより、囮を用いて逃亡されかけるも、ナージャの機転で捕まえられたこと。


 ちなみにナージャの報告の中に、リュナがナージャについて行った事や、それ以上に既にとんでもないことをしていることは入っていない。


『そうか、捕らえたか。なるほど確かに彼女はやるようだ。閻魔の言うとおりもしも嘘であるならば、お前はとうに喋れなくなるからの』

「(……やはり、こんな時でも閻魔王様から術を掛けられてはいるか)」


 ラクシャーサはとにかく報告の最中でも全く生きた心地がしない。

 十王の一人、閻魔の扱う術に、言葉の中から嘘を拾う術式がある。その範囲は主にラクシャーサにのみ限定的にかかっている。

 それは、もしも報告に少しでも嘘をつけば、二度と言葉の話せぬ体になってしまう事だ。


 だからこそラクシャーサはこの報告を嫌う。嘘をつくつもりなど毛頭ないが、それでもまるで刃物を突きつけられながら喋らされているようでちっとも気分が優れない。


『しかし、ラクシャーサよ。これで報告は終わりか? わし等に隠していることはないか?』

「……ありません。以上の事で全てです」

『……ふむ、どうやら本当のようじゃ。ならばよろしい。鬼はまだ出さずにもう少し様子を見るとしよう』

「ありがとうございます」


 ちなみに、ナージャからラクシャーサへの報告には、まだ話されてはいない、まったく知られていない部分があるがラクシャーサ自体それは知らない。

 しかし、もしも直接聞いてはおらずとも、少しでも疑いが考えの隅にあった場合、先ほどの答えは即座に嘘と判断されることになる。


 知らず知らずの内に危ないことになっているラクシャーサ自身、全く自覚がないままとにかく安堵した。


 おかげで十王の一人にナージャの事を改めて良く評価された。

 これで、鬼を投入させる強硬手段は免れた。心の中でわずかに安堵の息を吐くラクシャーサ。

 だが、気は抜かずにそのまま報告を続ける。


『それで、肝心の彼女の容体はどうかね』

「はい。戦闘で決して軽くない傷を負いましたが、今は完全に回復した模様です。なんの支障もなく次の脱獄者と戦えます」

『本当か?』

「……本当です。嘘ならば即座に私は喋れなくなっているはずです」

『おお、それもそうじゃったの』


 どこか試すように、頭がい骨の声は執拗に問いかける。

 ラクシャーサも少しの間はあれど、それでも問題はないと言い切った。


「(……しかし、いくらなんでもこうした自分自身の心情に対する言葉にまで、嘘があるから本当に嫌になる)」


 自己欺瞞もまた嘘。

 それでも術が発動することをわかってて心情を問うこの王に対しては、本当に報告が嫌になってくる。


『ならばよい。管理は続けろ。それと、ヤクシャの事についての報告が来れば、即、報告をするように』

「はい……」


 その後、二三ほど質問と応答が続き、ラクシャーサの報告が終わった。


『このまま脱獄者の追跡を続けるといい。間違ってもシスカー・ベルベーニュの時と同じしくじりは繰り返すな』

「肝に銘じます」

「五道転輪王様から通信が断たれました。機能を停止します」


 再び元の頭がい骨の声が聞こえたかと思うと、上への通信が途絶えた。

 通信が途絶えてから数秒後に、ラクシャーサは深く息を吐き出す。


「……ナージャ。ひとまずは何とかなったが、相変わらず俺もお前もかなりぎりぎりの線の上にいる。……気をつけろ」


 ただ一言、それだけを言うと、ラクシャーサは死役所としての仕事場に戻る前に、いったん所長室の横にあるソファーの上で横になるのだった。



          ◇



 ラクシャーサの報告より少し前、ナージャ達一行は魔獣の森を無事に出た後、アルスス地方の領主の所に殴りこみに行った。

 立ち向かう警備兵を殺さず全て魂抑えの金棒で無力化し、問答無用に領主を脅し、無理やり秘密を聞き出した。


 どうやらオルトが聴いた情報は本当であった。


 領主は、美獣から調査員と言う名の人間の素体を引き換えに、獣人を交換し、さらにそれを裏のルートで奴隷商人に売り飛ばして、金をもうけていた。

 また、領主自身の趣味により地下室には傷だらけの幼い獣人たちの姿が幾つか明らかになった。

 しかし、そこにリュナの家族の姿は何処にもいなかった。領主の情報によると既に商人に売り飛ばされた後らしい。

 もはや何処にいるのか分からない。まだ商人の手の中にあるのか、それともすでに誰かに買われたのか、どう探すべきなのか分からない。


 しかし、確かにそれがリュナの家族だと分かったオルトは、とりあえずナージャにまだ脅されている領主のことなど放っておいて、リュナにある約束をした。


 ―――――リュナ、どうやらお前の家族はさらにどこかへ行ってしまったようだ。だが、無事であることは分かった。もし余裕があったら一緒に探すぞ!

 ―――――……オルトロスさん。…………はい!


 そして、用事のなくなったナージャは、オルトの案内の元、次の街へと向かって行った。

実は次回の投稿は四月になります。

詳しくは活動報告をご覧ください。

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