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1-10 合流

オルトとナージャ。それぞれが動き出す中、美獣は……

「……なに? あれだけの人数を造ろうが、全く敵わないだと……?」


 魔獣の森、工場内の美獣の部屋にて。

 そこで美獣は先ほどの格好から全く一歩も動かずに、しかし厳つい顔のまま唸っていた。

 原因は、先ほどまた現れた青白い球体を体内に取り込んだから時からである。


「さすがは地獄の使徒……数百の兵士すら圧倒するか……」


 美獣は、右手首に嵌めた不思議な青い腕輪を使い、またしてもどこかの獣人もどきや魔獣もどきから、青白い球体を吸収した。

 その結果、今さっき遠くで行われた、継ぎはぎの獣軍団による、地獄からの使者に対する私刑リンチが失敗に終わってしまったこと。

 その証拠に先ほど吸収した青白い球体は、美獣が意図して起こした事ではなく、持ち主の肉体が死滅したことで起こってしまったことである。


「その上、その使徒に脅されて道案内か。……かっ!! 情けねえ。それでもよりをかけて作った混成魔獣人ハイブリッドかってんだ……」


 ……そして獣軍団のリーダーであり、幹部である鶏人もどき……通称“Cockatrice(コカトリス)”までもが敗北し、あまつさえ命を奪うと脅されてここへ案内しているようだ。

 その地獄の使者を追跡している、残りの獣軍団の内の一頭の青白い球体を抜き取り、吸収して得た情報だから間違いない。


「上等だ。ならば俺が直接叩いてやろうか……あの裏切り者にはあえて最後まで案内させて、後に喰らってやる」


 怒りから一転、美獣は自分の手で直接敵を迎え撃つと決め、とりあえず鶏人もどきこと“Cockatrice(コカトリス)”には最後まで案内をさせると決める。


 その時、あわただしく部屋の扉がうるさく開かれる


「び……美獣様! 大変です!! 大変なことが起こりました!!」


 入ってきたのはなんてことのない、下っ端の獣人もどきだ。

 ただでさえ、イライラしている美獣が、さらに取り乱している部下を見て、不機嫌そうに唸る。


「あぁ? 騒々しいだろうが。俺は今不機嫌なんだ、要件は簡潔に言え」

「あぁ……はい!! 実は……」


 と、美獣の怒鳴り声に一層怯えだした部下が、それでも必死に何かを報告しようと、小さい声で呟く。


「それ、が…………が…………した……」

「なんだ、もっと大きな声で言え。何だってんだ!」


 しかし、まるで信じられなさそうに小さく言葉を発する部下に対し、美獣はまたも怒鳴り声を上げて部下を脅かした。

 すると次の瞬間、美獣にとって信じられない訃報が届く。


「……“天狐(アマツネ)”様が……殺害されました!!」

「……なに?」


 “天狐(アマツネ)”とは、“Cockatrice(コカトリス)”と同じく美獣が、魔獣と獣人を物理的に混ぜ合わせて作りだした、混成魔獣人ハイブリッドである。

 炎を自在に駆使し、なおかつ獣人もどきの中でも、とりわけ速く柔軟な所がある、美獣お気に入りの幹部だ。

 混成魔獣人ハイブリッド自体、製造は容易でない上、“天狐(アマツネ)”は混成魔獣人ハイブリッド内でも強い部類に入る。


「バカな!? あいつは種族狩りの際にも、多くの結果を出した幹部だぞ!! いったい誰に……!」


 美獣には信じられない出来事だ。

 なにせ、現在外の方でも同じく幹部である混成魔獣人ハイブリッドが、地獄の使者に敗れたと言うのに、そいつよりも幹部として上の部下が、おそらくは地獄の使者以外に敗れたというのだ。


 まったくもって、その幹部を殺した犯人に想像がつかず、どういうことなのか部下に訊くと……


「そ、それが……魔獣です……!」

「なに? 魔獣だと?」

「はい! 合成魔獣キマイラの一部隊が捕らえた、犬人族と一緒に連れてこられた魔獣です!」

「…………」


 ……部下の言葉に美獣は、自分の中に、ある一つの嫌な予感が浮かびだした。

 思い出すのは二十年前、かつて自分が地獄にいた頃に見かけたあの動物……


「その魔獣……特徴、いや種類は……?」

「え? あ、はい……犬です。真っ黒で大きな体で、すごいスピードで走り出しています」

「!? まさか……」


 美獣の予感は確信に変わる。

 ただの魔獣にできる芸当じゃない。こんなことが可能なのは、世界の理から外れた存在……


「地獄犬だ……!」

「え?」


 ようやく美獣は、自分の部下が連れてきた魔獣が、ほんとうは魔獣ではないことに気が付いた。

 美獣は、考えが足りなかった自分を呪う。


「俺の、バカが……っ!! 地獄の使者はなにも一人とは限らねぇ……こいつぁ、完全にやられた……!!」


 しかし、いくら後悔した所で進行していく事態は止められない。

 部屋の入り口からまた新たに美獣の手下が入り込む。


「報告します! 例の、合成魔獣キマイラが連れてきた魔獣が脱走!! その後、『繁殖室』を破壊し、犬人族のメスガキを連れて逃亡しました!!」

「なに……!!」


 しかし、次の報告は悲報ではありながらも、美獣にとってはある好機が出た。


「……そうか。ならば今はその地獄犬は満足に戦えないはずだ」

「え? それはどういう……」

「獣人を一匹連れているんだ。護りながらでは満足には戦えまい……」


 ピンチと同時にチャンスでもあるこの状況に、美獣は怒りとも喜びともつかない笑みで、部下の獣人もどきに命令する。


「おいお前等。“basileus(バシリスク)”や“Sphinx(スフィンクス)”を動かしてここへ呼んで来い!! それ以外に、ここにいる兵士総動員で今すぐその犬畜生を捕らえろ!!」

「え!? まさか、たかが魔獣一匹に幹部級を二つも起こすのですか!!」

「その魔獣に倒された幹部はどこのどいつだ。思い出せ!!」

「…………!」


 一瞬、規模が大きすぎる命令でもあったが、幹部の一つが破れたことを思い出し気を引き締める部下たち。

 美獣は、壊れてしまった部下の幹部に、憤る。


「ちっ……“天狐アマツネ”の元となった魔獣……わざわざ遠くから仕入れてきたと言うのに……! 許せねえ…………!!」


 崩れていく自分の楽園……

 それを予感した美獣は、ほんの一瞬だけ恐怖が脳裏をかすめる。


「いいか、今すぐにでもあの犬畜生を捕らえてここへ連れてこい。もしも抵抗するならば……」


 もはや、搦め手や時間をかけた手は使わない。

 一拍置いて美獣は断言する。

 地獄犬への……抹殺命令。


「……殺せ!!」

「「……はい!」」


 美獣の指示に、部下二人はすぐさま部屋を出ていった。

 これで地獄犬が捕まるのも時間の問題だ。


 だが、これだけでは安心できない。


「上等だ、地獄の使者……こうなったらとことんやり合おうじゃないか…………!」


 美獣はもう一度立ったまま両手を合わせ、意識を集中した。

 もう一人の地獄の使者……ナージャの方はどうなっているのか……

 すぐに美獣の右手首の腕輪が光り出した。



          ◇



 一方、完全に美獣の怒りを買ってしまったオルトは、倒した狐人もどきからくすねた鍵で繁殖室の扉を開け、中にいるリュナを助け出すことには成功した。


「…………まったく、なんだあの甘ったるいような酸っぱいような、変なにおいのする部屋は……鼻が馬鹿になる所だ……!!」


 思い出すだけでもオルトの全身から怖気がした。

 鼻が壊れるほどの臭いはもちろん、部屋中に届く悲鳴と喘ぎ声や、言葉にできないくらい異様すぎる光景に、鼻どころか精神までおかしくなりそうな所だった。

 その中でリュナは、沢山の獣人の小男に必死に逃げ惑うも、まだ無事であることを確認したオルトは、すぐに横からリュナを掻っ攫って速攻で部屋を出て行ったのだ。


 とはいえ、助け出すには少し遅かったのか、リュナも無事では済まされなかった。

 現在リュナは、瞼が半分開き、浅い呼吸を繰り返し、ぐったりとした様子で工場内を走るオルトの背中に乗りかかっている。体温もかなり上昇しており、全くもって安心できる状態じゃない。

 目立つ外傷はなくとも、体のどこかがおかしくなっていた。


「……はぁ……はぁ……はぁ……!!」

「おい、大丈夫か。リュナ! くそ……あんにゃろう……なにか毒でも盛りやがったか……!?」


 息も絶え絶えであり、意識もあやふやなリュナはただ自らの苦しみを口にすることしかなかった。


「あぁ……熱い……身体が熱いよ……!」

「リュナ、どうした! 大丈夫か!?」

「あっ……やめて……苦しい……!」

「…………!」


 リュナの絞り出すような声に、オルトは歯噛みしてしまう。

 明らかに助けるのに時間をかけすぎてしまった。


(ちくしょう。悔いている暇はねえ。持ちこたえてくれ……!)


 とにかく、これから自分はどうするべきであるか。

 いくら幹部を倒すほどの腕前とはいえ、獣人をひとり抱えたままでは自由に戦うことなどできない。

 となると、まずはこの工場を出て、少しでも安心できるところにリュナを置いて行くことだが……


「見つけたぞ!! こっちだ!!」

「!?」


 走りながらそうこう考えてるうちに、オルトの後方から下っ端の獣人もどきが、オルトを発見するや否や大声を上げて仲間を呼びかけてきた。

 どうやら本気でオルトを捕まえるようだ。


「くそっ……めんどくせーな……!!」


 オルトはリュナを振り落とさないよう気を付けながらさらに加速し、通路の先を進む続けて振り切ろうとしていた。

 だが、追手が現れるのは後ろからだけではない。


「あ、いた! 覚悟しろ!!」

「!? ちぃ! こっちもか!!」


 前方、オルトの進行方向先にまたも獣人もどきたちの群れが現れ出した。

 仕方がなくオルトは方向転換し、途中の横の通路へと曲がりこんで走った。

 しかしその先にも獣人もどきたちの群れが現れる。


「止まれ!! この犬風情が―――――――――――――――ッ!!」

「まずい!?」


 狭い通路の先、群れる獣人もどきはこちらへと向かう。

 引き返すことなど不可能。道が狭いために横を素通りするなどなお不可能。


(ならば…………!)


 オルトは、こうなってしまった時を想定して考えたあるやり方に、若干抵抗の気持ちが含むも、やむを得ず実行する。


「リュナ! ちと悪いが、飛んでくれ!!」

「え…………?」


 具合の悪さからボーッっとするリュナに、オルトは背中に乗せたリュナを自分の身全体を振りかぶるようにして、向こうから群れてくる獣人もどきたちの頭上と天井の間に、投げ込んだ。


「な、なに!?」

「こいついったい何を……!?」


 突然、リュナを宙に放り出したために一瞬困惑する獣人もどきたち。

 だが、その一瞬が命取りになる。


「おらああああああああああああああああああああああ!!」

「!? ぎゃああああああああああああああああああああ!!」

「!?」


 獣人もどきが、宙に放されたリュナに目を奪われている瞬間、オルトは急加速し群れる獣人もどきたちの隙間に走り出した。

 途中、ときどき獣人もどきの喉元に喰らいついては、そのまま素通りするため、人垣の間を潜り抜けていくと同時に集団内に混乱を呼び起こす。


「な、なんだ……何がどうなっている!!」

「あ、こいついつの間に後ろへ……!」

「ぐ、ぎゃぁ…………!!」

「!? おい、どうした! しっかりしろ!!」


 状況は混沌とする中、ととうオルトは、獣人もどきたちの人垣を全て潜り抜けることができた。

 それと同時に、上へとぶん投げたリュナが、ちょうどよくオルトの背中に乗るように落ちてきた。


「きゃ…………!」

「よし……怪我はないな。ならばとっとと逃げるぞ!」


 リュナが無事であることを確認し、再びオルトは走り出した。

 今のは偶然うまくいったが、次も成功するとは限らない。


「せめて出口がどこなのか解れば……!」


 こんな狭い通路ばかり走っていては、また同じ事になる可能性は高い。

 せめてどこか広い部屋はないのか。

 必死にあたりを見渡しながら走り続けるも……どこにもそれらしきものはない。


「見つけたぞ! 追いつめろ!!」

「!? ちぃ!!」


 前方から、またも獣人もどきの群れがオルトを発見し、追いつめていく。

 オルトはほんの少し後退して曲がり通路へと逃げる。

 はずだったが……


「いたぞ!! 逃がすな!!」

「こっちもか!?」


 曲がり通路先からも獣人もどきたちが押し寄せてきた。

 もはや逃げ場など何処にもない。

 後方からも、先ほど撹乱された獣人もどきの群れが襲い掛かる。


「逃がさんぞ魔獣!!」

「覚悟しろ!!」

「貴様らも、もはやここまでだ!!」


 前と横と後ろから迫る獣人もどきの集団。

 もう、リュナを投げ飛ばすと言う手は使えない。


「くそっ…………!」


 もはやここまでなのか、リュナを切り捨てるしかないのか。

 オルトの頭の中で最も悪い手を使うのかと葛藤しだした瞬間……









「……そうね。あんたたちの命も、これまでね」









「「「!?」」」

「え?」


 ある女の声が割り込んできた。

 その直後、派手な音を上げて前方の通路の横の壁が吹き飛ばされた。


「なに!?」

「なんだこりゃ!?」


 唐突な破壊にオルトも獣人軍団も足を止めてしまった。

 さらに、破壊により生じた土煙が前方の通路を覆うせいで、前方の通路の獣人たちが見えない。

 いったいなんなのか獣人たちは困惑ばかりするが、


「今の声は……まさか……!?」


 だが、吹き飛ばされる直前に聴いた声は、オルトには聞き覚えのある声だ。

 ということは……


「ぎゅあああああああああああああああああ!!」

「!?」


 すると、土煙により見えない前方の通路から、獣人もどきの悲鳴が、通路にこだまするほど強く響きだした。

 それと同時に、地面になにかが倒れる音もきこえてくる。


「な、なんだ!?」

「何が起こった!?」


 前方からの悲鳴により、横と後ろの通路から獣人もどきたちの恐れの声が飛び交う。

 悲鳴は一つだけにとどまらない。


「ぐ、ぐあっ!!」

「ぎゃあ!?」

「ひぃ!?」

「グぇ!!?」

「ご、ごほっ!!??」


 立て続けに聞こえてくる獣人もどきの悲痛な叫びは、ただそれだけで色濃い恐怖は伝播していく。


「なんなんだ……なにが起こっているんだ!?」

「…………」


 正体不明への恐怖に動けない獣人もどきたち。

 やがて、土煙は晴れ、目の前の通路が見えるようになっていくと……

 見覚えのある姿が現れた。


「……よぉ、来るのが遅いぞナージャ。俺一人で解決するところだったぜ」

「……そう。残念だったわね」


 オルトの精いっぱいの虚勢をさらりと流す。

 見えたのは、獣人もどきの返り血により白いシャツを染めた、目つきの鋭い相棒だった。

 オルトも向こうも、ようやく再会した相棒なのに、憎まれ口をたたきだす。


「…………本当にその子を護ったのね。犬にしては上出来だわ」

「……やかましい。それは嫌味か? えぇ? 随分と乱暴な方法で来たなガサツ女」

「…………」

「…………」


 お互い、牽制し合うような睨みを交わし、膠着する。

 ナージャもオルトも、お互い一歩も引く様子などないようだ。

 だが……


「……ゲホッ! ゲホッ!!」

「! リュナ!? おい、しっかりしろ!!」

「…………」


 だが、先にオルトがナージャから眼をそらし、背中の獣人の少女を気に掛ける。

 その様子を見たナージャは、はぁとため息をつきだし、オルトの後ろへと歩き出した。

 狙いはもちろん……


「……まあいいわ、オルト。とりあえずあんたはここでじっとしてなさい」

「ナージャ……!」


 後ろと横の通路の獣人もどきたちだ。

 殺気を隠そうとはしない視線で睨み回し、ポケットのケースから金棒を取り出す。


「な、なんだこいつ……なんでこんなところに人間が……!」

「それに、なんなんだあの殺気は……!?」


 ナージャの戦闘姿勢に、ようやく硬直が解けた獣人もどきたちが動き出した。

 しかし、その動きはどうも消極的だ。

 やや怖気づく獣人もどきたちに、ナージャは鋭い眼光のまま脅す。


「あんたら、ここから先へ踏み込んだら殺すわ。こんな風に」

「!?」


 ナージャは、金棒を持ってない手で、先ほど殺した獣人もどきの死体を掴みあげ、前に出して見せつけた。

 死体には、左胸の部分が歪に穿たれている。その部分から赤い血液が垂れ落ち、滴る。

 それがとても生々しく、それでいて死体は言葉なしに恐怖を物語る。


「で、どうするの?」

「……う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 それでもなお、退くことができないのか、群れのうちのひとつである馬人もどきが得意の俊足でナージャに突撃しだした。

 それを察したナージャも掴んだ死体を捨て、馬人もどきに特攻する。

 勝負は、一瞬。


「遅い」

「!」


 ナージャは、すれ違う間際に馬人もどきの胴体に金棒を薙いえ当てた。

 全速力で走った慣性から、馬人もどきの体はくの字に折れる。


「えっ…………!?」

「ナージャ……!」


 ……周囲は静寂に包まれる。

 目の前の光景が信じられないのか、獣人もどきたちやオルトさえも目を疑う。

 たった一撃の金棒の攻撃により、馬人もどきの魂は抑えられ、無気力化した。

 力を失った馬人もどきは、地面へ崩れ落ちる。


「「「…………!?!?」」」

「次、来る?」


 再びナージャの殺気を籠めた問答。

 答えは、なんの迷いも葛藤もなく起こった。


「うわああああああああああああああああああああああ!!」


 獣人もどきたちは恐怖に敗れ、一斉に通路に押し寄せるように逃げ出した。

 狭い通路に大人数が押し寄せるため、うまく進まない。

 やがて獣人もどきが完全に去った頃には、ナージャは試合を押しのけてオルトの元へ寄った。


「ナージャ……!!」

「今さら躊躇いは無しよ」


 ナージャは静かに金棒を仕舞い、足元の馬人もどきが動かないことを確認し、オルトに向く。

 そろそろ後手に回るばかりではいかない。


「オルト、そろそろ大詰めよ。あんたの鼻で美獣の元まで案内しなさい」


 相棒の無事がわかったところで、ナージャはグッタリしているリュナには目を付けず、ただ目的へ進むための命令をした。


「いやちょっと待て! その前にリュナをどこか安全な所へ連れて行かなきゃならねぇだろ!!」


 もちろんオルトは反抗をした。

 なにせ今のオルトは、満足に動けない少女をつれて危険な所へ連れて行くことができない状態だからだ。

 しかしそれでも彼女は眉一つも動かさずに、淡々と状況説明する。


「どこにも安全な所なんてないわ。この建物は当然、森の中だっていったいどこが安全だというの?」

「それは……」

「どこかへ隠して置いた所で、いづれ見つかってしまうことは間違いないわ」


 ナージャはの言ってることは間違いではない。

 工場はもちろんのこと、森にいたっては地理的にオルトはなにも知らなさすぎる。

 迷子になる可能性や別の獣人もどきに襲われる可能性だってある。

 つまり、リュナの安全に関してはどうしようもないこの状況に、ナージャはある提案を投げる。


「だからオルト。あんたは案内だけしなさい。美獣は私だけで戦うことにするわ」

「はあ!? お前たった一人で美獣と戦うって、本気か!?」

「冗談でこんな事言うわけないでしょ。人ひとり抱えながら戦うなんて足手まとい以外のなにものでもないわ」

「…………」


 いろいろと腹立たしい言葉もあるが、しかしリュナを抱えながらじゃ満足に戦えないのは事実だ。

 工場だろうとどこだろうと、安全地帯がどこにもない以上、常にそばにいることでしか、リュナを護ることはできない。


「オル、ト……ロス…………さん…………わた、しのことには……構わないで…………!」

「…………」


 第一、肝心のリュナはなにかをされたか、具合が悪い様子だ。ほっぽりだすのはもってのほかだろう。

 ここはナージャの提案を受け入れるしかないと、オルトはそう結論づけた。

 オルトの決意した瞳がナージャの双眸に向き合わされる。


「……わかった。今はお前の言葉に甘える。俺について来い」

「それでいいのよ。後はその子の家族を探すなりなんなり、好きにしなさい」

「ああ……そうする」


 オルトは自前の鼻により、脱獄者の匂いを突き止めた。

 自分から率先して匂いの元まで走って行く。

 ナージャも素直に従い、前方を走る相棒について行った。




 そして……敵の方も万全の姿勢を迎えていた。

 残った敵幹部とリーダー美獣が待ち構える。

いざ、敵の大本へ行く

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