1-9 ドス黒い殲滅
獣軍団に囲まれたナージャは応戦する。その結果……
オルトが工場内で狐人もどきと戦っている最中、ナージャの方も熾烈な戦いとなっていた。
というのも、ナージャと獣人もどき&魔獣もどきの獣軍団の戦いは、静まる様子はまるでなく、激しい音と悲鳴が重なって聞こえる。
無論、悲鳴の方は獣人もどきや魔獣もどきの方からであり、その声は集団の最後尾にまで響き渡っていった。
「な、なんだ……!」
集団のリーダー格である鶏人もどきが、集団の後ろで困惑した様子で戦闘の音を聞いている。
というのも、この目の前で待機している獣軍団の数が多く、そのせいで直接ナージャの戦いを見ることができない鶏人もどきは、戦闘音を頼りに状況を読んでいるのだ。
だというのに……
「まだ戦いは終わってないのか……もう三十分は経過しているぞ!」
初めは、決着などすぐにつくものだと思っていた。
この森に棲んでいる原住民である獣人も、力では劣っても、同じく数で圧倒し、捕らえてきたからだ。
しかし、今向こうで戦っているはずの人間の敗北の様子が感じられない。
三十分など短いものだと思われるが、この濃密な戦闘の前では長く持っている方だ。
だが……
「くっ……まだだ。まだ戦える……手下の数は沢山いるんだ……」
鶏人もどきは自分が戦うことなど考えてはいない。
なぜなら、たった一人の人間相手ならこの圧倒的な数で押し切れると思うからだ。
だから、いずれ人間の方が先に力尽きるはずだ。
そのはずだ、そのはずだと……
「いつまでもつかな……」
負けるはずなどない。
そう思い、鶏人もどきはリーダーらしくなく、獣軍団の後ろで待機していた。
◇
ナージャの攻撃手段は一つだけではない。
確かに地獄の技術である『魂抑えの金棒』は確かに強力である。
魂そのものに作用するため、肉体的損傷はなく相手を倒すことも可能であり、ある程度の防御など貫通する。
しかし、それはあくまで不老不死の肉体を持つ、脱獄者が相手であるからだ。
金棒にはもうひとつ秘めた能力があるが、どちらにしろこの戦闘ではあまり適さない。
なぜなら無気力した魂は時間を得て戻ってくるため、いつ戦闘が終わるかわからないのに、制限時間の無気力化など、賭けの要素が多いのだ。
ならば、それ以外にもナージャに戦う方法はあるのか。
答えは……ある。
「ぎゃああああああああああああああああああ!!」
「これで……二百三十二匹」
「そ、んな…………!?」
獣人もどきが悲鳴を上げる。
ナージャの攻撃を喰らい、絶命をしたのだ。
それも、足元に群がる死体の山の上で、だ。
「な、なんなんだあれは……」
次々と倒れていく仲間を見て、次に戦うはずの蝙人もどきが恐怖している。
それもそのはず、蝙人もどきの視線の先は、ナージャの右手に移っていた。
「こんなの……美獣様から聞いていない!」
相手が魔獣もどきや獣人もどきであれ、圧倒してしまうナージャに、蝙人もどきはもはや戦意を無くし、いまさらな質問を投げかける。
「なんなんだその真っ黒な腕は!?」
「……今訊くの?」
今のナージャの状態は、どう見てもおかしくなっている。
なぜなら、彼女の捲られたシャツの袖からは、ドス黒く燃え上がる彼女の腕があるからである。
その上、腕には怪しく光る刺青のようなものがあり、それが彼女の不気味さを増幅させる。
これはどう見ても自然にできる人間の腕ではない。
以前から聴いたのとは全く違う戦い方に、獣軍団は困惑を隠せない。
「悪いけど、戦闘中にベラベラ喋るのは、間抜けのすること……」
と、ナージャが言い終わる直前に足元に敷かれた死体の山から、犬人もどきが襲い掛かる。
しかし、
「……よ!」
「!?」
しかし、あらかじめ攻撃が来ることを察したのか、ナージャは今いる場所から半歩横にずれて、下からの攻撃を回避した。
そして、カウンターをするように、無防備となった犬人もどきの腹部に黒い腕で貫手をする。
すると、
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「まただ!!」
黒い手は犬人もどきの腹部を突き抜けて、背中へと血液と共に突き出た。
腹部に風穴を開けられたことで、犬人もどきは苦しそうに血反吐を吐き、そのまま地面を敷き詰めた死体の山に横たわり、事切れた。
「…………!」
「次」
これだけの数を倒してもなお、ナージャの戦意は衰えない。
さらに、ナージャが今まで殺し続けた獣軍団の返り血により、彼女の白かったワイシャツは赤く染まっていく。
この二つが、獣軍団の間に動揺として広がっていく。
「…………!」
「なに、もう終わり?」
……今のナージャは金棒なしにいったいどうやって戦っているのか。
ナージャは、そもそも人間の身でありながらも、地獄で死神や獄卒の資格に加え、悪霊狩りの有段者でもあった。
今のナージャの力は、いわば生ける者を|煉獄(あの世)へ送るための力……死神の力を使っているのである。
死神とは、老衰・病気・怪我などのために本来死ぬべき生物が、理に逆らい、死ぬことなくなお器に留まり続けるために生み出された技術である。
逆を言うと、まだ死ぬべきではない現世の住民に対し、このような力を使うのは、始末書どころじゃ済まされず、地獄監にA級咎人として投獄されるのだが……
(そんなのどうだっていいわ)
ナージャは全く恐れることも悪びれることもなく、死神の技術を使った。
命を彼岸へ送り込むその技は、威力に関係なく一撃で獣人もどきや魔獣もどきの肉体を死滅させ、絶命させる。
(どうせ脱獄者に与するような奴らよ。殺して当然でしょ)
本当に容赦なく、向かってくる獣の軍団を殺す。
……正直、かなりのグレーゾーンなのだが、そんなこと構いはしない。
(どの道魂は、美獣の奴に抜かされてしまうだろうし、奪われた魂が今後私にとって不利な状況を作り出しているかもしれない。……そもそも所長は私の事分かっていて選んだのでしょうが)
どの道、敵であり、いづれ死ぬ相手であるならば今ここで……
ならばここで……
「殺す」
「キェェェェェェェェェェェェェェェ!!」
するとナージャのはるか頭上、大鷲の魔獣もどきが、体中に炎を纏いだし突進してきた。
触れただけで焼けてしまう炎の塊にナージャは……
「ん」
「!」
……足元に転がっている獣人もどきの死体をひとつ掴み、それを突進する鷲魔獣もどきに投げつけた。
燃える鷲魔獣もどきは、驚きつつも回避をしないで、そのまま獣人もどきの死体に当たった。
投げられた獣人もどきの死体は一瞬にして全身が燃え上がり、灰となる。
しかし、鷲魔獣もどきは多少減速しつつも止まりはしない。
だが、
「無駄よ」
「!」
その間にナージャはパンツのポケットからケースを取出し、そこから魂抑えの金棒を取り出した。
素手で触れないならば、触らなくてもいいという事である。
そして、ナージャはその金棒を思いっきり振りかぶり、
「はぁ!」
「!? ギョエァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
突進する鷲魔獣もどきにぶん薙ぎ、魂を無力化させた。
その時、鷲魔獣もどきに纏う炎が消えていく。
そこをナージャは手刀で突き刺した。
またも、自分の足元に獣軍団の亡骸が横たわる。
「こいつ……マジかよ……!」
「勝てる気がしねぇ…………!」
数が多くても、魔獣もどきが相手でも、全く敵わない
もはや獣軍団の戦意はゼロに近い。
現に、倒せば次々と雪崩のように押し寄せてくる獣人もどきや魔獣もどきも、まったく動こうとはしなかった。
(そろそろかしら……いい加減出てこないと、こっちも力尽きそうよ……)
しかし、ナージャにとってそれは同じことである。
死神の力は、金棒とは違い、強い精神力が必要とされる力である。
表情では、全く疲れたようには見えないが、内心ではかなり消耗しているのだ。
ナージャには何か目論みらしきものがありそうだが、そろそろ諦めようかと思い始めた時……
「貴様ら! なにを止まっているのだ!!」
「!」
その時、獣軍団の後ろから一際大きい怒声が聞こえだした。
それと同時に何者かが獣軍団の人ごみをかき分けてこちらへ向かってくる。
(……来たわね)
現れたのは、さきほどまでの獣軍団とは一際違う雰囲気を放つ、鶏の獣人もどきだった。
鶏人もどきは怖じ気づいた獣軍団をずかずかと押しのけて囲いの中に入ってきた。
「この軟弱どもが! 異様だろうがなんだろうか、美獣様から授かったこの身体が人間に負けることなどない! ましてやこの混成魔獣人である俺に敗北などない!」
「そ、そうだ……いくら人間でも……さすがに混成魔獣人にはかてまい」
「リーダーなら、やってくれる!!」
鶏人もどきが、怯える獣軍団に一喝した途端、それまで立ちすくんでいた獣軍団の士気が上がりだした。
鶏人もどきの登場に上がりだした獣軍団の士気に、ナージャは新しく現れた敵を察した。
それと同時に、ナージャの方もある好機を見出す。
(……頃合いね。そろそろ決めるわ)
ナージャはこの鶏人もどきがどれほどの強さなのかわからない。
しかしどれほど強かろうと、ナージャのすることに変わりはない。
「いくぞぉ!!」
鶏人もどきは、ナージャに接近などをせず、はるか上空へとジャンプする。
跳び蹴りではない。それよりもはるか高く跳躍する。
「!」
「喰らっちまいな、俺の必殺技!!」
鶏人もどきは息を大きく吸い込み、胸を膨らませる。
その行動が、次にどのような攻撃が来るかナージャは予想ができた。
現に……
「え!? 待ってくれリーダー! いまここでそんな技使う!?」
「待ってくれ、そんなことしたら俺たちも……」
「ガオッ! ガオッ!!」
鶏人もどきの構えに対し、なぜか周りの獣軍団が慌ただしくなりだした。
おそらく様子からして、周囲の仲間さえ巻き込むような技のようだ。
となるとナージャのすることは一つ。
「構うものか。あの人間はここで倒す」
「いやだから……!」
その瞬間、鶏人もどきの口から大量の灰色の吐息が、ナージャに向かって放たれた。
「ぎゃあああああああああああ!!」
「本当にやりやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………」
響き渡る獣軍団の悲鳴に構うことなく、あたりを覆いつくす鶏人もどきの吐息。
時間が経つごとに、獣軍団の悲鳴が小さくなっていく。
「はっはっは。やったか?」
跳躍してから息を吐いた後、鶏人もどきは空中から地面へと着地した。
そこには、見渡す限り、石と化してしまった獣軍団の一部の姿だった。
「いくら強かろうと俺の石化の吐息を吸い込んで無事な奴はいねえ」
鶏人もどき……魔獣と獣人の混合である奴は、自信ある様子で周りを見渡す。
石と化したナージャを探しているようだ。
だがそんな鶏人もどきに対し、獣軍団は抗議する。
「貴様! 平気で同志たちを石にするとは正気か!?」
「これじゃあ、中に入れないじゃねえか!!」
石と化した、獣人もどきや魔獣もどきの外側で、範囲的に吐息にかからなかった獣軍団たちが苦情を言う。
石と化した人垣のせいで円の中に入れないようだ。
「安心しろ。あの女の石になった姿を見つけたら、一部だけ石化を解いて、好きなだけ嬲っていいぜ?」
「……悪趣味ね」
「!」
その時、鶏人もどきの足の下にある、石化した獣たちの死体の山の中から女の声がした。
その声に鶏人もどきは足元に目を向けて確認するも、その前に先に石化した死体から飛び出た黒い腕が、鶏人もどきの足首を掴む。
同時に、飛び出た黒い腕が掴んだ足首をそのまま握りつぶすように切り離した。
「ぎゃぁ……!?」
「残念だけど、私は健在よ」
そして、鶏人もどきの片足をもぎ取ると、石化した死体の山から立ち上がりだした。
積みあがった死体の石像がガラガラと瓦礫のように崩れていく。
ナージャは鶏人もどきの負傷した足を見て呟く。
「これで跳ぶことはできないわね。あんたの負けよ」
「こいつ……! まだだ!!」
もう一度鶏人もどきが息を吸い込み、石化する吐息をしようとするが……
「無駄よ」
「!」
その前にナージャが急接近し、黒い手刀を鶏人もどきの腹部に、死なない程度に軽く突き刺す。
「ごほぉ!?」
「息を吸い込んだら、刺し殺すわ」
鶏人もどきの腹部に手を差し込んだまま、もう片方の手で、鶏人もどきの首を掴みだした。
苦しむ鶏人もどきの顔を無理やり自分に向けて、自ら射抜くような視線で鶏人もどきの顔を見る。
殺す前に尋問する気だ。
「無駄だとわかるけど、一応質問するわ」
「な……に……!?」
己の失策と、片足や腹部の痛みと、ナージャの眼光に対する恐怖により、鶏人もどきの頭の中はグチャグチャに混乱している。
首を掴まれてはいるが、言葉を話すことができるよう若干緩められている。
ナージャは、周りの獣人もどきや魔獣もどきが石化したおかげで、しばらく敵が攻めないとわかると、現在もっとも知りたがっていることを訊きだす。
「美獣の居場所……主に本拠地はいったいどこにあるの? 答えなさい」
「…………!」
表情からは、初めからそのつもりでいたかのような余裕。
ここにきて鶏人もどきは、自分が嵌められたことを自覚した。
これだけの獣人もどきと魔獣もどきを相手にしても歯が立たない上に、自分のような混成魔獣人……いや、獣軍団のリーダーですら倒せないことを示し、戦意を喪失させようとし、その上で自ら聴きたがっている情報を訊こうとしているのだ。
しかし……
「おいどうした! あの人間は見つかったのか!?」
「ちゃんと石になっているんだろ! ……おい、返事しろ!!」
石化した周囲の獣たちのせいで、今の鶏人もどきの様子がわからない後続組。
「……ちっ。あんたのその石になる変な吐息のせいで、周りに見せられないじゃない」
「…………!」
鶏人もどきは理解した。これは見せしめだ。
軍団のリーダーですら敵わないことを見せつけ、暗にどうやっても勝てないことを示すためということだ。
たとえ、混成魔獣人というものが知らないとしても、指揮官を倒せばそれだけで士気はゆらぐという事だ。
「まあいいわ。あんたの死体があればそれでも納得するだろうし、ダメなときは他に訊けばいいわ」
「…………!」
ナージャが鶏人もどきを見る視線は、冷たいどころではない。機械的というのか、事務的というのか、とにかく無関心を表している。
このまま情報を吐き出さなくては自分は殺されるだろう。
鶏人もどきは、自分の首元を掴むナージャの腕を掴み、苦しそうに声を出す。
「……情報を教えてくれたら、命を助けてくれるのか?」
「さあ? 私がそうした所で、美獣に命を抜き取られるかもしれないけど、話してくれるのなら殺すことだけは抑えるわ」
「……わかった、居場所を教える。だから手を……離せ……!」
……己の命惜しさに、とうとう情報を提供することになった鶏人もどきはまず手を離してくれと懇願するが、
「ダメよ。あんたを離さないわ」
しかし、当然ながらナージャは、敵を簡単には許さない。
腹部に手を指したまま、首を掴む手を緩めない。
「わざと違う場所を教えて嵌めるかもしれないから、あんたもついて行ってもらうわ」
「クソ……!」
この時、鶏人もどきにはもう反撃する気力も機会も失った。
観念した鶏人もどきはもう足掻く事はなく、素直に道を教えることにした。
「……あっちの方向へひたすら進み続けろ……そのあとに特徴的な岩石がある……そこからまた指示をする……まずはその目印を目指せ……!」
「そう、わかったわ。ひとまずはあんたの言うとおりに進むわ」
ナージャは警戒を解かないまま、とりあえず首を掴む手は放し、鶏人もどきの体を抱えて、鶏人もどきの指した方向へと目指す。
憚る獣軍団の石像を踏み越えると、鶏人もどきの吐息を浴びなかった獣軍団が、自分たちのリーダーを抱えて、一直線にどこかへと走り出すナージャの姿に、信じられない様子で叫ぶ。
「!? 貴様なぜ石になっていない!!」
「おい! リーダーが捕まっているぞ!」
「どこへ行くつもりだ!!」
ぎゃあぎゃあと喚く獣軍団に構わず、ナージャはひたすら指示した方向へと進んだ。
「待ちやがれ!! このまま逃がすものか!!」
背後には生き残った獣軍団が追走するが、ナージャには全く追いつかない。
ナージャに担がれた鶏人もどきは、腹部に刺さったままのナージャの手を見て、恐怖に似た表情でなすがままにされるのだった。
◇
「……ったく、なかなか手こずらせやがって」
「ちっ……!」
一方その頃、美獣の工場内にてオルトと狐人もどきの戦いも、いまだ決着は着かずに長引いていた。
お互い、攻撃を与え、しかしお互い回避し、防御されているため、一進一退の攻防故に決着がつかないのである。
「このっ!!」
いったい何度目の攻撃か、オルトはもう一度牽制を交えて走りだし、狐人もどきのもとまで走り出した。
目では追えない速さで、横から狐人もどきの喉元へ食らいつく。
しかし、
「遅い!」
その前に狐人もどきはオルトの跳躍の軌道上に火球を出し、オルトの行く先を阻める。
だが、何度も同じ手を喰らうオルトではない。
「嘗めるな!!」
「!? 小癪な!」
オルトは跳ぼうとしている振りから、またも別方向へ跳躍し、狐人もどきを撹乱する。
だが、それも予想済みか、自分の周りの至る所に火球を配置しているため、どの方向からもうかつに攻められない。
「いい加減にくたばれ!」
「!」
狐人もどきは痺れを切らしたのか、自分の周りの火球を一斉に放った。
もはや狙い撃ちなどはせず、ここら一帯を一斉に攻撃するようだ。
だが、オルトの方もこれ以上は待ちきれない。
「う……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
オルトは向かってくる火球に構わず、狐人もどきに突撃した。
迫る炎にオルトは構わない。
「バカが。死ね!」
「俺が死ぬかぁ!!」
だが、オルトのそんな咆哮も虚しく、いくつかある火球のうちのひとつにぶつかってしまった。
オルトの全身が激しく燃え上がる。
「ぐああああああああああああああああっ!!」
燃え盛る炎に断末魔を上げるオルト。
それに比例し炎も激しく燃え上がる。
「…………」
そして、纏わりつく炎がすべて消えた頃、狐人もどきの前には完全に黒焦げと化した、犬の亡骸が横たわっていた。
全く動く気配のない、死体と化したオルトの前に狐人もどきは嘲笑う。
「丸焦げになったか? ……随分あっけないな」
「…………」
多少手こずったとはいえ、敵の自滅により少々呆気ない感じがしたが、目的は果たされたのだ。
「……まあいい。釈然とはしないが、これでいいだろう」
勝利に高揚する狐人もどきは、歯切れが悪い感じがしつつも、黒焦げのオルトに背を向けた瞬間……
「……油断したな」
「え?」
突如首の後ろを噛みつかれた。
「ぐああああああああああああああああああああ!!」
それも、首が噛み千切れるほどに深く噛みつかれている。
それと同時に、首の後ろを噛みつかれた痛み
狐人もどきはもがき苦しみながらも必死に身体を振り、自分に噛みつく相手を見る。
そこには……
「バカな……!」
「死んだかと思ったか?」
そこには、黒焦げにされたはずのオルトが、黒焦げのまま狐人もどきの首に噛みついてきたのだ。
明らかに生命が維持できないほどに、深いやけどを負っているのだが、そんなこと知ったことではないように勢いよく喰らいつく。
狐人もどきは信じられない、
「こいつ……なぜ……!」
「種明かしはナシだ。死ね」
「…………!」
そして、魂喰らいの首輪の力により、狐人もどきの魂を吸収する。
すると徐々に、狐人もどきの力が抜けていく。
「ぐ……おの、れ…………!」
すぐさま命を吸い取られた狐人もどきは、そのまま床に倒れ伏せ、絶命した。
狐人もどきの首から口を話したオルトは、そのまま自分の身体を見る。
「くそ……まっ黒焦げじゃねえか……!」
オルトは自分の体の状況を細かく見た後、魂喰らいの首輪がまばゆい光を放ちだした。
すると、黒焦げだったはずのオルトの体が、見る見るうちに、焦げのない綺麗な元の黒い体へと戻っていった。
「おいおい……全身再生で今まで喰った魂、全消費かよ……」
魂喰らいの首輪には、もうひとつ効用がある。
すなわち、喰らった後の魂の使用法である。
いくら魂を喰らい、自らの糧にすることができても、ただ喰らうだけでは無駄に蓄積する一方である。
だから喰らった魂は首輪経由で力を発揮することができる。
使用方法は二つ。攻撃用と再生用の二つだ。
オルトはここに来るまでに喰らった、虎人もどきや牛人もどきの魂を自己再生に費やした。
つまり、炎を浴びて焦げ付いたオルトの体は、喰らった魂により再生した。
それが、狐人もどきの不意を突く、たった一つの方法だった。
(それでも、どれくらい回復するかとか完全に賭けだったな。二人分の魂を喰らったものの、完全に治るのか疑問だからな)
それでもオルトは狐人もどきを倒した。
貯金をすべて支払うことになったが、なんとか敵を倒したのだ。
となると、この後は……
「リュナ……!」
オルトは狐人もどきの周囲を漁ると、そこに金属の輪っかに沢山つけられた鍵が見つかった。
オルトはそれを咥えて、例の鉄の扉へと走る。
「無事でいてくれ!」
オルトは咥えた鍵でなんとか鉄の扉を開けようと必死に奮闘するのだった。
オルト、救出を続ける