Card 3 皇帝(The Emperor)
「あれ?」
いつも通り一人の帰り道。私は、あることに気が付く。
前を歩いている二人組。あれ、青柳君と赤木さんじゃないか?
うわ、もうアタックし始めたんだ、青柳君。
「いや、あの人、これを落として――」
何か話している。と思ったら、うげ、と二人して声を漏らした。
……気になる。少しだけ。
鞄から何かを探すふりして立ち止まる。彼女の手元を見ると――
生徒手帳だ。何の変哲もない。ただ、落とし主が。
「……瑠璃ヶ城先輩か」
青柳君が呟いた。瑠璃ヶ城 夕。お金持ちで有名な、俺様次期社長さんである。
赤木さんたちの前を歩いている彼。
歩く態度ですらデカい彼の周りには、今日も相変わらず女子がたかっている。
「私ちょっと届けてくるよ!」
そう残して小走りに彼のもとへと近づこうとする赤木さん。その途中、彼女の手は掻っ攫われる。
青柳君だ。
「俺も行く。心配だからな。」
おお。もうそこまで惚れてますか。
「ええっと、あの! 瑠璃ヶ城さん!」
立ち止まってくれたようです。
と思ったら首を傾げている。この人達大丈夫か。
「ふん。俺様に何か用か、雌猫」
雌猫!? そ、そこまでこの人はヤバいのか!
「ああ、えっと、これ! 生徒手帳! 落としましたよ」
そうして彼女が手渡すと、思いっきり眉間にしわを寄せる瑠璃ヶ城さん。
「……何が望みだ」
「「はあ?」」
あ、青柳君とハモった。
「生徒手帳を盗んでまで俺と話したかったんだろう? お前の望みはなんだ。金か? 次期社長の嫁の座か? それとも――」
ほう、そう来ましたか。
「ふっざけんな!」
気づけば、赤木さんは力任せに瑠璃ヶ城さんの頬を引っぱたいていた。
青柳君と、叩かれた本人が目を丸くしている。
「お前……」
「ひっ……あ、謝りませんからね! あんたが盗んだとか言うから悪いんですよ! 私は落し物を拾って届けただけです。何も悪いことはしてな――」
ふうん、結構度胸はあるんだね、赤木さん。あんなに女の子らしいのに。
最後まで言う前に、彼女は口を閉じた。
「俺様にビンタとはいい度胸だな。……気に入った。俺様の嫁になれ」
そのまま、顔が近づいて。
ちょっとその後の展開が気になるが、そうっと目をそらす。
さすがにもうそろそろ歩き始めなければ不審だ。
「はいストップ」
「あ、青柳君……」
「それセクハラっすよ、瑠璃ヶ城先輩。赤木も、無防備すぎ」
じゃあ、さようなら。そんな台詞を残して私の手を引き、早歩きでこの場を去る青柳君。
「馬鹿」
「え、」
急に立ち止まって、彼は言う。
「もっと危機感持てよ! お前、ありゃどう見てもキスするつもりだっただろ、あの俺様御曹司!」
「ごめんなさいいい!」
へえ、面白いことになってきそうだ。
一人ぼっちの私の呟きだけが、嫌味なくらい青い空に響いた。
赤木さんのビンタが炸裂!