Card 1 愚者(The Fool)
「は、」
口から空気だけが漏れ出た。
そりゃあそうだ。先程までランプだけが灯っていたその小さな机の上。そこに、今度は猫を抱きかかえた少年がそのランプを片手に座っていたのだから。
「ね、がい……?」
意識がはっきりせずに、そう呟く。
ああ、駄目だ駄目だ、しっかりしなくちゃ。
ぶるんぶるんと首をふるって、もう一度彼を見た。
「そう、願い事。そのためにあんたはここに来たんでしょ?」
「え?」
疑問形で間抜けな声が出たのは条件反射だ。
その返答が不満だったのか、彼は綺麗な顔を歪ませる。
「……もしかして、『願い屋』の噂もなにも知らずにここに来たの?」
「え、あ、う、噂? そんなのあるの? 私はただ、その猫ちゃんを追って――」
みゃあ、と鳴いた黒猫を指さす。
そうだそうだ、この鍵を猫に返さなければ。
「あの、これ。猫ちゃんが落としてったから!」
私は鍵を手渡そうとポケットを漁る。ああ、まだ抜き取ったあの本を持っていたんだっけ。
それを脇腹に挟むように抱えると、ようやく出てきた鍵を彼に向かって差し出した。
「あんたが……」
ぼそり、そう呟いたのは彼だ。
鍵を見つめたまま微動だにしない。
「えと、大丈夫?」
「……ん。鍵はあんたが持っててよ。」
「で、でも……」
この鍵は、あなたのものでしょう? そういう意を込めて彼を見る。
「あんたに昔話をしてあげる」
唐突に話し始めた彼に、首を捻る。
「昔、昔……ここには人が住んでたんだ。住んでいたというか、閉じこめられていた。
不思議な力を使う者たちがね。ニンゲンっていうのは、自分たちの知らないものを悪とみなすのが大好きらしい。彼らもまた、そのせいでここにいた。」
薄暗い部屋に、彼の声が響き渡る。
「彼らは一応、この狭い箱庭の中で遠い世界を夢見るだけで満足していた。でも、何もアクションを起こさない彼らに飽きがさしたのか、ある日ここの見回りをしている奴が言ったんだ。
『ここから一番に出て、主を殺した奴には――なんでも願いを叶えてやろう』、ってね」
ひっ、と軽く息を呑んだ。
彼の瞳に、昏く光が灯る。
意外と早く更新できた……
でも問題はこのペースが持つか,ですね。
がんばります,がんばりますとも!