Card 0 Prologue
まくり。
パンの最後の一かけらを口に含んで、咀嚼する。
まるでこの世を噛み砕くように。
ああ、なんで。
なんでああなんだろう。
先程聞いてしまった会話に顔をしかめる。
「ねえ、なんかさ、うちのクラスの透間さんって怖くない?」
「あ、わかる! 存在感薄い癖に睨んでくるしね」
「怖いっつーかなんかキモい」
違います、目つきが悪いだけです。睨んでません。キモいのはわかってます。
そう言えたらどれだけ楽だっただろうか。
まあ、絶対無理ですけどね。
二年生になってクラス替えをしてから早二週間。完全に友達の輪に入り損ねた私である。
元々あまり仲の良い子もいなかったし、親友の桃華は隣のクラスになってしまった。
つまり、あれだ。
ボッチなんだ。
ごくり、
パンを飲み込んで立ち上がった。別に寂しくなんかないんだからね!
……馬鹿か、私。
と、その時である。
か細い声が私の足元から響いた。
「にゃー」
「猫……」
つやつやと綺麗な毛並みの黒猫が一匹。
「どうしたの? 迷っちゃったのか?」
なんで猫がいるんだろうか、とかは特に気にも留めずに抱き上げる。
「にゃにゃあ」
うん、可愛い。さすが猫。癒し最高。
こういう傷ついた心には可愛いものしかない。
「にゃ」
「ん、どした? 餌はないぞー」
猫が私の手に顔を近づけた。と、その時。
「きゃああああ!」
響いた悲鳴。ああ、また灰次さんか。人気だもんな、あの人。
いっつも女の子侍らせてるし。大体灰次さんって名前でモテ男とかww
「あ」
「にゃん!」
悲鳴に驚いたのか猫が逃げて行ってしまう。
しかも、私の手にくわえていた鍵を残して。
「え、え、ちょっと! 待って!」
ヤバい、この鍵誰かのものだよね。
「待ってってば!」
茂みに飛び込む猫に続いて、私も追いかける。
「うわっ!」
何故。何故だ。
何で裏庭の茂みが……こんな階段につながっているんだ。
「……」
気になる。
ああ、おさまれ私の好奇心!
でも、猫もここ降りたような気がするなあ。
降りたか? ……降りたな!
「……よし、行こう」
ついに好奇心に負けてしまった私は、音をたてないように気を付けながら階段を下った。
すると、長そうに見えていた階段はすぐに終わりが見えてくる。
「う、わあ……」
見回すと一面、本、本、本。
壁が一面本である。
「すご……」
真ん中に置かれた小さなランプが頼りなく床一面のみを照らす。
どうやら、灯りはそれしかないらしい。
なんだか、異世界みたいだ。
するり、と無意識に近づいた本の背を撫で、一冊だけその列から引き抜いてみる。
「う、ん……? あれ、この本、題名も何も書いてな――」
呟ききれなかった『い』の言葉が、不意に吹き抜けた風に呑みこまれた。
思わず目を閉じたのは、一瞬。
瞬きよりも、きっと短いその合間に。
「いらっしゃいませ、『願い屋』へ。あんたの願いはなあに?」
幼馴染のほうに詰まって気まぐれ新連載始めてしまいました。
更新は二週間に一回程度かと思われます。いかんせん気まぐれなもので……
申し訳ないです。