亜莉 3
場面は<修 1>の続き、亜莉バージョンです。
*** Ari ***
シュウと別れて、カズヤと二人で街に出た。
へへっ、なんか まるで デートみたい。
こんなことになるなら、もっとオシャレしてくればよかったな。
この前 店で見つけたワンピースに一目ぼれして、奮発して買ってしまった。
淡いきれいな水色と、スカートのフワッとした感じがとても可愛くて 気に入ったのだ。
いつか あの服を着て、一緒に出掛けることが出来たら いいのにな…
髪に何か触れたような気がして ふと左側を見た。
「これ…」
カズヤが珍しそうに私の髪飾りに触れていた。
「あ、これね、さっきあの店で見つけたの 可愛いでしょ。
美緒の分を見てたら、シュウがお礼にって 色違いのお揃いを…
痛っ、何すんの」
カズヤは、いきなり私の髪から 髪飾りを乱暴に外した。
「…似合わねー。 こっち当たって邪魔だし、取れよ」
…も、もしかして、妬いてる?
いやいや、そんな都合いい考えは…
「美緒んだろ。 あいつならいいけど、お前に似合わねーよ。
頭だけ そんなピラピラ 付けたって…」
「だって荷物渡しにきただけで、別に デートとかしてた訳じゃないんだし」
全くの普段着で来た私は そう言い訳した。
私だって、もっと可愛い服 着て、もう少し おしゃれすれば。
好きな人とデート出来るようになれば。
「…当たり前だろ! シュウだって そんなん連れ歩くかよ」
…ぐ… いや、がまんがまん。
彼の 私に対する口の悪さは、いつものこと。
このささやかな、ひとときのデート気分のために…
でも、彼の不機嫌は加速する一方だ。
…私と一緒にいるのは、そんなに嫌?
「そ、そんなのわかってるもん。 でも そんなに変じゃないでしょ?
あの店にいる時だって シュウのファンの女の子達に誤解されて大変…」
「そんな奴らはシュウしか見てねーの。 お前、つりあってるつもり?」
彼の言葉は、だんだんキツくなってくる。
私も腹が立ってきた。 もう 限界だ。
「…あー そーでしょ!!
あんたも、私と一緒だと 恥ずかしくてしょうがないんでしょうね!」
「そんなこと言ってねーだろ」
さすがのカズヤも、しまったって顔をしてる。
でも、私も もう止まらない。
「それなら、あーゆー綺麗な服着た美人と…」
その瞬間、私は思わず立ち止まってしまった。
…そこには、まさに 理想的な女の子がいた。
「おい、何してんだよ?」
私が止まったのに気付いたカズヤが 振り返って呼んだ。
私たちの間は、すでに数メートルほど開いていた。
「…あの… レイカさん…」
声が震えてしまう。
一瞬 怪訝な顔をした彼は、私の視線をたどって、彼女に気付いた。
にっこりと 会釈をする彼女。
見る者全てを 幸せな気持ちにできるだろう、その美しい笑顔。
全国の男の子たちの憧れの、セクシーで完璧なスタイル。
きれいな色で、ふわりと風をはらむ可愛らしいデザインの、デートにはぴったりの素敵な服。
そして おそらく彼に好意を抱いている、理想的な女の子。
「こんにちは。 またお会いできて嬉しいです。
…すみません、ご迷惑でしたか?」
「…あ、いえ… ご、ごめん、私… あの、もう 帰るから…っ!!」
「亜莉っ!!」
…もう少し、二人でいたかった
…本当のデートは無理でも、気分だけでも
…少しだけ、私も 今までがんばった分のごほうびに、って
…そんなのって… ずうずうしい、わがまま…?
交差点を曲がる前に、一度だけ振り返った。
少し離れた場所から見る彼は、やっぱりすごくかっこよかった。
綺麗な彼女と並んでいると、彼の良さもさらに際立って、あのシュウにも負けてないと私は思った。
いつもはおちゃらけてふざけたことばかりしているのに、今はひどく大人びて見えた。
周りの人達もチラチラと見ている。
二人は、近くにある喫茶店に入っていった。
彼女をエスコートする姿も様になっていて、とてもお似合いの恋人に見える。
私なんかが かなうはずはない。
私は逃げ出すしかなかった。
…これからは もう、隣にいることも 無理…?
走り続けるのも疲れて、やがて私は とぼとぼと歩きだした。
足元を見て歩いていると、誰かの靴とぶつかった。
「なにしてんの、お前」
顔をあげると、そこにいたのはタカシだった。
次回はカズヤです。