和矢 4
前話<亜莉6>の続き、試合終了直後の場面です。
*** Kazuya ***
相手ベンチへのあいさつもそこそこに、列を抜けだす。
後で タカシや亜莉に 小言を言われるだろうが、まあいい。
ユウキやシュウは あきらかに俺をねらってるし、後輩どもも もうこちらへ向かって走ってきている。
早く抜けないと いつものさわぎに巻き込まれてしまう。
客席に上がり、試合中に見かけた 彼女のいた場所へ急ぐ。
先に彼女に会って、伝えたかったのだ。
見つけた。 彼女も俺に気付いたようで、こちらに手を振った。
「レイカ」
急いで 彼女のもとへ かけよる。
「俺も見つけた。 俺が最高になれるもの」
それがなければ、俺は 自由にプレーすることも出来ないし、最高にもなれない。
「レイカは すっげーいい女だけど、でも 俺には あんたじゃない。
あんたが見つけたのも、俺じゃないんだろ」
彼女は少し 目を見開いた。
「…まあね。 でもあなたには、何かお礼をしたかったから。
お役に立てたのなら うれしいわ」
彼女は 鮮やかに微笑んだ。
そのまぶしさに、俺はまた 目を細める。
「やっぱ 最高だよ、レイカの その笑顔」
「ありがとう」
振り返って 下を見ると、グランドでは やはり 乱闘もどきをやっていた。
シュウが なんとか 逃げ出そうと もがいている。
ベンチからは、二人の少女が 何かを叫んでいる。
行かなくては。
手に入れなければならないものがある。
あの日も俺は レイカと別れた後、彼女の元へ向かった。
俺の今の気持ちを伝えるために。
でも それを目にした時、用意していたはずのすべての言葉を失った。
ユニフォームの 18の数字がある部分に、そっと触れる。
脳裏に鮮やかによみがえる、あの瞬間。
その瞬間、世界の時間が止まったような気がした。
彼女は とても大切なものを扱うように、そっとそれを手に取った。
そのまま、しばらくじっと見つめている。
その眼差しは、いつくしむように 限りなく優しく、燃えるように どこまでも熱っぽく。
俺は 自分の鼓動が どんどん速くなっていくのを感じる。
彼女は、そっと そこに口づけた。
あの時の感覚を、俺は 一生忘れられないだろう。
目が離せない。 息が出来ない。
彼女の瞳から 涙がこぼれる。
それは、この世のものとも思えないほど 美しい光景だった。
そうやって、今までずっと 俺を見つめ続けていたのだろうか。
俺が 夢中で走っているときも。 無様に転んでいるときも。
迷って立ち止まっているときも。 つかれて倒れこみそうなときも。
笑っていたときも。 怒っていたときも。 落ち込んでいたときも。
ずっと、ずっと。 まっすぐに、俺だけを。
それは 本当に純粋で、まったくの透明で。
透明すぎて、目には見えなくて、俺は、当たり前にしか 感じていなかった。
別に必要じゃない、なくても平気だ などと言うことは、もう 出来ない。
その視線が 一瞬 別の方向へ向いただけで、あんなに苛ついていたのに。
つかの間 感じられなかっただけで、あんなに落ち着かなかったのに。
当たり前すぎて 気づいていなかった。 気がつけば、全身にそれを感じた。
痛いほどに 優しく。 心地よいほどに 熱く。
俺が 今までどれほど多くのものを それに 与えられてきたのか、この90分間で実感した。
俺は あいつじゃなきゃダメだ。
あいつの視線が、声が、笑顔が、全てが俺には必要だ。
「亜莉ー!!」
彼女が パッと振り返った。
俺を見て、驚いたように 目を見開く。
とたんに 俺の気分は、最高に向かって 走り出す。
そう、これだ。 この まっすぐな、視線。
これだけが 俺の すべてを満たす。
「さっきの一点は お前にやる。 だから、俺の分も 寄こせ。
俺は、亜莉、お前がいい」
「カ、カズヤ… それって…」
…わかったのか?
いつまでも ポカンと口を開けて 何も言わない亜莉に、心配になってくる。
さっきも 全然わかってなかったみてーだし、こいつ あんまり頭良くねーからなぁ…
「…だから、俺はだな、お前が…」
「あ、カズヤ、後ろ!! 危なっ…」
亜莉が言い終わる前に、俺は後ろから かなりの衝撃を受けた。
しかもそれは、次々に おそいかかってくる。
「カズーッ、テメー勝ち逃げかっ」
「レイカちゃんはどーした、連れて来い!」
「ちがっ、俺は 亜莉に…っ!!」
「言わすかっ、皆 おさえろーっ!!」
「亜莉は 向こう行っとけ! ここは俺たちにまかせろ!」
「そんな簡単に お前になんか渡せるか、絶対 みとめんぞ!!」
なんだなんだ、こいつら 俺を殺す気かっ!?
俺は必死で はい出そうとしたが、その壮絶な迫力に、亜莉は逃げて行ってしまった。
「なっ、どけ、お前らっ…、あ、亜莉、待てーっ!!」
* * *
「あーあ、二人の幸せな未来は まだ先かな」
「カズの自業自得だろ、しょーがねー」
「そんな、じゃあ亜莉はどうなるのよ?」
「あいつらをあおったのは お前だろ、美緒。 …お前、もしかして 天然?」
「…タカシうるさい。
ち、ちょっと、シュウ、笑ってるでしょ!?」
レイカ話は 悩んだのですが、話がどんどん長くなって収拾つかなくなりそうだったので、さっくり終わらせてしまいました。
なにしろ タカシが 出張りすぎた…
カズヤが思い出している「あの瞬間」とは、<亜莉4>で 亜莉がユニフォームにキスする場面です。
ところで、プレゼントに 一点やるって、どーなんでしょうか…?
私は 嬉しいかな~と思ったんだけど… そんなもん いらない? しかも お返し要求してるし。
次回で完結です。




