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ごほうび  作者: choco
22/24

亜莉 6

あまりに長くなりすぎてしまったので、亜莉バージョンと和矢バージョンの2話に分けることにしました。

今話 亜莉バージョンは、前話<貴志4>と同じ場面、試合のハーフタイム中のカズ&アリです。

 *** Ari ***


「おい、ポカリ 寄こせ… なんだよ?」


とりあえず 大きなケガの心配がないとわかると、別の心配が残った。


「ダメだよ、あんな言い方…」

「あ? …ああ、タカシなら 別に大丈夫だって」

「え?」

「だって あいつ、怒ってねーもん。 そんなことより… 亜莉、お前さ… あの…」


カズヤは、やけにあっさりと タカシとのことを切り上げた。

そのわりに、次には 何ごとかを言いよどんだ。


何となく 落ち着かない空気が ただよう。


彼が私に言いづらいこと、その内容は ただ一つしかないような気がした。

私は 彼の次の言葉を聞くのがこわくなって、勝手にしゃべり出していた。


「カズヤ、がんばってね。 今日、すごくいいよ」


彼が、最近よく 考え込んだり イライラしていたりして、プレーにも集中できていないのは知っていた。

その理由は レイカのことかもしれないし、別のことかもしれなかった。


彼を悩みごとから解放して、思い切り走れるようにしてあげたかった。

でも私には、何も出来ない。


せめて この試合中だけでもと思って、必死で応援した。


そして 前半戦での彼のプレーは いつも以上の出来だった。

いつものように 試合前の作戦や タカシの指示も聞かずに、彼は自在にフィールドを駆け回った。


「本当にすごかったよ。 今までで一番。 この調子で がんばって」

「ああ、うん」

「…今日、レイカさんも 見に来てるんでしょ?」

「…ああ、そういえば…」

「なら よけい がんばって、いいとこ見せてこなきゃ」


私の言葉にも 上の空の様子の彼に、心配になる。

いつまでも悩んでいるのなんて、彼らしくない。


あと 残り45分間、思いきり 走り続けて欲しい。

何にも縛られず、自由にプレーしてきて欲しい。

そんな彼を 見ていたい。


「今日のカズヤなら 絶対 いける。

 ゴールだって きっと出来るよ。 もう一点 取ってきて。

 カズヤ、お願い、取ってみせてよ」


彼は、急に 顔を上げた。 こちらを見て、私の顔をじっと見る。


「…もう一点?」

「うん、出来る! だって、カズヤ 今日 すごいじゃない。 絶対 取れるよ!」

「……」

「この試合 勝たなきゃ。 そのために 練習してきたんだから。

 勝ちたいでしょ? カズヤだって、皆も」


「…お前もか?」

「え?」

「お前も そうなのか?」

「あ、当たり前でしょ! 勝ちたいに決まってるでしょ!」


何を言うの? 私だって 部員なんだから。

あまりの言葉に 私は面食らったが、そんなことよりも、彼の雰囲気が変わったのがわかった。


大丈夫、いける。 その瞳の 迷いない強い輝きを見て、確信できる。


すぐにでも 走り出したくてしょうがない、しかられるとわかっていても じっとしてはいられない。

いつもの見慣れた やんちゃ坊主の顔だ。 …かすかな違和感も感じたが。


悩んだり考えたりすることは、大人になるためには 必要なことだ。

悩んだ彼は、以前とは何かが変わったのだろう。 また少し大人になったのだろう。

そんな変化に 少しさみしくなる。


それは、彼に 必要なことだったのかもしれない。

変わってほしくないという気持ちは、そんな彼の じゃまをすることなのかもしれない。


それでも、彼の思いきり走る姿を見るのは、やっぱり うれしいと思う。

いつまでも やんちゃな子どものような表情も、忘れないでいてほしいと思う。


「絶対 勝つの! だから、カズヤ、得点してきて!」


「おう!!」



勢いよく出て行った彼は、なぜか すぐ戻ってきた。


「じゃあ 点取ったら、お前も そのほうび 寄こせよ」

「えぇ!? そ、そんなこと言われても… 何が欲しいの?」


この前のタカシの言葉を ふと思い出した。 

私が あげられるものなんて…


「……」

彼は 言葉につまった。 あまり 考えていなかったのだろう。


「…わかった、じゃあ 後で何か…」

「…亜莉」

「ん? 何?」

「亜莉」

「…だから、何ってば? 早く言ってよ」


彼は、何か変な顔で 私を見ている。 …何なのよ、いったい?


「…いや、だから… まあ いーや、とりあえず 一点だな。

 てめーよーく見てろよ、絶対取ってくっからな! よそ見なんか してんじゃねーぞ!!」


捨てゼリフのような言葉を残して、彼は フィールドに飛び出していった。




彼が行ってから、私はふと、さっきの違和感の原因に気がついた。

いつもは 前しか見ていなかったはずの彼の視線は、あの時 間違いなく 私をとらえていた。


私の思い出せるかぎり、初めてのことだ。

いったい、どうして…?


でも そんなことは、すぐに どうでもよくなる。



「ピーッ!!」


試合再開だ。


彼が、皆が、また 走り出す。


次話は この続き、和矢バージョンです。

あと2話で 完結します。 今日中に、もう1話 投稿します。

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