亜莉 5
前々回<亜莉4>の続きの場面です。
*** Ari ***
私の様子を見て、美緒が その日の買い出しは 自分が済ませてくると言い出した。
荷物も多くなるし、一人では大変だからと言ったのだが、結局シュウが手伝ってくれることになって、私は二人にお願いすることにした。
それでも 全部まかせるのは申し訳なかったので、私はユニフォームの整理だけでも 済ませておくことにした。
「…えーっと、白はこれでオッケーで、赤は …8、9、10…
…あれ?14は? ああ、これか、…16、17…」
ふと 手が止まる。
18。 ずっと、彼の背中にあった番号だ。
そっと 手に取り、しばらく じっと見つめる。
特に何も考えていたわけではなかった。
それでも それを手に取った瞬間、いくつもの情景がよみがえる。
ボールを蹴って、走っている姿。 怒って、叫んでいる姿。
転んで、笑っている姿…
いつでも、どんな時でも、私の目には彼しか映っていなかった。
私は その番号に、そっと 口づける。
いつからか、ずっと 見ていた。 気がつけば、好きだった。
もう 目が離せなかった。 ずっとずっと 追いかけた。
でも、彼の目には 私は映っていなかった。
彼は いつも 前を見ていた。
その後ろにいる私からは、彼の背中にさえぎられて 見えないものを。
彼の視界に映っているものを、私は 知らない。
涙がこぼれたのに気付き、あわてて拭う。
もう、今日は帰ろう。 また 明日からもいそがしいだろう。
いつまでも こんなことをしていても、しかたがない。
* * *
広げたものを手早く片付け、戸じまりをして 部室を出た。
人気のないグランドには、もう 夕暮れが近づきつつあった。
その時、グランドに人影があるのに気付いた。
一瞬 不審者か何かと思い ドキッとしたが、よく見ると カズヤだった。
今日は 来ないと言っていたはずなのに。
どうしたんだろう。 何か 忘れ物でも 取りに来たのだろうか。
彼は 一人で ずっと、ぼーっと 空を見ていた。
彼のそんな姿は とてもめずらしい。 ずっと彼を見てきた私でも 初めての気がする。
だいたい いつも、走ってるか 騒いでるか…
今なら 彼の見ているものが 私にも見えると思ったが、見上げても 何もない。
それに、今 何か考えに没頭している彼には、おそらく何も見えていないだろう。
何を考えているんだろう… 私は そんな彼をずっと見ていた。
どのくらいの時間 そうしていただろう。 こうしていたら ずっと、彼は 私だけのものなのに…
でも 彼の頭の中は、今 ちがうことで占められているのだ。
そう思うと、私だけのものなんて思ったのが、なんだか いけないことのような気がした。
もやもやした気分を ふり払いたくて、私は 彼に声をかけた。
「カズヤ」
「…!!? …あ…っ、り…!」
「……?」
カズヤは、非常に驚いた様子だった。
あまりに動揺して、私の名前を呼ぶのにさえ 失敗している。
一人で物想いにふけっているときに、いきなり声かけて 悪かったかな…
私は 申し訳ない気持ちになった。
「…どうしたの? 何か 用事?
鍵 もうしめちゃったから、開けようか?」
「…いや…」
今度は、私と目を合わさぬように 横を向き、片手で口をおおった。
あきらかに、私と一緒にいることに困惑している様子だ。
…もしかして 私、…拒絶、されてる?
「…も、もう 俺 帰るわ!」
ふだんと様子のちがう 挙動不審な彼を、私はぼう然と見送った。
じわじわと いやな予感が胸に広がってくる。
…今日 彼は、レイカと会っていたはずだ…
…彼女と、何か、あったのだろうか…
ケンカしちゃったとか、あまり うまくいかなかったとか…
…それとも…
何か、ひどく気分が悪くなってきた
私は その解決法がわからず、途方に暮れた。
カズヤが挙動不審なのは、ある場面を目撃したからです。
それについては、3話後の<和矢4>に出てきます。
次回は 美緒です。




