麗華 2
前回<亜莉4>と同日の和矢です。
*** Kazuya ***
午後の日差しが柔らかく差し込む店内には、よく知っている曲が流れていた。
彼女の紹介で来た店は、上質な雰囲気の落ち着いた喫茶店だった。
コーヒーも美味く、ゆったりしたイスの座り心地もいい。
慣れない雰囲気に 最初は落ち着かない気分だったが、だんだん慣れてきた。
彼女は相変わらず美しく、俺の話すどんな話題にも 心地よい笑顔で答えてくれる。
まあ 実を言えば、出す話題はいつも通りとはいかず、選んではいるが。
やはり 前回と同様、穏やかな時間が流れる。
「これは あの映画の主題歌だったやつだよな。 えーっと…」
「あ、ほんと。 もう結構… 二、三年くらい前かしら」
高校に上がってしばらくしたころ、皆でとなり街の映画館まで見に行った記憶がある。
それであいつが、途中でポップコーンをこぼして…
俺は 頭を軽く振った。 今は なんとなく考えたくなかった。
「なあ、聞いていいか」
俺が話しかけると、それまで何かを考えていたらしい彼女は ふと顔をこちらに向けた。
「どうして 俺だったんだ?
試合見てたら 絶対 シュウのが気になるだろ」
「それはあなたが、あの時 私が一番欲しかったものを 持っていたから」
「欲しかったもの?」
「あの時 私、仕事に行きづまっててね、逃げてきたの。
たまたま 友達と見に来たんだけど、兄がずっとやってたんで、サッカーは昔から 結構よく見てたの」
へえ…。 なんとなく 意外な感じだ。
「あの試合で、あなたは勝手にプレーしてた。
下がれって言われても下がらないし、味方がやられそうになると 自分の役目放って 飛び込んでいくし。
途中から入って、それまでの皆のシステムを ぐちゃぐちゃに崩してた」
「……」
俺は 思わず目を反らした。
いつもタカシから 散々言われることだ。
まさか こんなところで、それを指摘されるとは思わなかった。
サッカーを知っているというのは 嘘ではないようだ。
「ねえ」
彼女は 急に 体を乗りだして、俺を見上げてきた。
いきなりの至近距離に、ドキンと 心臓が跳ねあがる。
さすがに、これだけの美少女に見つめられるのは 緊張する。
「あなたも 今日、逃げて来たんでしょ?」
「……」
俺は 今日、自主練を休んで レイカと会っていた。
ケガでも 用事でもなくて 練習を休んだことなど、何年振りだろう。
今日は なぜか行く気にならなかった。
最近 思うように走れなかった。 スランプというのも 何か違う。
走っても走っても、イライラする気持ちが 治まらない。 逆に 増していく気さえする。
今まで こんなことは一度もなかった。 どうしていいのか わからない。
「…気付いてた?」
「当たり前でしょ。
まったく、全国の男子高生憧れの人気モデルとデートしてるっていうのに、
ろくに顔も見ないで 心ここにあらずなんて、失礼しちゃう」
彼女は 元の位置に戻って、アイスティーのストローを くるくるとまわした。
「…これって、やっぱ デート?」
「私は、別に いいんだけど。 あなたの顔、結構 好みだし」
彼女は にっこりと笑う。
「私ねぇ、『最高の笑顔』っていうのが 出したかったの。
あの時のあなたを見て、これだって思ったのよ。
あの日のあなたのプレーは、本当に好き勝手だったけど、最後の笑顔が最高だった」
「…すばらしいプレーだったって言ってたじゃん」
「それは嘘じゃない。すごく良かった、自由で」
「自由?」
「そう、自分勝手じゃなくて、自由って感じた。
その自由があなたを最高にしているのかなって」
視線を宙に浮かせ、何かを考えながら 言う。
「私も、ああいう最高の表情が出したかった。でもどうしても 作った笑顔って言われちゃって。
がんばっても 出来なくて、他に方法がないかって探してた時に 見つけた。
あなたのように、私にも何か そういう必要なものがあることに気付いたの」
彼女は 視線をこちらに戻すと、艶やかに微笑んだ。
クラリと来た。 油断していると 吸い込まれそうだ。
「…今 すげーいい顔、してるじゃん」
「そうでしょ? 私も見つけたもの、そういう大切なもの」
惹きつけられる。
「じゃ、今は最高?」
「んー、それはまだ、これからよ。
大事な試合の時みたいに、ピークを合わせるの。 今度の撮影の時にね」
「へえ、そんなこと出来んの?」
今で十分の気もするが。 これ以上 どこを良くするのだろう?
「プロですからね」
そう言う得意げな笑顔も、ひどく魅力的だ。
まぶしさに 思わず目を細める。
「やっぱ、レイカの笑顔って 最高だ」
いつのまにか 俺もつられて 笑顔になっていた。
* * *
俺は、もう 気付いていた。
今 このままでは、俺は 自由に走れない。
彼女のように、自分を最高の状態に持っていくことは 出来ない。
そのためには、必要なものがある。
長いだけで、あまりよく意味がわからない話になってしまった…
あと5話くらいで完結します。
次回は 亜莉です。




