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Prologue
鐘の音が聞こえる。
遠くのお寺の…鐘の音。
もうじき日が暮れる。
もう、帰らなきゃ。
文はいい子だね。
パパはいつも、笑って頭を撫でてくれた。
文はお姉ちゃんだから。
いい子でいなきゃいけないの。
帰っちゃうの?
その子は悲しい目で聞いた。
もう少しだけ…一緒にいようよ。
ごめんね。
そう言って私は立ち上がる。
私はお姉ちゃんだもの。
母さんの手伝いもしなくちゃいけないし、妹の世話もしなくちゃいけない。
日が暮れたら、父さんもうちに帰ってくる。
いい子でいなきゃ。
でも………
いい子でいたら、本当に幸せになれるのかな?
いい子でいて、本当に幸せになれた?
あなたは………
少年は私の名を呼ぶ。
とてもとても…愛おしそうに。
聞いたことの無い名前。
私の名前は文なのに。
でもとても…懐かしい名前。
あなたは誰?
それに………
私は………