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06:死神


Spain uninhabited town


荒廃しきって人の気配どころか生物の気配が無い町、埃とカビの臭いが鼻を突き、辺りは建物であったであろう瓦礫の山、そんな中に阿修羅あしゅらとタナトスはいる。

人が住まなくなった、否、住めなくなったこの町は異質な空気が支配する、協力者も町の手前までしか輸送せず、脅えるように帰って行った。

地元スペインのホーリナーも近寄ろうとしないこの町、しかしタナトスの顔は自然と笑みになる、阿修羅あしゅらはハンカチで口と鼻を押さえながら警戒して進む。


「ゾクゾクするぜ、テメェもそう思うだろ?」

「はぁ、環境が最悪」

「贅沢言うな、殺せればそれで良いんだよ」


阿修羅あしゅらは逆でしょと言おうとしたが辞めておいた、普通なら環境が良ければどんな戦いも我慢する、こっちのほうが自然に感じられる。


「どこにいる!早く出てこい!」

「はぁ、出てくるわけ無いでしょ」

「出てきたら儲けもんだろ」

「そんなので…………って、いたわよ」


阿修羅あしゅらが頭を抱えながら指を指すとそこには異様に大きいダークロードがいる、3m近くある筋肉質の体にバランスの悪い体。


「何あれ、おかしい体」

「不完全なエビルユニオンだ、完全に取り込みきれずもう一方が形となって現れるとあういう風にバランスが悪くなる」


阿修羅あしゅらは不完全な相手でも更に強い敵に笑みにが溢れる、タナトスも若干の笑みを浮かべてエビルユニオンを睨む。

二人が同時に腕輪に触ろうとした時、目の前にいるエビルユニオンとは別のエビルユニオンが頭上に現れた、拳は深く地面に突き刺さり辺りに様々なモノが飛び散る。


「バレバレなんだよ、気配を隠す努力をしろ」

「霊の方がまだ上手く隠れてるわね」


エビルユニオンを挟むように阿修羅あしゅらとタナトスは左右にいる、二人は軽々と避けてエビルユニオンを不適な笑みで睨む。

阿修羅あしゅらとタナトスは同時に腕輪に触れた、阿修羅あしゅらの得物は長刀、名は夜叉丸、タナトスの得物は大鎌、名はスケイル。


「テメェは不完全体を殺れ、俺様は完全体を殺る」

「何で貴方が楽しそうな方を取るの?」

「良いじゃねぇか、新人には軽い方だ」


阿修羅あしゅらは不満そうな顔で、歩きながら不完全なエビルユニオンに近寄る。

タナトスはスケイルを肩に担ぎながら完全なエビルユニオンを睨んだ、タナトスの目には一点の曇りも無い、あるのは殺意のみ、大鎌のスケイルを持っているタナトスの姿は皮肉抜きで死神。

ゆっくり歩きながら口角を上げ、犬歯を覗かせる、そして口を軽く開けて目を大きく見開く。


「この緊張感、最高だ」

「ホーリナーの分際で私を甘く見るな」

「そうだ、そうだな、テメェらは喋れるんだよな」


タナトスはクスクスと笑い始める、そしてスケイルをクルクルと回し、右腕から背中に添わしてスケイルを持つ。


「斬り刻んでやる」

「不可能だ、私の装甲は貴様らの刃でも貫けない」

「カット【切断】」


スケイルの刃が真っ黒に光り始める、その怪しい光に照らされたタナトス顔は殺意だけで形成されている。


「何をしたか分からないが、私の前では通用しない」


エビルユニオンは拳を振り上げ、タナトスに振り下ろす、タナトスは体を軽くずらして拳を避けた、地面に突き刺さった拳に傷一つ付いていない事から豪語するだけの装甲はある。


「まずは右腕だ」


タナトスの右側にある右腕をスケイルで軽々と切断した。


「グワァァァァ!」


片腕だけで軽く当てて力を入れず引いただけ、まるで日本刀で豆腐を切ったかのようスッとスケイルの刃が入った。


「な、何をした?」

「どうせ死ぬんだ、種明かしをしてやるよ、俺の神技は何でも切断する、それが例えディアンギットから出た鉄だとしてもな」


タナトスは笑いながら地面に落ちたエビルユニオンの右腕を斬り刻んだ、小さく斬り刻まれた腕を見てエビルユニオンは絶望すら覚えた。


「せめてもの選別だ、一瞬で死ぬのと苦しみながら死ぬの、どっちが良い?」

「ふざけるな!」


エビルユニオンは残った左腕でタナトスを殴ろとしたが、タナトスはあっという間に背中に回り込む、そのスピードでエビルユニオンはタナトスを見失った。


「交渉決裂だな、テメェ的にはサックリ殺して欲しいんだろうな、でも俺様はそんなに優しくないぜ」


タナトスは背中合わせになったままエビルユニオンの左肩から先を斬り落とした、エビルユニオンの背中で悪魔のような笑みを浮かべた。


「き、貴様ぁ!」

「頭が高いんだよ」


タナトスは振り向き様に両足を斬り落とす。


「ギャァァァァ!」


胴体と頭だけになったエビルユニオンは苦痛と怒りに満ちた表情でタナトスを睨む、タナトスはスケイルを地面に着いて、スケイルに支えられながらエビルユニオンを眺めた。


「命ごいでもするのか?まぁ今のテメェなら死んだ方がマシか」

「き、貴様、いずれあのお方達が、ホーリナーを、殲滅する、それまで、強がっていろ」

「ダークロードごときに俺様は殺せない、とりあえず聞いとくが俺様達を誰が殲滅するって?」

「死んでも言わない」

「クロージョン【腐食】」


スケイルの刃が黒から紫に変わる、タナトスはスケイルを両手で握り高々と上げる、大きな口を開けて目を大きく見開く。

タナトスはスケイルを上段から思いっきり振り下ろす、スケイルはエビルユニオンの胸に1cmも刺さらずに止まった、確かに装甲だけは異常にあるようだ。


「ハハハ!素直に斬れば良いモノを、言っただろ、私の装甲は刃を通さぬとな!」

「少しでも傷が付けば良いんだよ」


タナトスとエビルユニオンがスケイルが刺さった傷口を見ると、徐々に腐食しはじめてきた、じわじわと傷口を中心に腐食は進んでいく。


「これから10分だ、死ぬに死ねない苦痛を味わうんだな」

「殺せ!早く殺せ!」

「拒否する」


タナトスはエビルユニオンを背中に歩き始めた、タナトスが恐れられる理由、それは殺しを楽しむ事でも性格でもない、その戦いのえげつなさとダークロードの悲鳴がそうさせる、そしてダークロードの悲鳴で快感を覚えるタナトスの不気味さもそれに拍車をかけている。



















阿修羅あしゅらは拳を振り回しながら暴れる不完全なエビルユニオンを見上げた、そしてたまに放たれる攻撃も顔色一つ変えずに避ける、その度に落胆のため息を漏らす阿修羅あしゅら、徐々に神選10階の任務にも落胆してきた。


「はぁ、それで終わりなの?」

「ギシャァァァァ!」


先程から何かを話そうとしているのだが不完全なのか言葉にならない、阿修羅あしゅらは呆れて頭を抱えると、今まで両手で持っていた夜叉丸を右手だけで持った、ブランと力なく垂れる右腕と夜叉丸、夜叉丸は既に地面についている。


「アブソルペーション【吸収】」


夜叉丸が唸るように反応しはじめた、阿修羅あしゅらは前に倒れるように地面を蹴る、夜叉丸を引きずった跡には細い筋が出来ている。

エビルユニオンは阿修羅あしゅらを殴ろうと拳を振り上げるが、急に加速した阿修羅あしゅらは振り上げたエビルユニオンの右腕に夜叉丸を突き刺す。


ズズズズズズ!

「グギャァァァァ!」


夜叉丸はエビルユニオンの霊体をすすると、エビルユニオンの右腕は干からびミイラと化した、それと同時に夜叉丸は黒みがかる。

阿修羅あしゅらは夜叉丸を抜くと軽く間合いを取る、エビルユニオンの右腕は細くミイラのようになり使いモノにならない。


「ギシャァァァ」


エビルユニオンは懲りずに再び阿修羅あしゅらに向かって走ってくる、阿修羅あしゅらはゼロ距離で放たれた拳に真っ正面から夜叉丸を突き刺した。


ズズズズズズ!

「ウガァァァァァ!」


今度は左腕が干からびミイラと化す、両腕がミイラと化して苦痛に顔を歪める。


「さてと、終わりにしてあげる」


阿修羅あしゅらはバックステップで大きく間合いを取り、両手で阿修羅あしゅらを握ると切っ先を斜め下を向けた、軽く左足を引いてエビルユニオンを睨む。


「チェンジ【転化】、エミッション【放出】」


阿修羅あしゅらはそのまま夜叉丸を切り上げると夜叉丸は元の色に戻る、それと引き替えに漆黒の刃が放たれた。

漆黒の刃は地面をえぐりながらエビルユニオンに向かう、エビルユニオンは動く余裕も無く立ち尽くしたまま。

漆黒の刃は地面と同時にエビルユニオンを股から頭にかけて両断して消えた。


「なかなかやるじゃねぇか」

「ありがとう」

「まぁ戦い方は俺様並にえげつないがな」


阿修羅あしゅらは鼻で笑って軽くタナトスを睨むと出口に向かって歩き出す、タナトスはズボンのポケットに手を入れて阿修羅あしゅらの後ろを追う。


帰って行く阿修羅あしゅらとタナトスを高い所から眺める人、赤黒いローブをはおりフードを深く被っている悪魔、見えるのは思いっきり笑った口だけ。


「新入りか、ルシファー様に報告しなくちゃ、大事な妹さんは強くなりましたよ、って。

でも私も戦ってみたいなぁ、戦ったら怒られちゃうかな?怒られちゃうよね、俺の妹に何してるんだぁ!って、ルシファー様に怒られるのはちょっといやだなぁ、まぁ私は一緒にいた死神が殺せれば良いや、アハハハ!」


悪魔は座っていた所から後ろ向きで倒れると、黒い穴に吸い込まれるように消えて行った。















Spain city area


阿修羅あしゅらは日本支部時代から続けている任務後恒例の食べ歩き、タナトスはコーヒーが飲みたいと一緒に着いてきた、一人で回るのは寂しいが、よりによって相手がタナトスとなると話は別、むしろ一人にさせてほしいくらいだ。


「まだか?」

「まだよ、お菓子が見付からない」


コーヒーを飲みながら周りを見渡すタナトス、阿修羅あしゅらはフルにセンサーを使ってお菓子を探した、スペインのお菓子など知らない阿修羅あしゅらはしらみ潰しに探すしかない。


タナトスは2杯目のコーヒーを調達した頃、テーマパークでポップコーンを売っているようなボックスに、見たことのある星型の長いお菓子。


「そういえばチュロスってスペインのお菓子だな」

「そうなの!?」

「あぁ、チュロス食ってるククルカンにダグザがうんちくたれてたから確かだ」


阿修羅あしゅらは輝いた目でチュロスを持てるだけ持って袋に入れる、紙ナプキンを一掴みして胸ポケットに入れて、ナプキンを一枚取りチュロスの端に巻き付け、そこを持って大きく一口食べた。


「おいひぃ!」


タナトスは満面の笑みの阿修羅あしゅらを苦笑いを浮かべながら呆れて見た、阿修羅あしゅらは口にチュロスを頬張りながら、ナプキンを取ってチュロスに巻き付けてタナトスに差し出す。


「いふ?おいひいわひょ(いる?美味しいわよ)」

「……………貰っとく」


タナトスは手を使わずに阿修羅あしゅらの持ったチュロスをくわえた、そのままイモムシが葉っぱを食べるようにチュロスをついばむ。

阿修羅あしゅらはそんなタナトスが意外に可愛く見え、思わず笑みが溢れる。


「確かに美味い」

「でしょでしょ!任務は最悪につまんなかったけど、スペイン自体には大満足ね」


熱弁した後に再びチュロスを口に放り込む、タナトスはいつ調達したか分からない3杯目のコーヒーを飲みながら帰路を歩く。


阿修羅あしゅらの手に持った袋にいっぱいにあったチュロスは残り2本となった、タナトスはあり得ないという表情を浮かべてナプキンを巻いてチュロスを取る阿修羅あしゅら見た。


「大食いだな」

「うるさいわね、甘い物は別腹」

「任務とは大違いだな、戦闘神様」

「皮肉?」


阿修羅あしゅらはチュロスを一口食べながらタナトスを睨んだ、タナトスは笑いながら阿修羅あしゅらの胸ポケットからナプキンを取った。


「別腹でも太るぞ」


そう言って最後の一本のチュロスを口に放り込んだ、阿修羅あしゅらは最後の一本を食べられた悲しみで泣きそうな目でタナトスを見る、タナトスは一口かじると苦笑いを浮かべながらチュロスを差し出した。


「く、食うか?」


阿修羅あしゅらの顔はパァっと明るくなり、チュロスを一口で食べた、タナトスはそんな阿修羅あしゅらを見て自然と笑みが溢れる。


「戦闘神様も女の子なんだな」

「な!?」


阿修羅あしゅらは口を開いて顔を真っ赤にしながらタナトスを見た、タナトスは苦笑いを浮かべながら阿修羅あしゅらの顎を掴んで口を閉じる。


「女が大口開けるな」


阿修羅あしゅらは口を結ぶように口を閉じるとタナトスの前を歩いた、タナトスはクスクス笑いながら阿修羅あしゅらの背中を見て歩き続ける。

しかし阿修羅あしゅらのタナトスに対するイメージは大きく変わった、最初に警戒は無く、少なくとも皆が言ってる程酷い人物ではない、阿修羅あしゅらにとっては一緒にいても良いタイプだ。

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