05:エビルユニオン
Japan VCSO Vatican headquarters
阿修羅が神選10階になって3日が過ぎようとしていた。
神選10階は強いダークロードがいた場合のみ出動する、大量なダークロードの場合はソルジャーが出動して殲滅する、だからそれほど神選10階の出動は少ない。
阿修羅は暇な時は4階、つまり育成所女子寮にいるのが大半だ。
今日はヘリオスとモリガンは報告書に追われ、メルポメネとアストライアはソルジャーとの手合わせ、ククルカンとユピテルは遊びに行き、ダグザとアルテミスは任務、残った阿修羅はタナトスが近寄り難いので4階のシャーリの部屋にいる、シャーリとミルと阿修羅が入ると少し狭く感じる。
「はぁ、任務に行きたい」
「お姉様、任務任務って言ってるとタナトス様みたいになっちゃいますよ」
阿修羅は首を傾げた、あのめんどくさがり屋のタナトスが任務の事を口にするとは思えない。
「タナトス様は恐い」
「恐い?」
「お姉様も聞いた事あると思いますけど、タナトス様は見境無しに殺しをするんです、神選10階でもソルジャーでも戦いを邪魔すると平気で殺しちゃうんです、皮肉な意味も込めて死神って言う人もいるくらいなんですよ」
阿修羅は色々思い出した、ヘリオスが話した呪われ第10階の事、自己紹介の時に手合わせを頼むって言われた事。
「タナトス様は戦いが大好きなの、大好き過ぎてダークロードを斬りながら笑ってる、ビデオでタナトス様の戦ってるのを見たら怖くて鳥肌がたったの」
阿修羅は日本にいた時に聞いた神選10階の話を思い出した、霊を斬りながら笑っている神選10階、それは間違いなくタナトスの事だろう。
阿修羅が戦闘を楽しむ戦闘神なら、タナトスは殺しを楽しむ死神。
3人は阿修羅の日本での話等で盛り上がってる時、廊下が異様に慌ただしくなった、しかしそれを異変と捉えずに3人は話続ける。
しかし部屋の扉が開かれた事でシャーリとミルは凍りつく、扉が勢いよく開くとそこには青い長髪の男性が立っている。
「「タナトス様!?」」
「はぁ、何しに来たの?ここは女子寮よ」
「テメェを迎えに来たんだよ」
「迎え?」
タナトスは壁に寄りかかりながら阿修羅に何かを投げた、何かを受け取った阿修羅の後ろでシャーリとミルはビクビク震えている。
「テメェが電話を持ってねぇからわざわざ俺様が知らせに来たんだ、感謝しろ」
「何を知らせに?」
「これから任務だ」
3人は任務という言葉に顔が明るくなる、これが阿修羅の初任務となる。
「早く行くぞ」
「えっ?」
「今回のテメェのペアは俺様だ」
その言葉に阿修羅は頭を抱え、シャーリとミルは泣きそうな顔で阿修羅を見る。
「タナトス様、お姉様を殺さないで」
「ミル!何言ってるの?」
「ガキ、今ココが戦場だったらテメェの事を殺してた、ココが本部だった事に感謝するんだな」
「タナトス!」
阿修羅はキッとタナトスを睨む、タナトスは妖しい笑みで阿修羅を上から見る、後ろではシャーリとミルが深々とタナトスに頭を下げている。
「良い目で睨むじゃねぇか、でも早死にするなよ、第10階さん」
「大丈夫よ、間違ってもダークロードには殺されないから、ダークロードにはね」
「もう一度言う、早死にするなよ」
タナトスはそれだけ言うと部屋を出た、阿修羅も脅えたシャーリとミルを慰めて足早に部屋を出る。
Over the unknown
神選10階の移動はヘリコプターを使って移動する、軍事用に近いスペックのヘリコプターを何十も所有していて、神選10階もソルジャーもこのヘリコプターを使う。
阿修羅は窓から外を見ている、タナトスは椅子に座っていてもこれから始まる戦いへの興奮が薄れないらしい。
阿修羅は冷静を装っているが、初めての任務と久しぶりの運動にうずうずしている。
「任務は何を殺せば良いの?」
「エビルユニオンだ」
阿修羅の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ、タナトスはため息をついて足を組んだ。
「テメェは訓練の期間に何をしてた?」
「ひたすら戦闘」
「だからって1ヶ月くらいは基礎知識みたいなのを教えられるだろ?」
「そうなの?私は1ヶ月で訓練が終わったからそんな暇が無かったのね」
タナトスは右手で頬杖をつき、左手で紙コップに入ったコーヒーを持っていたが、コーヒーが手をすり抜け床に落ちる、そして阿修羅を真ん丸の目で見る、阿修羅は苦笑いを浮かべてタナトスを見た。
「じょ、冗談だろ?」
「嘘な訳ないでしょ」
「マジかよ?俺様でも3ヶ月だぞ、ってか最初の1ヶ月はディアンギットの鉄を得物に固定するので終るハズだぞ」
阿修羅は初めて戦った時からディアンギットの鉄は得物を成していた、それに日本支部の面々はそんな事を何も言わなかった、恐らく金色孔雀の人柄がそのまま支部の色として定着したのだろう。
「でもカミゥムマーンに名前とかを診断してもらう時に解放するじゃない」
「それは得物をしっかり見極める意味も込めてだ」
「そうなんだ、それでエビルユニオンって何?」
「エビルユニオンってのはダークロードがダークロードを取り込み力を増幅させて出来たダークロードだ、普通そんな事をすれば霊体が肉体から溢れだし体を保てなくなる、だが稀にだが取り込めるモノが出る、強さは単純に考えてレベル5の倍だ」
阿修羅は笑みを浮かべながら生唾を飲んだ、自分と同じようなオーラを感じたタナトスは不適な笑みを浮かべる。
「楽しみなのか?」
「久しぶりに運動が出来そうでね」
「流石戦闘神様だ」
阿修羅はタナトスを睨んだ、一番嫌いな事、戦うのは好きだがそれは体を動かせるから、必要だからダークロードを殺すだけで好んで殺してるわけでは無い、それ故に殺して楽しんでるように言われるのを阿修羅は嫌う。
「私は体を動かしたいだけ、別に殺さないで済むなら殺したくないのよ」
「過程なんてどうでもいいんだよ、問題は殺せるかどうかだろ?」
「貴方と私じゃ価値観が違うみたいね」
「そうみたいだな」
再び気まずい空気が流れる、他人との干渉を好まないタナトス、自分の意志を曲げない阿修羅、二人の相性は最悪に等しい。
「まぁ一つだけ同じ事がある」
「はぁ、あるわけ無いでしょ」
「今回の任務、俺様は楽しみでしょうがない、テメェもだろ」
阿修羅は悔しいが認めるしかない、‘戦う’という‘過程’があるから‘殺し’たという‘結果’がある、そして‘殺し’という‘結果’のためには‘戦う’という‘過程’が必要。
戦闘と死は表裏一体、お互いを認めようとせずとも同じ穴のむじな。
「まぁ今回の任務は思いっきり楽しもうぜ」
「はぁ、悔しいけど楽しむのよね、結局」
「認めろよ、兄弟」
阿修羅はタナトスを睨むとタナトスはケラケラと笑い始めた、阿修羅はため息をついて窓の外を見た、全てを否定しきれない阿修羅はタナトスを黙らせる手が無い。
タナトスは落としたコーヒーを片付けさせ、新しいコーヒーを頼む。
タナトスはコーヒーを一気に飲み干すと外を見た、雲一つなく地形が一目で分かる、阿修羅も同じモノを見ている。
「もうすぐ着く」
「着いたらどうするの?」
「直行する、向こうの人間が案内してくれるハズだ」
「その後は?」
「帰る」
「じゃあ少し寄り道しても良い?」
「何で?」
タナトスは若干不機嫌な顔で阿修羅を見る、阿修羅は任務後の事に意識がいっている。
「スイーツの食べ歩き」
「そんなに時間は取らないぞ」
「取ってもらえるだけでもありがたいわよ」
タナトスは鼻で笑うと再び外を見た、阿修羅は笑顔になりながらその地にあるであろうスイーツを想像して涎を溜める。