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42:帰還


Vatican VCSO headquarters


腕を組んでひたすら黒い穴が空いていた所を見る元帥、神選10階の面々が入って行ってからかなりの時間が過ぎた。

前のホーリナーラグナロクを体験している元帥は全滅も視野に入れている、それほど悪魔達は強力だからだ。


元帥は悪魔達が他のやり方でバチカンに攻めてくると思っていたが、怖いぐらいの静けさ、まるで、興味があるのはホーリナーだけと言わんばかりの静けさだ。







更に待っていると黒い穴が空く、その瞬間元帥と共に待機していた医療班の間にも緊張が走る。

ゆっくり、ゆっくりと得物のルドラシスを杖にしながら出て来たのはククルカンだった。

バチカンの地を踏み、自分が一番だと知ると、笑顔で元帥にVサインを送る。


「やったやった、うち一番」

「医療班、すぐにククルカンを治療室に―――――」

「待て待て、うちは皆を待つよ、ユピテルもまだだしね」

「そう?じゃあククルカンに応急処置してあげてよ」


すぐにククルカンに集まる医療班は、背中の切傷は大きいが、致命傷には到らない、だが体力をかなり消耗しているのは確かだ。


「相手は誰だったの?」

「あの超超ムカつく増殖女だよ」

「アスタロトか…………、殺したの?」


ククルカンは苦虫を噛み潰したような顔をして頷いた、人を殺して平気なわけがない、気分が悪いのは確かだ。



元帥がククルカンから報告を受けていると、新たな黒い穴が空いた、再び走る極度の緊張感、ククルカンはユピテルの名前を心の中で唱え続ける。

しかし、待てども待てども誰も出てこない、辺りに嫌な空気が立ち込める。


「ソルジャー達、お仕事だよ、あの中を見てきてくれない?」


一班が素早く穴の中へと入って行った、更に高まる緊張感、そして徐々に強まるホーリナーの死。

すぐに小隊長が出てきた、その顔は青ざめ、緊迫感が伝わる。


「げ、元帥!た、た、タナトス様が倒れています!」

「医療班!並びに救護班!今すぐにタナトスを治療室に連れて行って!」


極限まで高まった緊張感、あの“死神”ですら瀕死の状態、そこで初めて実感するこの戦いの酷さ。


「ねぇねぇ、元帥、タナトスは大丈夫なの?」

「さぁね、僕にもそれは分からないよ、でも、タナトスの常人離れした生命力なら…………、とか思っちゃうんだよね?」

「やだやだ、タナトスあんな奴だけど、うちらの仲間だもん、死んじゃ嫌だよ」

「今は信じてあげな」


運ばれていくタナトス、腹には穴が空いていて重体というのは一目瞭然、ソルジャー達はタナトスが死んだと思っている者もしばしば。



そんな緊張感の中、新たな穴が空く、そしてそこからは白いローブをはおった目付きのキツイ少年が出てきたが。


「痛い痛い痛い!」

「もう、うるさいなぁ」


元帥とククルカンの頭にはクエスチョンマークが浮かんでいる、あの呑気さ、そして見知らぬ少年、別の少年の声。

黒い穴からシヴァが飛び出す、そこには小さな少年、リバイアサンがくっついている、元帥は写真を見ていたのですぐにリバイアサンだと判断出来た、その後に続いてシヴァを風船のように持ち、ボロボロの白いローブを着た少年、そう、モリガンが出てきた。

シヴァとローブ、そこでやっと二人の思考はモリガンという答えに行き着く。


「もしかして、モリガンかな?」

「そうだよ、それしかないだろ?」

「あり得ないあり得ない!モリガンがこんな可愛い男の子なわけないもん!」

「それ、凄い失礼だよ」


モリガンは明らかな不満を巻き散らす。


「それで、何でリバイアサンが?」

「あぁコレ?」

「コレじゃないよぉ!早く下ろせって!」

「うるさいなぁ、コレは神になる見込みがあるから連れて来た、ダグザなら何とか出来るんじゃないかな?とね」

「まぁ良いや、リバイアサン、後で色々と話を聞かしてもらうから」

「痛い事するなよ?」

「したらゴメンね」


嫌だとギャーギャー騒ぐリバイアサン、モリガンは顔をしかめながら耳を塞いだ。


「本当にうるさいなぁ」


モリガンはシヴァをしまった、それにより地面に落ちるリバイアサン。


「痛いなぁ、もっと優しくしてよぉ」


モリガンはムスッとした顔でその場に座る、リバイアサンはギャーギャー騒いでモリガンの不機嫌に拍車をかけている。



暫くするとまた嫌な空気が流れる、その空気、もうそれが何の合図かは言わずとも分かる。

宙に黒い穴が空く、今回は誰が帰って来るか、もしくはタナトスのように瀕死の状態か、それは定かではない。

アルテミスを抱えながら出てきたのはダグザだった、ククルカンの顔が明るくなるが、後ろからはまだ黒いローブを着ている祝融が来た。


「医療班、アルテミスを連れて行け」

「アタイは大丈夫だよ、それより阿修羅とヘリオスは?」


全員が顔を伏せた、その緊迫した空気を薙払うようにリバイアサン。

リバイアサンは祝融の周り、主に左腕にあるディアンギットの腕輪を見回す。


「ずるい!何で波旬だけ神に戻ってるの!?」


その瞬間元帥とモリガンの表情が変わった、そう、ダグザは神と悪魔の謎をまた一つ解決したからだ。


「うるさいネ、お前黙るヨ」

「相変わらず酷い事言うなぁ、僕だって傷付くんだよ」

「それよりダグザ、どうやってそいつを神に戻したんだい?コレも戻してやってくれよ」


ダグザはリバイアサンを見る、リバイアサンは期待に満ち溢れた目でダグザを見る、ダグザはため息と共にリバイアサンを見据えた。


「神が神を殺せば悪魔になる、逆もしかり」

「そんな簡単な事だったんだぁ」

「ふっ、神も悪魔も単純だね」

「何だよぉ!僕にも分かるように説明しろ」


モリガンは軽くリバイアサンを睨むように顔を傾けた、目で訴えている、

「黙れ」と。


「君みたいな馬鹿にはこう言えば分かるかな?…………さっきまで仲間だった奴を殺すんだよ」


モリガンのそのドスの効いた声にリバイアサンは言葉を呑んでしまった、そんな事が簡単に出来るとは思えない、まだ幼いリバイアサンには酷すぎる。



ダグザと元帥が話し合っている、アルテミスは阿修羅が帰るのを待つとココで処置を受けている。

そして黒い穴が開く、未だに慣れないこの緊張感、そして足が覗く、そこには黒いローブが、ダグザとモリガンは瞬時に腕輪に触れて得物を構えた。

出てきたのはルシファー、しかしおかしい、ルシファーは両脇にボロボロになったヘリオスと阿修羅を抱えている。


「う〜ん、何かややこしいなぁ」

「確かにね」

「阿修羅が神に戻っている、そしてルシファーがいるのに二人を連れて来た」

「コイツと妹の手当を頼む」


全員が驚いた表情をした。


「また面白い仮説だ、貴様と阿修羅が兄妹だと?」

「その話は後だ、早くしろ」

「それはさせませんよ」


ルシファーの後ろにはメルポメネがいる、そして棒状になったラフスキンは阿修羅に突き付けられている、黒い穴とは違う、辺りが一瞬で凍りつく。


「それに貴方、よくもまぁ顔を出せましたね」

「それより貴様、堕ちたか、誰を殺した?」


ダグザの問い、それにより全員が左腕を見る、そこには神の腕輪ではなく悪魔の腕輪がある、そして誰よりもククルカンの表情が曇った。

悪魔になるには神を殺す事、そして今帰って来てないのはユピテルとアストライア。


「生き残りはコレで全てか」

「何で何で!?どっちか生きてるかもしれないじゃん!」

「やっぱり馬鹿だね、ルシファーがいる時点で誰か殺されてるんだよ、じゃなきゃ阿修羅とヘリオスの戦いを邪魔出来ないだろ?」


ククルカンはグラッと揺れるとそのまま倒れた。


「あぁあ、誰かククルカンちゃんを運んであげてぇ」

「二人して弱いですね」

「貴様がユピテルを殺したのか?」

「はい、私に刃を向けたので返したまでです。

悪魔を助けようとしたんですよ?私は間違っていません」


ダグザとモリガンはクスリと笑った、そう、そうなるとダグザとモリガンも間違っている事になっている。


「モリガン、俺達は間違っているか?」

「いや、使えるモノは使わないとね、むしろ仲間を殺したのに正当性を主張する方が間違ってるんじゃないのかい?」


メルポメネの笑顔が崩れる、変わったのは腕輪だけじゃない、神選10階のメルポメネに対する態度も変わっている、最悪の場合、敵。


「でもココにいるルシファーと阿修羅、コレは敵です!」

「いやぁ、それがルシファーには敵意がないし阿修羅ちゃんは何故だか神に戻ってるんだよね、敵意が無いのは敵じゃないでしょ?」


元帥の一言でメルポメネの顔が引き吊った、そう、もうココに自分の居場所はない、自分の理解者であるアストライアももういない。

メルポメネはいつの間にかラフスキンを振り上げていた、その先には阿修羅がいる、全員の顔が焦りの表情に変わる。


「私は正義です!私の刃は間違っていません」


メルポメネの振り下ろしたラフスキンは宙を舞う、自分の肘から先を残したまま。


「えっ?」

「妹に手を出すな、誰であろうと容赦はしない」


そこにはいつの間にか髭切を振っていたルシファーがいる、ルシファーは瞬時にラフスキンを弾くのは危険と判断し、メルポメネの腕を斬り落とした。


「まだ、まだ終らせません!」


残った左手をラフスキンの手袋のみで阿修羅の心臓を貫こうとした。


「分からないのか、俺の言っている事が」


次に飛んだのはメルポメネの首だった、ポーカーフェイスのルシファーが怒りの表情を浮かべる。

そして徐々に変わる腕輪、それはルシファーが帝釈天になった証、神に戻った証。


「はは、俺様がいない間にゴタゴタしやがって」

「タナトス様!まだ安静にしててください!」


医療班を振り払いながら現れたタナトス、倒れているヘリオスと阿修羅を見て悲しい表情を浮かべる。


「俺様よりも、この二人をどうにかしろ」

「しかし――――」

「早くしろ」


“死神”の前では医者と患者の法則は完全に無視された。

阿修羅とヘリオスは直ぐ様運ばれ、メルポメネの遺体の処理も迅速に行われた。


「ルシファーまでいるとは、何が起きてるのか理解出来ねぇじゃねぇか」

「ルシファーではない、護法神の帝釈天だ」

「悪い悪い、じゃあ帝釈天さんよぉ、阿修羅をよくも傷付けてくれたなぁ」


タナトスのスケイルがいつの間にかルシファーの首を捉えていた、しかしルシファーの髭切もタナトスの首元に突き付けられている。


「貴様にとやかく言われる筋合いはない」

「あぁ?テメェ、今ココで殺り合ってもいいんだぞ?」

「死神も弱っていたら意味がない、死ぬ神か?」

「なら殺りあ――――」

「終了だよ!」


その瞬間誰も確認出来ないようなスピードで二人は紐で縛られた、二人は背中合わせで縛られている、その紐を持っているのは金色の長い髪の毛、そして真っ白なライダースジャケットの襟元に小さく詩集、下はレザーのスキニーを履きこなした寡黙な男性。


「テメェ誰だ!?」

「このような紐」


ルシファーは落とした髭切を腕輪に触れずに顕現する、そして紐にあてがうが一向に切れる気配はない。


「黙、戦争終了、不用意戦闘禁止」


ライダースの男性は目の威圧感だけでタナトス達を黙らせる程の気迫、その瞳の奥にある覚悟は並々ならぬものがある。


「ランギが得物を使うのも久しぶりに見たなぁ」

「はははは!元気なのは良いことじゃねぇか!」

「毘沙門天、笑止、無駄排除、死者最低限」

「ランギだと?」


ダグザが反応する、元帥といつの間にか来ていた毘沙門天、そしてランギと呼ばれた男性。


「まさかあのランギだと?」

「明答、我天空神ランギ也」

「過去最強と呼び声が高い神選10階が集まるなんてね、しかも阿修羅のママの阿修羅あすらを抜いた4強、ふふ、これじゃあいくらタナトスとルシファーでも勝てないよ」

「帝釈天だ」


当時のホーリナーラグナロクはココにいる3人に阿修羅あすらを入れた4人が殆ど倒したという、しかも今いるランギは対大量戦術に関しては最強と言われている、神選10階クラスの悪魔を一人で5人倒したのでも有名である。


「貴様らが何故ここにいる?」

「問題解決、帝釈天聴取」

「そういう事か、そうなると“拷問のミトラ”の出番か?」

「今は元帥だよ、それに古い事を良く知ってるんだね」

「俺が何も知らないとでも思ったのか?拷問のミトラ、鉄壁の毘沙門天、量殺のランギ、貴様らの事を潰すタメに俺はココまで生きてきた」

「俺もお前の事は良く知ってるぜ!鼻垂れの帝釈天、いや、マザコンの帝釈天だったか!?」

「コラプス【崩壊】」


ランギの紐を壊して立ち上がる帝釈天、そして髭切を抜いた、ランギが再び取り抑えようとするが毘沙門天がそれを制止する。


「人生初の親子喧嘩と行こうじゃねぇか!」

「アレスト【捕縛】」


毘沙門天と帝釈天は硬直して倒れる、二人とも騒ぐだけで全く動けない、それをしたのは元帥。


「もう、いざこざは辞めてよね、ランギ、二人を持って行ってぇ」

「承知」


二人を紐で担ぐとランギと元帥は党の中へ入って行った、ダグザ、タナトス、モリガンは動けずにいた、元帥の見えない強さに気付いたからだ。


「あり得ないね、まさかそんな事があるなんて」

「ダグザ、アレはマジか?」

「あぁ、恐らく最強だったのは阿修羅あすらなんかじゃない、本当に最強なのはあの元帥だ、奴は止めに入ろうとした俺達に腕輪に触らせる事すらさせなかった、あの距離から、しかも恐らく超高速で得物を出し入れして俺達の手を一瞬で弾いた」


3人の手の甲は打ち身のようになっている、3人と元帥の距離はそれぞれ約5m、しかも3人は別々の位置にいる、それ全て一瞬で攻撃した。

その得物の実体も、動きも全て悟られずにこの3人に手を出すのなど普通なら出来ない、しかしあの威圧感と殺気は元帥のもの、それが最強でないのなら、恐らく他も化物クラスだ。








あと一話で最終回です。

次回作に向けて感想等を聞かせてもらえるとありがたいです。

次回作は今回出てきた元帥や元老の2人、その3人を少し絡めていこうと思ってます。

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