04:女子寮
Vatican VCSO headquarters
神選10階の居住区は居住塔の最上階にある、居住塔にはシャワーや食堂、そしてソルジャー、つまり天使達の居住区もある。
エレベーターから一直線に伸びる通路、右側から奥にかけてが第1〜5階、左側の奥からエレベーター側にかけて第6〜10階の部屋がある。
阿修羅の部屋はエレベーターを降りてすぐ左側、ヘリオスが貰って来た鍵を使い扉を開けると阿修羅叫んだ。
「広い!!」
「そんな驚く事ッスか?」
「驚く事よ、日本の部屋なんて6畳1間」
この部屋はまるでホテルのスウィートルームのような内装に広さ、阿修羅は寝室に行くとベッドの大きさにビックリする、恐らくクイーンサイズくらいはあるであろう大きさ、軽く腰掛けるとぐっと沈む。
「これが私だけの部屋?」
「そうッスよ、何か要望があれば一日で変えてくれるから何でも言った方が良いッスよ」
「でも呪われてるのよね?」
阿修羅の一言でヘリオスの笑顔が引き吊る、呪われているとはモリガンが会議室を出る前に行った一言。
「まぁたまたまッスよ」
「本当に?」
「そうッスよ、悪魔に堕ちたり、ダークロードに体をのっとられてタナトスに殺されたり、山の任務で足を滑らして死んだり、ダークロードに人質にされてタナトスに殺されたり、戦いの毎日で気が狂って自殺したり、戦いの邪魔をしてタナトスに殺されたり、そんか事くらいだから気にしなくて大丈夫ッスよ」
阿修羅は力の抜けた笑みのまま固まった、確かに呪われている、しかもタナトスを中心に2回に1回くらいのペースで殺されてる。
「それがどれくらいの内に?」
「2、3年くらい前じゃないッスか?呪われ始めたのは今のルシファーが日本にいた頃に悪魔に堕ちたのから始まったんスよ」
現ルシファー、それは阿修羅にディアンギットの腕輪の素を渡した者、ホーリナーだった頃の名前は帝釈天。
「思い出した!ヘリオス、貴方日本に来た事あるでしょ?」
「そうみたいッスね」
阿修羅は気が抜けた、日本支部の歴史に間違いなく刻まれた鬼との戦い、そしてその時に現れたルシファーと神選10階、全てが規格外の出来事だった。
「ヘリオスが来たお陰で今の私がいる、何も覚えて無いの?」
「そんな任務の一つ一つなんて覚えてられないッスよ」
「あのルシファーと戦ったのに」
ヘリオスは明らかに驚いている、そして何か考え事をするように少ない記憶の扉を片っ端から開けている、頭や体をよじりながら考えるが出てくるのは汗だけ。
「あぁ!忘れた!」
「はぁ、あり得ない」
「しょうがないじゃないッスか、小さい事はいちいち気にしないたちなんスから」
「私とヘリオスが同じとは思えない」
「それ、俺が歳より馬鹿って言いたいんスか?」
ヘリオスは顔を膨らましてあぐらをかいて床に座った、阿修羅は膨らんだヘリオスを見てプッと噴いてしまった。
「笑った!」
「だってその顔」
「戦闘神も笑うんスね」
「そりゃ笑うわよ、一応人間なんだから」
「戦闘神なのにこんなに可愛い女の子だし、冷たい人だと思ったら笑うと可愛いし、阿修羅って可愛いッスね」
満面の笑みで阿修羅に可愛いと言うヘリオス、阿修羅は呆れてため息をついてありがとうと一言言っておいた。
とても2年前に助けに来たあのヘリオスとは思えない、今よりむしろ2年前の方がしっかりしていたと思えるくらいだ。
「はぁ、人って変わるのね」
「またため息、阿修羅はため息が多すぎッス、不幸になるッスよ」
阿修羅はまだホーリナーじゃない時に同じ事を言われたのを思い出した、その古い親友を思い出して少し心が締め付けられた。
阿修羅が沈んでいるとヘリオスは慌て始めた、恐らく‘不幸’という言葉が阿修羅を傷付けたのだと思ったのだろう。
「わ、悪かったッス、不幸なんて言わないッスから、ね?」
「別にヘリオスの事を考えてた訳じゃないから」
「じゃあどうしたんスか?」
「過去に浸ってただけ」
ヘリオスは分からないと頭を掻いて口を尖らせた、そんなヘリオスを横切って阿修羅は部屋の入口で振り返る。
「もっと案内して」
「OKッスよ!」
ヘリオスは跳ぶように立ち上がると、阿修羅を追い越して玄関に行った、そこで満面の笑みで手招きをするヘリオス、阿修羅はため息と共にヘリオス玄関へ歩いて行った。
「何処に行きたいッスか?」
「4階」
「何でまた4階なんか?」
「何となく、女の勘ってやつ?」
「まぁ良いッスけどあんまりオススメ出来ないッスよ」
「別に良いのよ、4階が私を呼んでるんだから」
阿修羅は玄関を出てすぐ右側にあるエレベーターのボタンを押した、ヘリオスは慌てて部屋の鍵を閉めると既に来ているエレベーターに乗り込み、扉を閉じた。
エレベーターはあっという間に4階に着くと扉が開く、廊下自体は神選10階のフロアと変わらないが、扉の数が圧倒的に違う。
最上階の神選10階のフロアは10室、しかし4階は40室もある。
「凄い、何ココ?」
「育成所の生徒の女子寮ッスよ」
「あ、ヘリオスは入って良いの?」
「い、一応ッスね」
ヘリオスは頬を掻きながら顔を真っ赤にした、阿修羅はぼーっと見て回っていると一つの扉が開いた、そこからはアストライアよりも幼い少女が出てきた。
「こんにちは」
阿修羅は笑顔で挨拶すると少女は不思議そうな顔で阿修羅を見た。
「誰?」
「そっか、まだ私は新人だから分からないのか、私は新しく第10階になった戦闘神の阿修羅よ、よろしくね」
子供が大好きな阿修羅は笑顔で目線を合わせて手を差し出した、そんな阿修羅とは裏腹に少女は慌てて一歩下がると片膝を着いて下を向いてしまった。
「す、すみません!神選10階のお方だとは知らずにご無礼を、お許し下さい!」
「はぁ、何も無礼な事してないよ」
阿修羅はそっと少女の頭に手を置くと、少女はビクッと体を震わせて固まってしまった。
そして少女の大きな声で部屋にいた者達がぞろぞろと出てきた、全員が女の子でいずらくなったヘリオスは阿修羅にバレないようにエレベーターに乗り込んだ。
「ミル、どうしたの?」
阿修羅より少し年下くらいの女の子が、阿修羅の前で片膝を着いてる少女の肩を叩いた。
「シャーリさん!こ、このお、お方が………」
「どうもよろしくね、シャーリちゃん」
阿修羅が笑顔で手を差し出すとシャーリは不思議そうな顔をして阿修羅を見る。
「誰ですか?育成所の生徒以外は立ち入り禁止ですよ」
「そうなの!?」
阿修羅は驚きヘリオスの姿を捜すがヘリオスは既に身をくらましていた。
「はぁ、ヘリオスが逃げた」
「あ、貴方!ヘリオス様にそのような暴言を吐いて、ただで済むと思ってるの!?」
「もしかしてシャーリーちゃんはヘリオスのファンとか?」
普通の女の子との会話を若干楽しんでいて大事な事を忘れていた、ヘリオスと最初にエレベーターに乗った時にヘリオスが言った言葉を。
「ふぁ、ファンな訳無いでしょ!恐れ多くてファンなんて………」
「シャーリさん―――」
「ミルは黙ってて!貴方、所属と名前を名乗りなさい!私は育成所女子長のシャーリです」
「はぁ、怒らないでよ、所属は神選10階の第10階になるのかな?名前は阿修羅よ」
シャーリの顔は怒りに歪んだ、顔は耳まで真っ赤になり握った拳は震えている。
「嘘も甚だしい!そんな嘘が通用すると思ってるの!?」
「はぁ、これで信じて貰える?」
阿修羅はディアンギットの腕輪に彫られた自分の番号をシャーリに見せた、シャーリは徐々に顔の力が抜け、そして目からはポロポロと涙が流れ落ちる、シャーリは力無く地面にへたりこむと手の甲で涙を拭う。
阿修羅は可哀想になり両膝を着いてシャーリの顔を覗き込んだ、その時に阿修羅は全員が片膝を着いてる事に気が付いた。
「も、申し訳ありません!大変ご無礼を、私の犯したこの大罪、死でも何でも受け入れます」
「はぁ、大袈裟な」
「大袈裟じゃありません!神選10階に新しく成られた阿修羅様とは知らず、数々のご無礼に加え暴言、そして侮辱の数々、お詫びしてもしきれません!」
阿修羅は泣いてるシャーリをそっと抱き寄せると、軽く背中を叩いてあげた、周りにいる者はおろか、抱き締められているシャーリも完全に固まってしまった。
「私が神様ならまだしもただの人間よ、貴方達と同じ、それなのにちょっと注意したからって死ぬ事ないじゃない」
シャーリはそっと阿修羅から離れると上目使いで阿修羅を見る、阿修羅は満面の笑みでシャーリに応えるとシャーリは涙が流れた痕をごしごし拭いた。
「しかし何かお詫びをしなくては、私達を生かすも殺すも阿修羅さま次第、私達にとっては神様同然、ですから何か罰を………」
阿修羅は正座して顎に手を当てて考えた、そもそもそんな偉くなったという自覚の無い阿修羅にそんな事をする勇気もない、しかしシャーリはすがりつくような真剣な眼差し。
「はぁ、じゃあ、これは連帯責任ね」
全員が泣きそうな目で阿修羅の事を見つめる、10歳程の少女から阿修羅と同じくらいまでの女の子まで。
「私を神様からお友達に格下げして」
「し、しかし―――」
「謙譲語も禁止、これから私達と貴方達はお友達、良いでしょ?」
シャーリはうつ向き考えている、そんなシャーリに全ての視線が集まる、しかしミルだけは阿修羅をジッと見ている、阿修羅はミルにそっと微笑むとミルはパァと笑顔になった。
「よろしくね、ミルちゃん」
「本当に良いの?」
「当たり前でしょ、‘阿修羅様’以外なら自由に呼んで」
「……………お姉様!」
ミルがそう叫ぶと青ざめた女子生徒達が一斉にミルを見た、シャーリは口を開けたままあり得ないくらい驚いた顔をしている。
「ミル、流石にそれは………」
「良いわよ」
阿修羅は女子校時代に戻ったような気がして嬉しかった、初等部の児童は阿修羅の事を‘お姉ちゃん’と呼ぶ生徒がいたからだ、丁度ミルくらいの子だった。
「シャーリは?」
シャーリは耳を真っ赤にして阿修羅を上目使いで見た、少し大人っぽい阿修羅を見て更に赤くなる。
「私も、お、お姉様で………」
「良いわよ、皆も自由に呼んで」
その後所々で‘お姉様’という言葉が飛び交う、まだ対等な立場では無いものの、神様扱いされるよりはましと妥協した。
「シャーリはいくつなの?」
「18歳です、来年から天使として戦いに参加します」
「何だ、私も18よ、少し子供っぽいのね」
周りから小さな声でクスクスと笑う声が聞こえる、シャーリはキッと阿修羅を見ると頬が膨らんだ。
「酷いです、私気にしてるのに、そりゃ私はガキっぽくて弱いですよ、お姉様とは似ても似つかないですけど、いつかは神選10階の皆さんが背中を預けられるくらいになるんですから」
阿修羅はそこまで言っていないと思いながら苦笑いを浮かべた、廊下にいる者、そして扉から顔を出して覗いてる者、色々な者が阿修羅を見ている。
「でも珍しいですね、神選10階の方がココに来られるだけでも珍しいのに、お友達なんて…………」
「神選10階って変な人ばっかりでしょ、なんかあんなのとばっかりいたらおかしくなりそうでね、丁度まともな友達が欲しかったの」
阿修羅に人の事は言えないが、それよりも変わり者ばかりの集団、ある意味近寄り難い存在だ。
「お姉様は変じゃない」
「はぁ、愚問ね、ミル」
「確かにその格好は普通じゃないですよね」
「あっ、そういう事言う?子供っぽいのにそういう事言うんだ」
阿修羅はシャーリの頬をつねって引っ張った、シャーリは阿修羅の手の甲を掴みながら涙を浮かべた。
「いふぁい!いふぁいふぇふ(痛い!痛いです)」
阿修羅は思いっきり引っ張ってパチンと離した、真っ赤になった頬を擦りながらうるんだ目で阿修羅を睨んだ。
「酷いですぅ」
「プッ」
阿修羅はシャーリの顔を見て笑うと、シャーリも怒りながらも徐々に笑みになり、笑い始めた。