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39:愛、故に………


Unknown


黒いローブをはおったアスラの後ろを黙々と着いて行くヘリオス、そこは下は砂利、そして周りは境内やらがある寺。

ヘリオスは辺りを見回しながら歩いていると、前でアスラが止まったのを確認して自分も止まる、レーヴァテインを握る手に力が入ったのが自分でも理解出来た。

アスラはゆっくりと振り返る、その表情は冷淡そのもの。


「ヘリオス、ここ、覚えてない?」

「ココッスか?日本支部じゃないし、双子を助けに入った所じゃないし、………どこッスか?」


アスラは悲しい顔でため息を吐いた、そう、ココはヘリオスとアスラにとっては何よりも大切な場所。


「ココは、私と貴方が初めて会った場所、ルシファーに殺されそうになってた私達を、貴方が助けてくれた場所なのよ」


2年前の日本支部で起きた鬼とホーリナーの戦い、鬼に勝った日本支部だが、ルシファーの奇襲により死にかけていたアスラ達を救ったのがヘリオスだった。

ヘリオスにはほんの些細な事でも、アスラにとっては何よりも大切な日だった、そしてVCSOにとっては壊滅を暗示させる日。


「阿修羅、本当に戦うんスか?」

「貴方次第よ、私と一緒に逃げよう」

「俺は皆を裏切れないッスよ、阿修羅の事は大事ッスよ!でも、タナトスやモリガン、ユピテルにククルカン、ダグザにアルテミス、メルポメネとアストライア、皆仲間じゃないッスか!だから阿修羅、戻って来るんスよ、皆で頼めば何とかなるはずッスよ」


必死にアスラを説得しようとするヘリオス、しかしアスラの顔は曇る一方、徐々に表情は悲しみに染まる。


「ヘリオスは私より神選10階を取るの?それじゃあ私一人で馬鹿みたいじゃない」

「それは………」

「貴方を助けるタメに私は悪魔になったのよ!?それを貴方は踏みにじるつもりなの!?」

「それは阿修羅が勝手やった事じゃないッスか!」


ヘリオスは慌てて口を押さえるがアスラの顔から絶望の色は消えない、そしてアスラの目からは涙が溢れ落ちる。


「誰も私の事を分かってくれない………」

「阿修羅、これは―――」

「うるさい!結局ヘリオスも私の敵なんだね、私の事を分かってくれない」

「分かってるッスよ、阿修羅は俺のためを思って―――」

「嘘吐き!もう何も聞きたくない!」


アスラは腕輪に触れた、得物は長刀、名は夜叉丸。


「力ずくでも連れて行く、ヘリオスは私だけのものなんだから」

「阿修羅………」

「殺す気で来なさい、私も貴方を殺す気でいくから」


アスラは技名を言わないベロシティ【光速】でヘリオスに近付く、しかし、横薙に振った夜叉丸は空を斬った。

アスラは後ろを向くとそこにはヘリオスが立っていた、アスラは慌ててヘリオスから間合いを取るが、ヘリオスが常軌を逸したスピードで近付いて来た、それはアスラの技名を言わないベロシティ【光速】と同じ。

ヘリオスはアスラの手元を蹴り飛ばし、夜叉丸をアスラの手から離すとアスラを睨んだ。


「何で、ヘリオスがそれを?」

「ナメないでほしいッスね、コレでも阿修羅より神選10階にいたのは長いんスよ?これくらい出来るに決まってるじゃないッスか、自分だけ特別だと思ったら大間違いッスよ」


アスラは再び素早い動きで間合いを取ると夜叉丸を顕現した、片手で握るとヘリオスを睨む、ヘリオスの顔に笑顔はなく、怒りと言うよりは悲しみに近い表情を浮かべている。


アスラは軽く沈むと、一瞬でヘリオスとの間合いを詰めた、しかし、ヘリオスは一瞬でアスラの後ろに回り込むが、アスラは振り向き様に上段の蹴りを放つ、ヘリオスは体を後ろに反らせて避けるとレーヴァテインを横薙に振る、それをアスラが受け太刀すると、二人はピタリと止まった。


「何で俺達が戦わなきゃいけないんスか?」

「貴方が私と一緒に来てくれるなら、私は貴方とは戦わない」

「それは出来ないッスよ」

「何で?何でヘリオスは私よりも神選10階を選ぶの?」

「阿修羅を捨てたわけじゃないッスよ、ただ、阿修羅のやり方は間違ってる、だから俺は阿修羅を正気に戻して連れ帰るんスよ」

「私が悪魔にならなかったら貴方は死んだままだったのよ?私を悪魔にしたのはヘリオス、貴方なのよ」


ヘリオスの手元が動揺により若干ぶれた、それをアスラが見逃すはずもなく、レーヴァテインを弾くと夜叉丸を横薙に振る、ヘリオスは一瞬の出来事に戸惑ってしまい、若干の反応が遅れた、それにより間合いの大きい夜叉丸に腹を切り裂かれてしまった。

ヘリオスは間合いを取り、額に脂汗を溜めながら片膝をついてアスラを見た、アスラは夜叉丸の切っ先をヘリオスの額ギリギリで止める。


「それが事実よ、だから私と一緒に来て償いなさい」

「俺はそんな事頼んでないッスよ」

「じゃあ貴方は死んだままでも良かったの?」

「それは………………」

「私は貴方の何なの?ただの仲間?それとも………」


アスラは目を伏せる、ヘリオスは夜叉丸とアスラを同時に睨み、アスラの目を見ようとする。


「ただの仲間をココまで説得するわけないじゃないッスか、タナトスとかだったら簡単に殺してるッスよ

俺は阿修羅のためなら何でもするッスよ、でも、それが阿修羅を助ける事になるならの話ッスけどね」

「今の私は救いようがないって事?」

「だから俺が救うんスよ」


ヘリオスはアスラに見えないように腕輪に触れてレーヴァテインを顕現する。


「インフェルノ【烈火】!」


レーヴァテイン、そしてヘリオスを包むように燃え上がる炎、アスラは一旦間合いを取るが、ヘリオスがレーヴァテインを振ると竜巻状になった炎がアスラに襲う。

アスラは夜叉丸を振って何とか炎の勢いを殺すが、既に目の前にヘリオスはいない。

炎が燃えるような音で上を見ると、炎の上昇気流を利用してあり得ない高さまでジャンプしたヘリオスがいる。


「貴方も本気って事ね」


その瞬間アスラの髪の毛が朱に染まり、瞳は縦に割れて赤くなる、それは巫女の力、アスラの全身全霊。

ヘリオスが着地の寸前で振り下ろしたレーヴァテインは夜叉丸に受けられる、しかし、炎は凄まじい勢いで渦を巻き、辺り一帯を全て呑み込んだ。

周りにある建物や植物、それら全てが燃えている、だが一番近くで呑まれたハズのアスラは無傷でレーヴァテインを受けている。


「コレでも太陽神でもあるのよ、貴方の炎の中に入れる唯一のホーリナーって事を忘れないで」

「そんなの分かってるッスよ、目的は阿修羅を燃やす事じゃなくて、周りを燃やす事ッスよ」


ヘリオスはバックステップで間合いを取ろうとするが踏み込みが甘い、夜叉丸の間合いから脱する事ができなかった。


「はぁ、コレで終わりね」


アスラは夜叉丸を振るとヘリオスを両断した、…………ハズだがヘリオスは揺らいで消えてしまった。


「俺がコレくらいで死ぬわけないじゃないッスか」


アスラは声の位置からヘリオスの位置を把握して、ヘリオスの斬撃を何とか柄で弾く。

振り向いた時にはヘリオスは揺らいでいて、斬っても手応えがなく消えてしまう。


「阿修羅、弱いッスね」


アスラが気付いた時には首元にレーヴァテインがある、ヘリオスは後ろで冷たい目でアスラの背中を見ている。


「何よその力、何で私の前で見せなかったの?」

「出し惜しみしてたわけじゃないッスよ、ただ、完成した時に日本支部の任務じゃないッスか、あんな所でコレを使ったら日本支部が燃えちゃうッスよ」

「じゃあココは燃えても良いって言うの?」

「だってココは偽物の世界じゃないッスか」


アスラは慌ててヘリオスを横目で見る、完璧に創られた世界のはずだった、それにココをヘリオスは憶えていない。

歪な場所はないはず、自分は何もミスをしていないはず、アスラの動揺は隠しきれない。


「こんな完璧な世界ならダグザでも騙せたんだろうッスね」

「なら、何で貴方なんかに」

「俺だからッスよ」

「ヘリオスだから?」

「建物の燃え方ッスよ、阿修羅には分かんないと思うんスけど、インフェルノ【烈火】の火力は並の鉄でも簡単に溶けちゃうんスよね。

でもあの建物、木の上に古くて乾燥してるのに燃えるのが遅かった、あんな燃え方をするのは生きてる木だけッスよ、生きてる木は水が通ってるから燃えにくいんスよね」

「何でそんな無駄な事には気づくのよ?」

「太陽ってのは自然界の神様ッスよ、自然の事なら全部手に取るように分かるんすよね。

それに全てを包み込む大きさ、その点阿修羅は太陽神なんて名ばかりでダメダメじゃないッスか」

「太陽は全てを燃やす冷徹なものよ、それに―――」


アスラは一閃と化してヘリオスとの間合いを取る、そう、それは紛れもなくベロシティ【光速】、巫女の力を使ったから成し得る事。


「私は戦闘神よ」

「阿修羅はやっぱり戦闘神なんスね、少しでも太陽神らしさがあればと思ったんスけど」


ヘリオスはアスラに向かって走り出す、しかしアスラは一閃となってヘリオスの横を通り過ぎようとしたが…………


「今の阿修羅は戦いに溺れたただの悪魔ッスよ」


ヘリオスはその一閃となったアスラの腕を掴んで止めた、アスラは明らかに動揺している、ベロシティ【光速】が止められるなどあり得ない、がしかし、ヘリオスはいとも簡単に止めている。


「今の阿修羅の動きは分かりやすいんスよ、何を焦ってるのか知らないッスけど、何もかもが阿修羅らしくないッスよ」

「貴方に何が分かるって言うの!?」


アスラはヘリオスの手を振りほどくと、再び一閃となってヘリオスとの間合いを取った。


「ベロシティ【光速】」


しかし、ヘリオスはそれを追う、アスラが止まった時にはヘリオスは目の前にいた。


「何なのよ!?何で貴方なんかに読まれるの?」

「何も考えないで戦ってるからッスよ、いつもの阿修羅ならそんなイライラした表情を浮かべない」

「貴方がいけないのよ、私の全てを無駄にするから」

「全てを無駄にしたのは阿修羅じゃないッスか、俺とタナトスが必死に阿修羅を守ろうとしたのに、阿修羅は悪魔になっちゃったじゃないッスか、勝手に裏切ったクセに被害者を気取るのは辞めるッスよ」


ヘリオスがアスラに向けるキツイ口調、アスラの知らないヘリオスがそこにはいる。

アスラは絶望にすら近い感情でめまいがしてきた。


「ヘリオス、私を見捨てないで、分かるでしょ?私には貴方が必要なの」

「なら神に戻るんスよ、こんなの間違っ―――」

「やはり愚かな妹だ」


ヘリオスを遮って空から髭切を振り上げたルシファーが降りて来た、ルシファーは迷わずヘリオスに髭切を振り下ろす、ヘリオスは受け太刀するとルシファーを睨んだ。


「ルシファー!何で貴方がココにいるの!?邪魔しないで!」

「愚かな妹よ、コイツは俺が殺す」

「何でお前がこんな所にいるんスか?9対9だから誰かと戦ってるはずッスよ?」


ルシファーは高々と笑い始める、そう、アスラは気付いていた、ルシファーがココにいるという事は、神選10階の誰かが殺されたという事。


「あぁ、彼女は弱かった、幼いながらに頑張ったのかもしれないが、俺の前では無力だ」

「お、幼いって、貴方もしかして………」

「アストライアと言ったかな?俺に傷付けたのは良いが、まだまだ力不足だ」

「あ、アストライアが死んだんスか?」

「あぁ、殺した」

「ルシファァァァァァァァァァ!」


アスラは一瞬でルシファーとの距離を詰めると、ルシファーの首を撥ねた。

地面に落ちるルシファーの首、あまりにあっけない幕切れ、あのルシファーがほんの一瞬で死んでしまった、そう、2人はそう思っていた…………


「ハハハハハ!愚かな妹よ、俺に刃を向けるとは実に愚かだ!」


首だけになって笑い喋るルシファー、2人が恐怖の目を向けるのよそにルシファーの体は頭を拾って切断面を合わせた、ほんの数秒で接着された首と体。


「神や悪魔に不老不死とは無敵だな」

「化物ッスよ、こんなの倒せるんスか?」

「俺は死なない、愚かな妹のせいでな」


それは絶望、そして敗北の提示、無敵に等しいルシファーを殺す術が二人には見付からない。

嫌な笑い方をするルシファーを額に汗を溜めながら睨むアスラとヘリオス、初めて感じる勝ち目のない戦い、まさに終焉そのもの。











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