32:強さ
Unknown
空中に開く黒い穴、そして下にはコロセウムが広がっている、黒い穴からユピテルが出てきたが、ユピテルはそのまま地面に落ちて行った。
「ううぇえぇ?」
受け身を取る余裕もなく地面に叩き付けられた、目に涙をを浮かべながら立ち上がり、服に付いた誇りを叩き落とす。
そして辺りを見回して悪魔を探すと、観客席に座っているアスモデウス。
「悪いなぁ、これ苦手だから失敗ばっかりだっつーの」
「今はアスモデウスだったべか?」
「正解!」
アスモデウスは指をパチンと鳴らして人差し指をユピテルに向ける、目の前にいるのは神選10階にいた時のアナンガと何ら変わりない、しかし悪魔のアスモデウス。
「戻って来る気はねぇが?」
「ないない、これっぽっちも無いっつーの、それにココに来たから殺さなきゃな」
アスモデウスは立ち上がり腕輪に触れた、得物は篭手、名はメギンギョルズ。
ユピテルは警戒して三叉の矛、トライデントを構えて前髪を上げた、白い目が覗いて不気味さが加えられる。
「オメェとは戦いたぐねぇ、それに、オラはベリトを助けなきゃいけねぇんだ」
「何だ、ククルカンからベリトに乗り換えたのか?」
「違う!ベリトは戻って来れる、オラが連れ戻すんだ」
「じゃあ俺に勝ったら道を提示してやるっつーの、だから殺りあおうぜ!」
アスモデウスはステップを踏みながら構えた、アスモデウスが本気の時の型、ボクシングのような構えだ。
アスモデウスはユピテルの強さを知っている、アスモデウスにとって最悪の相手という事も、故に最初から本気を出しているのだ。
「行くぜ!」
アスモデウスは走り出す、ユピテルは集中してアスモデウスの電気信号を読み取ると、トライデントを握る手に力を入れた。
アスモデウスはユピテルとの距離を詰めると、素早い拳の連撃をユピテルに降らせる、しかしユピテルは全てをトライデントでいなす。
「本当に嫌な目だっつーの、ルール違反だっつーの!」
「戦いにルールはねぇって言ったのはオメェだべ?」
アスモデウスはしまったというような顔をする、そしてやけくそになり力を強めて殴り始めた。
「力なら負けないっつーの!」
「エレクトリフィケーション【帯電】」
ユピテルの身体中に電気が駆け巡り、ユピテルの身体能力が上昇する、体の電気信号を熟知しているユピテルだから出来る事。
「やっぱり最悪だっつーの!」
アスモデウスは完璧な体術型、故に動きが分かってしまうユピテルの目は忌まわしい物だ。
ユピテルはアスモデウスのストレートをギリギリで避けるが、もう一方からフックが飛んでくる、ユピテルはコレもギリギリでトライデントを使い防いだ。
そしてトライデントで一瞬腕が止まると、その腕を掴んで電流を流し込む。
「クソッ!」
電流が完全に流れ込む前に間合いを取った、そう、今のユピテルに触られたら電気信号が遮断され、その部位が全く動かなくなる。
「クソッ、痺れるっつーの」
「よぐ避けだなぁ」
「当たり前だっつーの、お前に触られるの程嫌な事はないっつーの」
その瞬間ユピテルの目に涙が溜まり始めた、アスモデウスは慌てて自分が何をしたか考え、一つの答えにたどり着いた。
「いや、ユピテルに触られる事自体は全然OKなんだけど、今触れられるのはヤバいというか、俺的にも避けなきゃいけない、みたいな感じだ。
な?ユピテルの事は嫌いじゃないから、泣くなっつーの」
何故か敵を慰めるアスモデウス、ユピテルが涙を拭ってアスモデウスを見据えると、ホッと胸を撫で下ろして構えた。
「お前も案外面倒だっつーの」
「うるせぇ、それにオラは敵だぞ、助ける必要ないべ」
「100%のお前を殺さなきゃ俺が俺を許せないっつーの」
「オラは戦いたぐねぇんだがな」
ユピテルはそう言いながらも構えた、既に体が痛み始めている、痛みを遮断しても良いのだが、ベリトを連れ戻すために動けなくなるわけにはいかない。
アスモデウスはユピテルを見据えたまま、腰で構えてグッと体を沈ませた。
「ベロシティ【光速】」
一瞬で消えるアスモデウス、ユピテルは残像を追ってアスモデウスの跡を追うが、一閃は瞬きの間にユピテルの懐に潜り込んだ。
ユピテルは慌ててトライデントで防ぐが、体制が不十分だったために崩れてしまう。
「エクスプローション【爆発】」
アスモデウスはトライデントを掴み、もう一方の腕で殴りかかるが、ユピテルは腕でアスモデウスの拳を防いだ。
「どかん」
アスモデウスの拳は言葉の軽さに似合わない音を上げ、凄まじい爆発がユピテルの腕を襲う。
「―――――――っ!」
ユピテルは豪快に吹き飛び、コロセウムの壁に叩き付けられた、腕は裂傷と火傷で痛々しくて見ていられない。
それでもユピテルは汗を溜めて立ち上がる、しかしその光景はアスモデウスから見えない、砂塵でユピテルの姿が隠されているからだ。
「失敗だっつーの、何にも見えねぇ」
「オラはココだぁ!」
ユピテルは思いっきり跳び上がっている、筋力を最大限に上昇させてなるべく高く。
そしてユピテルは力一杯トライデントを投げつけた、しかしアスモデウスは顔色一つ変えずに、トライデントと掴んでユピテルを睨む。
「得物を投げるなんてあり得ないっつーの!」
「ライトニング【落雷】!」
その瞬間何も無い所から放たれる落雷、それは特有の屈折をしながらトライデントに直撃した、そしてトライデントを掴んでいたアスモデウスに莫大な量の静電気が流れ込む。
「ぐぅわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
派手に感電してトライデントを突き飛ばして倒れる、痙攣して体はところどころが焦げている、まだ体はバチバチと感電しているが。
しかし目はしっかりとしていて、メギンギョルズが消えていないところを見ると生きている。
「しぶてぇな」
「当たり前だ、っつーの、俺は、死なねぇ」
フラフラになりながら何とか立ち上がる、ユピテルも地面に落ちているトライデントを広い上げた。
あれほどの落雷が落ちてもしっかりと気を持っているアスモデウス、精神力だけは確かなものだったらしい。
「強くなったじゃねぇか」
「オメェが化物なんだべ?」
「化物か、そんなもんあり得ないっつーの、死ねないって意志があれば人間は死なねぇ」
「じゃあ動けなぐしてやる」
ユピテルは広い上げたトライデントを回して構えた。
「エレクトリフィケーション【帯電】」
再び体に電気が走る、体が限界が近付いているのが分かる、体の電気信号が戻った時の猛烈な痛み、そして身体中の軋み、これ以上長く戦えない事が分かった。
「お互いもうヤバそうだな」
「オラは大丈夫だぁ」
「強がり言うようになったんだな、でも、お前には負けられないっつーの!」
アスモデウスとユピテルは同時に走り出した、お互い限界に近い、身体中が痺れて動き辛いアスモデウス、筋繊維が千切れ始め思うように動かないユピテル。
次に倒れた者が敗者、恐らくもう一度倒れたら立ち上がるだけの力は残っていないだろう。
交わり合うトライデントとメギンギョルズ、激しい火花が乱れ散り、お互い一歩も引かない攻防、否、お互いの攻撃が交差している、攻撃は最大の防御とはこの事だ。
「オラは負けらんねぇ!ベリトも、ククルカンも待ってるんだぁ!」
「俺だってお前ごときに負けてられないっつーの!俺が最強なんだっつーの!」
更に速くなる二人の攻撃、お互いの信念だけが体を前に進ませている、誰かのタメに戦うユピテル、自分のタメに戦うアスモデウス。
最初に行動をしたのはアスモデウスだった、後ろに跳びはねてユピテルとの間合いを取り、腰で拳を構えた。
「ベロシティ【光速】!」
地面がえぐれて高速で移動するアスモデウス、ユピテルは腰を据えてアスモデウスの動きを追う。
そしてアスモデウスが殴った瞬間、ユピテルはトライデントで受け、アスモデウスの顔に触れた。
「だから見え見えだっつーの!」
アスモデウスは再びユピテルとの間合いを取った、そしてそのまま殴りかかる。
「エクスプローション【爆発】!」
アスモデウスの素早く思い一撃が放たれ、ユピテルの腹に拳を沈めた、はずだった。
アスモデウスの拳はユピテルをすり抜けた、振り向くとやはりユピテルはそこに立っている。
「ユピテル!どこにいるんだっつ――――!?」
アスモデウスは首に違和感に違和感を感じると同時に身体中の力が抜けた、そして糸の切れた操り人形のようにへたりこむ。
そしてその瞬間、ユピテルだと思っていた所には誰もいない、ユピテルは後ろにいた。
「何で当たらない!?」
「目に触った時、ちょっといじらせてもらっだ」
ユピテルはアスモデウスに避けられる事は計算済みだった。
「目だけの電気信号をいじるのは簡単だぁ、そこからの光の認識を少しだけいじらせてもらっだ」
「やっぱりスゲェや、約束だ、ベリトの所に行けっつーの」
アスモデウスは絶対に約束を守る事をユピテルは知っていた、そして黒い穴はユピテルの前に開く。
「さぁ、俺を殺して行け」
「それは出来ねぇ、終わったら迎えにぐる、だから待っでろ」
ユピテルはそのまま穴の中に入って行った、アスモデウスはユピテルが来た事を後悔する、そしてユピテルの強さを改めて知らされた。
「な、何だぁ!?」
黒い穴を這上がるようにユピテルが出てきた、何故かユピテルの体は水に濡れている。
「な、何が海が広がってる!オラ泳げねぇぞ!」
「あぁ悪い、また間違えたっつーの」
ユピテルは何とか黒い穴から抜け出すと、必死な形相でアスモデウスを見る。
ユピテルはかなづち、故に海など天敵に近い。
「次こそは大丈夫だっつーの」
再び黒い穴が開き、ユピテルは敵のタメに戦場へ飛び込んで行った。