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27:天竜


Japan VCSO Japan branch office


「テメェのパパだ!」

「嫌よ」


毘沙門天のパパ発言に間髪入れずに拒否する阿修羅、不変の真理である血の繋がりをも否定したくなるような父親、毘沙門天はがっくしと肩を落とし、抜け殻のようになっている。

一応阿修羅も知らない父親に乙女のような妄想を抱いていた、優しくて気品に溢れ、紳士のようなスラッとした男性を想像していた。

しかし、目の前にいるのはトラックの運転手のようなガタイに、ゴワゴワした髪の毛、豪快さだけが取り柄のような男性だ。


「本当に母親に似てやがる」

「それで、貴方が何の様?私には―――」

「おいジジイ!ガキじゃねぇんだからスキップしながら先に行くな!」


扉に寄りかかっているのはタナトス、阿修羅は目を丸くしてタナトスを見ている。

護衛の任務が終わったタナトスは、任務で毘沙門天と合流の後、阿修羅の護衛に迎えと言われた。

タナトスとヘリオスが阿修羅の護衛、それは最上級警戒体制に等しい、今のホーリナーで考えられる最強のトリオだ。


「何でタナトスがココに?」

「テメェの護衛だ」

「俺はいらないって言ったんだぞ、でもどうしてもコイツが来たいと―――」

「テメェが呼んどいて、どの口がそんな白々しい事を言ってんだ?あぁ!?」


タナトスはスケイルを毘沙門天の喉元に突き付けながら毘沙門天を睨んでいる、毘沙門天は冷や汗を流しながら両手を上げて許しを乞う。


「おじさん、何しに来たの」

「酷い!実父に向かっておじさんだなんて、もう生きていけない」

「そうか、じゃあ死ね」


タナトスは更にスケイルを近付ける。


「嘘嘘!生きます、生きますから殺さないで下さい!」


タナトスはスケイルを戻した、毘沙門天は安堵の息を漏らすと、冷や汗を拭って阿修羅を見た、今回は真面目な顔、阿修羅はその顔を初めて見て、やっと毘沙門天が任務で来た事を把握した。


「今この時点をもって阿修羅、君を天竜家一族の総主とする」

「はぁ、病室で話すような話題じゃないでしょ、場所を移すわよ」


阿修羅はベッドから降りてスリッパを履いた、摩和羅女が止めようとするが、阿修羅は優しく笑って摩和羅女の頭を撫でた。



阿修羅は近くにある誰もいない部屋に入った、机と椅子しかない話すにはうってつけの場所。

毘沙門天は適当に腰掛け、阿修羅は正面に座る、そして阿修羅の隣にはタナトスが座った。


「それで、天竜一族って何?」

「‘天竜の巫女’の天竜は家名だ、つまり天竜家で生まれた特殊な力を持った者の事を‘天竜の巫女’と呼ぶ」

「何で巫女なの?男の場合の呼称は?」

「天竜家は代々女系一族だから特殊な力は女性にしか出ない、天竜の巫女は母親の阿修羅あすらも祖母のカグツチ、曽祖母と永遠に女だ

そして、巫女の力を継承した者は天竜家の長となる事が代々の掟だ、つまり阿修羅には天竜家の当主になってもらう」

「嫌よ」


再び間髪入れずに拒否する阿修羅、毘沙門天は肩を落として再び嘆く、そしてボソボソっと阿修羅あすらもそうだったと言っている、毘沙門天は女に相当弱いらしい。


「頼む!この通り!」

「無理ね」

「そこをどうに――」

「不可能よ」

「何とか――」

「ならない」

「―――」

「黙れ」


最終的に何も言わしてもらえなくなった毘沙門天、タナトスはケラケラと笑いながら二人のやりとりを見ている。

毘沙門天は最後の望みと何かを言おうとしたが、阿修羅に強く睨まれて言葉を飲み込んだ。


「私は天獅子小町、天竜とは関係ない」

「それでも阿修羅に当主になってもらわないと困る、天竜家はホーリナーに対しても絶大な力を持ってるから、何かと俺達も困るんだ」

「それなら家に連れて行きなさいよ、私が話をつけてあげる」

「ややこしくなりそうだぞ、これは」


毘沙門天は意気消沈しながら立ち上がった、タナトスは終始ケラケラ笑いながら二人のやり取りを見ていた。






















Japan Kyoto Tenryu home


阿修羅達は京都の外れにある山の上、そこだけ異様な空気が漂う家にいた。

ココが天竜家、大きな敷地にも関わらず人の気配はしない、大きいはずなのに何故か威圧感がない。


「でっかいッスねぇ」


任務終わりに毘沙門天に呼び出されたヘリオスが叫んだ、阿修羅が出歩く時はタナトスとヘリオスが護衛に付く、それだけ阿修羅が危険な状態にいるという事。

天竜家には門はなく、大きな鳥居が建っているだけ、阿修羅達は迷わず鳥居を潜ろうとした時、どこからともなく人が2人現れた。


「ヘリオス!」

「余裕ッス!」


タナトスとヘリオスは瞬時に得物を取り出し、出てきた人の喉元に突き付けた、しかし出てきた方もタナトスとヘリオスの喉元に小太刀を突き付けている。

黒装束を纏った忍者のような2人、目は殺気で満ち溢れている、そして後ろには更に大量の時代錯誤の武闘派集団、刀や薙刀を持った人がいる。


「はぁ、めんどうな事になりそう」


阿修羅も得物を取り出した。


「全員得物をしまえ!」


毘沙門天があり得ないくらい大きな声で叫んだ、黒装束軍団は毘沙門天を見ると得物をしまった、しかし阿修羅やタナトス、ヘリオスも得物を出したまま。


「婆!婆はいるか!?」


毘沙門天が叫ぶと奥の方から人を掻き分けて出てくる小さなお婆さん、しかし目は鋭く全てを見透かされてるような目。


「お前さんか、何じゃ?今更」

「当主代理に随分な言い様じゃねぇか」

「貴方当主代理なの?なら私はいらないじゃない」


阿修羅が踵を返して全員に背中を向けた時、背中に突き刺さるような視線を感じた、それにより阿修羅は動けなくなった。


「お前さん、誰かに似てると思ったら、阿修羅あすらに似てるじゃないか」

「私は阿修羅よ」

阿修羅あすらと俺の娘だ」


婆の顔が変わる、天竜家の者なら全員が知っている事、阿修羅あすらの娘が行方不明のままだと言う事を。


「という事は巫女様の最有力候補じゃな?」

「いや、既に巫女だぜ」


婆を始め黒装束達までが地面に両手を着いた、異様な光景にヘリオスは笑い、タナトスは呆れて頭を抱えた。


「はぁ、何この集団?」

「当主様!これからは天竜家のタメにご尽力を―――」

「嫌よ」


毘沙門天と同じように即答、むしろ毘沙門天よりも酷く、相手の言葉を遮っての拒否、婆や一同はあっけらかんとした顔で阿修羅を見ている。


「しかし――」

「やらないわよ、巫女だかなんだか知らないけど、私は当主なんてやらない、こんな見ず知らずの家の当主なんて出来るわけないじゃない」

「それでは天竜家はどうなさるんじゃ?巫女様が当主にならず、誰が当主になると?」

「知らないわよ、私は神選10階第10階の阿修羅、親は阿修羅あすららしいけど、血の繋がりしか無い人間と同じ道を歩かなきゃいけない意味が分からない、私の事は私で決める、しきたりなんてそんなもん私に押し付けないで」


阿修羅は婆を睨みながら言った、確かにそこにいるのは天竜の巫女だが、天竜家の当主ではない。

そもそも昨日今日の出来事でいきなり当主になれと言われ、当主になるような人間などいない。


「そでは仕方ありません、神選10階に圧力をかけさせてもらいます」

「はぁ、最低ね、良いわよ、そこまで言うならなってやろうじゃない」


天竜の者達は顔が明るくなり、ヘリオスとタナトスは不安の目で阿修羅を見ている、しかし阿修羅は何かを考えているような顔。


「それじゃあ、当主からの最初の命令、巫女が当主を継ぐというしきたりはおしまい、それで私は当主を辞めます」

「テメェ!さっきから聞いてればいい気になりやがって!」


後ろの方から刀を抜いて走って来る一人の青年、前に出ようとしたヘリオスとタナトスを抑え、阿修羅は一歩前に出た。

阿修羅の身体中の血が熱くなり、飛び抜けるような感覚と共に、阿修羅の髪の毛と目が赤く染まり、瞳は猫のように縦に割れた。

ヘリオスと毘沙門天以外は驚く、しかし阿修羅はその視線の束から一瞬で消えた、一閃だけ残して次に現れた時には刀を振り上げた青年を殴り飛ばしていた。


「これが阿修羅かよ?ありえねぇ………」

「やっぱり阿修羅あすらそっくりだ!」

「この阿修羅も可愛いッスね」


阿修羅は不気味な瞳で周りを見る、ココにいる者達は天竜の巫女を見るのは初めてだ、その不気味さに手を出す事も出来ない。


「一族がどうのこうのとか小さいわね、誰も知らない私なんかに当主を頼むくらいなら、下らないしきたりなんて捨てなさい」


阿修羅はそのまま踵を返し帰路に向かった、タナトスとヘリオスも後ろを歩き、追って来る者は誰もいない。

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