26:連携
Belarus VCSO Belarus branch office
タナトスとダグザは紅茶を飲みながら外を眺めている、二人の任務は悪魔に狙われている文化神ケツァルコアトルの護衛。
そして今飲んでいるのはケツァルコアトルが出して来た物、飲み干せば注がれ、飲まなければ怒られ、結局は飲ませたいだけである。
そして狙われている当の本人は………。
「そこで私はこう言ったんです!……君の瞳のタメならこの命、最期の一滴まで捧げよう、ってね」
自分の口説き自慢が永遠と続いている、かれこれ5時間、話が尽きない事に賞賛を送りたいくらいだ。
「おいダグザ、コイツが何で神選10階じゃないか分かったような気がする」
「奇遇だな、俺もだ」
「おいエセ色男!」
タナトスがエセ色男と呼んだケツァルコアトルは薔薇を持ったまま固まった、そして暫くすると薔薇を噛んで悔しさを表現している。
「テメェのその口説き自慢、それ全部ココの支部長だろ?」
「ふふ、分かってしまったならしょうがない、そうだよ、私の愛しのハニーはココの支部長さ、私と彼女の愛、それは例え元帥、ましてや悪魔になんか引き裂けない、何故なら私達は神のお導きにより出会ったのだから!あれは8年前―――」
タナトスとダグザは呆れてため息を吐いた、そしてケツァルコアトルに話を振った事を後悔する。
ケツァルコアトルのような邪魔な人物が支部に残ってる理由、それは支部長との恋愛関係にあった。
だがタナトスとダグザは心底ベラルーシの支部長に感謝した、こんなのは神選10階にはいらないと。
「その時私達は真に結ばれたのだよ、そして誓っ―――」
「終了だぜエセ色男、奴さんの登場だ」
壁に囲まれたベラルーシ支部の中に堂々と開く黒い穴、しかしそれは一つではない、無数に空いた。
ダグザとタナトスは慌てて腕輪に触れる、ダグザの得物トンファー、名はサラスヴァティー、タナトスの得物は大鎌、名はスケイル、そしてケツァルコアトルの腕輪に触れようとしたが。
「貴様はいらん」
「何故かな?私は強いですよ」
「知らない奴は連携が取りづらい、腐ってもタナトスとは5年近く一緒に戦っているから連携が取れる」
「まぁ、テメェは愛しの支部長さんのタメにどっしり構えてろ」
二人はガラス扉を蹴開き、外に出る。
大量の黒い穴からは同じく大量の悪魔が出てくる、それはアスタロト、全てのアスタロトの手には既に双剣、カリバーンが握られている。
タナトスは歓喜に顔を歪ませ、ダグザは冷静に相手を分析する。
「インクレイス【増殖】か、こういう輩は自分は違う所にいるのが通例だ、そして体術に関しては欠伸が出るようなモノ」
「つまり全員ぶっ殺して親玉を引っ張り出せば良いんだろ?」
「あぁ、計69人、俺とタナトスなら………11分28秒だ」
「遅い!10分もいらねぇよ!」
タナトスはスケイルを右手で持ち走り出した、そしてダグザは時計をセットして目を瞑る。
「フォーサイト【予知】」
「カット【切断】」
タナトスはカリバーンごとアスタロトを斬り刻む、大きな間合いで他人を近寄らせない、対大群戦術に関しては群を抜くタナトス、その華麗な鎌捌きはまさに死神。
そしてダグザは正反対に全てをカウンターで倒している、相手の攻撃の時の勢いを殺さずに急所を一突き。
「テメェ動きが無駄に速くねぇか?」
「よくぞ分かったな、フォーサイト【予知】は視界も自分もスローになる、しかし今の俺は視界はスローだが動きは通常、つまり貴様らには速く見えるというわけだ」
それがダグザの死にもの狂の修行の成果、体術を鍛える事によりフォーサイト【予知】発動時の運動能力を上げたのだ。
移動しながら戦っていたタナトスとダグザはいつの間にか背中合わせになっていた、そして既に15分経っている。
「貴様、何人殺した?」
「53だ」
「俺は36、つまり二人で89、そして今俺達を囲んでいるのは54」
「つまり全部で………」
「143だ」
「はっ、大した人数だ」
「そして今5増えた」
アスタロトは常にインクレイス【増殖】を繰り返して消耗戦に持ち込んでいる、つまりこのままでは体力に限界のある二人の負けだ。
ダグザは二人の今出来る大量殲滅術を計算している、その間もタナトスはダグザに気にせずにスケイルを振る、ダグザはそれを軽々と避けながら思考を働かせる。
「よし、コレだ」
「早くしろ、こっちだって体力の限界があるんだよ」
「エクスプローション【爆発】」
その瞬間タナトスが血相を変えて跳び上がる、ダグザは地面を殴ると凄まじい爆発が起こった、それによって飛び散った瓦礫で1/3が死に、上空に舞い上がった瓦礫をタナトスが斬り刻み、スケイルの背で弾丸のように弾き飛ばして他を全て殺した。
「テメェも無茶な事するな」
「貴様なら死なないと思った」
タナトスは鼻で笑うと辺りを見回した、増殖したアスタロトは消え、瓦礫の山だけがそこに残っている。
「親玉は何処だ?」
「知らん」
「はぁ!?何で知らねぇんだよ!」
「黙れ、俺に聞いたのがそもそもの間違いだ」
「いやぁ強い強い!さすが死神だよ」
ケツァルコアトルは笑いながら得物のサーベル、ウェミクスをダグザの後頭部に突き付けている。
「そういう事か、俺とした事が……」
「どういう事だよ?もしかしてエセ色男は既に悪魔に墜ちてたのか?」
「違う、パラサイティズム【寄生】だ、噂には聞いた事があるが、まさか本当にこの神技が存在するとはな」
「正解!」
ダグザはサラスヴァティーを捨てて目を閉じた、ダグザもケツァルコアトルに睨まれスケイルを捨てる。
「またかよ、また俺様は何も出来ないのかよ」
「あれぇ、どうしたの死神?コイツと一緒に私も殺しちゃいなよ、死神なんでしょ?」
タナトスは唇を噛んだ、今タナトスが無駄に動けばダグザは確実に死ぬ、しかしあの状態ではダグザは何も出来ない。
フロラの時と全く同じ、そして何も出来ない自分に嫌気がさした。
「もう辞めだ、俺様もそいつも殺せ、それで満足だろ?」
「ダサ〜い、死神の事もっと骨がある奴だと思ったのに」
「勝手に思ってろ、…………………、コレもそこに置いとく、俺様は何もしない」
タナトスはダグザの足下に拾ったスケイルを突き刺し、離れて座った、そして何故かダグザは笑っている。
「最期に聞いておこう、貴様の名前は?」
「アスタロトだよ」
「そうか、良い名前だな」
「えへへ、誉められちゃった」
「そしてさようなら、アスタロト」
その瞬間ダグザの足下が崩れ落ちた、ダグザは素早く腕輪に触れて間合いを取る、タナトスも立ち上がり腕輪に触れた。
「何が起こったのよ!何この穴!?」
ダグザがいた所は紫色に腐食した土と瓦礫。
「貴様も考えたな、まさかあそこでクロージョン【腐食】を使うとは」
「はは、肉以外でも腐るなんて初めて知った、一か八かだよ」
二人は笑いながら構えた、刃を向けるのは護衛するはずだったケツァルコアトル、ケツァルコアトルも同じくタナトスとダグザにウェミクスを向けている。
「私知ってるよ、死神はコイツの事を殺せない、だから私に殺される一方!」
「やってみなきゃ分からないだろ?」
タナトスはスケイルを右手で持って走り出した、何の迷いもなくアスタロトをスケイルで横薙に斬り払う、アスタロトはウェミクスで防ぐが、体勢を崩してしまった。
そしてよろけてたどり着いた先にはダグザがいる、ダグザはサラスヴァティーでアスタロトの腹を殴った。
「悪いな、自慢の顔、傷付けるぞ」
そのまま顔面を蹴り飛ばした、そしてフラフラと後退しているところに、タナトスはスケイルの背でアスタロトを弾き飛ばした。
アスタロトはボールのように吹っ飛び、体を地面に擦りながら止まった。
軋む体を何とか立ち上がらせると、恐怖と絶望の目でタナトスとダグザを見る、守るはずのケツァルコアトルの体を平気で攻撃した、恐らく殺される。
「き、君達おかしいよ、仲間の体だよ、何でそんな、平気で攻撃出来るの?」
「貴様、俺達を見くびってないか?」
「本気出してたら最初の俺様の一撃で死んでる」
「そうだよ、そうだよね!君達は私を殺せないんだよ!それなら簡単だよ」
アスタロトはウェミクスを握って走って来た、タナトスは一歩前に出ると口を開けて笑う。
「カット【切断】」
アスタロトがウェミクスでタナトスを突こうとしたが、タナトスはウェミクスを斬り、そのままアスタロトの首を掴んで持ち上げた。
「殺せない?なぁタナトス、コレは同志討ちか?」
「俺なら悪魔を殺す過程での不慮の事故、そういう報告書にするだろうな、恐らく悪魔を殺す事になるだろうから墜ちる事はないだろうし」
「…………ドウカンダ」
アスタロトはタナトスの笑みを見て身震いした、それはまさに死神、殺意だけを詰め込んだような顔でアスタロトを見る。
タナトスはゆっくりとスケイルをアスタロトの後頭部に近付けた、冗談や脅しではない、これは完全に殺す事しか考えていない。
「殺れ、タナトス」
「俺様達の前に現れたのを後悔するんだな」
その瞬間アスタロトはケツァルコアトルの体から離れた、そのまま逃げるように黒い穴の中に消えて行った。
タナトスは気絶しているケツァルコアトルを投げ捨て、ダグザと一緒にヘリコプターへ向かおうとした時だった、タナトスの携帯は珍しく鳴り響く。
「誰だ?…………ってテメェ!………………何で俺様が!?………………チッ、分かったよ!」
タナトスは携帯思いっきり投げ捨てた、明らかに苛ついている、携帯の見るも無惨な姿を見れば分かる。
「ダグザ、先に帰ってろ、俺様は任務だ」