25:素顔
Chile VCSO Chile branch office
今回のモリガンとアストライアの任務は、チリ支部の商業神メルクリウスの護衛、ラフな姿で長身の女性、そして若干腰が低い、それがメルクリウスだ。
メルクリウスは支部の一階ロビーにいるモリガンとアストライアの接待に終れている、ジュースやらお菓子やらの用意で走り回るメルクリウス、それを全く気にせずに前だけ見て動かないのがモリガン、そして全く気にせずに出された物を食べるアストライア。
「……………おいしい」
「それ私が作ったんです!」
「………………凄い」
「ありがとうございます!」
メルクリウスはアストライアに向かって思いっきりお辞儀した、その顔は晴れ晴れとしていて、周りに笑顔を与えるような笑顔。
「白装束さんは食べないんですか?ていうか喋んないんですか?」
『僕に構わないでくれないかな』
「声変!」
大声で叫ぶメルクリウス、ココに来て2日、初めて言葉を発したモリガン、それに驚くのは無理はない。
しかしメルクリウスの驚き方は異常だ、腰を抜かして驚いている、最初に会った時は資料を全て落としたが、今回はそれ以上。
「もしかして、…………ロボットなんですか!?」
『人間だよ、君、頭弱いね』
「絶対にロボットですよ、じゃなきゃ嫌」
『君の偏見で僕を決めないでくれよ』
若干不機嫌を漏らしながら言うモリガン、喜怒哀楽の起伏が皆無に等しいモリガンでも失礼なメルクリウス。
「アストライアさん、白装束さんの顔見た事あります?」
『モリガン』
「……………可愛い」
「それは幻覚ですよ!絶対に配線がいっぱいです!」
力説してるメルクリウスの前にモリガンが立った、メルクリウスは何故か構えてモリガンを見る。
『そんなに見たいのかい?』
「何をですか?」
『顔だよ、そこまで言われたら侵害だ』
「み、見せてくださいよ」
メルクリウスは息を飲んだ、モリガンはゆっくりと仮面に手を掛ける、メルクリウスは目を丸くして次のモリガンの行動を期待する。
しかしモリガンの手は止まった、背後に感じるビリビリという嫌な感覚、スッと立ち上がるアストライア、モリガンは仮面から手を退けて後ろを向いた。
そこには黒い穴がある、そこからは赤黒いローブ、つまり悪魔が出てきた。
『やっと来たよ』
「顔は見れないんですか!?」
メルクリウスはかなりのショックを受けている、モリガンは2重声のため息を吐いた。
「……………任務」
『分かってるよ』
「私にもやらせて下さい」
『まぁ良い、足を引っ張る心配はないだろう』
3人は外に出るのと同時に腕輪に触れた、アストライアは剣と盾、名は剣はフリスト、盾はヒルド。
モリガンの得物は鎖の付いた2m程の鉄球、名はシヴァ。
メルクリウスの得物は刃の付いた靴、名はソルシュ。
「やっと着いたっつ〜の」
悪魔はフードを取った、そこにいるのは元第10階のアスモデウス。
モリガンは何の躊躇もなくシヴァの鉄球を投げた、しかしシヴァは凄まじい音と共に止まった。
『さすが馬鹿力だね』
「ククルカンには負けるっつ〜の」
再び爆発のような音が響くとシヴァがモリガンの基に戻って来た、モリガンは片手でシヴァを取り、アスモデウスを睨んだ。
アスモデウスは既に腕輪に触れていた、得物は篭手、名はメギンギョルズ。
「その構えはフェアバーン・システム?」
「知ってるじゃん!でもニアピンだっつ〜の、俺のはそれにCQCとシステマを足した、言わば軍隊武術の最強型だっつ〜の」
全て攻撃をその両腕のみに託し、ゼロ距離の戦法のみに特化したアスモデウス、神の時は近距離最強クラスだった。
「そういうあんたはテコンドーか?」
「残念ですね、カポエラです」
「そんなもんは戦いに使えないっつ〜の!」
その瞬間メルクリウスの顔が変わった、初めて見せた怒りの表情、温厚だったはずのメルクリウスが怒る事など皆無に等しい。
「カポエラは立派な武術です!」
メルクリウスは走り出した、それにつられてアストライアは横に動く。
メルクリウスは自分の間合いに入ると、体制を低くし大きな弧を描いてアスモデウスを蹴る。
アスモデウスはメギンギョルズで防ぐと、真っ直ぐ殴りかかるが、メルクリウスはするりと煙のように避けた。
そして真っ直ぐ突き出されている腕に両足を絡め、両手を地面に着いてアスモデウスを投げ飛ばした。
「そんなのあり!?」
そして投げられた方にはアストライアがいた、アストライアはフリストで斬ろうとするが、アスモデウスが体制を立て直す方が早く、アスモデウスの一発をヒルドで防ぎフリストは引く。
「…………エクステンション【延長】」
「酷いっつ〜の!!」
アスモデウスは何とかメギンギョルズで防ぐが、アストライアは既にヒルドを振ろうとしている。
「………ミーティア【流星】」
「馬鹿!辞めろっつ〜の!」
ヒルドから放たれた光の円盤はアスモデウスを捉えた、そしてボールのように吹き飛ぶアスモデウスを待つのはモリガン、鉄球と鎖接続部分を持って思いっきり振る。
「ナメるなっつ〜の!」
アスモデウスは何とか体制を立て直し、シヴァを強く睨んだ。
「エクスプローション【爆発】!」
アスモデウスが思いっきりシヴァを殴ると、爆発してシヴァはモリガンごと吹っ飛んだ。
『グラビテーション【重力】』
シヴァは急に重くなりコンクリートの地面に突き刺さる、そしてモリガンはやっと止まった、しかしアスモデウスの方が上を行っている。
「ベロシティ【光速】!」
アスモデウスは光速で移動し、止まったばかりのモリガンを殴り飛ばす、モリガンは支部塔の中へと消え、宿主が消えたシヴァ宿主と同じように消えた。
「一丁上がり」
得物が消えたのはホーリナーの死を現す、例え気絶したとしても、ホーリナーの意思に反して得物が消える事はない。
「酷い、何で私達を狙うんですか!?」
「そうだそうだ、忘れてたっつ〜の、悪魔になれ、さもなきゃ殺す、だったかな?」
「断ります!モリガンさんを殺した罪、死んで償ってもらいます!」
メルクリウスは走り出した、その後ろにいるアストライアは涙を浮かべながら後を追う。
メルクリウスは先ほどよりも素早い動きで蹴る、そしてもう一方からアストライアが斬りかかって来る、明らかなアスモデウスの劣勢に見えた。
「まだまだ甘いっつ〜の」
アスモデウスは一瞬の隙をついてアストライアを蹴り上げた、そして体の浮いた無防備なアストライアを殴り飛ばす。
アストライアは体を打ち付けながら止まり、ぐったりと動かなくなった、得物がまだ両手にある事から生きてるが、まさに絶体絶命。
「弱いっつ〜の、ほら、悪魔になれよ、死にたくないだろ?」
「ダンシング【舞踊】!」
メルクリウスは体でリズムを刻み始めた、カポエラは本来音楽と共にやること。
「何が変わるんだっつ〜の」
メルクリウスは先程よりも素早い蹴りを放った、しかしそれをも軽々と防ぐアスモデウス。
メルクリウスは防がれた足を上げたまま、体を浮かして反対の足で蹴った。
「だから甘いっつ〜の」
メルクリウスはそのまま両足をアスモデウスの脇に入れ、バック転してそのままアスモデウスを地面に叩き付けた。
「くぅっ!」
メルクリウスはそのまま逆立ちして体の向きを変え、アスモデウスのみぞおちを踵で蹴り落とす。
「アァ……」
アスモデウスはフラフラになりながら立ち上がると、メルクリウスを思いっきり睨んだ、先程までの余裕はなく、完全に怒りに満ちた顔だ。
「やるじゃねぇか、久しぶり血の味ってもんを知ったっつ〜の」
アスモデウス口から血を吐き出した、メルクリウスは変わらずに踊っている。
「コレから本気だっつ〜の!」
アスモデウスは軽く跳ねながら構える、その構えはボクシング、アスモデウスが最も得意とする形だ。
アスモデウスは重いストレートを放つが、それをも軽々とよけるメルクリウス、しかし避けた所にはアスモデウスの拳があった。
メルクリウスの腹を思いっきり突き上げ、フックで殴り飛ばした。
「ベロシティ【光速】」
アスモデウスは先回りしてメルクリウスに拳の嵐を降らせる、メルクリウスは手も足も出ずに身体中を殴られ続ける。
そして地面に叩き付けるとメルクリウスは動けなくなった、ココに立っているのはアスモデウスのみ。
「コレで終わりだ、お前ら弱すぎだっつ〜の」
「まだ、しにたく、ない」
アスモデウスは拳を振り上げた、矛先はメルクリウスの頭部。
「終わりだ――――」
「グラビテーション【重力】」
アスモデウスの体に過度な重力が加わり、地面に叩き付けられて動けなくなった。
アスモデウスとメルクリウスが見る先には、身体中ボロボロになったモリガンがいた、当然仮面などは割れてモリガンの素顔が露になっている。
「テメェ、死んだんじゃねぇのかよ?」
「シヴァを戻したのは死んだように見せるため、遅くなったのは動けなかったからだよ」
モリガンの小さな悪魔が笑う、美少年という形容がふさわしいモリガン。
「まだ死ぬわけに行かないっつ〜の、モリガンの顔が見れただけでも儲けもんだな」
「また逃げるのかい?」
アスモデウスは歯を出して笑うと地面に穴を作り、そこに消えて行った。
メルクリウスは骨を何本か折り立ち上がれないが、命への問題は無い、アストライアはいつの間にか立ち上がり、モリガンの後ろにいた。
「モリガンさん、凄く可愛いですね」
「う、うるさい」
モリガンは顔を真っ赤にして明後日の方向を見た。
「私のタイプですよ」
「そんなの知らないよ」
「神選10階補充の時は私を呼んで下さいね」
「……………モテモテ」
「うるさいうるさい!だから顔を見せたくない―――!」
モリガンは腹を抑えて倒れた、腹からは大量の血が流れだし、モリガンの白いローブを更に赤く染める。
「モリガンさん!大丈夫ですか!?」
「大丈夫に、見えるかい」
「………………モリガン、死なない」
「ぼくは、………にんげん、だ」
モリガンはその場でうつ伏せに倒れて動かなくなった、救護班は慌てて3人に近寄り、担架で運んで行った。