24:歪形
India VCSO India branch office
インドの独特な空気で元気が削がれているメルポメネとユピテル、インドはバチカンに次ぐホーリナーの拠点。
しかし近年は悪神のアカ・マナフくらいしか有望なホーリナーが出ていない、強いのには変わりないが、第2の神選10階と呼ばれた全盛期の面影は無い。
そして悪神の名の通りのアカ・マナフが神選10階にならない理由、それはダークロードが強いにも関わらず、ホーリナーは強くないという理由からだ。
支部長は泣く泣くアカ・マナフを支部に残している状態だ。
そしてアカ・マナフはメルポメネに絡み続ける、メルポメネは笑顔を崩さないが、内心護衛する相手でなければ皮を剥いでいた。
「おいそこの引きこもり」
「お、オラの事かぁ?」
「そうだよ、神選10階ってのはこんな綺麗な人ばっかりなのか?」
「基準は分がらねぇけど、可愛いんでねぇか?」
「貴方みたいな人には勿体無いくらいですよ」
毒を吐くメルポメネ、メルポメネが出す殺気にアカ・マナフもユピテルも気付いていたが、アカ・マナフがその手をメルポメネから退けるような気配はない。
しかしアカ・マナフのおふざけもここまでらしい、ビリビリと張りつめるような空気を感じ、アカ・マナフは人が変わったかのように飛び出した。
アカ・マナフが辺りを見回すと、黒い穴があった、アカ・マナフは興奮しながら腕輪に触れる、得物はインド特有のナイフ、ククリ、名はナフト。
悪魔は穴から出てくると静かにフードを取った、半目でアカ・マナフを睨むというよりは、確認するように見ている。
「神選10階さんよぉ、ココは俺に任せてもらう」
「それはダメだぁ、オラたぢはおめぇも守りに来た、だがら戦わせるわけにはいがねぇ」
「うるせぇんだよ、ココは俺のホームだ!戦わせなきゃお前達をぶっ殺すぞ」
アカ・マナフは殺気を込めてユピテルを睨む。
「まぁ良いんじゃないですか?暴走により自滅、私達に抜かりはありません」
「分かってるじゃねぇか」
アカ・マナフは独特な形のナイフ、ナフトをチラつかせながら悪魔に近寄る、悪魔は無表情で感情が読み取れない、半目で眠いようにも見える。
アカ・マナフはナフトを突き出して悪魔に向ける、アカ・マナフの顔は自信に満ち溢れている。
「名前を名乗れ、俺はアカ・マナフ」
「…………ザガム?」
「だからアカ・マナフだ!」
「………ザガム」
悪魔は誇らしげに言う、何故かその表情は達成感に満ち溢れている、何が嬉しいのか分からないが、何かが嬉しいらしい。
「ザガム」
「それ、お前の名前か?」
悪魔もといザガムは胸を張って頷いた、何故か気の抜ける青年、一本ネジの外れたような不思議な青年だ。
ザガムはやっくりと腕輪に触れた、得物はダガー、名はクラスト。
「やる気満々じゃねぇか」
「……………強い?」
「俺は強いぞ」
「………強い」
ザガムは再び自信に満ち溢れた顔でアカ・マナフを見る、どうやらザガムの疑問符は質問ではなく、自分の事を示しているらしい。
アカ・マナフは誇らしげな顔のザガムを気にせず、地面を蹴ってザガムに近付く。
ザガムはもう一つクラストを持つと、全く構えずにアカ・マナフを見ている。
「気をつけろよ!」
アカ・マナフは右手に持ったナフトを引いた、そしてぐっと沈むみナフトを突き出そうとしたが。
「クッ!」
アカ・マナフの肩は急に切れ、血を吹き出して倒れた。
その間ザガムが動いたようには見えなかった、ザガムは眠そうに立っている。
「テメェ!何した!?」
「……………斬った?」
「クソがぁぁぁぁぁ!」
アカ・マナフはナフトを振り上げ、ザガムに近付くが、振り下ろす前にザガムに抱きつくような形で止まった。
ザガムはアカ・マナフを軽く手で押すと、アカ・マナフの腹にはクラストが刺さっていた。
「……………弱い?」
「て、テメェ…………、何を、した?」
倒れたアカ・マナフのもとにいち速く駆け付けたのはユピテルだった、ユピテルはアカ・マナフを抱き上げ、支部の医療班に任せるとザガムに近寄った。
「ココからはオラだちが相手だぁ」
「……………」
「おめぇこっち側に戻るきはねぇが?」
「……………ない?」
「ユピテル、相手は悪魔ですよ、敵には問答無用です」
「でも仲間になるかもしれねぇでねぇか!」
メルポメネはユピテルを軽蔑の目で見ている、しかしユピテルの目は至って真剣だ。
「ユピテルのやってる事は今の悪魔がやってる事と同じですよ、仲間にならないなら殺す」
「殺さねぇ!オラは人は殺さねぇ」
「ならこの戦いでユピテルの信念を示してください」
「望むとごろだぁ」
ユピテルは腕輪に触れた、得物は三叉の矛、名はトライデント。
ユピテルトライデントを構える、しかしザガムは相変わらず眠そうにして、ただそこに立っているだけ。
ユピテルは前髪を上げて白い右目を露にした、ザガムは不気味がる事もなく、ただ傍観している。
「悪魔なんか辞めろぉ」
「……………楽しい?」
「悪魔は楽じくねぇ」
「楽しい」
「それなら無理矢理連れて帰るまでだぁ」
ユピテルはザガムに突きを放つが、トライデントはザガムから反れて行った。
「そういう事がぁ」
ユピテルはトライデントを持ってそのまま突っ込んだ、しかし途中でユピテルが止まった時、ユピテルはザガムの腕を掴んでいた。
「………………え?」
「見えねぇ程のスピードで腕を動かす、だがらいつの間にか斬られてる、そうだべ?」
「……………正解?」
ユピテルはザガムから遠ざかり、跳び上がった、ユピテルはトライデントをザガムに投げつける。
「ライトニング【落雷】!」
ザガムがトライデントを防いだ瞬間、トライデントに雷が落ち、トライデントごとザガムを感電させた。
「もう動けねぇべ?」
ユピテルはゆっくりとザガムに近付く、ザガムは体から煙を出して倒れている。
そしてユピテルがトライデントを手に取った瞬間、倒れてたザガムが立ち上がりユピテルに斬りかかった。
「しぶといなぁ」
ユピテルはトライデントで弾くが、もう一方の手に持ったクラストで斬りかかる、ユピテルには動きが分かるが、遠くで見ているメルポメネには全くわからない。
しかし連撃となると話は別、ザガムの速い攻撃を全ていなしきれず、ユピテルは傷だらけになる。
確実にユピテルの体力は奪われている、ただでさえ相手の電気信号を読み取るのに体力を消費するのに、素早い攻撃を受けるのは更に難しい。
「これまでですね」
メルポメネが動いた、メルポメネは腕輪に触れる、得物は1m四方の布、名はラフスキン。
ユピテルの体力が限界に近付いた頃、ザガムの心臓を貫くように剣状のラフスキンが出てきた、ザガムは動かなくなり、ラフスキンが抜けるとザガムは倒れた。
後ろからはメルポメネが現れた、ユピテルは傷だらけの体でメルポメネを睨んだ、メルポメネは笑顔でラフスキンを戻す。
「何で殺した!?」
「ユピテルの身を案じての事ですよ」
「殺す事ないだろ!俺はアレだけじゃ死なない!」
「何を怒っているんですか?」
ユピテルの訛りが無くなる時、それは本当に怒った時のみ、メルポメネは笑顔でそれを流す。
「人を殺したんだぞ、人を殺して何で平気なんだよ!?」
「敵ですよ?敵を殺しただけじゃないですか」
「敵でも人間だ!」
ユピテルはメルポメネのドレスの胸ぐらを掴み上げた、体はバチバチと帯電しはじめ、髪の毛は軽く上がりだした。
「私に刃を向けるんですか?」
「人は殺さない、俺は俺のやり方で悪魔を無くす」
ユピテルはメルポメネを突き飛ばした、それでも笑顔が崩れないメルポメネ。
ユピテルは踵を返して帰路に向かった、メルポメネは笑顔から嘲笑へと変わる、ユピテルの甘さと弱さへの嘲笑だ。
治る事の無い歪み、しかし信念は違えど目的は同じ。