23:犬猿
Australia VCSO Australia branch office
熱いを連呼しながらオーストラリア支部の一階で倒れるククルカン、イタリアはヨーロッパの中では暖かいとはいえオーストラリア程ではない、逆にアルテミスは比較的テンションが高い、アルテミスの故郷はエジプト、砂漠のど真ん中に建っているオーストラリア支部のような環境は慣れっこだ。
今回の二人の任務は創造神ズルワーンの護衛、ズルワーンは背中に刺繍の入ったボロボロダボダボのロングTシャツに、薄手の茶色い布で出来たズボン、それに頭には茶色いバンダナを巻いた小さな少年だ、砂漠地帯のホーリナーはアルテミスやズルワーンを始めターバンやバンダナを着けるらしい。
「あ、あのぉ、本当に僕が狙われてるんでしょうか?」
「そうだよ、アンタ強いんだろ?」
「え〜と、まぁ、人並みに」
「謙遜はモテないモテない、強いからうちらが来たんでしょ」
ズルワーンは顔を真っ赤にしながらバンダナの上から頭を掻いた、その幼さはモリガンにもアストライアにも無い可愛さがある、そしてすぐに照れるシャイな一面。
「ねぇねぇ、ココにクーラーとかは無いの?」
「馬鹿か!一階にクーラーなんて置いてみろ、出入りの時に入る砂で全部スクラップだ」
「アルテミスさんは、よく知ってますね」
「当たり前だ、アタイはエジプト支部だよ」
「エジプトの砂は、大きくて困るん、ですよね?」
「まぁな、この細かいのも充分問題ありだけどな」
砂漠など無いイタリア支部のククルカンに入る隙は無い、それ以前に何故こんな所に塔を配置したのかが疑問だった。
しかしそんな暑さをも忘れさせる黒い穴、その瞬間ダルそうだったククルカンの目の色が変わった。
3人はほぼ同時に腕輪に触れる、ククルカンは柄が刃で覆われている槍、名はルドラシス、アルテミスはドーナツ型の暗器チャクラム、名はフルムーン、ズルワーンはかき爪、名はネイト。
3人が外に出ると、黒い穴から赤黒いローブをはおった悪魔が出てきた、悪魔はフードを取ると片面で3人を睨んだ、もう片目には眼帯がしてある。
「チッ、かなり大物が釣れたぞ」
「誰誰?超綺麗な金髪の彼に惚れたの?」
「馬鹿が!奴は‘隻眼のバアル’、恐らくホーリナーで最強だった奴だ」
「物知りだな、しかし一つだけ間違いがある、最強は我ではなくルシファー様、そして今の名は………、辞めておこう」
「何よ何よ!言いかけたんだから言いなさいよ!」
悪魔は鼻で笑うとあざ笑うようにククルカンを見た、ククルカンはジャージの襟で隠れていて分からないが、かなり口元が膨らんでいる。
「しょうがない、問題だ、我の名はルシファー、バアル、ベルゼブブ、さぁどれだ?」
「ククルカン!アタイが先に解くからね!」
「無理無理!うちに勝てるわけないでしょ!」
「あのぉ、明らかにベルゼブブだと、思うんですけどぉ」
「「少し黙ってろ!」」
「す、すみません」
中指を立てたククルカンとアルテミスに何故か謝るズルワーン、そしてそれを見て小さく笑いながら手を叩くベルゼブブ。
「コレくらいの問題も解けないとは低レベルだ」
「ムカつくムカつく!あの人を馬鹿にした態度!」
「アタイも好きじゃないね、ああいうタイプは」
「では次の問題だ、君達が生き残るにはそこのガキを差し出す、君達が我々の仲間になる、和平交渉、さぁどれだ?」
「「悪魔をぶっ殺す!」」
ククルカンは思いっきり突っ込んだ、ベルゼブブは交渉決裂と誰にも聞こえない声で言い、腕輪に触れた、得物は槌、名はトゥールハンマー。
ベルゼブブはトゥールハンマーを担ぐと、両手で思いっきり振った、重い槌は受ければそのまま吹き飛ばされるが、ククルカンは左手のみで受けた。
「うちの力をナメんなよ!」
そのまま空いてる右手でベルゼブブを殴った、ベルゼブブはよろめきながらも踏ん張るが、懐には既にズルワーンが潜り込んでいた。
ズルワーンは下から切り上げたが、ズルワーンの腕自体を掴み、そのまま投げ飛ばした。
「ククルカンしゃがんで!」
「えっ!?うわぁ!」
ククルカンがアルテミスの声で振り向いた瞬間、目の前にはフルムーンがあり、ククルカンは倒れ込むように避けた。
フルムーンはベルゼブブの首を擦りアルテミスの人差し指に戻って来た、傷は致命傷では無いが、ベルゼブブのプライドは傷付けられた。
「我に傷を付けた………」
「次はぶっ殺すよ!」
「ナメるな、我は神選10階ごときに敗けはしない」
ベルゼブブはもう一つトゥールハンマーを頚現し両手握った。
「コレだけで驚くな」
「いやいや!驚くでしょ」
「エレクトリフィケーション【帯電】」
2つのトゥールハンマーは電気を帯た、そしてトゥールハンマーを平行して突き出すと、間でアークが行き交う。
トゥールハンマーを振るとアークがアルテミスに襲いかかる、アルテミスはアークの軌道を読み横に避けるが、それに応じて方向が変わった、アークはアルテミスを捉えると一気に電流がアルテミスにに流れ込んだ。
「くぅああぁぁぁ!」
アルテミスはそのまま膝を着き、ゆっくりと倒れた、アルテミスは痙攣しながら倒れている。
「バキューム【真空】!」
ククルカンはアルテミスとトゥールハンマーを繋ぐアークを真空で切断した、アルテミスは体に電気を出しながら痙攣している、気を失っていて全く動かない。
「何よ何よ!2つ使って卑怯よ」
「卑怯と取るか、力と取るかだ」
「うるさいうるさい!ムカつく!」
ククルカンはルドラシスをぐっと引くとベルゼブブもトゥールハンマーを引いた、そしてククルカンはルドラシスを突き出し、ベルゼブブはトゥールハンマーを振った。
「「ツイスター【竜巻】」」
二つの細い風の渦が二人の間でぶつかった、砂漠の砂は舞い上がり砂嵐と化す。
目の前の視界がゼロになり、どちらが優勢か劣勢かは分からない。
「終わりだ」
「ふぇ?」
その瞬間ククルカンの体を竜巻が包み込んだ、ククルカンは周りの砂と同じように軽々と吹き飛ぶ、身体中砂まみれになりながら砂に埋まるように止まった。
「後は君だけだな」
ベルゼブブは今まで尻込みしていたズルワーンを睨んだ、ズルワーンは震えながらも構えた。
「問題だ、悪魔になり安泰を望むか、その爪を向けて後悔すら出来ないようになるか、どちらが利口だ?」
ズルワーンは冷や汗をかきながら大きく息を飲んだ。
「ほ、本当に何も、しないんですか?」
「約束しよう、我らは仲間を裏切らない」
「そ、それなら、僕は―――」
「「ちょっと待てぇ!」」
ボロボロになったアルテミスとククルカンが立ち上がっていた、フラフラになりながらも得物を握っている。
「まだ生きていたのか、しぶといな」
「死ぬわけないでしょ、あんたなんかにアタイは殺せないよ」
「温い温い!殺したいならこうしなきゃ」
ククルカンは両手を前に突き出した、しかしそれよりも早くベルゼブブはトゥールハンマーを振る。
「ツイスター【竜巻】」
完全に油断していたククルカンとアルテミスはそれを防ぐ手段が無い、さすがにもう一度それを受ければ命の保証はない。
「コンストラクション【構築】」
その瞬間アルテミスとアストライアを覆うように壁が現れた、コンストラクション【構築】は全ての物質の形を変える神技。
風の渦は壁に当たり砂を舞い上げて消えた。
「君は邪魔だ」
ベルゼブブはトゥールハンマーをズルワーンに向かって投げた、ズルワーンは怯む事なく構える。
「カット【切断】」
ズルワーンのネイトは黒く光り、トゥールハンマーが近付いた瞬間バラバラに斬り刻んだ。
物を作り出し、全てを破壊する、それから付いた名は‘万状のズルワーン’、ズルワーンの前では全ての形が意味を成さない。
「ツイスター【竜巻】!」
ベルゼブブの意識がズルワーンに向いている時、ベルゼブブの体を風の渦が包んだ、踏ん張っていれば飛ばされないが、視界が砂のせいでゼロなタメに耐えるしかない。
「アルテミス、あそこにフルムーンを投げ入れて」
「馬鹿か!視界を無くしてもあれじゃあベルゼブブに届かないだろ!」
「良いの良いの、ほら、早く、いっぱいだよいっぱい」
「分かったよ」
アルテミスは大量のフルムーンを竜巻に投げ入れる、フルムーンはベルゼブブに届く前に竜巻に巻かれぐるぐる回っている。
「確かに出れないけど、殺さなきゃ意味が無いよ」
「バキューム【真空】」
竜巻の中のフルムーンは急に角度を変えベルゼブブに向う、まるで何かに当たったように曲がる。
「うちの神技ならこんな事簡単簡単」
「じゃあ一気に殺りなよ」
「はいは〜い」
ククルカンには竜巻の中は手に取るように分かる、フルムーンの位置は当然、そして目を瞑り集中する。
「バキューム【真空】」
小さな声で神技を放つと全てのフルムーンがベルゼブブに襲いかかる、この状態でフルムーンを避けるのは不可能、竜巻の中にはベルゼブブの屍があるはずだが、ククルカンの顔が晴れない。
「どうしたんだい?」
「嘘よ嘘よ」
竜巻が消えた時、その中にはフルムーンのみでベルゼブブはいなかった、悪魔特有の移動手段、黒い穴に入り消えたのだ。
「悔しい悔しい!逃げられた!」
「まぁ良い、任務は完遂だ」
「あのぉ………」
任務の終わりを喜ぶ二人の前に申し訳なさそうにズルワーンが現れた、体をモジモジさせながらうつ向いている。
「何何?愛の告白?」
「馬鹿か!そんなのあり得るわけないだろ。
それで、何か用かい?」
「あ、ありがとう、ございました、僕、悪魔になってる、ところでした」
「そんなの気にしない気にしない、任務も終わったし、お風呂に入りたぁい、砂だらけ」
「砂風呂でも入ってな」
ズルワーンの申し訳なさなど全く気にしてないアルテミスとククルカン、ズルワーンには外見は全く違う二人が似た者同士に見えた、自己チューで大雑把で男勝り。
「お二人は似てますね」
「「どこが!?」」
「こんな自己チューで!」
「大雑把で!」
「「男勝りの女のどこが!?」」
同類嫌悪、同じような者同士を嫌うのは人間なら仕方ない事。