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22:巫女


Japan VCSO Japan branch office


阿修羅は縦に割れた不気味な瞳でルシファーを睨む、その威圧感に流石のルシファーも息を飲んだ。

阿修羅は腕をブランと垂らし、夜叉丸を引きずりながらルシファーに近寄る。

ゆっくりゆっくり、一歩一歩ルシファーに近付く事にルシファーの死が近付くように。

しかし足下に緊那羅の動かない体が来た時、阿修羅は下を向いてしまった、そして肩を震わせながら止まり、動かなくなった。

顔を上げた時に阿修羅の頬には涙の跡が残ったまま、歯を食い縛り、夜叉丸を振り上げた、夜叉丸からは再び漆黒の刃が放たれるが、ルシファーは髭切で弾き飛ばす。

しかし阿修羅はそれに構う事なく何度も何度も漆黒の刃を放った。


「ねぇ、あれおかしくない?」


沙羯羅はヘリオスの肩を叩いて阿修羅を指差した、ヘリオスはその異変に全く気付かない、しかし阿修羅は着実に変化していた。


「可愛いッスね」

「こんな時に呑気な人、阿修羅の顔じゃなくて髪、あれ撃つ度に阿修羅の髪が黒に近付いてる、どういう事?」


ヘリオスは沙羯羅に言われてやっと気付いた、真っ赤だった阿修羅の髪が徐々に黒みを帯ていく、僅かな変化だが連続で放っているためにそれが分かり易い。

そして阿修羅の事をよく知っているヘリオスはそれが示す意味を悟った、それと同じような反応を知っているからだ。


「ヤバいッスよ!あのままじゃ阿修羅が死んじゃうッスよ」

「どういう事?」

「阿修羅のエミッション【放出】はアブソルペーション【吸収】で得た霊体を刃と化して放つ神技ッス、夜叉丸は霊体がMAXの時は真っ黒、無くなった時は元の色の銀色戻るんでスけど、このままいくと阿修羅の髪の毛が真っ黒になった時、阿修羅の霊体はゼロになって…………」


ヘリオスはそこで言葉を濁した、沙羯羅にもそれは分かる、霊体がゼロになればエネルギー切れ、つまり死ぬという事。


「じゃあ止めてよ!」

「今の阿修羅に近付けると思ってるんスか!?俺だって助けたいッスよ、でも近寄れないじゃないッスか」


阿修羅は足下にいる緊那羅に当たらないように夜叉丸を振り回している、そのため長刀である夜叉丸の軌道が不規則且つ広範囲、無闇に近寄れる状況ではない。

そして受け太刀したとしても漆黒の刃が放たれる可能性がある、迂濶に近寄れる状況では無いのだ。

今の阿修羅は他人の言葉を聞き入れられる状況ではない、まさに絶体絶命。


阿修羅は無我夢中で体力が減っている事に気付いてない、ルシファーの体には確実に傷付いているが致命傷はない、このままだと阿修羅が死だけが待っている。

ヘリオスが唇を噛んで何とか阿修羅を助ける方法を考えていた時、阿修羅の動きが止まった、ヘリオスや沙羯羅のみならず、ルシファーまでもが驚きの表情を浮かべた。

そして阿修羅の視線は徐々に下がり、足下で止まった、阿修羅の足首は緊那羅に掴まれている。


「お、ち………、つ、い……………」


緊那羅は再び倒れた、それだけでも阿修羅を現実に引き戻すには充分、阿修羅は夜叉丸をしっかり握ると再びルシファーを睨む、決意と覚悟に満ち、恐怖や不安の無い目で。


「妹を甘く見た事を後悔させてあげる」

「俺も戦況が分からない程愚かではない、神選10階に後方援護、そして天竜の巫女、流石の俺でも勝ち目が無い、今回は退かしてもらう」

「卑怯よルシファー!」


阿修羅は追おうとしたがルシファーあっという間に黒い穴に入って行った。

阿修羅は緊張の糸が切れ、髪の毛と眼が元に戻ると同時に倒れた、ヘリオスは慌てて近寄り、上半身だけ持ち上げる、阿修羅は気を失っているだけでヘリオスは安堵の息を漏らした。


「皆塔内に戻って!近くにいる負傷者は抱えて、ダークロードは私が相手します!」


沙羯羅が叫んで戻ったのはホーリナーだけだった、ソルジャーは全く聞く耳を持たず、動く気配が無く戦い続けたままだ。


「ソルジャーも戻って!」

「ちっ、小娘風情が粋がるな」

「俺達でやっとなのに一人でどうにかなると思うのかよ?」

「支部のホーリナーごときが」


プライドの高いソルジャーは口々に沙羯羅を馬鹿にする、沙羯羅を知らないソルジャーだからしょうがない。


「お前ら何やってるんスか!?命令が聞けないなら全員ダークロードと一緒にぶっ殺すだけッスよ!」


ヘリオスの命令でやっと戻って来たソルジャー達、それと同時に全ての防護シャッターが閉じる、そして一人でエレベーターに乗り込んだ沙羯羅。

防護シャッターを壊そうとする音が塔内に響く、そして一階ロビーのモニターに沙羯羅が写った。

沙羯羅がいるのは屋上、沙羯羅はカメラに向かって手を振ると菊理姫を構えた、矢を思いっきり引いて空へ向ける。


「あんな小娘なんかに何が出来る」

「どうせ目立ちたいだけだろ?」

「現実を思い知らせてやれよ」


ヘリオスは苛々しながらソルジャー達の話を聞いていた、一緒に戦ったから分かる、少ない動きだが分かった沙羯羅の強さ。


「やっぱソルジャーッスね、お前ら何かが束になっても沙羯羅には勝てないんじゃないッスか?力を過信したソルジャーより、自分の身の程を知ってる沙羯羅の方がよっぽど強いッスよ」


ヘリオスのキツイ口調にソルジャー達が萎んでる中、沙羯羅の準備は着々と整っていた。

沙羯羅は空に向けた矢を思いっきり放つ、ある程度昇った時。


「エクスペンション【拡大】」


矢が丸太以上に巨大化する、その増加率は神選10階レベル、もしくはそれ以上。

しかしそれだけでは2、3体を殺せるのが関の山、沙羯羅は両手を真っ直ぐ矢に向けた。


「乱れ散れ!」


沙羯羅が腕を左右に大きく開くと、巨大化した矢が数百本の普通の矢に別れ、塔をギリギリで避けて日本支部支部の敷地に降り注ぐ。

沙羯羅の菊理姫の矢は形状を自由に変えられる、同質量なら分裂させようが、先を丸くしようが、矢の範囲を脱しなければ自由自在に操れる。

一階ロビーにいるソルジャーは大きな口を開けて驚いている、そして地面に矢が突き刺さる凄まじい音と共に、ダークロードの凄まじい悲鳴がこだました。



















数日後

Japan VCSO Japan branch office


緊那羅は奇跡的に一命をとりとめた、阿修羅が倒れた原因は霊体不足と過剰な負荷、つまり今回の戦いでの死者はシャーリ一人だけとなった。

シャーリの死体はバチカンに送られ葬儀も終了したとのこと、神選10階を守り名誉的な戦死としてかなり盛大なものだったらしい。

しかし阿修羅の心は塞ぎ込んだまま、病室で隣にいる緊那羅は動かず、大切な友達は自分のせいで死んだ、そればかりが阿修羅の心を苦しめ続けた。


「阿修羅ぁ、緊那羅はまだ起きないのか?緊那羅が起きたらまたくれーぷ食べような!」

「そうね」


照準の定まらない目でどこかを見ながら摩和羅女に応えた、摩和羅女はあれ以来阿修羅と緊那羅の隣で寝泊まりしていた、ヘリオスは神選10階の任務の延長で日本支部の任務を手伝っている、沙羯羅も任務だ。

元帥は阿修羅が天竜の巫女になった今、ルシファーの狙いは阿修羅一点になったと推測、それ故にヘリオスは残したのだ。


病室には摩和羅女以外は来ない、緊那羅と摩和羅女の穴を埋めるために日本支部のホーリナーは各地を飛び回っているからだ、ヘリオスや金色孔雀もしかり。


コンコン


扉をノックする音が鳴った、医療班が来るには早すぎる、誰かと思って摩和羅女が扉を開けると、そこにはブルージーンズに刺繍の入ったTシャツというラフな格好の男、ボサボサな髪の毛を掻きながら摩和羅女を覗き込んだ。


「どちら様?日本人のホーリナー、……だよな?」

「天竜の巫女はいるか?」


その瞬間摩和羅女は腕輪に触れた、得物は暗器の針、名は針鬼。

針鬼を握り男の喉元に突き付けた、動けば一瞬で殺せる、男は苦笑いを浮かべながら両手を挙げた。


「かぁぁぁ!威勢が良いねぇ、そして良い心がけだ、天竜の巫女を守るにはそんくらいの心がけがなきゃな!

俺も苦労した、アイツ自由だから目を付けてないとすぐにいなくなりやがる、本当に猫みたいな女だった!人にはなつかないクセに家には帰って来る、甘えたかと思ったら噛みつきやがって、でもそこに惚れたってのもあるのかもな。

それでお嬢さんは誰だい?」


流石の摩和羅女もあまりの出来事に針鬼を落としてしまった、何も聞いていないのに長々と喋り、一人で思い出に浸る、そして何より煩い、声がデカイ、口が大きい、やかましい。


「摩和羅女、誰か来たの?」

「阿修羅、何か変なおじさんがいるんだ」

「うお!いたいた!」


男は中に入ろうとしたが、扉の梁に頭をぶつけてその場に蹲った、阿修羅も摩和羅女も呆れて言葉が出ない。

そして悪い悪いと立ち上がろうとした時、下から突き上げるように再び梁に頭をぶつけた。


「摩和羅女、戻って来なさい」

「おう!そういう冷たいところも阿修羅あすらに似てる」


その瞬間阿修羅の顔が変わった、男は頭を抑えながらパイプ椅子を取り出し、阿修羅のベッドの隣に座る。

イテェイテェと繰り返しながら阿修羅用の水を飲み干した。


「それで貴方誰?」

「俺か?俺は元老の毘沙門天、こう言った方が分かり易いか?俺は阿修羅、テメェのパパだ!」








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