21:覚醒
Japan VCSO Japan branch office
「妹って何よ?」
阿修羅を始め他の3人は阿修羅とルシファーを交互に見ている、確かに目付きの鋭さだけは似ている、しかし鋭い目をしている、ただそれだけの事だ。
そしてルシファーの言った‘天竜の巫女’、そして覚醒、全く理解出来ない4人をルシファーは馬鹿にするように笑った。
「どうした?妹よ」
「馬鹿な事言わないで、私は捨て子よ、そんな事あるわけない」
「奇遇だな、俺も18年以上も前に捨てられていた、いや、逃がされて日本にたどり着いたと言った方が正しい。
俺とお前はあの阿修羅と毘沙門天の双子の子だ、捨て子だったのは戦地から阿修羅がソルジャーに命じてある場所まで連れて行かせようとした、お前だけな、俺は日本支部に届けられ、時期‘天竜の巫女’たるお前は阿修羅の生まれた所に届けられる予定だったんだ。
それがソルジャーは途中で力尽き、俺らは捨て子扱いになり、腕輪を付けた俺は日本支部、ただの赤子の阿修羅は孤児院に入れられたというわけだ」
淡々と話すルシファーとは違い、阿修羅の顔は青白くなる、知らない方が良かった事実、いつも冷静な阿修羅を動揺させるほどの事実が目の前にはある。
「阿修羅、信じちゃダメッスよ、嘘に決まってるッス」
「嘘か、まぁ信じなくても良い、時期に分かる事だ、なんなら君たちの元老に聞いたらどうだ?元老の毘沙門天にな」
元老、それは元帥を陰から支える存在だが、実際は元帥や神選10階へのダメ出しばかりだ、しかし元老は元神選10階、それなりの実績があるために元帥も強くは逆らえない。
「アイツは俺の事をよく知ってる、まぁ、もう2度と会えないがな」
ルシファーは腕輪に触れた、得物はクレイモア、名は髭切。
生きている条件は悪魔に墜ちる、悪魔にらなければ死のみ、しかしココにいる者達はかなり強い、一筋縄でいかないのは分かる。
「もう俺っち行きますよ!?そこの馬鹿そうな金髪!俺っちと勝負!」
「俺で良いんスか?」
「何だ!弱いのか?」
「強すぎッスよ!」
ヘリオスはそのまま跳び上がった、しかし空中にいる敵は中距離型のシトリーにとっては狙い易い、ヘリオスがそれに気付いた時には遅かった。
鉄球がヘリオスの顔めがけて飛んでくる、しかし途中でグンと方向が変わった、その理由は鎖に当たっている矢、それは菊理姫から放たれた矢だ。
「じゃんじゃんやっちゃってよ!」
「サンキューッスよ!」
ヘリオスはレーヴァテインをグルンと回した。
「インフェルノ【烈火】!」
レーヴァテインは燃え盛り、そのままシトリーに振り下ろした。
阿修羅は平静を装うが夜叉丸を握る手には力が入る、緊那羅とルシファーがそれに気付かないわけが無かった、阿修羅はそれを隠そうとするが、隠そうとすればする程動揺が浮き彫りになる。
「阿修羅、しっかりしなさいよ」
「妹ながら情無い」
「大丈夫よ、心配しないで」
阿修羅は更に夜叉丸を強く握ると、思いっきり地面を蹴ってルシファーに向かった、上体はぶれ、息は必要以上に上がる。
そして阿修羅は下段から切り上げるが、片手で持った髭切で防ぎ、そのまま力を込めたら阿修羅の手から軽々と夜叉丸が落ちた、ルシファーは阿修羅の襟元を掴み持ち上げた。
「情無い、それくらいで動揺するとは………」
「い、いや、私は貴方とは違う、私は、私はただの阿修羅、天獅子小町だったただの阿修羅、何も関係ない」
「殺す価値もない、ひれ伏していろ」
ルシファーは阿修羅を地面に落とすと夜叉丸を掴んだ、そして夜叉丸を阿修羅の足に突き刺した。
「―――――!」
すぐに夜叉丸を戻すが、歩ける状態ではない、ルシファーは蹴り飛ばして遠ざけると、緊那羅に向き直った。
「悪魔になるか?」
「拒否する」
「相変わらず気の強い女だ」
「ありがとう」
緊那羅は嫌味ったらしく言い、羅刹を抜刀すると、全く構えていないルシファーに向かって走り出した。
低い姿勢から懐に潜り込み、斬り上げるように攻撃するが、緊那羅の素早い連撃を軽々と避ける。
全く髭切を使わず体の動きだけで避けていたルシファーだが、顎を貫くような鞘での切上げを遂に髭切を使い防いでしまった。
その瞬間緊那羅は受け太刀している髭切ごと、鞘を蹴り上げた、完全に無防備になったルシファーを嘲笑うように見上げる。
「終わりよ」
防ぐ事もできなくなったルシファーの喉元に羅刹を突き上げる、完全な勝利を確信した緊那羅だが、滴り落ちる血は喉元から流れていない。
ルシファーは左手、素手で羅刹を握っている、そしてビクともしない羅刹。
「強くなった、だがまだ俺の方が強い」
ルシファーは緊那羅を羅刹ごと持ち上げると、サッカーボールのように蹴り飛ばした、緊那羅は日本支部の壁によって勢いは止まるが、一発の蹴りなのに身体中が軋む、そして思い知った圧倒的な力の差、阿修羅が必要だが阿修羅は精神肉体共に傷付き戦えるような状態ではない。
緊那羅は何とか歯を食い縛り、立ち上がると再び腕輪触れた。
羅刹を納刀したまま腰の辺りで構え、息を整えた、軋む体にムチを打ち低く沈むと、殺気を込めた上目使いでルシファーを睨む。
「ベロシティ【光速】」
緊那羅は一瞬にしてその場から消える、そして光速でルシファーの横を駆け抜け、腹から両断するはずだったが、羅刹はルシファーの肉体に届く前に髭切に防がれた。
しかし緊那羅は慌てずに握る手に力を込める、そしてグッと髭切を押した。
「シンパシー【共振】」
今までのシンパシー【共振】とは違い羅刹が揺れてるようには見えない、しかし、それは髭切を弾き飛ばすという結果では無く、切断という結果でその振動を示した。
超高速振動により羅刹の切れ味は格段に上がり、同じディアンギットの鉄から出来た髭切をも切断した。
「流石音楽神様、と言いたいところだが、お前の負けだ」
「あ、あんた、いつ、の間、………に?」
倒れた緊那羅の腹は髭切が貫通している、緊那羅がシンパシー【共振】を発動したのと同時に突き刺したのだ、神の法則を無視した悪魔だから出来る得物の複数頚現、それを忘れていた緊那羅は敗北という形でそれを嫌でも思い出させられた。
「愚かな妹よ、次はお前が死ぬ番だ」
ヘリオスは珍しく防戦一方となっていた、シトリーのパイネルの中距離攻撃が次々と放たれ、ヘリオスの間合いまで近寄る事を許さない。
「クソッ、沙羯羅はまだッスか」
「何か言ったか!?聞こえないからもう一回!」
ヘリオスはそれを無視してシトリーの攻撃をいなすのに専念する、シトリーはまだ気付いていない、着地してから沙羯羅の姿が消えた事に、ヘリオスも何でいなくなったのかは知らないが、沙羯羅を信用してその場を任された。
「まだッスか!沙羯羅!?」
「行っくよぉ!」
沙羯羅の声が聞こえた瞬間、森から一本の矢が放たれ、シトリーの肩を貫いた。
「やっぱり枝が邪魔だな、10cmもずれちゃった」
「痛いんだよ!ナメるんじゃねぇ!」
シトリーはパイネルの鉄球を森に向かって思いっきり投げた、木を折りながら矢が放たれた方へ向かって行く。
暫く進むと、金属音と共に鉄球の軌道がが変わった、シトリーは鉄球を戻すが、それよりも早くヘリオスがシトリーの背後にいた。
シトリーはパイネルを放し、横に避けそれと同時に腕輪に触れた。
ヘリオスは切り返しと同時にシトリーに斬りかかるが、シトリーの手には既にパイネルが握られていた、燃え盛るレーヴァテインはパイネルの鎖に阻まれた。
「退いてぇ!」
ヘリオスはバックステップで後ろに下がると、ジャンプした沙羯羅が菊理姫の刃の部分で斬り下ろした。
しかしそれもあっさりと受け止められてしまうが、既に菊理姫は矢を引いている。
「ちょっとタイムタイム!」
シトリーは慌てるが、沙羯羅は全く気にせずに矢を放った、しっかりと照準を合わせられなかったが、矢はもう一方の肩を貫いた。
シトリーは苦痛に顔を歪めるが、ヘリオスや沙羯羅とは違う方を見て笑った。
「俺っちの大将の勝ちだな」
「何よ?絶体絶命なのはあんたでしょ?」
「もう一人死んでるぜ」
沙羯羅とヘリオスが阿修羅達の方を見ると、腹に髭切が刺さった緊那羅、そして力なく倒れる阿修羅に髭切を突き付けるルシファー。
「「阿修羅!」」
「行かせねぇよ!」
走り出そうとし沙羯羅と緊那羅をパイネルで巻き付け、地面につき倒した。
ルシファーはゆっくりと腕を引く、その切っ先は阿修羅の心臓に向けられている、阿修羅は何とか逃げようとするが恐怖と痛みで思うように動けない。
「情無い、なんとも情無い、醜き妹よ、ココで散れ」
「「阿修羅!!」」
「お姉様!」
ルシファーは髭切を阿修羅の心臓めがけて突き出した、しかしそれは阿修羅には刺さらず、ダークロードと戦っていたはずのシャーリの腹に。
「しゃ、シャーリ?」
「しっか、り、してくだ、さい、おねえ、さま」
ルシファーが髭切を抜くと、シャーリの体は阿修羅に倒れこんだ。
「何してるのよ?わ、私なんかのために」
「そる、じゃー、は、しんせん、じゅっ、かいさま、の、た……て、………で………」
「シャーリ?嘘でしょ?ココは戦場よ、冗談は後でにしてよ」
「愚かな妹だ、ソルジャーに助けられた上に情けをかけるとは、死んでいるのだよ!」
ルシファーは嘲笑うように髭切を横薙に振る、そして髭切は阿修羅の抱いていたシャーリの首を斬り落とし、阿修羅の顔を吹き出すシャーリの血で染めた。
「いやああああぁぁぁぁぁ!!」
阿修羅はシャーリの体を放し、頭を抱えながらシャーリの体から離れた。
「嫌、嘘、嫌、シャーリ、嘘、ダメ!」
「ハハハ!醜いぞ!」
阿修羅は髪の毛を掻き乱しながらシャーリの体から離れる、顔は真っ赤に染まるが、阿修羅の真っ黒な髪の毛は差ほど変わらない。
そして過呼吸となり、口を大きく開けて苦しんでいるようにも見える、胸を掻きむしるように抑え、地面に顔を埋めた。
「う、うぅ、あがぁ、くっ、ぐぁあ、うぁ、……………ああぁあぁ、あつ、い、熱い」
阿修羅は顔と頭を抑え始めた、そして吐血、顔を抑えたまま体をのけ反らせると、指の間からルシファーを睨み付けた、その眼は赤く染まり、瞳孔は猫のように縦に割れている。
「熱い、熱い、熱い熱い、熱い熱い熱い熱い熱い!」
頭を抑えながら叫び苦しむ阿修羅、その光景はまさに異様、ヘリオスや沙羯羅はあまりの光景に恐れを抱く程、あのルシファーまでも一歩退いた。
「熱い熱い熱い熱い熱い!…………いやあああぁぁぁ!!」
前屈みになって奇声を上げた瞬間、阿修羅の真っ黒な髪の毛が毛根から真っ赤に染まり始めた。
「こ、これは、まさか‘天竜の巫女’?」
髪の毛が真っ赤になった瞬間、阿修羅は真っ赤な眼でルシファーを睨んだ、人間のそれとは思えない縦に割れた瞳孔。
阿修羅はゆっくり立ち上がると全員の目の前から消えた、次の瞬間ルシファーはみぞおちを殴られ吹っ飛んでいた。
「べ、ベロシティ【光速】だと?」
「技名を言って無いッスよ!?」
「それより、あれは本当に阿修羅なの?」
眼や髪の色以外は阿修羅、しかしその威圧感は今までの阿修羅とは違う。
阿修羅は腕輪に触れると、拘束されているヘリオスと沙羯羅を見た。
「貴方、放しなさいよ」
「俺っち!?無理無理!」
阿修羅は夜叉丸を振ると、そこからは漆黒の刃が放たれた、それはエミッション【放出】と全く同じ、しかし霊体を全く吸っていない。
漆黒の刃は動けないシトリーを一瞬で両断した、ヘリオスと沙羯羅の拘束が解かれると、阿修羅はルシファーを睨んだ。
「貴方は許さない、緊那羅にシャーリまで…………、絶対に殺す」