17:追憶
1年半前
Germany main street
ドイツの夜の街を歩く神選10階二人、一人は刺繍の入ったロングTシャツに皮のジーンズ、そして紺色の長い髪の毛のタナトス。
そしてもう一人はワイシャツにスーツタイプのパンツ、胸ポケットの所にカミゥムマーンの刺繍、真っ黒なベリーショートの髪の毛の女性、それが当時の第10階、草木神のフロラだ。
今回の任務はウェアウルフの討伐、それは二人にとっては楽な任務のハズだった。
フロラの胸で光るペンダントはフロラがタナトスに頼んで調達させた物、そしてタナトスはフロラのイメージに合ったペンダントを探しだし、それをフロラの誕生日プレゼントとして渡した。
当時のタナトスの笑顔の理由はフロラにあり、フロラの笑顔の理由はタナトスにあった、二人は恋人同士、誰にも知られていない二人だけの秘密だった。
「ウェアウルフねぇ………」
「さっさと終らせるぞ」
「もぉ、少しは楽しんでも良いんじゃない?多くないデートの機会なんだから」
「そ、そうだな」
この頃のタナトスは動揺というモノを持ち合わせていた、まだ死神になりきれてないタナトス、恐れられていたものの、多少他とは違うレベルで誰もが身震いする程ではない。
「今日は綺麗な満月、ウェアウルフも元気なんだろうな」
「何だそれ?」
「いやぁ、月がウェアウルフのバロメーターかな?とか思ってみたりする」
「面倒くせぇ生き物だな」
フロラは綺麗な声で笑った、この頃のタナトスは戦いを好んでいない、すぐに任務を終らせる事だけを考えていた、それは誰にも言ってないがフロラに会いたいから。
「ウェアウルフぅ、早く出てこいよぉ!」
「そんなんで出てきたら苦労―――――」
「ワォウウゥゥゥン!」
「しなかったな」
「私凄くない!?」
はしゃいでるフロラを気にせずに任務の体勢に入るタナトス、その間もフロラは自分の凄さに酔いしれてる。
「フロラ!動くなよ」
「ほぇ?」
タナトスは腕輪に触れた、得物は大鎌、名はスケイル。
タナトスが大きくスケイルをフロラの頭の上で振ると、上から落ちて来たウェアウルフを叩き飛ばした。
「やるぅ」
「緊張感を持て」
「あらら、怒られちゃった」
フロラはふざけながらも腕輪に触れた、得物はムチのように伸びる剣、蛇剣、名はククツチ。
二本足で立つ狼のような亜人、それがウェアウルフ。
タナトスは一目散にウェアウルフに飛び込む、スケイルを上段から振り下ろすが軽々と避けられる。
タナトスの横に回り込んだウェアウルフは鋭い爪の手刀で突こうとするが、ククツチがしなやか軌道を描いてタナトスとウェアウルフの間を遮る。
「感謝しとく」
「いえいえ」
フロラはククツチを一旦戻すと、切っ先をウェアウルフに向けると、ムチと化して物凄いスピードで伸びてウェアウルフに向かう、ウェアウルフは手で弾くが、ククツチは軌道を変えて再びウェアウルフに襲いかかる。
ウェアウルフは何度か横に避けたが、タナトスが追撃してくる、スケイルを横薙に振り、ウェアウルフを思いっきり薙払った。
ウェアウルフは家の壁につっこみ大きな砂埃と共に姿を消した。
「あぁあ、見えなくなっちゃった」
「消えた訳じゃないんだ、何となく分かるだろ」
「ここかな?」
フロラがククツチを伸ばしたが空かした、その理由は二人の上、フロラの勘は当たっていたが跳んで避けたのだ。
フロラはククツチを瞬時に戻し、ウェアウルフに向けてククツチを伸ばすが、一瞬で消えて二人の後ろに現れた、タナトスは慌てて後ろに斬りかかるが再び避けられてしまった。
「クソが、速すぎだ」
「さすが狼、満月が綺麗なだけあるね」
タナトスは呆れながらもウェアウルフを目で追った、何処に出るかは分かるが移動中は見えない、我慢強かったタナトスで痺れを切らすくらい何もしてこない。
「フロラ、大きな瓦礫寄越せ」
「了解!」
フロラは家の壁を切り、ククツチを巻き付けてタナトスに投げ付けた。
「カット【切断】」
スケイルの刃が黒く光るとタナトスはスケイルを構えた、そして素早い連撃で瓦礫をバラバラにすると、スケイルの背で全てを打ち上げる。
「グゥゥゥン」
瓦礫が体に当たりウェアウルフは打ち落とされる、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる。
タナトスはあっという間にウェアウルフの隣に立つと、鎌を首に当てて上から眺める。
そしてさっさと任務を終わらせようとスケイルに力をいれたが、刃は空を斬った。
「キャッ!」
タナトスが慌てて後ろを見るとフロラを取り押さえて喉元に爪を突き立てるウェアウルフがいる、後ろからはおい締めにされ動けないフロラを見てタナトスは青ざめた。
「放せよ」
「貴様こそ武器を放せ」
「話せるのか、なら話は早いな」
「私の言うことを聞け、さもなくばコイツを殺す」
「タナトス!私ごと斬って」
タナトスはスケイルを強く握りうつ向いた、この状態でウェアウルフがフロラを解放するとは思えない、しかしスケイルを放さなければフロラは確実に死ぬ、フロラを傷付けずにウェアウルフを離す方法、それがタナトスには思い浮かばなかった。
「俺様達はテメェから手を退く、だからテメェも離れろ」
「なら武器を捨てろ」
タナトスは舌打ちをするとスケイルを投げ捨てた、それと同時に屋根の上から別のウェアウルフが飛び下りて来た。
「そういう事か」
「ハハハ!馬鹿な野郎だ、この女もろとも死ね」
「絶体絶命?」
こんな中で緊張感の感じられないフロラ、そんなフロラのお陰でタナトスに若干笑顔が戻った。
「フロラ、大丈夫だからな」
「うん、一人じゃ死なないから大丈夫だよ」
「おい、何言ってるんだよ?」
「タナトスに会えて良かった、私神選10階になれた事、最高に楽しかったよ」
「おい、馬鹿な事言ってんじゃねぇよ、フロラは俺が助ける」
フロラはニコリと笑うと自分の胸にククツチを突き立てた、後ろで抑えてるウェアウルフは気付いていない。
「おい、危ないぞ!」
「バイバイ、タナトス」
「フロラアアァァァァ!」
タナトスが走り出した瞬間、フロラは涙を流してククツチを伸ばした、ククツチはフロラと後ろのウェアウルフの心臓を貫き、宿主を無くして消えた。
フロラはウェアウルフと一緒に胸から血を流して倒れ込んだ、タナトスはもう一体のウェアウルフの首を斬り飛ばし、フロラに駆け寄った。
フロラはタナトスの腕の中で力を無くして赤い血を胸から流している、息はせずに笑顔で眠っている。
「フロラ、嘘だろ?一緒にフランス行くんだろ?」
必死にフロラの体を揺するが全く反応しない、タナトスの目からは涙が溢れ落ち、フロラの体を少しずつ濡らした。
「辞めてくれよ、いなくなるなよ、俺様を一人にするなよ」
「…………………」
「返事しろよ!勝手に死んでんじゃねぇよ……………、フロラの事愛してるんだよ」
その時タナトスは初めてフロラに気持ちを伝えた、しかし、その声はフロラには届かず、タナトスの気持ちに応えられない。
残ったのはフロラの血で染まったペンダントと亡骸だけ、タナトスは真っ赤なペンダントを自分に着け、亡骸を抱き上げてドイツの暗闇に消えて行った。
「………………つぅ訳だ、柄にもなく語っちまったな」
「ペンダントは今でもあるの?」
「あぁ、これだ」
タナトスはシャツの下からペンダントを取り出した、溝は古い血で黒く染まっている、阿修羅はペンダントを見て涙を流した、それはまだタナトスが過去を引きずってるという事。
「泣く事じゃねぇだろ?」
「でも、でも………」
「そういところが似てんだよ」
「私が………フロラに?」
「そうだよ、神選10階だからって飾らないところとか、平気で俺様の領地に入って来るところとか、……………お節介なところとか、アイツに似すぎなんだよ、だから長々と話ちまったんだろうな」
タナトスは遠い目をしながら話した、阿修羅を見てるようで違うモノを見てる、恐らく阿修羅とフロラの共通点だけを見ているのだろう。
「俺様は戻るぞ」
「私も行くよ」
フラフラになりながら立ち上がるタナトスに肩を貸し、真っ直ぐエレベーターへと向かった。