表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/43

11:奇襲


Over the unknown


移動用のヘリコプターに乗っているアストライアとモリガン、人形のように全く動かないモリガンと、窓に張り付いて外を食い入るように見るアストライア。

下は一面に広がる森、そこが何処の国だかも分からない。

二人が向う国はインド、エビルユニオンが暴れまわっているらしい、簡単な任務だが油断大敵である。


アストライアはマグカップに入ったココアを両手で飲みながら、人形のように動かないモリガンを見た、まるで電源を切ったロボットのように、全く動かない。


「…………モリガン」

『何?』


全く動かずに言い放つ2重声、神選10階の大きな謎のモリガン、何もかもが未知数で、その生態を知る者はいない。


「……………何か動かないから」

『動かなきゃいけないのかい?』

「……………そ、そうじゃないけど」


モリガンは再び動かなくなった、ただたんにアストライアが見てて気持悪いだけ。


その後もモリガンはピクリとも動かなかった、アストライアは見ないように窓に張り付いていると、下のジャングルが何か光った。

アストライアは軽く首を傾げると、普通に座り直した、その時、ヘリコプターの真ん中を高速で、何かが貫いた、ヘリコプターは徐々に揺れ始め、遂には落下しはじめた。


『コレはヤバいね』

「………………どうなる?」

『落ちる』


モリガンは腕輪に触れた、しかしヘリコプターの中で取り出すには少々大き過ぎた。

モリガンの得物は巨大な鉄球、名はシヴァ、シヴァはヘリコプターを壊し、アストライアとモリガンを外に放り出した。


「……………し、死んじゃう」

『大丈夫だよ』

「………………無理」

『グラビテーション【重力】』


モリガンはシヴァを投げ捨てると、アストライアを掴んだ、その瞬間、二人の落ちる速度がゆっくりになった、シヴァはジャングルに突き刺さり大きな埃を舞いあげる。

二人は舞い上げられたビニール袋のように落ち、静かにシヴァの上に降りた。

グラビテーション【重力】は重力を操る神技、重くするも軽くするもモリガン次第。


「ちぇ、生きてたのかよ、つまんないの」


シヴァの下から眺める赤黒いローブをはおった悪魔、声や大きさから少年と思われる。

手にはナイフが握られている、名はティルヴィング、これでヘリコプターで打ち落としたのだ。


『悪魔か、何で僕達を?』

「それはあれだよ、‘命令’ってやつ?」

「………………誰の?」

「それは言えないよ、ルシファー様に怒られちゃうもん」

『親玉はルシファーか』


悪魔は口を押さえて明らかな同様を見せてる、モリガンの口からはクスクスという声が聞こえる、アストライアはモリガンの後ろに隠れて、シヴァの上から悪魔を見下ろした。


「でもちっちゃいからハズレだね」

『お前に言われたくないね』

「お前じゃないよ、リバイアサンだよ」

『自分から名乗ってどうする?』


リバイアサンは再び頭を掻いて慌てる、モリガンは必死に笑いを堪えてるように見える、不気味な小さい口喧嘩、端から見たらそうにしか見えない。


「良いもん!みんな死んじゃうんだから!」

『みんなって事はお前も死ぬんだよ』

「君ムカつく!僕絶対に許さない!」


リバイアサンは無数のティルヴィングを様々な方向に投げた、ティルヴィングは木に当たり、一斉に四方八方からアストライアとモリガンに向かって来た。

アストライアは危機を感じて腕輪に触れた、得物は剣と盾、名は剣がフリスト、盾はヒルド。


『後ろは任したよ』


アストライアは頷き、モリガンと背中合わせになった、右手には剣のフリスト、左腕には盾のヒルド。

モリガンは鉄球から伸びる鎖を掴んだ、二人は同時に動き出すと、金属音がジャングルに鳴り響く。

アストライアはフリストとヒルドで半分を打ち落とした、そしてシヴァの鎖の輪の中にはティルヴィングが引っ掛かっている。


『コレくらいで僕達を殺せるとでも思ったの?』

「コレくらいで僕が満足すると思ったの?」


モリガンの目の前には跳び上がったリバイアサンがいる、リバイアサンの両手にはティルヴィングが握られていた。

ティルヴィングはナイフ、投げれば遠距離、握れば近距離、アルテミスにも引けを取らない遠距離型だ。


『リデューション【縮小】』


シヴァは一気に縮み、リバイアサンは横薙に斬りかかるが、モリガン達は地面に落ちて行った。

リバイアサンが着地すると、野球ボール程になったシヴァを持っているモリガンがいた。

モリガンはシヴァを手遊びしながら、真っ白な仮面の奥の瞳はリバイアサンを睨んでいる。


『参考程度に聞くけど、お前の神の頃の名前は?』

「海神のニヨルドだよ」

『やっぱり、‘反響’か』


‘反響のニヨルド’、遠距離型のナンバー2としてVCSOでその名を轟かせた、任務の最中味方を殺して失踪、その後の消息は不明だった。

リバイアサンはクスクス笑っているモリガンを見て辺りを見回した、間違い探しの如くその異変に気付いたのだ。


「………エクステンション【延長】」


ジャングルの中から剣が伸びて来た、それはリバイアサンの斜め上、リバイアサンは何とか避けるが、視界の片隅に小さいシヴァを投げようとしているモリガンが目に入った。

モリガンはシヴァを投げると、リバイアサンに向かって行った、モリガンの手元の鎖はどんどん出ていく。


『チェンジ【転化】、エクスペンション【拡大】』


リバイアサンの前でシヴァは元に戻ると、勢いを殺さずにリバイアサンに向かって飛んでいる。

リバイアサンはティルヴィングでシヴァを受け止めるが、その重量に圧され、吹っ飛んだ。

モリガンはシヴァに飛び乗ると、辺りを見回し、リバイアサンを見つけた。

モリガンはそのまま玉乗りのようにシヴァを転がす。

重いハズのシヴァを足で軽々と回せるのは、ディアンギットの腕輪から形成された得物は、使用者に掛かる重量を無視出来るから、どんなにシヴァが大きくなってもモリガンなら振り回せる。

モリガンが玉乗りしているシヴァは、迷わずリバイアサンに向かっている、どんどん加速し回転も加わり手に負えないくらいに。


「うわわわぁ!こんなのあり?」


リバイアサンは慌てて立ち上がり、横に跳んでギリギリで避けた。


「………エクステンション【延長】」


伸びたフリストがリバイアサンに襲いかかる、リバイアサンは何とかティルヴィングで打ち落とすが、再びモリガンが乗ったシヴァが転がって来た。


「ううぇ!方向転換も出来るの!?」


モリガン、シヴァに乗り、根こそぎダークロードを踏み潰す様から呼ばれた二つ名は‘道化のモリガン’、不気味な仮面やローブ、そしてシヴァを操る様がピエロだからだ。


「もう!僕怒った!」


リバイアサンはバックステップで大きく間合いを取った、そして地面に2本のティルヴィングを突き刺し、両手を天に向けた。


「ツナミ【津波】!」


リバイアサンが手を前に出すと、リバイアサンの後ろからジャングルを飲み込むような津波が、モリガンは慌ててシヴァの鎖を投げ、アストライアに巻き付けて引き寄せた。

モリガンはアストライアを抱きかかえながら、シヴァの後ろに隠れる。


『エクスペンション【拡大】!』

「そんなの自然の力の前では無意味だよ」


直径10m程に巨大化したシヴァを津波が軽々と飲み込んだ、シヴァはガタガタを揺れ始め、そのまま津波に飲み込まれて吹き飛んでしまった。

モリガンはシヴァを放し、アストライアを強く抱き締めると、津波の中で受け身を取った。

しかし津波の力は強く、中にある折れた木にモリガンの体は強く打ち付けられていた。


「ぜ〜んぶ無くなっちゃえ!」


津波が収まり、丸裸になったジャングルの遥か向こうにモリガンがいる、その腕の中にはしっかりとアストライアがいるが、モリガンの体は血で赤く染まっている。


「……………モリガン!大丈夫?」

『……………………』


気を失っていて反応が全く無い、仮面の下からは血が流れ出し、モリガンの怪我の危険性を物語っている。

アストライアは立ち上がり、腕輪に触れて無くなった剣と盾を形成した、名はフリストとヒルド。


「………………モリガン、可哀想」


アストライアはぬかるんだ地面を思いっきり蹴ると、リバイアサンに向かって走り出した、どれだけ流されたかは分からないが、リバイアサンはこっちの死を確認するまでいるハズ。


リバイアサンは口笛を吹きながらモリガンとアストライアの死体を捜してた。


「何処にいるんだよ?生きてたらルシファー様に怒られちゃうだろ」


そしてまた口笛を吹きだす、とてもそこにジャングルがあったとは思えないような大地、それほどの神技をまともに受けて、生きているハズがない、リバイアサンはそう考えていた。

しかし、目の前から一人の少女が走って来た、それは紛れもない、死んだと思っていたアストライアだ。

ブロンドのツインテールは元気を無くし、フリルのミニスカートは足に張り付いている、真っ白なパーカーは水を吸って重そうになっていて、顔は怒りに充ち溢れている、だがそれは紛れもなくアストライアだ。


「一人って事はもう一人は死んだんだ、ラッキー」


リバイアサンは腕輪に触れた、得物はナイフ、名はティルヴィング。

試しに2本ティルヴィングを投げるが、軽々と弾かれた、リバイアサンはしっかりとティルヴィングを握り、構えた。

アストライアは跳び上がり、リバイアサンの図上からフリストを振り下ろした、リバイアサンは軽々とティルヴィングで受けると、ナイフで突こうとするが、アストライアにその腕を蹴り飛ばされてしまった。

アストライアはそのままヒルドでリバイアサンの頭を殴り飛ばした、その時にフードが外れ、覗かせた顔はまだ幼くあどけなさが残る少年の顔。

リバイアサンは受け身を取り間合いを取る、アストライアはフリストを後ろに向けていた。


「…………エクステンション【延長】」


フリストは伸びると地面に突き刺さり、物凄い勢いでアストライアをリバイアサン向けて押し飛ばす。


「そんな使い方ありなの!?」


アストライアは勢いを殺さずに、元に戻ったフリストを振り下ろした、リバイアサンは横に跳び避けたが、着地したアストライアは、左腕を巻き込んでいた。


「…………ミーティア【流星】」


ヒルドを思いっきり振ると、ヒルドと同じ大きさの光が流星の如くリバイアサンに襲いかかる。

リバイアサンは着地したばかりで、方向転換出来ずにティルヴィングで受けるが、受けきれずに吹き飛ばされた。

赤黒いローブと幼い顔には泥が付き、頭はアストライアにヒルドで殴られ流血、両腕からはアストライアの神技で血が滲出ている。

コレが近距離型と遠距離型の差、埋めようの無い圧倒的な力。


「……………帰って、人、殺したく無い」

「やだね、今帰ったらルシファー様に怒られちゃうもん」

「………………お願い」


リバイアサンは跳び上がった、そして頭を下に向ける。


「ファイヤーワークス【花火】!」


跳び上がったリバイアサンの身体中から、ティルヴィングが花火のように放たれた。

アストライアは反応しきれず、急所を避けるように防ぐ事は出来たが、身体中に切傷を作ってしまった。


「油断したね!間合いを取れば僕の勝ちなんだよ!」


リバイアサンはアストライアがよろめいた隙に、ティルヴィングを投げて左太股に突き刺した。

アストライアは片膝を着いた頃には、目の前にリバイアサンがいた、リバイアサンは腕を大きく引いて、アストライアを殺意の目で睨んだ、アストライアはうつ向き目を瞑り覚悟した。

…。

……。

………。

…………。

……………。

………………。

…………………。


『いつまでうつ向いてる?』


アストライアが目を開くと、目の前には赤く染まったローブを着たモリガンがいる、モリガンの手には鎖が握られ、鎖にティルヴィングが突き刺さっている。

しかし、完全には受けきれずに、モリガンの仮面をも突き刺していた。

仮面はそこから縦に亀裂が入り、二つに割れてしまった、仮面の下は幼いが、冷たく鋭い目をした少年の顔が、人形のように真っ白で冷たい瞳はリバイアサンを睨んでいる。


「潰れちゃえ」


少年にしては低い声だが、まだ声変わりの片鱗すら見せていない声。

モリガンはアストライアを抱いて、バックステップで間合いを取ると、リバイアサンの図上からはシヴァが落ちて来た。

リバイアサンが上を見上げた頃には遅く、シヴァに押し潰された。


「この事は誰にも言うなよ」

「………………何で?」

「何でもだ」

「……………可愛いのに?」

「関係ない」


モリガンはポーカーフェイスを装っているが、顔は人間らしく真っ赤に染まっている、コレがモリガンの仮面で隠された本当の姿。


二人は近くの支部に電話をかけながら、歩いてその場から遠ざかった。







遥か後方からリバイアサンが押し潰されたシヴァを見てるリバイアサン。

折れた丸太に座りながら、血が滲む両手で頭の血を拭った。

リバイアサンはシヴァに押し潰される前に、足下に黒い穴を作りそこに落ちていた、そしてココに再び現れ、二人の動向を眺めていたのだ。


「あ〜あ、負けちゃった、ルシファー様に怒られちゃうよ、波旬はベルゼブブに物凄い虐められてたし、あれは怖かったなぁ、血まみれのボロボロになるくらい虐められてもん、…………僕もかな?」


リバイアサンは自分の体を抱きながら震えた、そして震えながら立ち上がると、弱々しくあるいて黒い穴の中に入って行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ