看守と罪人
「へえ」
罪人は思わず乾いた笑いを漏らした。
自分の牢の看守の顔は見知ったものだったからだ。
「お前、看守になったんだな」
「無駄口を叩くな」
牢屋の中に入れられた罪人は地べたに座り込みながら問う。
「こんなところで何をしているんだい」
「無駄口を叩くなと言っただろう?」
「兵士になるのが夢だったんじゃねえのか」
「……兵士にはなったさ」
二人は同郷だった。
同い年だった。
そして、ありふれた恋人であった。
過去の話だが。
「それで。兵士様がなんでこんな所にいるんだい」
「配置換えだ。先日までは王の下にいた」
「へえ、王様の」
「あぁ」
「昔から言っていたもんな。王に仕えたいって」
「そうだな」
罪人は幾つもの罪を犯していた。
死刑こそ免れたがもう二度と牢の外へ出てくることは出来ないだろう。
牢の外へ出られないということはつまり、もう新たな罪を作ることはないということでもある。
幸いなことに罪人はもう死刑になることはない。
不幸なことに罪人はもうここから出ることはない。
あとはここで朽ちるだけだ。
「王に仕えていたのに、なんで看守なんかしているんだい」
罪人の言葉に看守は答えなかった。
否。
答えてはならなかったのだ。
彼女の脳裏に先日、王とした会話が思い出される。
『なに? 此度捕まった罪人は君の同郷だったのか?』
『はい。昔は仲が良かったのですが』
『ふむ』
ノクスは聡明な王だった。
そして、同時に察しの良い王でもあった。
看守の声の調子と表情で全てを察してしまったのだ。
『君。看守の仕事に興味はないか?』
『看守にですか?』
『あぁ。罪人が逃げぬよう見張るのだ。特に後のない罪人が決して逃げ出さないように』
新王は強要しなかった。
そして、飽きたならばいつでも自分の下へ戻れとも言った。
故に看守の答えもまた決まっていた。
「おい。聞いてんのか?」
随分と罪を犯してしまった元恋人を看守は見つめた。
人が語る姿と自分の目の前の姿はまるで違う。
だけど、それを知るのは自分だけだ。
「黙れ。この囚人が」
「なんだよ。つれねえな」
きびきびと言葉を返すと罪人は舌打ちをした。
しかし、表情はどこか明るい。
「まったく。お前みたいな真面目な奴をこんな場所で働かせるなんてダメな王様だな」
少し迷った後に看守は笑った。
罪人に見えないように。
「あぁ。私もそう思うよ」




