3話 電話報告
一ノ瀬葵との出会いは、棚からぼた餅のようなものだった。
一見すればアイドルに似つかわしくない風貌で、橘自身も声をかけた直後に後悔した。
だが、その笑顔を見た瞬間、評価は一変する。
特別に容姿が優れていたわけではない。目鼻立ちはそれなりに整っていたが、ずば抜けて美人というわけではなかった。橘がそれまでに声をかけてきた人々と比べれば見劣りする。それなのに、笑顔を見た橘は、無謀な計画に一筋の光りが差し込んだような気がした。
理屈ではない。直感で可能性を感じた。
その日の夜、橘は加賀に近況報告の電話を入れていた。
「お疲れ様です。加賀さん、俺スカウトのセンスあるかもです」
一人目が見つかった安堵と、逸材を見つけたのではないかという高揚感から、橘の声は明るかった。浮かれ気味の橘とは対照的に、加賀はそうではなかった。
「へぇ、そうか。で、何人見つけた?」
「うっ……まだ一人ですけど、スターの原石見つけましたよ!」
「そうか、良かったな。年齢は?」
「今年18歳の、今は17歳の子です」
「高校生か。活動の許可は学校から出るのか?」
「いや、高校生じゃないんですよ。家が貧しいとかで、高校中退して、今はフリーターです」
「親の許可は?」
「あ。まあまた正式にグループが結成される頃にとってきます」
「歌は? ダンスは?」
「え? いやわかんないですけど、まあそのへんは練習してもらえばなんとかなるんじゃないですかね」
「契約書は交わしたのか? ちょっとスカウトされてその気になってるだけじゃないのか? やっぱりやりませんじゃ話にならないぞ」
「え、いや、まあそのへんは追々ということで。もう、せっかく見つけてきたのになんでそんな厳しいことばっか言うんですか」
「はぁ……。お前は本当に……」
浮かれた橘とは対照的に、加賀は冷静だった。水を差すかのように現実的な疑問を問いただした。勢いで発進した橘にその解があるわけもなく、調子の良いことばかりを言う。そんな態度に心底呆れたかのように加賀はため息をついた。電話先で頭を抱えていることが容易に想像がつく。
自戒すべきことだが、それで立ち止まるような男ならそもそもこんな無謀な計画はしない。橘は水を差されたことでムッとしながらも食い下がる。
「ちょっと今から写真送ります。敏腕プロデューサーから見てどうですか、この子」
「……お前成功する気あんのか?」
インカメラで撮影したツーショット写真を見て言葉を失う加賀。満面の笑みでピースをしながら画角の大半を占拠するスカウトマンと、その横で控えめにピースする少女。照れくさそうに俯いており、表情はハッキリ見えないが、アイドルが向いているとはとても言えない雰囲気だ。
「ちょっと! 失礼な! 俺は本気ですよ! この子は逸材です! 俺が磨いてダイヤモンドにします!」
手応えを感じていた少女を低く評価されたことで、カッとなった橘は語気を強める。自分が逸材を見出したという自惚れがある。誰も気付かない存在を見抜く目がある、そんな自己陶酔に浸かっていることを加賀は見抜いていただろう。だが加賀は何も言わなかった。優しさというよりも――。
「そうか頑張ってな。シンデレラちゃんはいいとして、他のメンバー集めも頑張れよ。アイドル“ グループ”なんだからな。楽しみにしてる。またな」
通話が切れた後、橘は深く息を吐いた。
――くそ。現実的な意見を言われると胸が痛い。加賀の言うことは正しい。正しいが、面白くない。
グループを作ると言い出したのは自分だが、見つけ方なんて知らない。時間の猶予も少ない。最低でもあと二人はいる。
焦燥感が胸を急かすが、一日中歩き回って疲れていた橘は気絶するかのように意識を闇に落とした。夢の中でも、彼は新たなメンバーを探していた。




