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並行世界で色々と。  作者: 白玉
少年の世界群
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1個目の世界①

谷下白矢の物語、1つ目です。頑張って10話は出しますので、ブックマークなどしてくれると嬉しいです。

「あぁ〜〜〜〜〜〜〜〜、やだぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。どうして学校なんてものがあるんだよ、滅べばいいのに……。いっそ異世界行きたい……」

 誰もが忌み嫌う月曜日、谷下白矢はそんなことを言いながら学校に向かって歩いていた。

(だって月曜日だよ?嫌に決まってるじゃん!もうやだ、帰りたい、帰りたい……)

 と心のなかでブツブツ唱えながら歩いていると、その横から声がした。

「白矢くん、おはよう!今日から新しい週だね!今から楽しみで仕方がないよ〜〜〜!」

「げっっ」

「どうしたの急に?お腹痛くなった?胃薬つかう?」

「い、いいよ別に……」

 今白矢が絶賛会いたくない人第一位のこの人、藍那萌。

「なぁ、あいつめっちゃ美人じゃね?」「ほんとだ、すげぇ美人!」「スタイルいいなぁ」「モデルとかかな?」と言われるまでに明るく美人なのに、なぜ白矢のような根暗陰キャに構うのか、とみんなが不思議に思っている(女子たちはなんとなく察しているような感じではあるが)。

 そんなこんなで、白矢達は学校に着いた。

(朝から面倒だけど、まぁ頑張るかぁ……お家帰りたい。)

「よぉ白矢、お前よく学校来れたなw早く帰ったほうがいいんじゃないのぉ?ほら、『闇の力が開かれるぅ〜』てなるんだろ?」

「「「「「「「「あっはっはっはっはっは!」」」」」」」」

 またまた来ました今一番絡まれたくない人第一位、網野絡!

 みんな察するとおり、彼はただのバカのくせに陽キャだから女子にキャッキャ言われててマジでうるさい(陰キャ協会調べ)。根っからのいじめっ子なのにどこに惹かれるのかはいまだ謎である。しかも女子も取り巻き化してるという謎の状況。

(いや、モテてんのに嫉妬してるんじゃないんだよ、今みたいにいじってくるのが嫌なんだよ!絡まれる理由?知らんっ!まあいいや、無視しとこ……)

「お?なになに?『感情ないから何も反応しない』って?すげぇ〜〜w」

(あぁーーーぶん殴りたくなってきた。どうしよ殴ろっかな……)

「あぁ〜ねみ……ほいおまいら席つけぇ〜〜〜い」

 白矢が席を立とうとした時、明らかに眠そうな教師が入ってきた。

(お、先生ナイスタイミング、殴らずに済んだ!ただでさえ危うい評定が終わるところだった!)

「はいじゃあホームルームはじめま……」

 先生がそういった瞬間、大きな揺れが襲った。騒然とする中、先生が慌てながら叫ぶ。

「お、おま、お前ら、お、おちつ、落ち着いて、机の、し、下に、潜れ!」

 まずお前が落ち着けというツッコミは置いといて、全員が身の危険を感じて、素直に机の下に潜った。毎年の避難訓練の賜物である。そしてそのまま、机に潜り続けていたが、揺れは一向に収まらなかった。

(おかしい……。今までの地震でも2〜3分くらいだったのに、5分以上続いてる……?)

 白矢がその異常に気づいた時、頭に直接、声が聞こえた。

『並行世界からの干渉を確認。これより、世界の融合を開始します』

(並行世界……?世界の融合……?なんだよそれ、いや、それよりも、この声は何だ……?)

 その瞬間、体全体をとてつもない痛みが襲った。

「うぐっ!あ、がぁぁぁ……!」

 そうして、段々と揺れが収まり、それにつられて、痛みも引いていき……

 ―――頭の中に、映像が流れた。

 見知らぬきらびやかな部屋にいる自分。平原で一人の女性と話しているときの自分。森の中で少女と遊ぶ自分。石造りの宿に泊まる自分。誰かと戦う自分。ナイフで串刺しにされる自分。仰々しい椅子に座る自分、大勢に呆れられている自分。……どれもこれも、見たことがないはずなのに、懐かしく感じる。

「よ、よし、お前ら、もう出てきていいぞ」

 先生の一言で、みんなが一斉に机から出てくる。そして、みんなの顔を見ると、やはりというか、みんなもあの映像が見えていたらしい。そこかしこでコソコソと話し合っている。

「とりあえず、津波はないようだから、ホームルーム続けるぞー」

 そうして、その日は普通に授業を受けた。


 あの謎の地震から、1ヶ月が経った。

 ニュースでは毎日専門家の分析や意見が飛び交い、陰謀論者が意味不明な説を唱えている。そして、政府や各国の首脳によると、あの謎の映像は、内容こそ違うものの世界中の人間全員が見ており、その誰もが「心当たりがない」といったそうだ。

「全く、最近はいろんな事が起きるなぁ……」

(結局、なんであの映像が見えたのか、未だ謎のままだしなぁ……)

 白矢がそんなことを考えていると、不意にチョークが白矢に向かって飛んできた。

「ガベッ」

「白矢ぁ、授業中に絵空事とは、随分と余裕そうだなぁ?」

「え、あ、す、すみま―――」

「そんなに俺の授業が簡単なら、ここの問題を、何も見ずに解けるよなぁ?」

 そう言って、先生が指した先に書いてあったのは。

「え、なんで社会の授業なのに三平方の定理!?」

 明らかにおかしい状況である。しかも、白矢は中学生、知っているわけがなかった。普通の生徒なら。

「えぇっと、ちょっと待ってくださいね、暗算しますから……」

「……は?」

「あ、分かりました!答えは―――」

 その瞬間、外からものすごい地響きが聞こえてきた。

「うわ、な、何だ!?と、とりあえずみんな、落ち着いて放送を聞くように!」

 そう言って先生は廊下に飛び出し、すぐに外に向かっていった。それを皮切りに、教室全体がざわざわし始める。そんな時だった。

「な、なんだよ、これ……うわぁっ!」

 空間が歪んだ。その場所に、黒いなにかが出てきた。厨二病ならこれを「ゲート」とでも呼んだだろう。そこから、異世界系のアニメや漫画ではおなじみの、だが現実にはいるわけのない生き物がいた。当然、その場にいた全員が騒ぎ出し、集団パニック状態になった。そんな中、白矢はというと、

(ん〜、なんでだろう、どっかで見たことある気がするんだよなぁ〜。どこだっけ……)

 そんな時、ついに謎の生き物達(3匹)が襲ってきた。

 棍棒で吹き飛ばされ、剣で弾き飛ばされ。抵抗しようと拳を振るった者も、頑丈な盾になすすべなく無力化される。そんな光景を見れば、当然、阿鼻叫喚の渦に包まれる。そしてついに、白矢に標的が向き、決して鋭いとは言えない、されど致命傷を負うのは確実な剣筋が迫る―――。


 瞬間、白矢は走馬灯を見た。

 白矢自身、その光景になんの疑問も抱いてはいなかった。むしろ、あの状況で死なない確率の方が高いわけがない、そう思っていた。

 だが、ふとした瞬間、白矢はそれを見た。本来ならありえない、現代科学でも存在しないと証明されている、だが、誰しもが一度は夢見た光景、その瞬間が見えた。

 その時、時が止まったような感覚が白矢を襲い、頭の中に声が聞こえた。

『並行世界との思考の一致を確認。これより、一部能力の取捨選択及び再構築を行います』

 その瞬間、白矢は自分の中に何かが流れ込んでくるような感覚を覚えた。

 その時、世界が動き出した。

 剣が白矢に迫る。まだ無事な者たちは、白矢の悲惨な姿を想像し、目を背ける。


「―――『武具創造』」


 白矢のその一言に困惑して、みんなが白矢の方を向くと、そこには―――。

「な、なんだよ、これ……」

 誰が言ったかなど、最早気にするものはいない。なぜならそこには、一方的な蹂躙の跡があったから。

 みんなの反応をよそに、白矢は続けて、ゲートの方に向き直る。

「『看破』!」

 そんな白矢の一言で、不気味に光り続けるゲートが消失した。

「……もしかしてみんな、スキル使えない感じ?」

『なんだよそれ!』

 全員の声が揃った瞬間であった。

 その後、白矢はクラスメートにスキルの発現方法と情報共有を行い、政府からこのことを隠そうとしたが、この学校は教師陣の不祥事も幾度か起きているせいで監視対象になっていたことから、白矢達は早急に取り調べ、もとい誘導尋問を行われた。

 その結果、世界が大きく変わるというのは、簡単に予想できた。

 ―――2、3週間ほど経って。

 国家機関の会議の緊急会議で決まったこととしては、様々な国で「全く同じ現象」が起きさそうで、その国々のもつ武力と、何人かの覚醒者(スキルや魔法が使えるようになった人達をそう呼ぶよう国家機関が定めたらしい)たちが対応し、一応はまた平和になったと言えるだろう、ということらしい。

 白矢は、ネット掲示板でそんな書き込みをぼんやりと眺めつつ、考え事(定期)をしていた。

 その時、部屋のドアがノックされ、祖母と、一緒に政府の担当者が入ってきた。

「こんにちは、白矢君」

「こんにちは、佐倉さん」

 佐倉古戸(さくらふると)、38歳。今回の「暦条(れきじょう)中学校(ちゅうがっこう)異変事件(いへんじけん)」の捜査本部の一員であり、白矢達当事者たちへの事情聴取やメンタルケアなどを担当しており、現在、事件の当事者である生徒たちの様子を度々見に行っているのだが、佐倉は白矢のことがとても気に入っているらしく、週に何回かのペースで来ているのだ。

 その後、佐倉からいくつかの質問をし、その後はいつも通り雑談をしていたのだが、ふとそこで白矢は何かの違和感を覚えた。その感覚は、誰かが何かを隠しているときによく感じるものだった。

「ん、どうしたんだい、白矢君。元気がないのかい?」

 半ばふざけるように言う佐倉に、やっぱり、と思いながらも、白矢は神妙な面持ちで聞く。

「佐倉さん。正直に言ってください。何か僕に、隠し事をしてますよね?それも、とても重要な……」

 すると佐倉は、やっぱりバレるか、と言いながら、右手で頭を掻いた。これも、よく嘘が見破られたときにする、佐倉のクセだった。

「あぁ、そうだ。本当は、話したくは無かったんだけどね。バレてしまったなら、しょうがないのかな。いいかい、白谷君、いや……『覚醒者』谷下白矢君」

 白矢は急に雰囲気が変わったのを感じ、半ば無意識に姿勢を正した。それを見た佐倉は、一瞬、やんわりとした、いつもの優しげな笑顔を浮かべ、すぐに真剣な顔つきに戻った。

「今から言うことは、今回の事件の当事者で、その中でも『覚醒者』の者全員に話していることだが、こと君にとっては、他の者達とは比較できないほど、大事なことだろうから、しっかり聞いてくれ」

 その言葉に、白矢の目つきが変わったことを確かめるかのように見つめた後、佐倉は続ける。

「―――政府は正式に、『覚醒者』の人体実験と、その結果次第では、人造人間……クローンで構成される、政府直属の特殊部隊、『対並行世界侵略防衛隊』を作ることを決定した。言っている意味は分かるよね?」

 佐倉の言葉にひどく動揺しながらも、白矢は答える。

「は、はい、言っている言葉の意味は、分かります。でも、何故急に?確か国連では、『各国の武力及び防衛力によって、平行世界からの侵攻を防ぐものとする』って、決まってたと思うんですけど」

「その、『武力及び防衛力』というのが、この件に深く関わってくるんだ。日本が武力を持たず、防衛力として自衛隊を配備しているのは、知っているよね?今回の部隊組織の主な理由は、二つある。一つは、部隊の名前のとおり、『並行世界からの侵攻を防ぐ』という役割。もう一つは……いや、これは重要機密だったな。すまない、忘れてくれ」

「な、なる、ほど……。それで、『覚醒者』全員に話しているということは、人体実験に参加してくれる人を探している、ということで間違いありませんか?」

「さすがは白谷君、僕の今日の目的を、ズバリ言い当ててくれたね。それで、どうだい、参加してくれないかい?」

 少し喜んでいるような声で、佐倉は白矢に詰め寄る。白矢は熟考しながら、一つの結論に至った。

「そうですね、僕としては参加したいのは山々なんですが、すぐには決められないことなので、追って連絡してもいいですか?」

「ああ、もちろんさ。それじゃ、僕はこれで失礼するよ。いい返事、期待してるね」

 そう言って、佐倉は部屋を後にした。


 ―――結構な時が経ち、白矢達は中学三年生になった。

 進級してまだ間もなく、お互いがお互いを意識し合って、なんとも言えない雰囲気が漂っているところに先生が来る、というのが、ここ数週間の日課となっている。

 白矢はと言うと、窓際の席で、春の陽気に包まれてウトウトしていた。

「窓際の席ぃ…………さいこぉ…………」

 そんな白矢のことを、周りの人はなんともなしにみていた。このクラス全員が白矢と面識がないことも、少しは影響しているだろう。少しだけ、雰囲気が和らいだ気がした。

 その後、ホームルーム担当の教師が入ってきたときの温かい雰囲気に驚き、そこからまた笑顔がふえるのだった。

その日の放課後。

クラスの喧騒を聞きながら、白矢はこの後の予定を考えていた。

「おいおいお前ら、仲がいいのはいいんだが、この後は職員会議なんだ、早く帰れー」

そう担任が呼びかけると、みんな慌てて帰り始める。

(……よし、家でやることも決めたし、僕も早く帰ろっと。)

そうしてクラスを出て、外靴に履き替え、昇降口からでた、その時。

感じたことのない威圧感が白矢を襲った。

(……!なんだ、この感じ……!)

白矢が校庭の方を向くと同時。

「ッ!結界、起動!」

校庭に現れた()()と校舎の間に、非常時のために備えてあった結界を作る。

瞬間。結界が割れ、ものすごく強い突風が吹き荒れる。風は空間の中心へと向かい、生き物の形を取る。

「なんだ、あいつ……?狼っぽいけど、なんか違うな……『看破』!」

魔風狼(まふうろう)フェンリル Lv.8765 風属性

人前に現れることが滅多にない、精霊を司る魔獣〈フェアリービースト〉の一種であり、神の使いとして崇めている国もある。全身が風で作られており、頭部にある角だけが実体を持っているが、魔力で固められているため、攻撃は通らない。氷属性の攻撃で風を凍らせ、実体化させるのが正攻法。』

(……なんか、ゲームの攻略本みたいになってるんだよなぁ。でも、見やすいしいっか!)

「行くぞ!『武具創造』!」

スキルの効果で白矢の手に一丁の銃が現れる。ただ、普通の銃とは異なり、全体が氷でできている。

「ちゃんと動いてくれよ……!『氷弾充填(アイシクルリロード)』!」

白矢の生み出した銃に、冷気を纏った弾丸が装填され、白矢のつけているベルトにもシェルベルトが作られ、補充される。

その間、わずか1秒。だが、伝説の魔獣であるフェンリルにとって、それは十分すぎる準備時間だった。

白矢が銃を構えると同時、フェンリルの角から魔力が放出され、魔法陣の形を作る。

白矢がトリガーを引き、フェンリルが幾多の魔法を放つ。

一拍。

白矢の放った弾丸がフェンリルの角を正確に狙い、撃ち飛ばす。

フェンリルの放った魔法が白矢を襲い、直撃、吹き飛ばされる。

「ウォォォォォォォォォォッ!」

痛みからの悲痛な叫びか、はたまた傷つけられたことへの怒りか。フェンリルが咆哮を上げ、白矢の元へと迫る。

白矢は、まだ意識がはっきりとせずに壁に少しヒビを入れていた。

フェンリルは、先の攻撃によって凍りつつある体を気にもとめず、白矢へ近づき───

[すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!]

犬で言うところの「伏せ」である。しかもそれが、ただの生き物ならまだしも、伝説の魔獣が、だ。

「うぅ……いったた……。って、え、な、何、この状況!?」

白矢が困惑していると悟ったのか、フェンリルが話しはじめる。

[そのぉ……急に目の前が暗くなったと思ったら、いきなりこんなところに来るもんで……。つい、貴方が犯人なのかと勘違いしてしまって……。ほんっとうに、すみませんでした!]

「い、いや、別に気にしてないから、大丈夫だよ……?」

[おぉ……。寛大なご処置、ありがとうございます!]

(……ん?ちょっと待てよ、こいつ、伝説の魔獣なんだよね?結構立場上のやつだよね??なんでこんなにへりくだってるの!?)

[何を言っておられるのですか、私めなどが貴方様より上なわけが!]

(わ、分かった、分かったから、もうちょっと離れて!近い!風で寒いし!)

[も、申し訳ありません、すぐに!]

そういってフェンリルが離れる。そして、

[取り敢えず、人の姿になっておきますね!]

「え?」

フェンリルを形作っていた風が一度分散し、今度は優しい風で人の形を作る。

「ふぅ……。こんなもんで、どうでしょう?」

現れたのは、それはもう完全に人間としか思えないような姿だった。

「すげぇ!流石フェンリル!……てなるかぁ!どういう仕組み!?ちゃんと教えてくれん!?」

「あ、はい。そもそも僕達|魔風族というのは、固有スキル『風真似』を持っていまして。一度見たことがあるものなら、風を使って再現することが出来るんですよね。それの応用です!」

「な、なるほ、ど……?じゃあ、魔風狼って呼ばれてるってことは、基本的には狼の姿なの?」

「いえ、それは少し違いますね」

指先に小さなつむじ風を起こしながら、続ける。

「僕達が普段いる場所……人間界では『精霊獣の森』と呼んでいるんでしたっけ。そこで単なる『精霊の守護者』として、ふよふよと空中を漂ってますね。人間界の土地は広いので、走りやすい狼の姿になっているだけですね」

「へぇ、中々面白い仕組みなんだね。それじゃあ、いま手で作ってるそれは?」

「はい、『風真似』で作ってます。あ、一応これは単なる魔法と違って精霊を媒体にせずに使ってるので、仕組みはちょっと違いますけど」

「ほぉ。じゃあそのへんの話をもう少し詳しく……あ、先生!」

「白矢、大丈夫か!?怪我は!……って、白矢、誰だそいつは?」

「えぇっと、まぁ、他の世界の精霊っぽい感じです」

「すんごくざっくりやんわりとした言い方ですね!?」

「まぁ、白矢が大丈夫ならいいんだ。安心しろ、他の生徒達はもう帰らせた。あとは、あの人達からの事情聴取だけだぞ」

「え、事情聴取って……アッ、佐倉さん!?」

「……ご協力、いただけるね?白矢君」

「……ハイッ」

その後、取調室にて。

「それじゃあ白矢君、状況の説明を」

「はい……といっても、自分でも全然わからないんですが」

「それでも結構。知っていることを洗いざらい吐いてくれればいいからさ」

「わかりました。まず、僕が下校しようと昇降口から外に出た瞬間、急に辺りの魔力が荒れるのを感じまして、急いで結界を作動させたのですが、結界を破って魔力を帯びた風……いや、風自体が魔力で出来ていたのかもしれません。とにかく、その風がどんどん校庭の中心に集められて、巨大な狼の姿になって。なので対処しました」

「それじゃあ、現場にいたあの子は?犯人か何か?」

「いえ、あの子こそが、あの風の正体そのものです」

「風の正体、そのもの?どういうことだい?」

「本当にそのままの意味です。その、風で作られた狼が人の姿に形を変えたのが、あの子なんです」

「なるほど、それで『風の正体そのもの』か。あぁ、そうだ、伝え忘れていたよ。あの子は今、君の家でくつろぎながら、君の帰りを待っているよ」

「そうなんですか?ありがとうございます!」

「まぁ、一度取調べしようとしたんだけど、どうも僕達と言語が違うのか、全然話せなくてね、諦めたわけだよ」

「はえ〜、そうなんですね〜」

(うん、これはもうあれだな、あの子と話せることを伝えたら、更に面倒が増えるな、うん、黙っておこうそうしよう!)

「それじゃあ、あとは帰ってもらってもいいよ」

「あ、はい、ありがとうございましたー」

白矢が部屋を出ると、虚空に一つの影が生まれる。

「……行ったか?」

「えぇ、もう大丈夫ですよ」

「いや、助かったよ。フェンリル相手に初戦闘で勝利する少年なんて、気になって仕方がないからね、いい議題が出来たよ」

「それなら幸いです。……どうでしたか、彼は」

影は、重々しいため息を付きながら、佐倉に話す。

「彼は―――間違いなく、『観測者』の一人、あるいは分身体だ。あの強さ、魔力の質、そして名前まで。偶然とは思えん」

「ほぉ。同じ『観測者』の一人である貴方に、そこまで言わせるとは。将来が楽しみですね」

「あぁ。彼はきっと、これから起こる災いたちを退け、英雄として名を刻むだろうな。……道を、間違わなければ」

「……それは、どういう?」

「さぁ、知恵と取っ掛かりは与えた。あとは君たちで、世界の歴史を作り給え。『観測者』の仕事は、ここまでさ」

そう言い残すと、影はまた闇の中に溶け込んだ。

「……道、か。これは少し、面倒そうな仕事だ」

取調室の前で今も例の子と遊んでいる白矢を見ながら、独り言を呟く。

「―――うまく、使われてくれよ?谷下白矢君」




それから、一ヶ月と少しが過ぎて。

「―――いよっしクリアー!全く、一晩でクリアできるなんて、あの会社のゲームも落ちたもんだなぁ!ハハハー!」

白矢は、自室で新作のゲームをクリアしていた。その目のもとには濃いクマが出来ていて、更に日も昇っている。誰が見ても徹夜したとしか思えない姿であった。

「よし、この調子でエンドコンテンツも……ん?誰か来る?」

白矢の予感通り、すぐにインターホンが鳴る。

「はいはい、今出ますよ〜っと。……待てよ、宅配なんて頼んでたか?ネット通販も出前も注文した覚えないぞ?……ま、いつものあの人でしょ」

(どうせ、「お宅の息子さん、いつまでゲームしてるのよ!」とか、「早く寝てもらわないと、うちのコに悪影響出るでしょ!」とかって怒鳴られるんだろうなぁ……。あそこの家の親御さん、ゲームの発売日の翌日には絶対来るしなぁ……)

「は〜い、どちら様……あれ、佐倉さん?」

白矢がインターホンで見た景色の先には、佐倉が軍人のような格好の人達を数名連れていた。

『やぁ、白矢君。少し、ドライブでもいかないかい?』

「いやどう見ても連行されそうな感じなんですけど!?」

『はは、安心してくれ。少しの間、君を部隊の指導官として所属させることになっただけだよ。ああ、安心してくれ。学校側にも了承を得て、単位は落とさないようにしているし、保護者の方にも説明、承認を得ている。あぁ、あと、これは政府が決めたことだから、どの道拒否権はないよ』

「……ちくしょう、完全に外堀埋められていやがる……!分かりましたよ、行けばいいんでしょ、行けば!」

『そうか、助かるよ。それじゃ、早速案内するとしよう。君、車を』

『はっ、直に』

『それじゃあ白矢君、荷物をまとめてくれるかな?』そうして、白矢は半ば強制的に連れて行かれるのであった。


夢を、見ていた。自分が高校生になって、異世界に召喚されて、魔王になる。そんな夢だった。面白いと同時に、何故か、懐かしいと思った。自分は、まだ中学生なのに。まるで実際にそこにいて、実際に生きていたかのように。この夢は、予知夢なのだろうか。はたまた、たまたまそういうふうな夢だったのか。ともかく今は、世界の危機に集中するときだろう。いくら夢の中の自分が今の自分と似ていても、


―――「ただの夢」に過ぎないのだから。


「―――君、白矢君、起きてくれ」

「んぁれ?たしか僕、軍に連れて行かれそうになって……あ、佐倉さん?てことは、もうついたんだ……」

「そうはいっても、5時に出たけど、今はもう10時だよ?だいぶ遠いと思うけどね。高速使ったし」

「そうなんですか?そこまでしてやっとつけるなんて、やっぱり現代(いま)の世を守る人達を育てる場所は、一味違いますなぁ」

白矢がそう軽口を叩いている間に、基地前の門についた。やはりというべきか、頑丈で尚且つ魔法も反射できる素材〈ミシルイータ鉱石〉で作られており、警備も5人体制という、まさに「不動の要塞」のような門であった。

「さて白矢君、準備はいいかい?」

「はい、いつでも!」

「いい返事だ、それじゃあ行こうか」

「はい!」

重厚な扉が重々しい音を鳴らしながら開き、最初に白矢の目に入ったのは、ランニングをしている兵士たちであった。ひと目見ただけでは単なるランニングだが、白矢には違和感が感じられた。

「あの、佐倉さん、あれって……」

「あぁ、ランニングのことかい?別に、何の変哲もない運動だけど?」

「え〜っと、多分、あれじゃあ全然足らないかと」

「……へぇ、というと?」

白矢の指摘に、佐倉は面白いものを見るかのような笑顔で続きを促す。

「そうですね、まず、運動を始める前の体力を100としましょう。佐倉さん、皆さんは普段どのようなトレーニングを?」

「そうだね、まず朝食の後に腕立て100、腹筋100、ランニング10kmをさせて、休憩兼自由時間のあと、今やっている、ランニング500km、昼食を食べて、朝食後と同じ内容、こんな感じかな」

「そうですね、全体的な流れはいいとは思います。ただ、彼らの『魔法』という才能があまり鍛えられていないような気がするんですよね」

「……なるほど。ちなみに白矢君はどんなトレーニングを?」

「えぇーっと、これは僕が『覚醒者』だからやっていて、他の人とは全然違うんですけど……」

「それでも、参考にはなるから、ね?」

どこから取り出したのか、佐倉の手にはボイスレコーダーとメモ帳があった。

「ではまず、朝起きたら魔力を0に近い状態にします。こうすると、体がすんごく重くなります。なんでそうなるかはよく分かってないですけどね」

「それじゃあ、トレーニングの合間にでも調べておくよ」

「お願いします。次に、その状態から食事や睡眠などで魔力を回復させます。それと同時に、運動したり、脳を働かせます。それで、魔力が大体回復したなー、って感じたら、あとはもうなにもないです。僕の場合、そこからスキルの練習をしますね」

「……なるほど、ありがとう。取り敢えず今日は、彼らの相手をしてやってくれ」

佐倉が指差す先には、見事なまでにきれいに一列に並んだ隊員たちがいた。

「……えぇ……?」

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