1つ目の世界
「あぁ〜〜〜〜〜〜〜〜、やだぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。どうして学校なんてものがあるんだよ、滅べばいいのに……いっそ異世界行きたい……」
誰もが忌み嫌う月曜日、僕、谷下白矢はそんなことを言いながら学校に向かって歩いていた。だって月曜日だよ?嫌に決まってるじゃん!
(帰りたい、帰りたい……)と心のなかでブツブツ唱えながら歩いていると、横から声がした。
「白矢くん、おはよう!今日から新しい週だね!今から楽しみで仕方がないよ〜〜〜!」
「げっっ」
「どうしたの急に?お腹痛くなった?胃薬つかう?」
「い、いいよ別に……」
はいきました今絶賛会いたくない人第一位のこの人、藍那萌!
先に行っておこう、こいつは幼馴染だが、何があったか高校に上がってから急に陽キャになったやつだ!けっっっっっっっっっっっっっっして!元から陽キャのやつと仲良くなれる陰キャなんて思うな!
まぁ、正直言って、こいつは昔から顔は良かった。同学年、いや、学校全員(教職員含む)から好かれてると言っても過言ではないだろう。だが、こいつには一回も彼氏ができたことはない。それはなぜか?それは、こいつが根っからのオタ陰キャだったからだ!
「藍那さん、顔も見た目も性格も最高だけどさ……」「でもなぁ……オタクだし……」「そもそも根暗だしなぁ……」と言われてたこいつだが、高校に上がった途端、「なぁ、あいつめっちゃ美人じゃね?」「ほんとだ、すげぇ美人!」「スタイルいいなぁ」「モデルとかかな?」と言われるまでに明るくなった!もうやだ!なんで僕みたいなどう考えてもオタクの地味な根暗陰キャに構うの!そこら辺の陽キャ共とでも仲良くしてろよ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
そんなこんなで学校に来た。朝から面倒だが、まぁ頑張るかぁ……お家帰りたい。
「よぉ白矢、お前よく学校来れたなw早く帰ったほうがいいんじゃないのぉ?ほら、『闇の力が開かれるぅ〜』てなるんだろ?」
「「「「「「「「あっはっはっはっはっは!」」」」」」」」
またまた来ました今一番絡まれたくない人第一位、網野絡!
こいつただのバカのくせに陽キャだから女子にキャッキャ言われててマジでうるさいんだよ、根っからのいじめっ子なのにどこに惹かれるんだろうな?しかも女子は取り巻き化してるし。
いや、モテてんのに嫉妬してるんじゃないんだよ、今みたいにいじってくるのが嫌なんだよ!
絡まれる理由?知らんっ!まあいいや、無視しとこ……
「お?なになに?『感情ないから何も反応しない』って?すげぇ〜〜w」
あぁーーーぶん殴りたくなってきた。どうしよ殴ろっかな……
「あぁ〜ねみ……ほいおまいら席つけぇ〜〜〜い」
あ、先生ナイスタイミング、殴らずにすんだ。
「はいじゃあホームルームはじめま……」
先生が喋ったその瞬間、床が光った。いや、「光っている文字が書かれた」といった方が正しいか。
どちらにせよ、突如こんなことが起きるなんて、もうあれしかないでしょ。
そう、僕が朝から思っていた、アレが。
「な、何だよこれ……!?」「な、何!?どうなってるの!?」「ふ、ついにこの時がきたか……」
どうやら、クラス中がパニックになっているようだ(一部の厨二病を除いて)。まぁ無理もないか、足元に急に『魔法陣』が出てくるんだもんな。だが、廊下からパニックになっている声が聞こえてこないことを考えてみると、どうやらこの現象は他の教室では起きていないようだ。と、言う事はだ。コレは定番である、『1クラスだけ異世界召喚』と言うやつだろ!そして何故僕は冷静なんだ?……どうでもいっか!
なんてことを考えていたら、光がだんだん強くなってきた。そろそろ召喚の時間が来たのだろう。いずれにせよ、異世界、存分に楽しんでやる!
その瞬間、視界が白い光で埋め尽くされた。
それから10秒くらいたった後。
少しのめまいのあと、目を開けるとそこは、めっっっっっちゃ白い神殿のような場所だった。
(ホントに異世界来ちゃったよ……)
などと感慨に浸っていると、奥から人のような豚が出てきた。いや、人ではあるのだが、いかんせん体の形が……豚みたいだったから。
「よくぞ召喚に応じてくれた、勇者たちよ」
何あいつすんげぇ偉そうな口調。まぁ実際偉いんだろうけど。てか『応じた』てなんだよ、強制的に召喚されたんだが?
「私はこの国の大教会の大司教を務める、レスガン・ロマント・センタルスである」
あ、司教さんだった。あれ?じゃあこれも定番の『今この国は魔王からの攻撃により、危険な状態にある』とか言うやつじゃね?
「ちょっとまってくれ、いきなり召喚されても、一体何のことかさっぱりわかんないんだが?勇者だって?そんなの存在すんのかよ!?」
クラスメイトの一人が言った。まぁ、当然の質問だろうな。それより気になるのは、『この中の全員が』勇者なのか、『この中のひとりが』勇者なのかだ。それによって、今後の行動の指針が変わってくる。まぁ、真っ先にそれを考える時点で、もう異世界だと心が決めたんだなぁ、と思いつつ、続く司教の言葉に耳を傾けていた。
「落ち着いてくれ。たしかに急な召喚だったことは確かだ。それは済まなかった。次に、『勇者は実在するか』という問いに対してだが、勇者は確かに実在する。それはすぐにわかることだろう」
『すぐに分かる』。それはつまり、ステータスプレート的なやつがもらえるのだろうか。
「とりあえず、召喚されたときの疲れがあるだろうから、今日は休んでいてくれ。勇者たち一人ひとりに部屋を用意してある。神官たちが案内するゆえ、ついて行ってほしい」
なんと、一人ひとりに部屋一つと。クラスメイトは全部で30人だったから、だいぶこの教会が大きいことが分かる。とりあえず、部屋がどのようなものか見てみるか……
「こちらが勇者様の部屋となります」
驚いた。僕に与えられた部屋は結構広かった。元の世界でいうと、大体20坪程だろうか。一人で使うには広すぎる気もするが、勇者にはこれくらい必要だと思ったんだろう。まぁ、ありがたく使わせてもらうか……あれ、召喚した目的、聞いてなくね?
そんなこんなで、訓練場に来ました〜。パチパチ〜。
なんで来たかって?そんなのは簡単だ。なんと、なんっっっっっっっっっっっっと、ステータスプレートが配られるんだってよ!しゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!ほんとこれ聞かされたときは30分くらい踊り狂ったからなぁ。すんごい楽しみ。
「ではこれより、ステータスプレートを配布する」
お、きたきた……あれ、あのおっさん誰?昨日の大司教さんじゃないな。もしや、王様だったりするのかなぁ。
「申し遅れた、我は、この『ノグドラント王国』の王、ランリトル・マリフォナ・シンノーである」
あれ、この王様の名前ほぼ薬物な気がするんだが?だめだ、心配なってきた……。ま、そんなことよりステータスだよ、ステータス!てあれ、これただのカードでは……?なんにも書いてないやん。
「その板に触れると、自動的にステータスを開くことができる。たまに映るまで時間がかかることもあるが、まぁ気にせんでよい」
あ、そうなんだ、と思っていたら、ステータスプレートに文字が浮かんできた。ああよかった、写らないのかと思ったもん。………………んぁれ?
『谷下白矢 16 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■』
「なぁにこれぇ」おっと、驚いてついネットミームを……。
まて、一旦整理しよう。
「おお、俺は戦士か!」「私は魔法使いだって、やったー!」「僕は召喚士かぁ、どうやって技使うんだ……?」みんなそれぞれジョブは違うのか、ならいろんな戦術が組めそうだな……。
「しゃぁっ!俺は勇者だ!」
なぬ、勇者とな。さて声の元は……終わった、あいつだ、クソ陽キャだ。
「王様ーーー!勇者はこの俺、網野絡だぜーーー!」
「なんと、そなたが勇者か!他に勇者のものはおるか?」
誰も名乗りを上げない。終わった。僕絶対パシられる……。
「では勇者よ、後ほど、使いの者とともに謁見室に来てくれ給え。そこで話をしよう。では、他の者たちは勇者殿と話が終わったあとに呼ぶゆえ、部屋で待っておれ!」
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、どうしよ……。
そして、謁見の時間。
「皆のもの、顔をあげよ。此度は勇者召喚の儀に応じてもらい、誠に感謝する。早速だが、皆のジョブとスキルを、順番に言ってもらいたい。順番はどうでも構わん」
来たよ、来ちゃったよ、このときが……。王様になんて言えばいいんだよ。まぁ出席番号が最後で良かった…………………。
「次は、タニシタ殿、頼む」
「はい、私のジョブは不明、スキルも不明です」
あ、ついホントのこと言っちゃった……終わった……。
「なに、不明じゃと!?こやつ、『魔王の子』か!」
え、魔王の子?なにそれ、美味しいんですかい?
「貴様何ぞ、人ではない!即刻に立ち去れい!」
え、あ、国外追放?マジ?
数分後。
「ほんとに追放されちった……まじか、今日から野宿か……いや、道具とか何も持ってないんだけど!?むしろ金とか武器もないよ!?どうしろってんの!?あの老害がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
なんて口では言いつつ、心の中では
(計画通り……)と、新世界の神のような笑みを浮かべながら思っていた。
だってそうでしょ、魔王討伐にも政略のコマにも使われない、とっても充実した自分だけの生活、スローライフが送れるんだ!
「そういえばステータスプレート、どうなってるのかな……」
んぁえ!?スキルが何個か読めるようになってる!ええと、なになに……?
『創造 自らが想像したものなら何でも作ることができる』
『オタク 知らん。』
「うん、さっぱりわからん!あと説明仕事しろよ!」
まぁとにかく、能力は使ってみないとわからないし、試してみるか……。
「スキル発動、『創造』!」
試しに唱えてみる。スキルの使い方なんて知らないから、とりあえず定番の使い方から試すことにしたのだ。
程なくして、目の前に想像した通りの剣が現れた。細部の装飾まで完璧に再現されている。あとは、思った通りの素材でできているかだが、それを確かめるスキルなど持っていない。いや、持っているのかもしれないが、文字化けしているからわからないのだ。
(まてよ、確か創造って、『何でも作れる』んだよな。なら……)
「スキル発動、『創造』!」
今度は自分にスキル『鑑定』がつくことをイメージしてみた。さて、どうなるか……お、スキル欄に『鑑定』が追加されてる!計画通り!では早速……
「スキル発動、『鑑定』!」
『ショートソード(?) レベル:レジェンド
見た目はただのショートソードだが、戦闘時に所有者の魔力を吸収して、様々な効果を発揮する。また、所有者の魔力がない場合、生命力を吸収する。素材:ミスリル、コンダルト、エクルトル』
うんうん、頭おかしいほどに強化されとるな。何だよショートソードで伝説級て。なんだよ魔力吸って色々効果起きるて。何だよコンダルトとエクルトルて。知らんよそんな素材。なんで名前の後に(?)がついてんだよ、何だよそれ。まあいいか、使えればいいんだ、使えれば。
あと、もう一つのスキルも使ってみよう。
「スキル発動、『オタク』!」
と唱えた瞬間、目の前に魔法陣が出てきた。すんごい異世界っぽいなぁ。いや、実際に異世界なんだが。
「あ、はじめまして〜?デアーズでーす☆」
なんかすごいギャルきた。
「は、はじめまして、谷下白矢といいます、よろしく……」
「へ〜、いい名前じゃん!これからよろしくね、タニシタ君☆」
「う、うん……」」
どうしよ、これからこの人と冒険するのか……居住空間作んないといけなくなったぞ……。あ、そうだ、デアーズさんのステータス、どんなもんなんだろ……。
「あの、デアーズさん……」
「さん付け不要!むしろタニシタ君が主なんだから、どんどん命令とかしていいから!」
「あ、うん……それじゃぁ、デアーズ、ステータスを見てもいい?」
「いいよいいよ〜、どんどん見ちゃって!」
「それじゃぁ、スキル発動、『鑑定』!」
『デアーズ 15 体:47194/59682 魔:394820/594838 職:魔法剣士
スキル:五感強化 剣術の心得X 魔術の心得X 身体強化 睡眠 』
ふむふむ、剣術の心得と魔術の心得、身体強化はまだ分かる。睡眠てなんだよ!それスキルなの!?まぁ細かいことは気にせんでええか……。
「うん、大体わかったよ、ありがとう」
「全然いいって言ってるじゃん!そうだ、タニシタ君のも見せてくれない?」
「うん、いいよ。でも、どうやって見るの?『鑑定』は持ってないんでしょ?」
「え、だって、君ステータスプレート持ってるから、それ見るつもりだよ?」
「あ、なるほどぉ」
確かに、ステータスプレートをずっと手に持ってたな。
「ほい、どうぞ」
「ありがと〜!えーと、うんうん……え、なにこれ、どゆこと?」
「まぁ、そうなるよねぇ……読めない字で色々書いてあるんだもん……」
「え?谷下君、これ読めないの?」
「え?」
「え?」
「「ええええええええええええええ?」」
どういうことだろうか。言語が読めないとか?いや、王宮の本は普通に読めた。じゃあステータスが読めないのはなんでだ?誰かの隠蔽工作?それとも、今は存在しないと言われている、「ヘルムーツァ」の国の言語……?それなら……!
「スキル発動、『創造』!」
よし、スキルに『言語理解』が追加された。これで読めるはず……
『谷下 白矢 16 体:???/∞ 魔:???/∞ 職:無職
スキル:創造 オタク 言語理解 鑑定 魔を創りし者 生産物強化 天上天下唯我独尊Ⅰ
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「いや結局スキル殆ど見えないんかい!」
『言語理解』でも読めない(?)ということは、条件を満たせば使える、とかだろうか。だとすれば、『創造』と『オタク』以外は、自分でこのスキルが取得できるというイメージを持って『創造』を使ったから入手できた、と考えられる。というか……
「谷下君、ヒキニートだったんだ……」
「そういう事言わないでよ!すでに僕の心に刺さってることを更に突き刺さないでよ!」
そう、これである。この世界では、職業によって自分の得手不得手が分かれる。例えばデアーズの魔法剣士は、剣術と攻撃魔法の両方が強化され、逆に剣以外の武器や回復魔法などの他の魔法が弱体化される。これは王城の図書館で読んだ。というかこの世界についての大体は本で読んだ。話を戻して、職業ニートということは、『引きこもっていると強くなる』みたいなことでしょ絶対!そして何より、周りの視線が痛い!「え、あいつニートなの……?え……?」ていう目で見られるって絶対!
「終わった……終わった……」
「まぁまぁ、そう落ち込まずに……それより、この、すんごい長い名前のやつは?」
「あ、そうだ、これもよくわかんなかったんだった……。よし、スキル発動、『天上天下唯我独尊』!」
噛みそうになったが、ちゃんと言えたぞ。さて、なにがおきるんだ……?
「何も……起きないね……」
「うん……もしかして、戦闘中に使えるやつなのかな……?」
「なら、試してみようよ!多分、その剣の試し切りもまだでしょ?」
え?と思いつつ周りを見渡すと、いつの間にかスライムっぽいやつが周りにいた。見た目は丸く、何匹かは少し色が違う。きっと少し種類が違うのだろう。
「そうだね、やってみよう!スキル発動、『天上天下唯我独尊』!」
お、なんか剣からオーラみたいなのが……。これがスキルの効果か?
「おりゃ!」
ブスッ、という音を立てながら、剣がスライムに刺さった。すると、剣についてたオーラが、スライムに入っていった。
(え?もしかしてこれ、中からドッカーンするやつ?)
試しに剣を抜いてみると、スライムが蠢き始め、そして―――――
「ふぁぁぁぁぁぁぁ、やめてください〜」
人間みたいになった。そう、人間のように。え、なんで?敵を倒すんじゃなくて、仲間にするとか、そういうスキルってこと?う〜ん、全く分からん☆
「お〜い、スライム倒すの終わったよ〜……え、誰その子……」
そうだった、めっちゃいるスライムと戦ってたんだった……
「えと、スライムにあのスキルを使ったら、こんなことに……」
「ごめん、何言ってるかわかんない……」
「僕もよくわかってない……」
て、そろそろ日が暮れるじゃん!野営の準備……あれ?家を『創造』で作ればよくね?
「スキル発動、『創造』!」
そして現れたのは、すごく理想的な、木でできたログハウスだった。これに関しては結構考えた。部屋数、間取り、家具の配置などなど……まぁ、そうした理由は一回スキル使うだけにして楽したかったのと、スキルが今どのくらい使えるかを試すためであった。
「え……うそ、家まで作れるんだ……。じゃあ何でも作れるじゃん……」
「ふぇぇぇぇ、ど〜ゆ〜こと〜!」
まぁ、デアーズは置いといて、当然の反応だよな……。
そして十数分後。
「おいしぃぃぃぃ!」
「料理まで作れるなんて、谷下君ほんとに何者!?」
「いや、まぁ、うん……一応人間のつもり……」
そう、二人(スライムであっても人の形してるから一応)が食べてるのは、僕のオリジナル料理、『簡単楽々チキンカレー』である。ルーは普通に『創造』で作ってみたら、味も完璧に再現されてた。なぜ分かるかって?そんなの簡単、ほぼ毎日三食コレを食べているからである。
「とりあえず、一人一つ部屋があるから、そこで各自休んでて……」
「わ、わかった……」
「は〜い」
あぁ、疲れた。一日で色々ありすぎた……というかほんとにこれ一日で起きたことなの!?召喚されて、国追放されて、やばめのスキル持って、異世界のキャラとスライム娘仲間になって……とりあえず、疲れたから寝たいけど……
「スキルについて色々試したりしてみないとな……スキル発動、『創造』!」
とりあえずエナドリをつくった。作業するならこれがなきゃな!
そして、その日に明かりが消えることは無かったのであった……。
そして数日後。
一行は、王国から南に進んだところにある森に滞在していた。街とか国とかもあったけど、滞在するのもめんどくさいし、なにより僕達、金がないんですよ!銅貨一枚も!だからまぁ、森なら色々楽なんだよ。食料自分たちで取れるし、家が自由に建てられるし、人間関係とかないから楽だし……まぁ、我が家の人間構成は色々と大変だがな。何が大変かというと……
1、スーラ(スライム娘の名前)の主食が雑草だということ。流石にずっと森にいるわけじゃないから、街に行かなければならない時にどうしようか悩む。
2、デアーズのご飯の消費量がすごいこと。なんでも、『こっちの世界は元の世界と比べて栄養とか少ない』んだそう。僕からしたら、元の世界よりもずっと栄養が高いんだけどね。
とまぁそんなわけで(?)、行きたい場所も目標もないので、今は森で暮らしている。すると、
「とーさまとーさま、スライムの森、いかない?」
とスーラが話しかけてきた。スライムの森?スライムがいっぱいいる森ってことかな?
「そうだね、面白そうだし、行ってみるか!」
「わーい!」
スーラ、すごい嬉しそうだな。ぼくも興味あるし、あとはデアーズ次第だけど……
「スライムの森!?なにそれ、面白そう!行きたい!」
めっちゃ乗り気だった。
「よし、じゃぁ行くか!」
「「はーーい!」」
え、なんでスーラが僕のこと『とーさま』って呼ぶか?こっちが聞きたいわ!
数時間後。
「お、おぉ……」
スライムの森についた。ついたのはいいんだ、ついたのは。だが、そこに広がっている光景が、ちょっと……あの……はい。察してもらって……
「な、なにこれ……」
デアーズも流石に困惑している。一方、スーラは……
「わーーーーい!」
めっっっっっちゃ喜んでた。見た目人間でも、元はスライムだもんね……
「おや、人間さんじゃないですか。ここになにか御用ですか?」
声のした方を見ると、なんということでしょう、人間のようなスライムさんが!あれ?もしかしてスライム、みんな人の姿になれる?
「あら、スライムが人の形をしていることに、疑問をお持ちですか?」
「はい、まぁ……いや、うちの子(?)も人の形になってるんですが、その仕組みがどうも……」
「あぁ、それなら簡単ですよ。進化すればいいんです」
なぬ、進化とな。ますますあのスキルの効果がわからなくなってきたぞ。
「その進化って、条件はあるんですか?」
「いやぁ、あるとは思うんですけどねぇ……正直、よくわかってないんですよ……」
「そうなんですか……」
ふふ、面白そうなテーマじゃぁないか……!
「よし、しばらくここに滞在しよう!」
「え!いーのー!?やったー!」
「え、マジ……?ここに……?」
まぁ、デアーズがこういう反応するのも無理ないんだよね……さっき話を濁した、ここの景色だけど……うん、木とか建物とか地面とか、とにかくすべてがスライムで出来てるんだよね……しかもちゃんと粘ついてるっていう……。
「でも、スライムが人の形になる条件がわかれば、戻す方法も分かるってことじゃん!」
「な、なるほど、たしかに……あれ?でも、スーラって、たまにスライムに戻ってない?」
「あ、それはね、『形を潰してる』っていう感じになってて、厳密には戻ってないってことになるんだよ」
「あ、なるほど〜、そういうことか!全然わかんない!」
「おい!」
「よくわかんないけど、ここにいれるんでしょ?わ〜い!」
みんな相変わらずであった。
1週間が経った頃。
「なぁるほどなるほど〜」
「お、ついに?」
「あぁ、見つけたぞ!進化の条件!」
「えぇ!教えて!谷下センセー!」
「あぁ、まずは……」
そう、やっと見つけたのだ!条件を!その条件とは、
1、一定数の種類の草を食べる
2、一定回数の分裂を行う
この2つである。それでも進化しているスライムは少ないが、これに関しては分裂の条件が難しいためである。それは、『魔物を一定数捕食する』ということである。そもそもスライムは戦闘能力が低く、稀に生まれる突然変異種だけが分裂できるとまで言われるほどだ。では、なぜスーラが進化できたかというと、やはり僕のスキルが関係していた。
「スーラの進化に関しては、やっぱり僕のスキルが影響していたよ」
「あ、そうだ、結局あのスキルの効果ってなんなの?」
「うーん、それが、よくわかってないんだよね……」
そう言って、デアーズにスキルの説明欄を見てもらった。それがこれである。
『天上天下唯我独尊Ⅰ 剣に特殊な力をまとわせ、攻撃した相手が死ななかった場合、自分の手下とする。{404 not found}』
何故スキル欄にコード404があるのかは置いといて。僕らは話を進める。
「なるほど、だからかぁ〜」
「でも、スキルのレベルアップって、どうやるんだ?」
「さぁ……私のは全部最初からレベル上がってたし……」
「「うーーーーん……」」
そういえば、スーラのステータスを見たことってなかったよな……データがあれば少しは分かる気もするけど……。
と、二人で悩んでいると。
「とーさま、おねーちゃん、なにしてるのー?」
「お、ちょうどいいところに!スーラ、ステータス見てもいい?」
「うん!」
スキル『鑑定』を使って見てみた。すると、
「ん゙、ナニコレ?」
工作番組のマスコットみたいなこと言っちまった。それもそのはず、ステータスがとんでもないからである。
『スーラ 16 体:30000/100000 魔:500000/1000000 職:ゴッド・スライム
スキル:言語理解 吸収 森羅万象 神の威光 神の祝福 神の嘆き』
うん、どう考えてもおかしい。16歳でこんなロリコンが狂喜乱舞するような見た目なん?体力十万って何?魔力に関してはもう百万行っとるやん。ほぼチートやろこんなん。あ、神だから正常か。いや神のスライムってなんだよ!僕神獣を仲間にしたんすか!?いや神獣どころか神自身?とりあえず色々おかしいのはわかった。とにかく、どう対処すればいいか悩む。
「これまでの無礼、お許しください、神様……」
「え、ちょ、デアーズさーん?」
「ちょ、なんで谷下君頭下げないの!相手は神様だよ!?」
「おねえちゃん、あたまあげて!」
なんだろう、このカオス空間は……。いや、まぁ、僕が原因なのかもしれないけど……。
「あのなデアーズ、僕はスーラの主、つまりスーラの上の存在なのだよ!」
「なんか偉そうなこと言ってる!」
いや実際偉いからな!(?)
それより、これからどうしようか。やりたいことやったし、どこ行こう、てか何しよう……?
「なら、ここに住みませんか?」
あ、最初にあったスライム姉さん。
「え、いいんですか?僕達みたいなよそ者が住んでも」
「えぇ、構いません。それに、我々の神様もいらっしゃいますしね」
なるほどたしかに、自分たちの神は近くにおいておきたいもんな。まぁ、滞在しない理由もないし、ありがたく住まわせてもらうか。
そして数日後。
「とりあえず、持ってこれたな」
「うん……そうだね……あもう驚き疲れた……」
「とーさま、すご〜い!」
そう、持ってきたのである、家を。え?どういう意味かって?そのままの意味だよ、もちろん。
理屈は単純である。新しく作ったスキル『収納』に家をそのまま入れたんだよ。ちなみに容量は無限である。本来魔力量によって大きさは変わるらしいので、当然と言えば当然である。
「え、あ、もう家が……!?」
「あ、どうも。改めて、これからよろしくお願いします!」
いやぁ、これから楽しみだなぁ。色々!
そうして白矢が自由に生き始める前、王城では。
「白矢君、大丈夫かな……」
「へっ、あんなただの陰キャ、空気濁すだけなんだから、追放されて俺は最高に嬉しいぜ!」
「確かにな!」
「あいつ女子を見る目キモいもん〜」
「まぁどうせ一緒にいてもすぐ死ぬっしょw」
「ほんとそれな〜」
白矢に関する見当違いなことを散々言っていた。唯一心配しているのは藍那萌だけである。まぁ、全員陽キャなので、仕方のないことではあるが(理不尽)。
「よし、皆揃っているな。ではこれより、武器の配給を行う。全て伝説級の最高品質であるため、存分にその力を振るうが良い」
「え、レジェンド!?めっちゃ強そうじゃん!」「可愛い感じのがいいな〜!」「俺は絶対攻撃しやすいやつだ!」「楽しみ〜!」
そうして、伝説級でもなんでもない、ただの飾り付けた普通級の武器で大喜びする、勇者(笑)一行なのであった……。
そしてそれから1週間後、勇者一行は王国の近くにあるという『スライムの森』を目指して、平原を進んでいた。
「よし、そろそろ野営するぞ―!」
網野の一声でみんなが動くようになった。コレが勇者の力というやつなのか、ただ陽キャだから従っているのかは知らないが、統率は取れているようである。そして、
「ねぇ、この平原、おかしくない?」
「だよな、いくら魔物が少ないっていっても、今まで一体も出てきてねえぞ……」
皆、平原の異変に気づいていた。まぁこの異変、白矢が全て狩り尽くしたからなのだが、それを知る由もない者たちは、全く違うことを考え始めるのであった。
所変わってスライムの森、白矢は悩んでいた。
(なんかあいつらがここに向かって進んできてる……)
そう、勇者一行の対処である。頭がお花畑と筋肉で出来てるあいつらなんかにあったら、「魔王の手先」とか「人間やめた」とか言われるに違いない。いや、人間やめてるのは合ってるんだけどね……。とにかく、対策を考えねば!
「え?勇者一行?無視すればいいんじゃない?めんどいし☆」
「ゆーしゃ?おいしーの?」
だめだこいつら、こっちの苦労を知らないっ……!あ、名案思いついた。
「勇者ども殺っちゃえばいいんだ……」
「さ、さすがにそれはやりすぎ!」
「邪魔するなら排除するまで!本で読んだ!」
「絶対ソレダメなやつだから!殺んないでね!?」
などとやっていたら。
「あれ、あいつどっかで見たことあんな……」
「あぁ……俺もだ……」
「誰だっけ……あの人……」
あ、普通に忘れられてらぁ。影薄いし当然だけどな。
「あれぇ白矢だぁ。てことはあいつ、ホントに『魔王の子』なのか?」
今の声は網野だな。本当これだから馬鹿なクソ陽キャは……!
「おいこら人を勝手に人間やめたみたいに言うな」
「いや実際人やめてるじゃん……」
「デアーズよ、それは言うな……」
「だ、誰だそいつ!」
「え?普通の人間だよ?」
「「「見たら分かるわ!!」」」
なんか三人同時に言ってたな。一人は網野だろ?あとの二人は……あぁ、網野の取り巻きか。
「とりあえず、なんの用?こっちも暇じゃないから、さっさと終わらせて」
「それはこっちのセリフだ取り巻きさんよ?お前らから来たんだからお前らが用件言えよ、こっちに用件あるわけねえだろ」
至極真っ当である。コレに反論できる意見あんのかな……?あっても理不尽な理由だろうなぁ……。
「俺達はな、ここにレベル上げに来たんだよ!もちろん皆でな!」
「アッ、ハイ、ソッスカ」
「棒読みすんなよ!」
でもまいったな、コイツラがここに来るってことは、もうここにはずっと入れなくなったな。仕方ない、ここは……
「よし、コイツラ殺るか……」
「えぇ〜?絶対ソッチのほうが後々面倒だって〜」
「しょうがないじゃん、だってこいつらずっと邪魔してくるよ?」
「よし、引っ越そう、白矢君!てわけでさよなら〜」
「おいこら待て!話は終わってねぇよ!てか何も話してねぇよ!」
うわめんど。そろそろ本気で殺ろうかな……。
「三秒以内に言え無理なら帰るはいさーんにーい」
「お前を殺しに来たんだよ!」
「え、それ本気で言ってます?」
「あぁそうだ、お前は勇者軍の面汚し、俺らの名誉のために死ね!」
「なるなる、つまるところ、自分たちのために僕を殺すと?」
「察しが良いじゃねぇか、俺の経験値になれーーー!」
おいおい急に襲ってきたぞ。本当にこいつ勇者か?まぁいいや、この腱の試し切りしよっと!
「……は?」
「うわぁお」
僕が初めて作った剣、普通の剣なら豆腐感覚で切れるんだが。こわ。
「な、なんで伝説の剣がこうも簡単に……」
「え?伝説?ただ飾り付けてるだけの石の剣が?」
「な、何言ってんだお前!これは正真正銘、勇者の剣だ!偽物のワケねぇだろ!」
「はぁ……話にならないな。じゃ、さいなら〜」
「お、おい待て!」
後ろで止める声がしたが、そんなことは当然無視する。
「白矢君強〜い!そんなに強いならさ、もういっそのこと、魔王軍いかない?」
なんと、魔王軍とな。
「たしかに勇者すぐに死にそうだけど、そこまでする?」
「だって魔王軍、めっちゃいいと思うよ?強いのいっぱいいるし、休み自由に取れるし、そんなに仕事量多くないし、何より福利厚生しっかりしてるよ!」
「超ホワイトだなおい、もっときつそうなイメージあったんだが?」
「いや、魔王が代替わりするまではだいぶブラックだったよ?何だっけ、働き方改革?ってやつで一気にホワイトになったんだよね〜」
異世界にも働き方改革あるんかい。てか魔王って代替わりするんだ……会社みたい。
「なんでデアーズ、そんなに魔王軍の事知っとるん?」
「え、昔働いてたから?」
「え、まじかよ……」
魔王が代替わりする前からでしょ?てことはだいぶ前か?デアーズ何者?
「デアーズって、人間なんだよね……?」
「え?私、魔族だよ?」
「え?まじ?」
「うん、マジ」
なるほど、じゃぁ魔王軍に行ったほうがいいのか……?いや、僕が目指すのはスローライフ、魔王軍なんてめんどいだけだろうし……
「いや、僕は魔王軍には行かないよ。それなら、デアーズが魔王軍に戻ったら?」
「……うん、そうだね。魔王軍に戻るよ、私」
どこか悲しげな顔をしていたのは気のせいだろうか。だが、僕が聞こうとする前に、
「じゃ、白矢君、また、いつか!」
いつもの明るい笑顔で、どこかに走っていった。もう、どうしようもないか……
「よし、これからまた、一人旅するか……つっても、そんなに一人旅してないけど!」
そうしてまた、旅に出ることにした。スーラはここに置いて行く。当てのない旅についていくより、仲間と一緒にいるほうがいいと思ったからだ。
挨拶は……しなくていっか。めんどいし。
スライムの森を離れてから数ヶ月が過ぎ。
僕はここ、『イガラスト王国』に滞在していた。その理由は、ここで冒険者登録をするからである。なぜなろうと思ったかって?金が必要なんだよ、金が!
まぁそれは置いといて、今日は冒険者登録のための試験が行われる日だ。ちなみに試験は年に数回あるかないかだそうで、外部への通達もないから、ギルドにいかないと分からないようになっている。内容も日程と時間だけなので試験内容は何も知らされていないが、実技は絶対あるだろう。逆に僕の得意な筆記はおそらくない。まぁなんとかなるでしょ、きっと。
そんな事をしている間に、試験会場である、冒険者ギルド隣接の訓練場についた。さて、僕以外の受験者はどんな人かなっと……、あ、ゴツいおっさん多っ……女性も何人かいるな……僕と同じくらいの年齢の人いない……うん、メンツ終わっとる☆
「全員揃ったな?では早速、試験を始める」
色々見ている間に、奥から強そうな人が入ってきた。現役の冒険者みたいだけど、名札をつけてたり制服みたいなの着てたりしてるから、多分ギルド職員だろう。
「まず、今回の試験内容について説明する。まずは基礎的な能力を測り、その後に実技を行う。そして最後に、筆記試験を行う。結果に関しては後日ギルドの掲示板に貼られるため、よく確認するように」
なんと、筆記試験もあるのか。大丈夫かな、予習とか全くしてないんだが……。
「では今から、基礎能力の測定を行う。まずは魔力量だ。測るときは、この水晶に手をかざすだけでいい。その時に光が出てくるから、その大きさと色で量と属性を測定する」
なにそれめっちゃワクワクするじゃん。あれ待てよ、僕の魔力量って無限だったよな?お決まりパターンだと水晶割れんじゃね?
「次、タニシタ!」
「は、はい!」
まぁ、なんとかなるっしょ。
そして案の定。
「あ〜やっぱりか〜」
「す、水晶が割れた!?」
やっぱりこうなるか。まぁ定番だし当然か(?)。
「す、すげぇ!こんなの初めてみた!」
「水晶って、絶対割れないんじゃないの!?」
「おとぎ話でしか聞いたことねぇぞ!」
「何者だよあいつ!?」
やべっ、面倒事になりそうな予感……。
「ま、まぁ、一瞬だが属性の色が見えたから良しとしよう。では次の試験だ!」
試験監督さん、すぐに立て直したな。そういえば色って黒だったよな……嫌な予感……。
「次は実技だ。各自、自分の最も扱いやすい武器を選んでこい!拳で戦うというなら、それでもいいぞ!」
武器、ねぇ……。片手剣しか使ったことないけど、まぁなんとかなるか……。
「ん?タニシタ、片手剣なのに盾を使わないのか?」
「あ、はい。盾があると考えることも増えますし、剣で攻撃を防げばいいだけなので」
「そ、そうか。だがさっきの魔力量、お前は魔法専門なのではないのか?」
「じ、実はその、魔法がうまく出来なくて……」
本当のことである。魔法の使い方なんてしらんし。
「なるほど、たしかに魔力があっても使えない者は多いからな」
良かった、納得してくれた。通じなかったら『魔法剣士』って言っちゃうところだった……。こっちに来てから厨二病的思考になっていっている気が……。気のせいか。
「ではこれより、実技試験を開始する!やりたいやつからかかってこい!」
あ、順番にやるとかじゃなくて、乱戦みたいな感じか。まぁ実際の戦いで順番も何もないから、当然ではあるか。じゃ、僕は中間らへんでやろっと。
「……誰も来ないのか?ではタニシタ、来い!」
いや指名受けちゃったよ。コレちゃんとやんなきゃだよね……?
「ハァッ!」
「ふむ、初撃はこの程度か。ではこちらからも行くぞ!」
いやまってよ、この人純粋に強くね!?
「どうした!反撃はしないのか!?」
てか剣さばきすげぇな。ここは一つ、『アレ』やってみるか!
「白玉流剣術、『螺旋切り』!」
「ぐあっ!」
そう、編み出したのである、『白玉流』を!作った理由はとっても簡単、『ゲームの技を使ってみたかった』、それだけである。え?どうやって技を使ってるかって?『創造』で頑張って作ったんだよ、昨日!
「白玉流剣術、『天地斬』!」
「ぐぅっ!」
「白玉流……」
「よ、よし、やめ!次の者、来い!」
えぇ〜〜〜?こっからが面白いのに〜〜〜。
そして皆の実技試験が終わって。
冒険者ギルドの中にある会議室で、筆記試験が行われた。予習なしで解けるかわからなかったが、基本的な計算(加減乗除とか)と魔物の特徴、魔法属性についての問題だった。計算については完璧だし、魔物の特徴は本で読んでいたし、魔法属性に関しては元の世界のゲームで学んだ。多分合格できるだろう。
三日ほど経って。
合格発表者が掲示板に書かれていた。もちろん僕の名前が書かれていた。意外と合格者は少なく、僕を含めて五人だけだった。あと、名前の下に英語が書かれている。多分ランクみたいなやつだろう。あれ?僕の下にランク書かれてなくね?
「お、いたいた、タニシタ!ちょっとこい!」
あ、あのときの試験監督さん。
「はい、なにか御用ですか?」
「いや、ちょっとここでは話しにくいから、部長室に来てくれ」
「はい、わかりました」
まぁ個人に話すようなことだから、こんな人が多いような場所では話しにくいだろう。なんだろう、水晶を割った件かな……?弁償とか……?そんな金ないって……。
そんなことを考えながらギルド長室に入る。部屋は広くもなく狭くもなくという感じで、一人暮らしのマンションの部屋くらいだった。
「君がタニシタか。私はこのギルド支部の支部長、サンルゴーラという。君の話は聞いている。まぁ、適当にかけてくれ」
「はい、失礼します」
支部長さんと向かい合う形だ。受験のときの面接思い出すなぁ……。
「まず確認だが、魔力測定の時に水晶を割ったというのは本当か?」
「は、はい……その……」
「いや、責めている訳では無い。ただ、その異様なまでの魔力量をどうやって制御しているかが気になってな」
「え、魔力って制御するものなんですか?」
「なに?魔力制御を行っていないのか!?」
「な、なにかまずいことがあるんですか……?」
「いやな、そもそも魔力とは……」
めっちゃ長かったので要約すると、
・魔力は本来人体に悪影響がある
・魔力を自分の体に循環させることで体外への放出を抑えられる
・水晶を割るほどの魔力量で制御せずに害がないのはおかしい
ということらしい。
「ただ、『魔力制御』というスキルがあれば、勝手に制御されるのだが……」
「あ、それならステータスプレートがあるので……」
「ふむ、では見せてくれるか?」
「はい、これです」
「……ふむ、魔力は2000、あの水晶は確か1500までしか測れなかったし、スキルにも『魔力制御』があるな」
ふっ……やはり気が付かぬか……ステータスを『隠蔽』していることに!
仕組みはとっても単純、『創造』であらかじめ偽装用のプレートを作っていたのだ!
この世界では名字があるのは貴族だけなので、『家の跡取り問題が嫌で逃げ出している下級貴族の次男』という設定にしておいた。
「一応言っておこう。冒険者ギルドでは、たとえ王族であったとしても、他のものと同等に扱う。そこはしっかりと、理解しておいてくれ」
「ええ、承知しております」
「では、他の者と共にギルドの説明を聞いてこい」
「はい、ではこれで」
ふぅ、なんとかなった。これからいっぱい金稼ぐぞー!
一度、エントランスまで戻ってきて。
「では、ギルド支部の説明をするぞ」
ギルドの設備は、こんな感じだった。
クエストボード:ランクごとの依頼が貼られている。依頼には常時依頼と受注依頼の2つがある。
カウンター:受注依頼の要請、受注、魔石の買い取りなど、色々なことができる。
ギルドバンク:依頼の達成報酬などの、ギルドでの収入が自動的に入金される。
「そしてこれが、ギルドカードだ。これは、ランクごとに素材が決められていて、下からブロンズランク、シルバーランク、ゴールドランク、プラチナランク、ミスリルランク、そしてアスタルティットランクだ」
案内役の人が出したのは、銀色のカードだった。ということは、この人はシルバーランクということだろう。
「ギルド職員になるために入ったというやつは、シルバーランクから職員採用試験の資格を取得できる。あと、このカードに使われている金属でランクがわかれるため、色は自由に選ぶことができるぞ。ここまでで、なにか質問はあるか?」
誰も手を挙げなかった。まぁこれから自分で覚えていけばいいしね……。
「よし、ではお前たちに、ギルドカードを配る。大抵のやつはブロンズランクからだが、たまにシルバーや、ごくごく稀だが、ゴールドから始まるやつもいる。ま、依頼をこなせばランクは上がるから、そんなに変わらんと思うがな」
どれどれ、僕のカードは何だ……?
「スキル発動、『鑑定』……」
よし、多分バレてない。もうめんどいから『詠唱破棄』みたいなの作ろうかな……。
『アスタルティットカード
アスタルティットで作られたカード。依頼に関することや登録した場所、魔力量が記録されている。』
え、これだけ?まぁいいか、これから知っていけばいいんだ……。
「よし、ではまず、常時依頼について説明するぞ。常時依頼とは、個別に受けず、指定された量を出すだけで報酬がもらえる依頼だ。報酬は少ないが、ランクアップのためのスコアはもらえるので、大きな仕事の後とかにやったりするのもありだぞ」
なるほど、駆け出しの人とかにおすすめするやつってことかな。基本的に薬草採取とか、そんなんかな。
「次は受注依頼だ。これは二種類の依頼があり、依頼者がギルドに申請して依頼を出す『通常依頼』と、緊急性が高く、すぐに冒険者たちを呼びたいときなど、非常時に使われる『緊急依頼』の二つだ」
なるほど、だいたい予想通りだな。
「それじゃぁ早速、なにか依頼を受けてくれ!あとは自分で覚えろ!」
出たな、冒険者らしい根性論!そういうの結構好きだぜ!
「すみません、依頼を受けたいのですが」
「あ、はい。依頼の受注ですね。どの依頼になされますか?」
「ええと、この『リーフボア五体の討伐』をお願いします」
「かしこまりました。では、ゴールドランク以上のギルドカードをご提示ください」
「はい、こちらです」
「え、あ、え……。……確認いたしました。それでは、こちらの書類にサインをお願いします」
どれどれ、報酬金は銀貨八枚、失敗の場合銀貨三枚を支払う、素材が取れた場合はその場で買取……うん、多分大丈夫だろう。あ、そうだ。
「ちなみにリーフベアの素材の市場価格っていくらぐらいなんですか?」
「そうですね、毛皮が銀貨二枚、爪が銅貨九枚、牙が銅貨五枚、魔石ならサイズによりますが、銀貨三〜九枚といったところですね」
「ご丁寧に、ありがとうございます。あ、これ書類です」
「ありがとうございます。では、行ってらっしゃいませ!」
受付嬢さん、優しい人だったなぁ……よし、初依頼、頑張るぞ!
―――ノグドラント王国、勇者軍では。
「クソ!なんでこんなにも勝てない!」
「なんで勇者が戦わないの!」
「皆落ち着け!」
「うるせぇ!何も出来ない先生は黙ってろ!」
「もう終わりだよこのクラス……」
「もうやだ……お家帰りたい……」
まさに地獄だった。何があったかというと……。
4日前。
「国王様、我々は、ブロンズダンジョン『ランシラル』の5階層階層主の討伐に成功しました」
「うむ、報告ご苦労。して、先生殿よ、勇者たちの具合はどうかね?」
「全然余裕と言っておりました。やはり、自分たちが選ばれたものと、自覚し始めたようです」
「よろしい。これからも励むが良い」
「はっ、失礼します」
ちなみに『ランシラル』は、ブロンズランクの4人パーティで簡単にクリアできるほど、簡単なダンジョンである。それを勇者たちは、20人以上の大群でやっとクリアしたのである。そして……
「この調子なら、ゴールドだって楽勝だろ!」
「そうだね、じゃぁ今度行ってみよ!」
「俺達なら余裕だぜ!」
「れ、レベル上げてからにしようよ〜」
「何だ、ビビってんのか?」
「なんとかなるわよ!」
きっと白矢が見たらこういうだろう。コイツラこの強さで何いってんだ……?、と。陽キャだししょうがない。
そして時を戻して。
勇者たちは、ゴールドランクのダンジョンに入れもしていなかった。それもそのはず。ダンジョンに近いところでは、そのダンジョンの魔物が出てくるからだ。だから、ブロンズランクで苦戦する彼らでは太刀打ちできないのである。
勇者は後衛の後ろに隠れ、前衛は疲れ切り、後衛は魔力が尽きていた。
「クソ、クソ、なんでこんな……!」
―――「確か、ここらへんだっけ……リーフベアの生息地……」
確かリーフベアは、その名の通り草みたいな見た目をしており、葉を飛ばして攻撃する、だったかな……。
「お、多分あれがゴールドランクのダンジョン『森の城』だよな?てことはこの近くで間違いないな」
楽しみだなぁ、あと、新しく作ったスキルの効果も確認したいし、あとあと……ん、なんだあの集団、めっちゃ苦戦してるじゃん。敵はフォックスウルフが三体、対して人間側は二十人……え、なんで苦戦してんの?相手がゴールドランクとはいえ、ブロンズランクでも二十人いれば三体くらい余裕だと思うけど……ん?一番うしろで丸まってるの、網野だよな?え?勇者軍総出でも勝てないの……?ちょっと『鑑定』を……。
『網野絡 16 記憶:25 体:472/1000 魔:5/27 職:蛮勇者
スキル:なし 蛮勇者……愚かな行為を繰り返したものに与えられる職業。つまりクズ。』
もうステータスにもクズ扱いされとるやんけ。ま、死んでほしいわけじゃないし、素材取りたいから、助けてやるか。できるだけ遠距離から攻撃したいし、ここは……!
「白玉流剣術、『剣風斬』!」
剣を振り上げるたび、風の刃が敵めがけて飛んでく。
「よし、成功!」
この技は、意外と簡単に作れた。剣に風をまとわせて、それを飛ばす。それだけである。
「な、なんだ、何が……!」
「おい、見ろあれ!」
「もしかしてあの人……」
「「「白矢くん!?」」」
わお見事なシンクロ。
「お前ら、だいじょぶか〜?」
「た、谷下、何しに来た、テメェ!コイツラには指一本も触れさせねぇぞ!」
「おい網野、命の恩人に失礼だろ!」
「うるせぇ!あんな奴ら、俺が本気を出せばすぐに……」
「うるせぇ!お前は後ろでビビってただけだろうが!」
「何もしてねぇやつがほざくな!」
「そうだそうだ!」
皆が網野を責め立てる。この空気はまずい。
「とりあえず皆落ち着け。僕がアイツラを倒したのは素材がほしかったからだし、ぶっちゃけお前らがどうなろうと興味ない。それに」
僕が網野の方をみると、皆も網野の方をみた。
「こいつは勇者なんかじゃなく、『蛮勇者』……つまりクズだ。こんなやつ、生きてても迷惑かけられるに違いないからな」
「ちょ、ちょっとまってくれ。勇者じゃない?じゃぁこのメンツに勇者はいねぇってことか?」
クラスメートの一人が言った。まぁその疑問も無理はないか。
「ま、そういうことになるな」
「じゃ、じゃあよ、白矢。そんだけ強いお前が勇者ってことじゃないのか?」
「え、あ、いや、そのぉ……ええと……」
「なんだよ、もったいぶんないで教えろよ!お前の職業!」
「うるせぇな!いいですよ僕は無職ですよ!外に出ないヒキニートですよ!お前らみたいな大層な職業なんかねぇんだよ!なんか悪いかよ!」
「お、おぉ……な、何かすまねぇ……」
「……はぁ、一応、王様にはこいつが勇者だって言っておいてくれ。面倒だからな」
「おう、任せとけ!」
……心配だなぁ。
―――「国王様、ただいま戻りました」
場所は変わって、王城。
「おお、勇者たちよ、どうだったかの、ゴールドランクのダンジョンは?」
「安全を考慮して、入口付近での探索を行いましたが、このような収穫がありました」
「こ、これはフォレストウルフか!?あの、小さな町なら三体で滅ぼすほどの、あやつらを!?」
「え、えぇ。勇者様のお力添えのお陰で、倒すことが出来ました」
「良かろう、後ほどお主らに報酬をだす。これからも、励むが良い」
「は、失礼いたします」
―――国王との謁見が終わった後、勇者たちの部屋の一室で、話し合いが行われていた。
「ふぅ、なんとかなったな……」
「そうだね、白矢くんのことを言わなかったのは正解だったね……」
「あぁ……そういやあいつ、確か冒険者になったんだよな……?」
「うん、それでゴールドダンジョンに来て、魔物を倒しに来たんだよね……それがどうかしたの?」
「……いや、確か冒険者登録をしたら、職業って『冒険者』になるんじゃなかったか?って思ってよ」
「え?そうなの?じゃぁ白矢くんって、もしかして……」
「あぁ、本当は勇者だが、面倒だから隠してる、てことだよな……」
「どうする?これは国王様に言ったほうが……」
「いや、あいつが面倒を避けてんのに、こっちが面倒事を作ってどうする!ここは、今まで通り網野が勇者ということにするぞ。異論はないな?」
「「「異論なし!」」」
クラスメートの一部はいいやつがいたらしい……一部だが。
―――「ふぅ、だいたいこんなもんかな……」
その頃白矢は、周りに魔物の山を作っていた。
「ええと、リーフベア五匹、解体完了……他の魔物は……収納に入れとくか」
今日の戦果は、こんな感じだ。
リーフベア……10匹
フォレストウルフ……30匹
イグラン……173匹
イグランは、マンドラゴラの魔物バージョンだが、マンドラゴラと違う点は、その量と見た目、そして匂いである。普通のマンドラゴラは、10年に一度、はたまた100年に一度の植物と言われるほどに少なく、見た目も純白、匂いはまるで花畑のような香りがし、貴族や王族は、このマンドラゴラを持っているかどうかで格が分かる。
対してイグランは、雑草のように大量に現れ、色も毒々しく、匂いに関してはにんにくを一度にたくさん煮込んだときのような壮絶な匂いがする。だが、効果の強いポーションの材料に必要なため、度々回収依頼が出される。最も、依頼を受ける人は少ないが……。
「よし、帰るか!帰る家ないけど!」
よし、早速アレを試す時!
「転移、イガラスト王国前!」
足元が光り、やがて全身を飲み込んでいく。久しぶりだな、この感覚。
少しの浮遊感の後、光が収まるとそこは、想像した通りイガラスト王国の前にいた。
「よし、あとは冒険者ギルドまで、走る!」
―――数秒後。
「依頼達成の報告に来ました〜」
「は、はい、意外と早かったですね……では、討伐証明部位を見せてもらえますか?」
「はい、えっと……これで大丈夫ですか?」
「え、あ、頭!?それに『収納』まで!?」
「な、なにかまずかったですか……?」
「い、いえ、あ、いや、まずいといえばまずいですが……では、依頼完了の報酬をギルドバンクに入れておきますね」
「あ、あと別の素材もあるんですけど……」
「……うん、もう驚かないぞ……はい、お預かりいたします」
「お願いしま〜す」
「え、あ、はい、ええと、ざっと見積もっただけでも、依頼完了の報酬と合わせて、金貨450枚です……」
「え、そんなに!?う、内訳とかってあります……?」
「そうですね、リーフベアの素材がすべて状態がよく、それだけで150枚。リーフベアは討伐難易度が高いほか、様々な用途に使えるので、状態が良いと価値も上がるので。あと、他の魔物の素材もすべて状態と質が良く、合計で250枚。残りの50枚は依頼完了の報酬ですね」
「え、でも確か依頼完了の報酬って、銀貨8枚じゃ……?」
「それが、どうやら隣国の勇者軍が……」
聞いてみると、やっぱりあの事だった。それで報酬が上がったという。にしても上がりすぎじゃね?
「では、またのお越しをお待ちしております」
さて、めでたく初依頼は完了、報酬も大量、後は……よし、国の外に家置くか!ギルドカードあるから通行税かからないし!え、最初に入国したときの通行税?壁を越えていったから払ってません!
「よし、こんな感じかな……」
今回は前に作った家じゃなく、新しく作った家にした。見た目はザ・異世界の民家という感じだが、内装は元の世界の超高級なタワマンのような、広くて生活しやすい空間に仕上げている。と、ここまでが『創造』で作ったところである。あとは家電とかおいたりするだけだから、『創造』マジ便利。
「あ、そうだ、異世界スローライフといえば、畑じゃないか!」
家電を置き終わったので、早速畑を作ってみた。といっても全部『創造』で作ったわけではなく、栄養豊富な土と農具を作っただけで、後は自分でやるつもりだ。ちなみに農具は、こんなである。
『鉄のクワ 伝説級
スキル:豊穣神の加護』
『鉄のジョウロ 伝説級
スキル:豊穣神の加護』
頭おかしい。豊穣神の加護があるんですよ。この加護って、植物育ててる人は皆欲しがるようなやつなんですよ。それが2つあるんですよ。しかもそんなスキルがただの鉄のクワにつくって。どうしようすごい怖い。命狙われそう。
「ふぅ、とりあえず出来た……」
早速植えてみた。植えたのは、マンドラゴラとニンニクっぽいやつ、あとは適当に植えた。種はもちろん『創造』で作った。マンドラゴラはこの世界のものだから名前だけで作れたが、ニンニクとか他の野菜はどんな種かわからなかったから名前で作った影響で、この世界に存在する味とかが近い野菜になる気がする。
てまぁそんなわけで(?)、スローライフ、堪能するぞ―!
一旦時は戻って、イガラスト王国に向かっている途中。
「なんか、この世界の料理食べたいなぁ……」
決してカレーに飽きた訳では無い。だが!せっかく異世界に来たんだ、色んな料理を食べないと勿体ないではないか!
「スキル発動、『創造』!」
(この世界の美味しい食べ物、出てこい!)
そうして出てきたのは。
「……塩クロワッサンとりんごジャムっぽいやつって……いや、不味くないよ?うん。ていうか元の世界のジャムよりこっちのほうが美味しいよ?でもさぁ、こう、具なしのスープとかさ、期待しちゃう訳なんですよ、異世界だし」
まぁ元の世界に戻る時はこのジャム持っていけたらいいなぁ……食パンに塗って食べたい……。あ、ホットケーキにつけるのもいいなぁ……。どうしよう、食べ物関連だけでホームシックなりそう。よし、向こうの世界のご飯で癒やされようっと。
「スキル発動、『創造』!あ、そうだ、食パン作れば今ジャムつけて食べれるじゃん!」
早速作って、ジャムを塗り、一口。
「こ、これは……!」
いちごの風味がありながらもジャム特有の甘みといい感じに合わさった美味しさが、焼き立ての食パンの香ばしい香りとサクッとした食感、そしてジャムに混ざっているいちごの果肉が、さらなる味わいを生み出している……!
「め、めっっっっっちゃうめーーーーーーーーーー!」
もうコレ以外ジャムと呼べなくなるほどハマっちまうぜ、これは……!『創造』のクイック作成リストに載せなければ……!あぁ、元の世界でこれ売ったら大儲けだ……!フヒヒ、高校生にして億万長者……!
「……あいつ、こんなところで何やってんだ……?」
と、通りすがりの冒険者に心配される白矢なのであった。
日が回る頃のイガラスト王国王城、対談の間。
「して、支部長殿、こういった形を取らせたのには、理由があるのじゃろ?他のものに聞かれたくないような……」
「左様でございます、国王陛下。本日、新しい冒険者たちの検査を行ったのですが、一人頭がおかしくなるような奴がいて……」
「ほほう?それは、どのような?」
「……まず、魔力測定の水晶を割りました」
「……はぁ?」
「その後、稽古方式での体力測定を行ったのですが……」
「ちょっと待て、お主今、何を言おうとしてる!?まさかとは思うが、お前を打ち負かしかけたとでも言うつもりか!?」
「はい、その……今まで数々の冒険者の流派を見てきた私でも、知らない流派の技を使いました。お陰で開始十数秒で交代ですよ……」
「お、おぅ……して、その流派の名は?」
「本人によると、『白玉流』と言うそうです」
「白玉流……?確かに、聞いたことがない流派じゃな……それは、どのような技だったのだ?」
「これは、試験を担当したものの話ですが、『宙に浮いて攻撃したり、剣から光を飛ばした』と言うことです」
その言葉を聞いて、国王はいきなり立ち上がり、信じられない、というような表情を見せた。
「な、なんと、それは真か!?だとすると、そのものは……!」
「えぇ、おそらく、伝説上にしか存在しない、あの……」
そこまで話した時、急に扉が開いた。
「こ、国王陛下、緊急の連絡です!」
「何じゃ!いきなり入ってきおって!」
「ゴールドダンジョン『森の城』にて、『暴走個体』が現れたとのことです!」
「な、何だと!?あのダンジョンは、すでに攻略済みのはずでは!?」
「それが……どうやら、ダンジョンが『復活』したようです……」
「な、何じゃと……もう、この国は終わりかもしれん……」
「国王陛下、緊急依頼の発注を!」
「う、うむ、緊急依頼を発注する!内容は、『暴走個体の討伐及び、森の城の完全攻略』だ!」
「承りました!そこの君、コレをギルドの受付嬢に!」
「は、はい!」
「さて、これはただの異常、それか世界からの彼への試練か……いずれにしても、どうなるかは彼次第、か……」
翌日、冒険者ギルドにて。
「な、なんすか、コレ……」
「お、タニシタ、来てくれたか!」
「支部長さん、この騒ぎは、一体……?」
「緊急依頼だ。それも、国王直々のな」
「こ、国王陛下が!?そんなにヤバいやつなんですか……?」
「あぁ、ダンジョンが復活し、さらに暴走個体も現れたそうで、『暴走個体の討伐とダンジョンの完全攻略』が、今回の依頼だ。どうだ、受けてはくれないか!」
暴走個体、か……。素材うまそうだし、しばらくここに滞在するつもりだから、邪魔になるものは、消しておいたほうがいいか……?
「わかりました、依頼を受けます!」
「おお、ありがたい!では他のものたちも集まっている、西広場に行ってくれ!」
「はい!」
暴走個体、かぁ……一体どんなやつなんだろ?スローライフ、邪魔しやがって……!(まだ始まったばっかだけど)
―――暴走個体とは、ダンジョンの主よりも強く、ブロンズダンジョンの個体でも街一つが壊滅するほどの力を持つやつのことで、それくらいヤバい奴がゴールドダンジョンに現れるのは、文献では120年前が最後だそうだ。その時は、大国1つと引き換えに討伐したらしい。そんなやつを、今から討伐しに行くんでしょ?死人出るだろうなぁ。いざとなったら蘇生できるけど、そうならないように、頑張らなくちゃなぁ。めんどくさい。
「よし、総員、『森の城』に向けて、出撃!」
『おお!』
集まったのは20人ほど。うん、どう考えても少ない。
―――「全員、停止!『森の城』に近づいてきたぞ!」
3日間の道程を経て、ようやくたどり着いた。僕一人だったら10分でつくのに……。
「ここからは、昨日話した通り、3つのグループに分かれる!各員、準備しろ!」
おう!と返事をして、全員がすぐに動き始めた。あいつらはこういうところ見習ってほしいわ。
「よし、全員準備はできたな?では『特攻班』はダンジョンへ!『増援班』は信号弾がくるまで待機!『回復班』は今のうちに魔法の保存を!」
ちなみに僕は『特攻班』だ。先陣きるから、ぶっちゃけ一番めんどい。めんどいのやだ!寝たい!
「よし、行動開始!暴走個体を討伐するぞ!」
『おう!』
「……さて、ここからは俺の指示で動いてもらう」
この人はアッショルドというプラチナランクの冒険者で、今までブロンズランクの暴走個体を単独で討伐してきたという、だいぶ強い人だ。噂では「魔物の心が読める」らしい。スキルかなんかかなぁ……。
「何かあった時は、こいつで外の奴らに連絡する。全員、すぐ使えるようにしとけ」
そういってアッショルドさん(以降めんどいのでリーダーさんと呼ぶ)が取り出したのは、クラッカーみたいなやつだった。ちょっと「鑑定」してみよっと。
『ダンジョンレスコー・スティック 魔導道具
ダンジョン内でのみ使える。今いるダンジョンの出入り口から半径1km内にいる冒険者に救援要請を送ることができる。道具屋で銅貨1枚で買える。』
安っ。百均で三本セットで売ってそうだな。
「よし、全員持ったな。ではこれより、探索を開始する!対象を発見した場合はその場で待機、俺がほかのやつらを連れてその場所に向かう!行くぞ!」
「「「「おう!」」」」
このおう!って言うやついいよね。冒険者って感じがしてさ。よし、切り替えていこう!まずは、『魔力探知』で大体の場所を……あれ、リーダーさんめっちゃ近いな……ちょっと行ってみよ!
「ふっふっふ……移動めんどいし、ここはあれで!『テレポート』!場所、リーダーさんの近く!」
ちなみにこれはスキルではなく魔法である(多分)。そっちのほうが馴染みあるしね。
「……よし、無事に成功!」
この魔法の仕組みはちょっと複雑である。まず、頭の中に行きたい場所の風景を思い浮かべ、その場所に簡易的な自分の複製体を作る。そして、瞬時に複製体と自分の体の位置を交換、その時に複製体は耐えきれずに消え、周りからは「なにもないところから急に現れる」ように見えるわけだ。
「ん、まてよ?リーダーさん、分かれ道でも迷いなく進んでいるぞ?」
もしかして心が読めるというのは本当で、敵の心を読んで特定してるのか……?いや、だとしても、彼には位置がわかっても道はわからないはず、どうしてあんなにも早く……?あ、なんとなくわかった。
「そうか、そういうことか……!」
これは、ちょっと楽しくなる予感……!
「ここか……。よし、後ろには誰もいないな……」
リーダーさん、目標を見つけたのに誰も呼びに行かない……やっぱり怪しい……。
「……よう、リグルス。調子はどうだい?」
「これはこれはアッショルド様。えぇ、計画は順調に。準備も完了いたしました」
「よし。では今日、私が人間のふりをして、お前を討伐しに行く。その裏でお前は『メガブラスト』を発動しろ。分かったか?」
「かしこまりました、アッショルド様……。して、後ろの方とは、どのようなご関係で?」
「……なに!?どこにいる!」
ちっ、スキル「透明化」で隠れてたってのに、魔力で気づかれたか。改良の余地ありだなぁ。
「……ここだよ」
「……あぁ、タニシタか。どうした、そんなところで」
「いや、『魔力探知』で暴走個体を探していたら、あんたの動きがあまりにも正確だったもんで、少し怪しくてな、その結果がコレさ」
「……今見聞きしたことを忘れるなら、命は取らんで置こう」
「でもそのかわり、あんたの奴隷として使い潰されるんだろ?そんなのごめんだね。めんどいし」
「そうか、ならばこの場で、己が人生に別れを告げよ!」
大きく跳躍し、こちらに向かってくる。
「やなこった、アッショルド。いや、魔族、ジャンスドスタ!」
相手は大剣、対してこちらはただの片手剣。普通なら分が悪い。そう、普通なら。
「馬鹿な、こちらは大剣で、しかも全力で切ったというのに、なぜ鍔迫り合いになど!」
「鍔迫り合い?自分の剣くらいちゃんと見てみろよ」
「ば、馬鹿な、なぜヒビが!」
「簡単なことだよ。僕のほうが強い、それだけさ」
うわぁ〜〜〜これ言ってみたかったんだよねーーー!
「小癪なァ!」
こちらの力を使って後ろに飛んだのかぁ。意外と冷静に戦えるんだなぁ、関心関心。
「魔なる力よ、その姿を炎へと変え、我が願いへの答えと成せ!『ファイアウォール』!」
へぇ〜、魔法の詠唱ってあんな感じなんだ〜。今度真似しよっと。
「とりあえず、白玉流剣術『水砲斬』!」
この技に関しては前の「剣風斬」と仕組みは同じである。剣にまとわせて、飛ばす。それだけだ。え?それなら普通に魔法を打てばいい?気分だよ、気分!
「な、なに!?無詠唱で、この威力……まさかお前、『リヴァイアス・プロージョン』を使えるのか……!?」
「え?いや、仕組みとしてはただの『ウォーターボール』で……ハッ!」
しまった〜〜〜〜〜〜!あのセリフ言っとけば良かったーーーーーーーーーー!まだ間に合う?間に合うよね?よし!
「ふっ、今のは『リヴァイアス・プロージョン』ではない、ただの『ウォーターボール』だ……」
ふぅ、危ない危ない(?)。
「な、何だと……!?こうなれば……この命に変えてでも、貴様を殺す!」
え、嘘でしょまさかの自滅?人生諦めんの早いって。あれ待てよ、人じゃないから「魔族生」か……?
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!穿て!『インフェルノ』ォォォォォォォォォォォォォ!」
まじかよあいつ全魔力使ってきやがった。確か魔族って、体内にある魔力がないと死ぬんだよね?まじで自分の命使ってきたな……なんか避けづらい雰囲気だな。よし、ここは……!
「真正面から、受け止める!」
さすがに自滅技を避けるのはなんか可哀そうだしね!
「っぐ……!お、重……!」
何だよコレくっそ重い。まぁ命かけてるんだから当然と言えば当然なんだけどね……。
「こうなったら……!『潜在発揮』!」
スキル「潜在発揮」。少しの間、自分のステータスを底上げする効果がある。こいつでどうにか……!
「ハァッ!」
「……そうか、こいつもだめだったか……ふっ、俺の負け、か……」
「『俺の』?まるで他にも仲間がいるような発言……」
「あぁ、いるさ……リグルス、撃て!」
え、リグルスって……あぁ、暴走個体のはずだったやつか。
「了解!充填率100%、仰角修正、目標、イガラスト王国!『メガブラスト』、発射ーーー!」
なんだよその厨二みたいなネーミングセンス。あ、でも僕よりかはマシか。
ドウンッ!
「ふ、これであの国は滅ぶ……止められるなら止めてみな……」
そう言い残すと、彼は塵となって消えていった。
「なんでこう、死ぬ間際に怖いこと言うのかな……。てか灰になって消えるってめっちゃ定番じゃん……まぁあの国がなくなったらまた家の場所決めなきゃだからなぁ……。止めとくかぁ」
見た感じあの魔法(砲台っぽいのから出てたけど魔法と同じ感じだったからそうしておく)は火属性と光属性の合成魔法だった。つまりその2つの属性に聞く属性の魔法を撃てばいい訳だけど、普通の魔法じゃあの魔法より遥かに遅すぎる。と、言うことは……!
「今作ればいいじゃん!スキル発動、『魔を創りし者』!」
スキル「魔を創りし者」。魔法を0から生み出し、使用するスキルだ。まぁ、普通は魔力をゴリゴリ持ってかれるから、持ってても産廃スキルになることが多いけど。
さて、作るのは水属性と闇属性の合成魔法、速度はあの魔法が大体時速300kmだから、それより速い時速500kmにして、大きさは通常の『ファイアボール』と同じくらい、威力はそれぞれの今存在する最大威力の魔法の10倍……。これでいっか。
「後は、暴走個体のはずだったあいつを倒して終わりかな」
「ま、待ってくれ、いや待ってください、こ、殺さないで!」
「……てか今更だけど、なんで魔物が喋ってるん?」
「そ、それは、俺、いや私が、他の魔物よりも魔力が多いからです、はい」
「……てことは、暴走個体……魔力が多いやつは大体喋れるってこと?」
「は、はい、その通りです。といっても、魔力の量に関してはみんなバラバラですが」
つまり、レベルの低いダンジョンは必要な魔力が比較的少なく、逆にレベルの高いダンジョンは必要な魔力が多い、ってことか。
「ちなみにお前の魔力はどんくらいなの?」
「は、はい、なんといいますか、先程の巨大魔法がぎりぎり一発撃てる程度、です」
「……本当に?僕、一応『鑑定』のスキル持ってるから、君が嘘ついてもすぐに分かるけどね?」
「う、嘘です嘘です、本当は人間族の、宮廷魔術師?とやらと同じぐらいです」
「え……」
嘘だろ、それが本当なら宮廷魔術師もレベル低いのかなぁ。魔力がたったの3000ちょいって……。まぁ魔力量∞の僕が言っても説得力ないか。
「……ふっふっふ、時間稼ぎ、完了だぁ!」
「……何言ってんのお前」
「ふっふっふ、いくらお前が速かろうと、『メガブラスト』はもうお前が追いつく前に目標地点にたどり着くさ!ハ〜〜〜〜ッハッハッハ!」
「ごめん、もう撃ち落とした」
「ハッハッハッハッハ……ハ?」
「だから、僕の魔法で撃ち落とした」
「そ、そんなワケない!そもそも、撃ち落とせてるとしても、どうやって確認したんだよ!」
「簡単だよ。攻撃魔法と位置情報を送る魔法を一緒に撃った、それだけだよ」
まぁ実際、今の僕の視界には簡易的なマップが映されてるしね。他の人には見えないけど。
「そ、そんな……で、でも、ちゃんと情報をあげたんだから、見逃してくれるよな……?」
あ、今の話、信じるのね。ぶっちゃけ行けるか不安だったんだけど。
「う〜ん、却下!白玉流剣術、『魔断』!」
辺りに光が集まり、やがてその光は剣へと集まる。
「ハァッ!」
「ぐ、ぐぅ……!」
リグルスが地面に倒れ、体の節々はすでに灰となっている。流石「魔断」。魔物にはうってつけのスキルだ。それで切ったにもかかわらず、リグルスはまだ余裕があるのか、何かを話しだした。
「フフ……あんた、そこまでの力があるなら、魔王軍に来ればいいのにな……」
「……なぜそう思ったか、理由を聞いても?」
「簡単な話だ……人間族は昔から、強き者を利用し、自分たちに都合が悪いことは隠し、欺き、そして用済みになればそいつを『人類の敵』とする……今の魔王様もそうさ……あの人は、今も人間だ……」
「……まぁじかよぉ」
「フフ……この話を聞いても、まだ人間族の味方をするというのか?」
「……そうだなぁ、それじゃ一旦、『人間族の勇者』として、その魔王にあってみればいいかな?」
「そうか。つまりあんたは、自分に敵対するなら殺す、そう言うんだな……」
え、いやそんなつもりは全く……。まぁ、ここは流れに乗るか。
「ま、それで大体合ってるよ。……最後に、言い残すことは?時間があれば、魔王に伝えとくよ?」
「……そんな仰々しいこと、できねぇよ」
「……そっか。んじゃ、来世では楽しく暮らせよ」
……さて、目標作っちゃったし、頑張るか。
「……魔王とやらに、会いに行く!」
閑話
ゴールドダンジョン『森の城』で、リーフベア討伐のついでに他の魔物も狩っていた時。
「お腹すいたな……そういえば、ちゃんとお昼ごはん食べてない……」
冒険者が皆食べている携帯食料は一個で満腹になるように作られているのだが、そこは人を超えている谷下、それだけじゃ足りないようである。
「もっとこう、ちゃんと料理されてる、ってわかるやつじゃなきゃなぁ……でも食材を『創造』で出すのもなぁ……」
今まで普通にカレーとかを『創造』で作っていた気もするが、そんなことは綺麗に忘れているようだった。
「待てよ、魔物の肉って、うまいのか?見た目だけならイノシシとか熊とかいるし……。ああもう、考えてるだけで腹へってきた!どうせなんかあってもすぐに直せるし、大丈夫っしょ!」
―――そうして料理が完成して。
「イノシシ(魔物)のジビエっぽいやつ、いただきまーす!」
ちなみに全部『創造』で調理していた。自分の発言と普通に矛盾している気がするが、そんなことは気にしないようである。
「……うん、美味しい、けど、うん……なんか、コレジャナイ感がすごい……やっぱ食べるならハンバーガーとかのほうがあってるな……」
結局、ジビエみたいな凝った料理は諦めて、ハンバーガーみたいなジャンクフードにするのであった……。
暴走個体の件が片付いてから、1ヶ月ほどがたって。
「結局、スローライフできなかったなぁ……どうしてこう、次々に面倒事が起こるもんかねぇ……」
まぁいいや。魔王軍行って頑張れば許してもらえるっしょ、スローライフ。
「よ〜し!それじゃ、魔王城に向けてしゅっぱ〜つ!」
―――3時間後。
「まぁじかよぉ〜」
「当たり前だろ、それで安々といれるほうがおかしいわ」
「いやでも、ほら、僕達の仲じゃないか〜、リザードマン君」
「てめぇとはさっきあったのが初めてだろうが!仲もなにもねぇわ!ほら、帰った帰った!」
「あ、はい……」
まだだ、まだなにかあるはず……考えろ……考えろ……!そうだ!
「なぁなぁ門番さんや」
「あ゙?テメェ、さっきの人間か?さっき言ったろ!人間は入れねぇって!」
「いやいや、ちょ〜っと確認したいことが……」
「はぁ……?聞くだけ聞いてやる。何だ?」
「いやぁ、僕が勇者で、魔王を倒しに来たって言ったら、通してもらえません?」
「ますますだめだろうが!」
「……なら仕方がない、攻め込むぜー!」
「は!?」
「いやだって、そうしたら城に入る口実にはなるかな〜って」
「いや、そうはなるんだろうが……いや、やっぱなんねぇよ!」
「ダイジョブダイジョブ、僕強いし!」
「理由になってねぇ!」
「んじゃ、行くぜ!」
「ああくそ!滅せよ!『ファイアハリケーン』!」
「行ける!『水泡斬』!『流水斬』!」
「くそ、魔力がすくねぇってのに……!」
「そっちから来ないなら、こっちから行くぞ!白玉流格闘技『ショルドフィスト』!」
……はい、今みなさんは「白玉流は剣技なんじゃないの?」と思いましたよね?そんなことは!一言もいっていなぁぁぁい!白玉流はいわば「ゲームの技の再現」だから!結構自由なんだよ!
「剣士が、体技だと!?」
「別に僕、剣士じゃないからね!むしろ無職だよ!」
「この強さでそんなワケあるかぁぁぁ!」
「それがあるんだよ!これで決める!白玉流剣術、奥義!『ドラゴニック・ヘブンズ』!」
うん、いつも通りネーミングセンスは終わってるな!あ、因みに言っておくと、白玉流の奥義は全部自分で考えてるからね、動きが頭おかしい時があります。まあゲームの動きなんてだいたい頭おかしい気がするけど。
「ぐッ、ぐあぁぁぁ!」
奥義だからちゃんと解説しておこう。もちろん鑑定さんにおまかせするけどね!
『ドラゴニック・ヘブンズ
天にも届く竜の怒りをその剣に宿し、切り刻む技。体力、魔力共に大きく消耗する。火属性。火属性の攻撃全てから繋げられる。』
「……さて、命取りたくないから、通してくれない?」
「……どのみち、勝てそうもないしな。さっ、この門を通れ」
「……意外と素直に通すんだな。ほれ、これ使っとけ」
「これは?」
「魔物・魔族用の魔力回復薬だ。ありがたく使えー」
「……恩に着るよ」
さて、ここから本格的な城攻めだ〜!
「迷子になっちゃった……。地図とかないかなぁ」
城に入ってから10分くらい歩き回って、色々探索したが、成果は何もなく、結果この有り様である。泣いちゃうね!
「そうだ、そういうスキル作ればいいんじゃん!『創造』!そして『マップ』!」
どれどれほうほう、結構面白い構造だな……。十階建て、魔物なし、お宝なし、いるのは魔王と四天王っぽいやつだけ、か……。え、魔王城って人手不足なの?
「まぁ、攻略しやすいし、嬉しいっちゃ嬉しいけど……あれ、そういえば今ステータスどうなってんだろ?しばらく見てないし、ステータスプレートは記録消して売っちゃったし……『ステータス』!」
『谷下白矢 17 体:∞/∞ 魔:∞/∞ 職:亜神
スキル:創造 オタク 言語理解M 鑑定M 魔を創りし者 生産物強化M 天上天下唯我独尊Ⅹ 五感強化M 魔力探知M 透明化 潜在発揮 マップ ステータス 神々の力 神の教え 後光 ■■■■■■■■■』
「あ、人間じゃなくなってる〜あはは〜。……いやなんだよ亜神て!なんで神!?どっちかと言ったら魔物側じゃないの!?いや、もしかしたら魔神の方の亜神かも……てなるかぁ!」
……まぁ、スキルも少しは増えてるし、強化されたやつとかわかんないやつだけ鑑定しとこう……。
『天上天下唯我独尊Ⅹ……「???」と共に発動することで真の効果を発揮する。』
『神々の力……存在するすべての神の力を借りることができる。別世界でも可。』
『神の教え……自分より下位の者に自分の考え方を刷り込むことができる。』
『後光……後光を発する。』
「いや『後光』だけ雑すぎんだろ……後結局『天上天下唯我独尊』の効果意味わからんし……」
まぁとにかく強そうなのは分かった。なのでよし!
「よ〜し、魔王のところにレッツラゴ〜」
「お待ちなさいな」
「わ―誰だろーなー四天王だったら怖いなー」
「……あなた、絶対そのようなこと思ってらっしゃいませんわよね……?」
「当たり前でしょ、魔力反応が上にあったやつが今めっちゃ近くにいるんだもん」
「……あなた、相当な手練れですわね?」
「まぁ色々あったからね。ところで、自己紹介してもらっても?」
「確かに、それが礼儀ですわね。私は、魔王四天王の一人にして、ユーウィッチ伯爵が次女、『コステタル・ユーウィッチ』ですわ。以後、お見知りおきを。……こちらが名乗ったのです、そちらも名乗るのが礼儀というものでしょう?」
そうだな、名乗りか……。なんにも考えてないや。ま、普通でいっか。
「そうだな、僕の名前は谷下白矢。一応言っておくと、この城には魔王の配下になりに来ただけなんで、そこんとこよろしく〜」
「……なかなか、面白いことを言いますわね。亜神?魔王様の配下?それなら、まず私を超えねばなりませんわね」
「なるほど、そいつは分かりやすい!」
「フフッ、風よ、その力を轟かせよ!『クロスハリケーン』!」
「『剣風斬』!ついでに『残風撃』!」
「同属性の連撃……?いや、剣の振り方からして、連携技のようですわね……」
「お、大正解!ならこれはどうかな!?『水泡斬』『剣風斬』『水飛撃』『残風撃』!」
「ング!これは……!二属性の連携と、属性ごとの連携……?亜神の能力……?」
「んぇ?いや、ただの剣技の連続使用だよ?」
「……だとしたら、剣では私の勝ち目はありませんわね。それでは魔法勝負へと持ち込みましょうか」
「マジで?僕魔法は苦手なんだけど……」
実際、僕が使ってるのっって『魔法っぽいスキル』だからなぁ……。というか何気に殆どの攻撃いなされてるなぁ。むしろこっちが勝ち目ない気がする……。
「貫け!『ウィンドスピアー』!『ウィンドアロー』!」
「『魔力変換』『螺旋剣風斬』!」
『魔力変換』は名前の通り、相手の魔力を、属性はそのままに、自分の魔力に変換するスキルだ。それによって、『剣風斬』がうちやすくなる、ということだ。更に変換前の魔力が上質なお陰で、変換後の使用技もちょっと強くなったりした。あ、『螺旋剣風斬』は『螺旋切り』と『剣風斬』の合せ技ね!
「剣技で宙に浮きながら、別の剣技も使ってくるとは……。これでは、遠距離での戦闘も意味がありませんわね。ですが、まだ狙う隙はある!『ハリケーンショット』『メガストーム』『エアガトリング』!」
「うわ、弾幕めっちゃすごっ!」
まずいな、空中でのスキルがない……今作るか?いや、『創造』を使う暇が無い!くそ、間に合え……!
「障壁起動!」
刹那、白矢目掛けておびただしい数の弾幕が飛んできた。
「間に合った……!作っててよかったマジックアイテム!」
今使ったのは『緊急用障壁展開装置』。大きさ、対応する攻撃などなど、いろんな『障壁』を即座に展開できる、オリジナルのマジックアイテムだ。試作品だから何回でも使えるわけではないが、今みたいな状況の時に便利だ。……さて、『創造』でのスキルも作り終わった!
「さぁ、フィナーレだ!『潜在発揮』『神々の力・鬼神』『全属性付与』『破滅の一撃』!」
「『プロテクト』!『防御強化』!『結界・重』!」
「ウォォォォォォーーーーー!」
「ぐっ、キャァッ!」
「ハァ、ハァ……これで、どうかな?現状、これ以上の威力は出せないんだけど」
「……あなた、お強いですわね。その実力なら、魔王軍にも入れるかもしれませんわね?」
「あぁ、ありがとな。はいこれ、魔力回復薬。毒とかは入れてないから、安心しろ〜」
「……有り難く、頂戴いたしますわ」
さて、残りの四天王も、この調子で倒して行くぞー!
『ほう、コステタルを退けたか、さすがは勇者』
『だが其奴は四天王の中でも最弱……』
『所詮、お前程度に負ける存在というわけよ……』
うわ、コイツラ性格悪っ、ちょっと一言申しておこう。
「おいおい、聞こえてんのかしらんけど言っとくな?」
『……ほう?なんだ、申してみるがよい』
「影でコソコソ見てるお前らなんかよりな、正々堂々戦いに来てるこいつの方がよっぽど強いよ!」
『ほう?我々が弱いと申すか?』
今だ、スキル発動『神の教え』!
「僕からしたら全員弱いよ。……つまり何が言いたいかって言うと、『他人に人を語る前に、己の行いが人として正しいか考えろ』ってこと!」
『……ふっ、面白い。それが人間の意志なのだな?』
あ、いやいや、人間じゃあなく、僕個人としての意見ね?そこ勘違いしないでね?
「じゃ、早速始めるぞ」
「え、う、後ろ!?」
「何言ってんのよ、周り見なさい!」
「……まぁじかよぉ」
気づいたら僕の周りに、四天王っぽい人たちがいた。
「さっきまで上にいたのに、なんで急にこっちに来たんだよ……」
「何故って、それが当たり前ですからね……」
「さっきまで高みの見物してた奴らのセリフとは思えねぇ……」
もしかして、これがスキルの効果……?まぁいいか!よくわからんけど!
「では名乗ろう、我は『ジュニハイ・シック』、シック家長男である!」
「私は『シンセル・ジェント』、ジェント家の次男でございます」
「アタシは『リレイステ・ユーウィッチ』、そこの寝てるやつの姉よ」
……この流れ、僕も名乗ったほうがいいよね?
「一応名乗ると、谷下白矢、亜神。……それで、誰から殺る?」
「……ほう、我らと一騎打ちとな?面白いが、我らも暇ではないのだ。悪いが、全員でかからせてもらうぞ!『トライフォース』用意!」
『了解!』
あれ、こいつら僕が亜神って分かってない?名乗ったのに?もしかして勇者だと思い込んでる?確かにさっきの戦闘で亜神っぽいことは全くしなかったけど。それにしても思い込みすごすぎんだろ……。
「あはは、残念だったわね。この魔法は今まで耐えたもののいない、さいきょーの魔法よ!」
「おいおい、最初から必殺か……?最初に小手調べとかしないの……?」
とりあえず、厨二病と紳士っぽいやつとバカの三人組なのは分かった。
「ふふ、あなたの実力と技は、先程の戦闘で概ね分かりましたので」
「なぁるほど。……さて、そろそろ魔法撃てそう?待ってんだけど?」
「ハッハッハ、そのような余裕ぶった態度も、すぐに絶望に変わるさ!」
「「「滅せよ、『トリニティクラッシュ』!」」」
いや名前違うんかい!じゃぁさっきのトライフォースってなんだよ!
「『魔力変換』『アローオブライト』『爆発付与』『ハイルオブアロー』!」
『アローオブライト』は光の矢を作るスキルで、『ハイルオブアロー』は矢を雨のように降らせるスキルだ。この2つを合わせることで、光の矢の雨を降らせることができる。つまりこれで……!
「全員まとめて吹っ飛べ!複合スキル、『ブラスティングライトアロー』!」
矢が落ちたところから、爆発が起きる。それが僕を中心に広がり、やがて広間全体を光と爆発が包みこんでいき、そこには何も残らない!
―――はずだった。
「……うそぉー」
「魔王様の命により、お前らを助けに来た……無事か?」
『リマイン様!』
そこには、ローブを着た、片目に傷がついてる、高身長の男がいた。
「うわぁ〜、まじかぁ……」
まじかよこいつ。『魔力測定』で魔力が50000ってまじか。何時ぞやの神のスライム娘の半分ってマジ?
「……お前、『魔力測定』使えるんだな。……そういえば、名前言ってねぇな……自己紹介しとくか?」
「そうだな。谷下白矢、亜神……」
「いや、そっちは知ってるからいい。一応言っておくと、俺はリマイン、四天王最弱だ」
いやさっきのコイツラが四天王じゃないのかよ。それより……なんで、僕のことを知ってるんだ?さっきの会話を聞いた?いや、こいつの魔力反応はさっき出てきたばかり、仮にこの城にいたとしたらすぐに気づく。ではなぜ分かるんだ、何故だ?考えろ、今まであったことから推測しろ!
「……!そうか、そういうことか!」
「……正解だ。俺は心を読める。いつもはこの力を使ってないんだがな。魔王様に命令されちゃ、使わなきゃだからな」
「……なんか、苦労しそうな力だな」
「お前に俺の何が分かる!」
「ッ!弓か!」
「あぁ、そうだ。それも、さっきのお前の魔法で作った矢を使ってな」
「へぇ……そいつはまた、強そうなスキルだな」
よし、スキル発動、『鑑定』!……あれ、発動しない!?
「……言い忘れていたが、俺にとって不都合なスキルや魔法は使えないからな」
「……やりずれぇ〜」
そんなんもう、殆どのスキル使えないじゃんか……勝てるかなぁ……。
「まぁいいや、スキル発動、『創造』!」
「あ……そのスキルは、使えるんだな……。俺、負けるな……」
「ん?いや、こっちに攻撃手段ないんだから、そっちが勝つでしょ」
「……お前、本当に分かってないんだな……そのスキルのこと」
「当たり前でしょ、スキルの研究なんてろくにしてないんだもん」
「……教えて、やろうか?」
「え、いいよ、めんどいし」
「……お前、ほんとに包み隠さず言うんだな……。じゃあ、ここからは俺の独り言だ」
うわ絶対独り言じゃないやつだ。まぁ教えてくれるだけありがたいか。
「お前のそのスキル『創造』は、想像したものを何でも作れるスキルだ……って、これは知ってるんだったな。そのスキルの真価は、まさにそこにある。『何でも作れる』ということはつまり、お前の想像力次第では、森羅万象も、存在ならざるものも、概念すらも作れる、ということだ。……お前、理解できてるか……?」
「いや、理解はできてるけど、納得できないというか、信じられないというか……。正直、想像するのもめんどくさいから、そこまでスキルをフル活用しないんだよなぁ。まぁ、お前の言いたいことは分かった。つまるところ、スキルで『死』という概念を作れば、君を倒せる、ということだろ?」
「……そういうことだ」
「なら、僕はその力を使わない」
「……?何故だ?俺を殺せば、お前は更に強くなれるんだろ?なら、そうすればいい」
「それを僕が普通の人間として言ってるのなら、僕はお前を倒しても強くなれないよ。そもそもお前を殺すつもりはないし、それに」
「……レベルという『概念』がない、のか?」
「まぁ、そういうことだよ」
そう、僕にはレベルという概念がない。よって、生命を奪ったとしても、僕に経験値が入ることはない。この事に気づいたのは、リーフベアの討伐に行っていた時の、網野たちを助けたときだ。
―――時は遡って、「イガラスト王国」に滞在していた頃。
「おかしい……なんであいつのステータスにはレベルがあって、僕のにはないんだ……?」
考えられることは、2つある。1つ目は、「自分のレベルは見えない」ということ。2つ目は、「僕にはレベルという概念が存在しない」ということ。1つ目はまずないだろう。自分のレベルが自分で分からないというのは、特に冒険者には深刻な問題だ。自分でわからない以上、他人から聞くしかないが、それが真実なのかを確かめる手段もないため、どうしようもなくなる。となると2つ目の考えだが、これはおそらく正しいだろう。僕はまずほぼほぼ人間をやめてるようなステータスだし、表示する必要もないだろう。ステータスは無限だから、これ以上あがんないしね。……というかなんで、レベルじゃなくて「記憶」って表記だったんだろう?まぁいっか。僕に関係ないし!
……まぁそんなこんなで、僕にレベルの概念がないというのが正しいだろう。
―――時を戻して。
「……ちなみに、魔族にもレベルの概念ってあるの?」
「あぁ。まぁ、俺達にとってのレベルは、人間のような『強さ』ではなく、『知識』だがな」
「……なら、魔族で一番レベルが高いのって、やっぱり魔王?」
「そりゃぁな。ま、その次に俺だ」
「……なるほど。なんとなく分かった。スキル発動、『創造』!」
「……!ぐっ、なるほど、そう来たか……。殺したくないっていうのは、本当だったんだな……」
「これなら、死ぬこともないしな」
何をしたか説明しよう。まず、こいつが魔力枯渇で倒れるところを想像する。その後、減らされる魔力を魔力回復薬に変換、それでも足りない分があるので、その分は僕の魔力を使う、といった感じだ。
「……疲れた……。回復薬はそこら辺においてくれ……」
「……心読むの大変そうだけど、説明する手間がないのは楽だな……」
「そうだ、種明かし、しておくか。俺の心を読む能力は、スキルじゃないんだ」
「え、まじ?『鑑定』使えないからわかんなかったわ……」
「あぁ、この目が原因でな。見ての通り、これだけ深い傷をおって、片目が見えなくなっても、この能力は消えなかった。そのせいで、住んでた町から追い出され、人を信じられなくなった時に……」
「魔王に拾われた、と」
「正解だ。ほら、さっさと行け。また、戦うことになるぞ?次は、本気でな」
「手を抜かれて、更に強くなる方法まで教えてもらえるなんて、あんた、普通にいいやつなのな。んじゃ、お言葉に甘えて、先にいかせてもらうよ」
さてさて、お次はどんな四天王さんなのか、楽しみだぁ!
閑話
みなさん、とてもお久しぶりです。藍那萌です。……え?お前いつ出てきたんだよって?やだなぁもう、まだ異世界に来る前に、谷下くんと話してたじゃないですか〜。
……と、そんなことは置いといて。
なんとなくで、今どこにいるかも分からない谷下くんに、「ビデオレター」という、元の世界にもあるような魔道具を使って、メッセージを送りたいと思います。え?どうやって渡すのかって?何言ってるんですか、そんな手段、無いに決まってるじゃないですか!とまぁそんな感じで(?)、とりあえず書いてみようと思います。
谷下くんへ。お元気ですか?今こちら側では、色々面倒なことになっています。
1つ目は、勇者である網野さんが逃亡した事。お陰で国のお偉いさんたちはてんやわんやしています。まぁ、私達召喚者達への扱いが丁寧になったり、経験値が取れやすいところを教えてくれたりしているので、あんまり悲しくはありませんが。むしろ、いつも女子を汚らわしい、変態のような目でジロジロ見てくる彼がいなくなったので、私としてはとても嬉しいことですが。
2つ目は、みんなが意気消沈してしまっていること。これは7割方谷下くんのせいです。みんな、「国からの支援も受けていて、勇者の仲間である自分たちが、あんな無能に負けている」という考えになっていて、正直もう手が付けられないです。さらに、谷下くんのことを聞きつけた王様が、「何故あやつはそのことを隠していた!」とだいぶお怒りになって、みんな更に自分たちの弱さを実感してました。
3つ目が、みんなホームシックになりかけていること。「神殿の物静かな感じが落ち着かない」とか、「ゲームができない」とか、「こっちのより向こうのご飯の方が美味しい」とか……。とにかくみんな、こっちの世界の暮らしに馴染めないようです。……まぁ、そんな感じで、谷下くんの影響がひどいです。それはもうひどいです。網野さんが逃亡したのも、9割9分9里谷下くんの影響がありますもん。という訳で、早く戻ってきてください、谷下くん!ほんっとうに、早く!
……ふぅ。まぁ、このくらいでしょうか。さて、みんな寝てるだろうし、私も寝ましょうかね。それでは皆さん、よい週末を。って、週末かわからないんですけどね
「……ふぅ。大分登った気がするけど、まだ全然なんだな……。もう体感五時間は階段登ってるよぅ」
リマインを戦闘不能にしてから、ずっと階段を登ってたので、一旦休憩を取っていた。ちなみに、僕にしか見えないデジタル時計(ゲームに似た感じで見えてる)で計測してたけど、意外と短いもんで、まだ1時間もたってなかった。まぁそれでも先が見えない階段もおかしいんだけど。
「……なんか、あの吸血鬼の能力思い出すなぁ」
なんか、よくMMD使ってネタにされてたなぁ。あぁ〜、ネット使いてぇ〜。
「あ、そうだ、『創造』でつくればいいんじゃん。ま、考えんのめんどいしいいか。て、あれ?なんだろう、なんか、底知れぬ違和感がある……」
なんかこう、時の流れがおかしいというか、なんとも言えないな、この感じ……。
「えぇ〜、この力気づくってマジ〜?え〜、オワタ〜」
「おいおいマジかよ兄弟……」
なんと目の前には、あるゲームの推しに似た存在がいた。何故本物と思わないかって?そりゃまぁ、推しと見た目も声も違うし、何よりも、僕が『オタク』であるからだ!
……と、茶番はここまでにして、敵の分析と行こう。まず特徴的なのは、背中から純白の翼が生え、頭の上には天使の輪が乗っている……と行きたいとこだが、背中にあるのは純白の翼なんかではなく、まるで子供が雑に絵の具を混ぜたときのような色で、見た目も鳥のきれいな翼ではなく、悪魔なんかが持っていそうな羽で、天使の輪のほうも、明るく輝く円ではなく、ドス黒い色で不気味に光る、歪な六角形、という感じだ。そしてもう一つ、気になった点がある。
「種族、『不明』……?どういうことだ……?」
「ふふ、さぁて、なんででしょ〜?」
「ちなみに、考える時間って……?」
「もっちろん、ありません☆戦闘中に考えてね〜」
「デスヨネー」
「ほらほら、いっくよ〜!『ファントムレイン』『ブラックホール』『ダークネスカッター』『冥共』!」
「『光刃』『ホーリーライト』『剣風斬』!……うわ、なにそれキッツ!」
何だよこれ、アンデットみたいなのいっぱい出てくるし、こっちの攻撃は吸収されてこっちに闇属性で飛んで来るし、向こうの遠距離技は死角をついてくるし、流石にきついんだけど!?考える余裕がねぇんだが!?
「この強さ、そしてこの感じ、お前絶対四天王だろ!」
「せいか〜い☆ワタシは〜、四天王の、オワンダで〜す☆」
「ほ〜らやっぱり!どうせ攻撃とかめんどいんでしょ!ギャルっぽいし!」
「ちょっとちょっと〜、ギャルの偏見強すぎ〜w」
「何だよ、悪いかよ!こちとらギャルには嫌な思い出しかねぇんだよ!」
「あぁ〜、確かに君、女難の相的なの出てそうな顔してるもんねぇ〜wまじウケる―w」
あぁすんごいムカつくな。これだからこういう性格の人間は……!
「あの〜、なんだろう、そういう人を煽るような喋り方、やめてもらっていいですか?あと、僕が女難の相が出てそうな顔って、なんかそういうデータあるんですか?ほんと、そういう自分の偏見や憶測を他人に押し付けるのって、生き物としておかしいと思うんですよねぇ〜!ほんっっっとに!」
「ちょっと何マジギレしてんの〜?その喋り方めっちゃウケるんですけどw」
「………………」
「ちょっと〜。なんか言ったらどうなの〜?」
「…………ばす」
「え?ちょっと〜、もっと大きい声で言ってよ〜」
「ぶっ飛ばすっつってんだよ!この自堕落追放堕天使がぁ!」
「お、勇者くんキレた〜w勇者なんだから落ち着きなよ〜w」
「あいにく僕は勇者じゃないんでね!この怒りをそんままぶつけてやらぁ!『救いの雨』『神の息吹』『救済の月夜』『後光』!」
「え……なんでそんなに範囲回復魔法使ってんの?あと普通に眩しいんデスケド……?」
「え、あ、いや、お前闇属性っぽいし、聖属性使ったら、こう、ジュワッって消えるかと……」
「あのねぇ、ワタシは確かに闇属性だけど、回復魔法で倒せるのはアンデッドだけだよ……?」
「……マジ?」
「マジ。本気と書いてマジ」
「……何だよそれ!そんなんただ自分の無知を晒しただけじゃんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「いや、ホントに鬼ウケるw魔王軍と戦うのに魔物のこと知らないとかw色んな意味で終わってるw」
「グヘッ、グホッ、グハァ!」
なんだろう、すんごい心に来る……もうそのまんま(´;ω;`)みたいな顔なるって……。
「あぁもう、こうなりゃヤケだ!適当に色々使ってやる!」
「……へ?」
「おらおら受けとれぇ!『剣風斬』『水泡斬』『泡沫・虹』『覇廻剣』『魑魅魍魎』『鳥獣戯画』!」
「え、ちょ、ま、はや、速いって〜!」
「オラオラオラオラァァァ!あっ、」
グへッ、こけた……。なんで戦ってる真っ最中にこけるんだよ。
「いってぇ……。てあれ、なんか違和感が……」
「まぁ、時間止めてるから……てか、なんで動けてるの!?ワタシの能力意味ないじゃん!」
お、厨二病のセリフ言えそうな返しじゃんか!これもう言うしかないよね!
「何故動けるか、か……いいだろう、教えてやる……」
「え、何急に〜wもしかしておバカさ〜ん?w」
「それはな……わからん!」
「へぇ〜、わかんない……え、わかんないの!?自分のことなのに!?」
「いた、だって、自分の使ってるスキルの効果もよく知らないんだから仕方ないでしょ」
「えぇ……」
「あ、あの〜、そろそろ通ってもいい?早く魔王のとこいって就職したいから……」
「……え、もしかしてここに来た理由って……?」
「はい、魔王軍に入るためです☆」
「あ……なぁ〜んだ、てっきり勇者が来たと思って、どんなやつか確かめてみたかったのに〜。ま、そーゆーことなら通って良し!」
「やった〜、無駄に疲れなくて済む〜」
「え、さっきまでのあの攻撃で疲れてないの?」
「え?あ、確かに……。なんか疲れてないや☆それじゃあね〜」
「……なんか、すごい人材が来たなぁ〜」
閑話
だいぶ時を遡って、谷下が「緊急依頼」を受けている頃、ノグドラント王国の勇者一行では。
「なぁ、そういえば網野って、結局勇者じゃないんだろ?」
「まぁ、そうだね。けど、それがどうかしたの?」
後衛組の仲の良い2人が話していた。
「いや、それでさ、そしたらめっちゃ強かった白矢が勇者なのかなーって思ったら、あいつは結局ヒキニートだったじゃんか?」
「まぁ、確かに。あれ?そしたら、もしかして……」
「な、お前も思うだろ?結局、勇者って誰なんだろうな」
「さぁ……。もしかして、カード渡されたときには分かんなかったけど、後になってわかった、っていう人がいるんじゃない?」
ちなみにこの「カード」というのは、訓練場でもらったステータスプレートのことである。今を生きる若者達には、名前が長すぎて言いづらかったんだろう。さすが現代人、略語だけはすぐに思いつく。
「ほら、白矢君も、最初は『分からない』って言ってたじゃん?でも、この前に会った時にはステータスが分かっていた。じゃぁ、後からでも変わるのはおかしくないんじゃない?」
「なるほど、一理あるな。それじゃあ、今日の夕食のときにでも、みんなに言ってみるか?」
「そうだね、そうしよう!そろそろ本物の勇者を見つけないと、王様も血圧上がって倒れちゃうかもだよ〜?」
「いや、なんだよそれ!」
「あ、そろそろ休憩時間終わるし、この話はまた後で!」
「お〜う」
―――そして、その日の夕食の時。
「なぁ、みんな。一つ、聞いてほしい事……というか、やってほしいことがあるんだけどさ」
みんなが食事をそろそろ食べ終わりそうな頃、一足先に食べ終わっていた彼は、そう切り出した。
「ん?どうしたの、一郎くん?そんな急に改まって」
「いや、今日の訓練中に、一香と話してたんだけどさ、そん時に疑問に思ったんだよ。『結局、本物の勇者って誰なんだ?』てさ」
その疑問に、クラス1の単細胞と名高い者、馬乗鹿野はすぐに答えた。
「そりゃあお前、そんなの白矢に決まってんじゃん。だってあんなに強かったんだもん」
それはそうだ、あの強さで勇者じゃない訳がない、とみんなが思った。
「まぁ、俺もそう思ってた。でも、一香のやつが、その時だけすんごい頭良くなっててさ、すごく面白れぇこと言ってたんだよ。なぁ、一香?」
「『その時だけ』って言うのはなんかムカついたんだけど……。まぁ、その時私が一郎に話したのは、『ジョブのところが変化してるかもしれない』ってこと。ほら、白矢君も最初王様に報告したときには『分からない』って言ってたじゃん?でも、ダンジョンで会ったときにはヒキニートに変わってた。それなら、みんなのジョブももしかしたら、って言うこと」
ひとしきり話した後、一香は息を吐いて席に戻る。そして、藍那が質問する。
「なるほど、確かに有り得そうだけど、私達、週に一回は王様にカードを見せに行ってるでしょ?誰かのジョブが変わってたら、その時に気づくと思うんだよ。それについてはどう思う?」
「あぁ〜、確かにそうなんだよなぁ〜。一香、なんか閃いたりしてねぇか?」
一郎からの問いに、一香は首を傾げながら答える。
「うぅ〜ん、今ぱって思いついたのは、スキルかなんかでカードに細工をして、勇者だってバレないようにしてる、くらいなんだよねー。でも、それをやるメリットがおもいつかないんだよなぁ……」
「まぁ、そうなるよなぁ……。でも、王様は『一人は絶対にいる』って言ってたし、やっぱり誰かが隠してんのか?」
その場にいた全員で悩んでいると、いつもは発言しないような者、石田太郎が手を上げて、こう言った。
「あの、その、僕、ずっとみんなに隠してたことがあるんだ」
「あ、そうなのか?それで、隠してたことって?」
少し言い淀んでから、太郎は続けた。それも、とても衝撃的なことを。
「その、前に谷下君に会ったときから、カードに書かれてるジョブが……ゆ、勇者に、なってたんだ……」
沈黙、そして。
「「「「「「「「「えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」」」」」」」」」
その場にいた全員が驚いた。それもそうだろう、なぜなら、あの、地味で、根暗で、前髪で顔が見えなくて、いつもパソコンかスマホで作業をしてる、存在感の薄い太郎が、勇者。驚かないはずがない。
そして、ここに白矢がいたらこう言っただろう。目立たないやつが勇者って、定番すぎだろ、と。
「な、なんで今まで教えてくれなかったんだよ!お前がすぐに言ってくれれば、みんなやる気が上がってたかも知んねぇだろ!」
陽キャの一人がそう言った。他の陽キャたちも、そうだそうだと喚いている。
「そ、それは、言い出すタイミングがなかったというか、あの暗い空気の中で言っても、あんまり効果なさそうだったというか……」
「言い訳してんじゃねぇ!俺達が今までどれだけ不安だったか、分かって言ってんのか!」
「まぁまぁみんな、一旦落ち着いて!」
そういったのは、クラスカースト1位、教師を含む男女両方からファンクラブが作られ、最早校長よりも権力がある、藍那萌だった。そんな彼女からの言葉だ、陽キャなら黙って言う事を聞くだろう。
「確かに、みんなの言い分も私には分かる。私だって、あの空気はすごい不安だった。本当に元の世界に帰れるのかもわからなくて、一日を乗り切るだけでもしんどかったよ。でもさ、太郎君の気持ちもすごく分かるの。あの雰囲気で、みんな精一杯のところに、いきなり『自分が勇者だった』なんて言っても、みんな信じてくれるとは思えないし、寧ろみんなを更に暗くさせてしまうかもしれない。でも、今彼はこうして、勇気を出して話してくれた。それだけでいいじゃん!勇者がいる、つまり、魔王を倒せば、元の世界に帰れる!その希望が見えてきた、それだけでも十分でしょ!?」
藍那の力強い言葉に、みんなの心にあった不安や焦りはなくなって、明るい気持ちで包まれた。
「確かに、藍那さんの言う通りだ!別に太郎一人に任せなくてもいいんだし、俺達で支えていけばいいじゃないか!」
「そうね、私だって、早く元の世界に帰りたいもの!みんなで力を合わせて、頑張りましょう!」
「うおぉぉぉぉ、やるぞーーー!魔王を倒して、みんなで元の世界に帰るんだぁぁぁ!」
「「「おぉーーーーー!」」」
そうして、みんなの心が一つになった。
……はずだった。
「チクショウ、どうしてこうなった……。どれもこれも、全部アイツのせいだ……。あいつが、あいつが俺から全てを……!殺してやる、絶対に殺してやる……!」
ただ一人を、除いて。
オワンダとの戦いを繰り広げてから、1時間と少しが経った頃。
「なんで、こんなとこにジムみたいな場所あんの……?」
そう、階段を登った先には、何故か結構広めのジムがあったのだ。しかも使ってる奴らはもうゴリマッチョとしか言えないくらいには筋肉がついてる。ぶっちゃけあんまやる意味なさそう。運動しないからわからんけど。ちょっと今更魔王城が怖くなってきたわ……。お、サイクロプスっぽいやつがこっち来た。
「……オマエ、キンニクナイ。モットキタエロ」
「……え、ちょ、え、ちょっと待ってよ!僕、筋トレしに来たわけじゃないのに〜!」
なんだ、服装か?服装が悪いのか!?お気に入りのジャージパーカーなのに、ジャージ要素入っちゃってるからだめなのか!?チクショウ!こんなところでヒキニートの格好が牙を向いてきやがった!
「……ン?オマエ、ニンゲンノニオイ、スル。オマエ、シンニュウシャカ!」
いやいや待て待て、そんな大声で叫ぶんじゃない。そんなんしたら……ほら見ろ、周りの奴らが一斉にこっち見てきてるじゃん。やめてよ?みんなで殺しに来るとかやめてよ!?
「なんだお前ら、騒がしいぞ?もう少し静かに……お、そこにいるのは人間か?珍しいな」
あ、誰か来た。……ん?なんだろ、この違和感。
「コイツ、シンニュウシャ。イマ、コロス。ミテロ」
うわぁ、今来たやつの方が偉そうなのに、めっちゃ口悪いな、こいつ。そんな言い方してたら……。
「侵入者とかどうでもええわ!この部屋で騒ぐなっつってんだろ!」
「グワッ!」
……わぁ。すごいよこの人、拳一つでゴリマッチョを壁までぶっ飛ばしたもん。なのに結構体細めだし……。
「で、人間がこんなとこになんの用だ?」
「え、ええっと……」
なんだろう、凄い圧迫面接感を感じる。そんなん受けたことないけど。
「ま、魔王軍に、入ろうと思って……」
「なんだ、そういう事か。だが、今のお前では無理だ」
「そ、それはなぜ……?」
「それは……」
「それは……?」
「筋肉がないからだ!おまえ、絶対引きこもりだろ!」
「グッ!で、でも、ちゃんと学校にいってたし、買い物もいってたし、ちゃんと外出て運動してるもん!」
「その中に、筋トレは?」
「グッ、グハッ!」
まさか、精神面で攻撃してくるタイプだったとは……!ただの脳筋じゃあないのか……。
「というわけで、ここで鍛えていけぇ!」
「どぉしてだよぉーーーーー!」
―――数分後。
「もう無理……死ぬ……」
「おいおい、まだ5分も経ってないぞ?ずっと引きこもってるからそんなになるんだ!」
「だってぇ……お家快適なんだもん……」
「ハァ……。まぁいい。それなら、休憩がてら、俺の身の上話でも話してやろうか?」
「え、いいんですかい?」
「あぁ、魔王軍に入りたいってんなら、知っておいて損はないと思うぞ」
「それじゃぁオナシャス!」
「そうだな、どこから話そうか……」
―――それじゃ、2年くらい前の話でもしようか。
俺は元々、魔王領に少し近い、質素な村で過ごしていたんだ。親にも恵まれ、俺は何不自由ない生活をしていた。でもある時、隣の村の奴らが攻めてきてな、「金目の物を寄越せ」って、俺の住んでた村を荒らしまくろうとしたんだ。そん時に、村長が、こう言いやがったんだ。「この夫婦をやるから、どうか金目の物は取らないでくれ」ってさ。ひどい話だよな。村のやつの命よりも、金なんだもんな。そうして、俺の両親は連れて行かれて、俺は村中から嫌われた。そんな時、俺は思ったんだ。「俺って、何もできないんだな」ってさ。それと同時に、こんな事も思ったんだ。「俺って、両親を連れて行った奴らでも、それを提案した村長でもなく、何もできなかった自分に怒ってたんだな」って。そう思っちまったら、もうこの村にいても意味ないと思って、すぐに村を飛び出していったんだ。それで、なんとなく魔王領に来たら、魔王様にあってな。それで軽くこの話をしたら、「えぇ〜?じゃぁ、魔王軍来なよ〜!絶対笑顔にしてあげるからさ!」って、すっごく笑顔で言ってきたんだよ。最初はびっくりしたけど、話しているうちに確信した。この人についていけば、幸せになれるってな。
「……まぁ、それで今に至るってことだ」
「……大分、苦労してたんだなぁ。もしかして、他の四天王も?」
「あぁ、そうだ。……一人を除いてな」
「え、それって……?」
「さぁ、休憩は終わりだ!鍛えろ!動け!運動しろー!」
「え、や、ヤダー!死にたくないーーーーー!」
こうして、数日間みっちりと筋トレさせられるのであった……。
「ゼェ、ハァ、ゼェ、ハァ……や、やっと解放された……」
3日くらい筋トレさせられたから、めっちゃ細マッチョに近くなっちゃった……。でも、不思議と筋肉痛はないんだよなぁ。やっぱ先生が凄かったから?
「ていうか、また階段かよ……。どんだけ高いんだよ、魔王の間……。そんな威厳いらないって……」
まぁいいや、頭の中で推しの曲でも再生してよ。
……うん、やっぱ音楽あると楽だな!
「お、もう着いた?意外と短かったなぁ、やっぱ音楽があると違うね!……って、なんだ、あれ?」
そう、階段を登った先には、とてつもなく大きい扉があったのだ。
「まぁ、この感じは多分門番的なの倒してから魔王、っていうパターンかな?」
だがそこは重度の厨二オタク、すんなりとその光景を受け入れた。そんな白矢の独り言に答える人物が一人、目の前に現れた。
「大正解。それじゃぁこの後の展開、わかるよね?」
「え」
気づいたときにはもう遅く、腹を思い切りナイフで刺されていた。
「ガ、ゴフッ……」
嘘だろ、ずっと『気配察知』を使ってたのに、気づかなかった!?
「アハハ、これでも死なないんだぁ〜!」
「な、なんだ、こいつ……。気配の感じが人間じゃない……!なのに種族が人間……?」
「ハハ、当たり前じゃん、だって、俺は……」
一瞬で大量のナイフを出し、一言。
「血が大好きなだけなんだから」
「ッ!?」
全方位から迫ってくるナイフを剣で叩き落とす。その度により多くのナイフが降ってくる。
あぁもう、このままじゃジリ貧だ……!どうする、何があれば……!盾はむしろ使いにくい、二刀流にするにしても、それができるほどの余裕がない……!だめだ、何も思いつかない……!そもそも深く考えれるほどの余裕もない……!
途端、ナイフが降るのが終わった。
「なんだよ、つまんないなぁ。あいつらの話とぜんぜん違うじゃん。もっと強くて、面白そうなやつだと思ってたのにさ、実際にやり合ってみたら、全然面白くないんだもん、失望しちゃうよなぁ」
「な、んだよ、お前……。人のこと散々馬鹿にしやがって……!」
「別に、馬鹿にはしてないよ?君が弱いのは事実じゃんか?」
そうやって話す間、白矢は思考を続ける。
どうする……?あいつの間合いには全く入れない、なら遠距離からか?剣じゃあいつには届かない、遠距離の定番は弓だけど、あの量のナイフに矢一本は分が悪すぎる、そしたら魔法か?いや、僕は魔法を一回一回「創造」で作ってる、対応しきれない、どうすれば……考えろ……!いつもそうして乗り越えてきたじゃないか……!
「……ねぇ、人の話、聞いてんの?無駄だよ、この世界に俺に有効な武器なんてないんだから」
「……『この世界には』?そうか、あれがある……!『創造』!」
「ん?ハハッ、面白そうじゃん……!」
そう、白矢が作ったのは、このファンタジーな世界には到底存在しないような、でも元の世界ではほとんどの人が知っている武器、「マシンガン」だった。これを作るというのは前々から考えていたことだったが、その時点では「銃の構造がわからない」という問題があり、諦めていた。だが、今作った物は、内部構造を全部無視し、「魔力の圧力を高める」「魔力を銃弾の形にする」「魔力を光速で打ち出す」の3つのシステムを内部に組み込み、持ち手部分に魔力を流し込む場所を作ることで、擬似的に魔力でを動かせるようにしたのである。一応、実弾も打てるように銃弾を入れるところもあるが、それにも魔力を使うので魔力で攻撃したほうが効率が良かったりする。
「いいねいいね、楽しそうだね!それじゃあ名乗っておくよ。俺はブラッド、四天王最強だ!」
「期待に答えてあげるよ。それじゃあ僕も名乗っておこう。僕は谷下白矢、人間のようななにかだ!」
「ハハ、それじゃあ思う存分……」
さっきの倍の量のナイフが出現する。
「どちらかが潰れるまで……」
銃内部の魔力圧力が高まる。
「「殺し合おうか!」」
ナイフが飛び交い、銃弾が飛び出す。互いにぶつかり合い、消滅する。
「やっぱり、その武器凄いね!いくらでも出てくる!」
「それはどうも!」
「でも物足りないなぁ。そうだ!近接戦闘すればいいんじゃん!」
「は!?おま、この状況でかよ!もう怖い!」
「ほらほら、いくよー!」
「くっ、こっちはまだ使い慣れてないってのにさ……!」
ていうかコイツ、遠距離と近距離を同時に使ってるのかよ……!センスの塊やんけ……!
「くそ、銃が邪魔だなぁ……!でもこれないと、遠距離攻撃を防ぐのむずいしなぁ!」
「ホラホラ、守ってないで俺に血を見せてくれよ!」
「ッ!グアッ!」
遠距離への対応で隙ができたところに、ナイフが突き刺さる。
「ハハハ!やっと当たった!やっぱり君の血って綺麗だね!」
ぐっ……まずい、血がなくなっている……!対処しきれない……!
「ハ〜イ、これで終わり!」
あ、これ、だめなやつだ。
ナイフが迫ってくる。誰がどう見ても万事休すであった。
―――その時、誰かが乱入してきた。
「はいはい、ストップ!ストーーーップ!」
「やべ、魔王様来た……」
「え、ま、魔王?あいつが?」
「おい、お前も早く頭下げろよ!」
「え、え〜……?」
「あ、白矢君は頭下げなくていいから。それより、ブラッド?私、朝に言ったよね?『今日一人で来る人間は殺さずに、いい感じに強くしてから、いい感じに負けるように』ってさ。あなた、ホントにいい感じに強くしようとしてた?今、思いっきり殺そうとしてたよね?なにか、弁解は?」
「え、あ、いや、そのぉ……。生死の狭間に追い込んで、覚醒っぽいことさせようかな、と……」
「ハァ……あのね、それならもっと手加減とか魔法とかがうまい子達がいるんだから、ちゃんと相談しなさいよ!いつも言ってるでしょ?『働く場所には報・連・相』てさ!」
「ま、誠に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ハァ、まったく……ごめんね?白矢君。ちゃんと説明せずにこんな事しちゃって……」
「いや、こっちが攻め込んできたんだからそれは別に気にしてないんだけど……。なんで、ここにデアーズが?しかも、魔王って……」
そう、乱入してきたのは、自分が昔一緒に冒険(?)してた、デアーズそのものだった。
「ん〜、まぁ、一応説明するとね……」
話をまとめると、こうだ。どうやら元々デアーズは魔王で、300年働いたから100年は自由にしてていいよ、と、古参の魔族たちから言われたらしく、そこら辺を適当に歩いてると、谷下に転送されたという。それで、スライムの森でゆっくりしているところに「魔王城が大変だから戻ってきてくれ〜」と言われ、ちょうどいいタイミングで勇者(笑)が来たから、ついでに谷下も連れて行こうとしたらしい。そしていざ魔王城に戻ろうとすると、いろいろな事情の人間や堕天使がいたから、まとめて引き取って四天王にした、ということらしい。
なんか、さっきから数字の桁がおかしい気がする……。ま、異世界だしだいじょぶか。
「……てまぁ、こんな感じで、今に至るってわけ」
「アッ、ハイ、ソッスカ」
うん、理解するの諦めよう。
「それで、物は相談なんだけどさ……」
「ん、何?できることなら手伝うよ?」
「えぇ〜っとね、魔王の座を継いでくれない?」
「あぁ、それくらいなら……って、えぇ!?」
驚くのも無理はないなず。まさか、魔王がさも当然のように、魔王の座を譲ると言ったのだ。これには世界の半分をあげようとしている魔王もびっくりだろう。
「いや、あの、僕、一応人間なんだけど……」
「ん〜?いやいや、そんなの関係ないよ〜。ほら、四天王も4人中3人は人間なわけだし。てか私も人間だし?」
「た、確かにそうだけどさ……。僕、仕事内容とか、全くわからないんだけど……?」
「大丈夫!未経験でも安心、アットホームな職場、若手中心の活気あふれる環境!これ以上に好条件な職場があるもんですか!」
「聞いてるだけだとすんごいブラック企業なんだけど!?」
「まぁ、詳しいことは四天王のみんなが教えてくれるだろうし、私も一応はここにいるからさ、わからないことがあったら周りに聞けばいいよ!」
「んー、まぁ、特段やりたいこともないし、やろうかな……?」
「え!ホント!?ヤッター!それじゃあ早速、魔王城について色々教えるねー!」
「う、うん、分かった……」
そうして、人間から魔王に転職する、白矢なのであった。
閑話
白矢が魔王城を探索している頃、ノグドラント王国の勇者一行では、勇者を迎える宴が開かれていた。
「皆のもの、この宴によくぞ集まってくれた。この度。我がノグドラント王国で、真に選ばれし勇者殿を迎えることができた。紹介しよう、タロウ・イシダ殿だ!」
「え、えっと、どうも皆さん、はじめまして……」
会場に動揺が走り、あんな影のうすそうなやつが?あんな弱そうなやつが?など、新しい勇者に対する不安の声が広がっていた。
「うぅっ、やっぱり、こうなるよね……」
「太郎君、落ち着いて、元気だして!ほら、これからなにするか、みんなに話すんでしょ?」
「あ、あぁ、そうだった……」
二人のヒソヒソとした話を聞きながら、国王が進める。
「それでは、新しい勇者殿に、これからの方針を話していただく。皆の者、しっかりと聞くように」
国王の一言で、その場にいた全員が壇上に注目した。
「は、はい!え、えっと、ぼ、僕達はこの宴が終わってすぐに、魔王城に攻めに行きます!」
その勇者の一言に、民衆がどよめき、中には否定的な意見を言い出す人も少なくなかった。
……みんなのアイドル、藍那が喋りだす前までは。
「みなさん、これは、私達勇者パーティー全員で決めたことで、決して、勇者である彼が独断で決めたことではありません。そして、私達は、魔王を倒せるという確固たる自信と決意があり、それを裏付ける証拠もあります!」
「その、証拠とは……?」
その場にいた貴族の一人が、無意識の内に呟いた。
「その証拠は……この魔導手記です!これには、勇者パーティーの一人が、単独で、魔王城の探索に望んでいるという事が書かれていて、その下に、『今の勇者のレベルなら、魔王城を落とすのも容易だろう』と書かれています。皆さん、安心してください。私達は、死にに行くのではありません、勝ちに行くのです!皆さん、どうか応援をお願いします!」
―――ウオォォォォッ!!!
会場の全員が歓喜し、中には感動し泣き叫んでいるものまでいた。それほどまでに、藍那の言葉には自信と決意に満ちていたのである。
「それでは皆のもの、勇者たちの旅立ちと勝利に、乾杯!!」
そうして、宴は夜更けまで続いたのだった。
白矢が魔王になってから、早4ヶ月。白矢は、激務に追われることもなく、ゆったりと過ごしていた。
「お茶とお菓子持ってきたよ〜あれ、白谷君、なんか考え事?」
「いや、魔王も意外と楽なんだなぁ〜ってさ」
「いや、それは白谷君の仕事がめちゃ早だからだと思う……」
そう、デアーズの言う通り、通常なら一週間かけて終わらせるほどの量を、白矢は半日で終わらせているのである。
「まぁ、こうしてゆったりと過ごせるのはいいことだろ?」
「まぁ、それはそうだね〜」
「さて、それじゃあ僕はこのままぐぅたらして……」
その時、ドアが思い切り開かれた。
「ま、魔王様、大変です!」
「ん。どしたん、そんな慌てて」
「勇者が、勇者一行が攻めてきました!」
「え、ま、マジ?」
「白谷君、どうするの!?勇者が来るのって、私も初めてなんだけど!」
「……ヌフフ、てことは、『アレ』ができるな……!」
「え、ちょ、白谷君?」
「至急、城内にいる者全員を謁見の間に待機。四天王は……とりあえず、僕の席の近くで待機させてて!」
「り、了解いたしました!」
伝えに来た兵士が走り去っていく。一応、彼は幹部クラスらしいけど、そんなことはどうでもいい。
「それじゃあ、僕は少し準備してから行くから、デアーズは先に行ってて!」
「分かった!白矢君も早く来てよ?」
「は〜い」
デアーズは地面スレスレを超スピードで低空飛行していく。そっちのほうが楽なんだそう。
「それじゃ、僕も準備するかぁ」
え〜とまずは、仮面とマント、そして禍々しい見た目の大剣!これらは全部、僕がが「魔王と言ったらこれ!」という独断と偏見で作ったものである。しかも何気に高性能。仮面にはボイスチェンジャーと「自動鑑定」が付与されていて、ローブには「魔導覇気」、大剣には「空撃」と「巨大化」、そして「闇毒性付与」を付与してある。うん、盛りすぎた。
「よ〜し、全部装備したし、行きますかぁ〜」
よし、せっかくだし新しく作った転移魔法モドキで行こっと。
―――謁見の間の構造自体は、王国の構造とほぼ同じである。ただ、唯一違うのは、絵画や装飾品などは一切なく、ただただ無機質な部屋であることだ。そこに、勇者一行が入ってきた。
「な、何だ、これ……」
「道中で何にも会わないと思ったら、こういう事……!」
「みんな、大丈夫だよ、僕達ならやれる!」
やはり異世界召喚された勇者たち、テンプレの大放出である。「テンプレにはテンプレで返す」が僕のモットー、魔王のテンプレを言うのが筋ってもんかな。
「よく来た、勇者とその仲間よ。我が魔王、シロウ・キャニオンである」
いつも通り名前は雑である。考えるのめんどくさいしね。
「お前が魔王か!そのオーラ、やはり只者ではない……!」
まぁ、僕の魔力で覇気を作ってるから、オーラが凄いのは当たり前なんだけどね……。確か鑑定持ちは一人しかいなかったし、多分そいつは留守番だよな、人数少ないし。
「ところで勇者よ。我は、争いを望まない。そこで、だ。この世界の半分をお前にやろう。どうだ、それで手を引いてはくれぬか?」
これはもうテンプレというより某RPGゲームの魔王のセリフをそのまま言っているだけである。
「何だと、人類を苦しめておいて、よくそんなことが言えるな!そんなに自分の命が惜しいか!」
やっぱり、人類にはそんな感じで伝わってるのか。まぁ、当然っちゃ当然か……。真実を知るものとしては心苦しいなぁ。魔族は一度も人類の国に攻めに行ったりはしていないし、寧ろ魔族が一人で、護衛もつけずに話し合いに行ったのだが、頭がどうかしてる人類はそれすらも「侵攻」と捉えている。なので、魔族は友好的に接しているのに、人類がそれを拒んでいる、という状態なのが真実だ。
「フッ、所詮は真実を知らぬ子供だったか。いいだろう、納得のゆくまで相手をしてやろう!」
「あぁ、行くぞ!『光輪』『光剣』『エクスカリバー』!」
「ウォッ、眩しっ」
「な、何!?効いていない、だと!?」
「……フッ、今、なにかしたのか?何も感じなかったがな!『メテオ』『エクスプロージョン』!」
「まずい、みんな離れて!」
「上からくるぞ、気をつけろ!」
あぁ〜〜〜、魔王ムーブするのたのし〜〜〜〜〜〜〜〜〜!……あれ、なんかみんな満身創痍だな。早くね?
「え、あの、も、もう終わり?まだ始めたばっかなんだけど……?」
「グッ、くそ、ここまで、か……!」
「アッ、ハイ、ソッスカ」
何だよもーーー!まだやりたいテンプレとかいっぱいあるのにぃーーーーー!
「はぁ……。もういいや、この仮面いらね、なんか冷めたわ……」
「え、し、白矢?まさか魔王って、白矢だったのか……?」
「うん、そうだけど?」
「……やっぱりお前、『魔王の子』だったんだな」
「え?いやいや、こっちの方が高待遇だから来ただけだよ?」
「「「は???」」」
「いやぁ、人間族の間では僕はお尋ね者だったし、魔王なったらちょっとの書類仕事と四天王との模擬戦だけでいいし、その後はずっとぐぅたらできるんだもん、こっちの方が楽だよ☆」
「……そうだった、こいつ、頭おかしいんだった……!」
「なぁ、魔王様、俺達、そろそろ仕事に戻ってもいいか……?」
「あぁ、そうだったね。それじゃみんな、もとの仕事に戻ってて〜」
ほんわかしている魔王、落胆している勇者軍、仕事に戻る魔王軍……なかなかによくわからない状況であった。
「あ、そうそう、元の世界に戻る方法、見つけたよ〜」
「あー、うん、そっか……て、え、は、マジで?」
「うん、マジ。本気と書いてマジ」
「ま、マジかよ……」
「ま、そーゆーわけだから、みんなをここに呼んでほしいんだけど……他のみんなって、どこいるの?」
「あぁ、それなら、王都に……んぐっ!?」
「ちょっと待ってよ、太郎君!」
太郎が喋っている時に、藍那が急に口を塞ぎ、話しだした。
「相手は魔王だよ!?今までの話も作り話かもしれないし、もしかしたら白矢くんの姿を真似ているのかもしれないんだよ!?そんなに素直に情報を渡さないで!念には念を、だよ!」
「そ、そうだ、あいつは偽物に決まってる!あいつが、あいつが魔王に勝てるはずがない!いくら強いったって、魔王に勝てるわけねぇだろ!」
あぁ、この感じは……。
「うるせぇ網野、だいたいお前は……!」
「何だと、勇者の俺に盾突く気か!?」
「ちょ、ちょっとみんな、落ち着いてよ!」
網野が余計なことを言い、勇者側で口論を始め、乱闘も起きかけていた。止めようとしている者もいたが、声掛け虚しく、結局荒れに荒れる。ついに止められないところまで行く、その一歩手前で。
「ねぇ、ちょっと静かにしてくれない?頭痛くなるから」
全く空気を読まない、白矢の言葉に、全員が振り向いた。
「あのねぇ……。僕は本物の谷下白矢だし、網野は勇者じゃないし、今話したことも本当だよ」
そんな呆れたような言い草に、太郎はなんとも言えない気持ちになり、白矢に問い質す。
「じゃ、じゃあ、お前が白矢だって証明できるもんはあんのかよ!」
「もちろん、あるよ?そう、みんな知っての通り、僕はオタクなわけだからね!ほら、向こうの世界のこと、何でも聞いてみな?即答してやんよ!」
「フム、それなら、拙者の問いにすべて答えることができたら、認めてしんぜよう。それでは参るぞ!」
自信満々に言う白矢に、オタク仲間の多田杙阿仁が、挑戦状(?)を突きつけた。
「あぁ、かかってこい!」
そうして多田と谷下のオタクの尊厳をかけた戦い(?)を聞きながら、太郎は一言、
「……何言ってるか、さっぱりわからん」
その言葉に、その場にいた者全員が頷いた。
数日後、謁見の間に、召喚された者達が集まっていた。
勇者達「魔王討伐隊」の面々に有無を言わせず無理矢理連れてこられたのもあってか、それぞれ小さなグループになって話している。その中にはもちろん、仲間はずれにされてボッチでいる人もいる。
そんな状態の謁見の間に、突如として魔法陣が現れ、中から白矢が出てきた。
「よ〜、みんな久しぶり〜。元気してるかー?」
その場にいた全員が白矢の方を向き、驚いた表情をしていた。それもそのはず、王国で訓練の他に座学も受けていた彼らは、「転移魔法は失われし魔法」を習い、実際に王都随一の魔道士でも、使うことはおろか、魔法陣を形成するのも無理なのだ。それを軽々とやってのけた、驚かないわけがない。
……が、そこは白矢、そんな空気は全力スルーし、続ける。
「え〜っと、多分説明されてないだろうから、軽く説明するよ?」
「あぁ、頼む。一応、前に聞いてはいたんだが、どうにもよく分からなくてさ」
「まぁ、大分頭おかしいことを言ってるもんな。さて、元の世界への帰り方なんだけど、まずは、この鍵を使うんだ」
そういって白矢が取り出したのは、日本でよく見る、小さな鍵にネームタグが付いているだけの、なんの変哲もなさそうな鍵。だがその鍵からは、どんな魔道具にも込められていない、いや、「込められてはいけない量の」魔力が感じられた。
「この鍵には、行きたいところを指定するだけで、その場所への魔法陣を展開してくれるという便利な機能がついていてね、この世界は当然のこと、別世界に行けることも確認済みだ」
「ま、待ってくれよ、白矢。それはつまり、お前はすでに一回、日本に帰ってるっていうことか?」
「いや、僕が行ったのは元の世界ではなく、『元の世界の並行世界』だ。ま、細かいことは気にしなくていいよ。後は、この鍵に対象の魔力を通せば、帰れるようになるよ」
「ま、まじかよ、すげぇな、白矢!これで、これでやっと、日本に帰れるんだな!」
そんな太郎の言葉に感極まったかのように、他のみんなも喜び、泣き叫んだ。そんなみんなのテンプレの反応を見つつ、白矢は気づかれないようにみんなの魔力を鍵に込めていく。そんな中。
「ふざけんじゃねぇ……!何が帰れるだ。こんなすぐに帰れて溜まるか……!」
「お、おい、網野、どうした……?」
「うるせぇ!まだだ、まだ帰るわけにはいかねぇ!向こうの世界ではできねぇんだ、あの計画は……!」
突然挙動不審になった網野にみんなが注目し、白矢も例外ではなかった。
「せめて……!せめて白矢、お前だけは殺す!一番邪魔なお前だけでも!アハッアハハハハッ!」
そんな狂気的な笑い声をあげる網野に、白矢はただ一言、
「そう?じゃぁ、お前が死んで?」
「は?」
その瞬間、一つ、首が飛んだ。
簡単に、人を殺した。
悪びれもなく、人を殺した。
その事実に、日本ではありえない光景に、全員が同じ考えを持った。それすなわち、
「コイツは危ない」、と。
「どうしたんだよ、みんな。別に生き返らせるし、いいじゃん?」
『いやそういうことじゃねぇよ!』
全員、戸惑いより先にツッコミが勝ったらしい。見事なシンクロであった。
「まぁまぁ、どうせみんな信じてないでしょうし、ここは一つ、正真正銘の魔法を見せてあげるよ」
そう言って、白矢は死体の方を向くと、意味もなく呪文を唱える。
だって呪文って、かっこいいしね!効果変わんないけど!
「え、あ、俺、生きて……?」
「いや〜、初めてにしてはうまくいったなぁ〜。どっかおかしいところない?」
「え、は、初めてだったんだ……。クラスメートの命で、実験したんだ……?」
「ン?うん。だって僕にとってクラスメートって、面倒なつながりだもん、どうでもいいよ、そんなの」
「いいから、早く帰ろうぜ!?もう何もねぇだろ!?早く帰りてぇよ!」
太郎と白矢の話し合いをよそに、クラスメートの一人が声を上げ、それを皮切りに、他のみんなもそうだそうだ、と急かすように白矢に言った。
「分かった、分かったよ!ほらみんな、一箇所に集まって!魔法陣作るから!」
白矢の一言に、みんなが一瞬で行動し、魔法陣にちょうどいい感じの場所に集まった。
「それじゃ、行くよー?リターンキー、起動!」
さぁ、失敗は許されない。想像しろ、僕達の帰る場所を。こことは違う世界、天の川銀河、太陽系第三惑星に位置する、総人口約80億人の星、地球、そのうちの6つの州のうちの一つ、アジア州に位置し、ユーラシア大陸の東に位置する、人口約1億人の島国日本!そこに存在する、僕達の通う高校の、一つの教室を!……てか、もう少し簡単に転移できるようにすれば良かったな!失敗失敗!
白矢を含むクラスメート達一人ひとりの足元に魔法陣が浮かぶ。それは次第に、あの時と同じ青白い光をまとい始め、輝き始める。光が最高潮に達した時、この世界での最後の一言が告げられる。
「行くよ、みんな!『想像転移』!」
その瞬間、全員の体を光が包み、やがて―――
その場所には、彼らの体だけが残った。




