さつまいもを語ろうか
家に畑がある関係で、いろいろと野菜を作ることが多い。
中でもさつまいもは、私が10年近く飽きずに毎年作っては、ああでもないこうでもないと秋ごとにうるさく騒ぎ散らかしている。
秋なのでその話をしたい。
さつまいもと一口に言っても現行の品種だけで20種を超える品種が存在し、とてもではないが覚えきれるものではない。しかも新品種が次から次へと出てくる。作って食べてるこっちが到底追いつかなくて泣けてくる。年1回しか作れない私の身の上を考えてほしい。
脱線したので元に戻ろう。品種がどれだけあろうと、その中で有力な品種は絞られる。私がスーパーや八百屋などでよく見かける品種は以下の5つだ。
1つめに紅あずま。これは東日本で長く主力品種としてさつまいも界隈を支えてきた品種であり、今でもその地力は健在である。紅あずまの魅力は中身の美しい黄色にある。暖色系の鮮やかな肉質はいかにも美味そうで、焼き芋をして割ったときの見事さは他の追随を許さない。ホクホクとした食感で、上手に貯蔵すると甘さがぐっと増してさらにおいしい。
2つめ、高系14号。なんだそれと思う方も多いと思うので、高系14号のブランド名を列挙してみよう。
例えば徳島の鳴門金時、石川の五郎島金時、鹿児島の紅さつま、などなど。ブランド名を出されるとピンと来る方は多いはずだ。地域ごとのブランドが確立しているのが高系14号の特徴である。
これもまたホクホクとした食感で、先の紅あずまよりもさらにきめ細かい肉質をしている。蒸かし芋や焼き芋でもおいしいが、個人的に天ぷら種として最もすぐれた資質があると感じている。九州地方では芋を細切りにして、衣をつけた後、かき揚げに似たひとまとまりにして揚げるのだという。見様見真似でやってみたところこれが実に美味で、さつまいも産地のなんたるかを思い知らされた。
3つめに紅はるか。昨今最も人気のさつまいもであろうか。伝統的に、さつまいもとはホクホクしているものであったが、紅はるかは違う。人によって羊羹ともクリームとも表現されるねっとりとしたきわめて強い甘みを持つ。じっくり加熱して焼き芋にすると、その糖度は50度にも達し、スイーツの枠へ踏み込んでケーキやまんじゅうなどと肩を並べるほどの甘味となる。風味としても根菜からは完全に逸脱しており、地中に実る菓子といっても過言ではない。
4つめにシルクスイート。これも絶大な人気を誇る品種である。ホクホク系とねっとり系の中間のような肉質をしていて、メディアでの紹介ではしばしばしっとり系とカテゴライズされる。私が一番好きな品種であり、私はこれの焼き芋を食べるとき半分までにとどめようとして毎度失敗している。とにかく滑らかで舌の上でサラサラととろけていくような繊細な舌触り。豊かな甘みがあるが決してしつこくなく、喉を通るとき甘い香りの余韻を残す。菓子作りにもピッタリで芋餡を作るときも裏ごしの必要がない。素晴らしい品種であり私の畑にも毎年植わっている。
最後に安納芋。種子島で栽培されていた古い品種とのことで、何を隠そうねっとり甘い系のさつまいもとして従来のホクホクとしたさつまいものステレオタイプを破壊したのはこの品種だ。私は種子島産の安納芋を目にしたとき、あまりにも頼りない、卵大の小さな芋の姿を完全に馬鹿にしていた。焼き芋として焼き上がるとその小さな芋は蜜をじゅうっと溢れさせ、口にいれると蜂蜜かと錯覚するかのような強く濃い甘さが舌から脳天までを貫いた。この芋が全国区にならなければ現在の甘いさつまいもブームはない。
というわけで現在私の周りで最もよく見る品種を挙げてみた。ところによって品揃えは変わるかもしれないので、私の知らぬところでさらに多様な芋が売り場に並んでいるのだろう。
品種の次は栽培法だ。さつまいもとは本当に強い植物であり、切った状態でくたくたにしおれている茎を苗として買うのである。これはさつまいも以外では絶対にあり得ない流通形態だと思う。トマトにしろピーマンにしろ、切った茎を買って畑に植えるなどというのは聞いたことがない。
そんな暴挙を、なんとさつまいもは耐え抜くことができる。肥料もなしにスコップで粗く起こしてクワで整えただけの畑に、茎を斜めに差して僅かな水をくれてやる。そうすると3日ほどで、萎れていた葉が勢いを取り戻して蔓が伸び始めるのだ。
以降は草がひどいとき少しむしるくらいで、基本的に放任で問題なく育つ。蔓返しなどいくつか技術もあるようだがやってもやらなくてもちゃんと芋はできる。すごい植物である。
夏はどれほど暑くてもさつまいもは困らない。ぐんぐん伸びる蔓が畑の半分を占領するが、土の乾燥を防いでくれると解釈して全然切ったりもしない、というか猛暑の中そんな世話をしていたらこちらの命に関わるので割り切って放ったらかしにしてしまう。
それでも秋、株元の土がぐんと盛り上がっているのが分かるようになってくる。土の中で芋が育っている証拠だ。6月末に植えたさつまいもを、10月、寒露から霜降にかけて少しずつ掘り取る。たった3ヶ月と少しで立派な芋がゴロゴロ取れる。今年は紅あずま、紅はるか、シルクスイートの3種を植えた。結果は多収品種の紅あずまがやはり一番量がとれた。紅はるかは紅あずまの8割、シルクスイートは紅あずまの半分くらいの収量になる。当然ひとりでは食べ切れないので、道路端に折りたたみテーブルを出して格安で直売してしまう。安くてもそれでも苗代を補てんして余りある売り上げが出て、その売り上げが来年の剪定ハサミになったり消毒用の消石灰になったり……まあここでは重要なことではないので割愛する。
収穫から2週間、ついに私自身がさつまいもを食べるときが訪れる。さつまいもは掘りたてよりも、しばらく寝かせておいたほうが甘みが出ておいしい。紅あずま、紅はるか、シルクスイートの3種類をそれぞれ輪切りに切って蒸し器に入れ、水を張って弱火で蒸すこと40分。ふたを取るとふわっと蒸気が立ち上がる。鮮やかな芋の表皮の色が実に美しい。フォークを刺すとすっとやわらかな感触で芋に刺さった。
熱いので素手ではさわれずフォークで蒸かし芋を取り出す。蒸しあがりはやはり紅あずまが綺麗だ。フォークで切って一口。うーん、うまい。ホクホクとした食感。紅あずまの数少ない欠点である筋の強さもそこまでひどくない。一安心。続けて紅はるか。うむこれも良い味、甘さはこれからさらに強くなるのでむしろ冬になってからの味が楽しみだ。最後にシルクスイート。ああ。やっぱりこの芋が最高だ。熟成が浅いので甘みはまだこれからだが、この繊細な舌触りはやはりシルクスイートにしか生み出せない。その確信を深めながらご機嫌で蒸かし芋を頬張り、お茶をすすって秋の日の仕事の中休みとする。
もし来年面倒しても構わないなら、紫芋の系統をここに加えたいものだなあと思うが、予定は未定、それが実現するかどうかなんてわからない。
たかがさつまいもだけれど、なんだかんだとこだわれば天井無しの底抜けでいくらでも楽しみが増す。畑仕事もまた道楽。さて、来年はどうしようか。
さつまいもに凝りだしてから今年でちょうど10年。
好きなことを書いてみようと文章にまとめてみた。




