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夢魔と魔法使いの少女たち  作者: 野村勇輔(ノムラユーリ)
第1章 魔法使いの少女
1/53

第1回

挿絵(By みてみん)



   1


 鏡を見つめる。


 そこに映っているのは、ストレート・ショートボブの可愛らしい女の子。


 ぱっちりした大きな瞳に小さな鼻、微笑みを湛えたピンクの唇。


 わたしはそんな自分の姿を何度も確認して、髪を整えて、

「――よし」

 いつものように、大きく頷く。


 今日もばっちり! 可愛いぞ、わたし!


「アオイ、なにしてんの! 遅刻するわよ!」

「はぁい!」


 でもあまり時間なんて気にしない。


 だってわたしには、魔法のホウキがあるんだから。


 わたしは洗面所から駆けだし、廊下を抜けて玄関へと向かう。


 そこには呆れ顔のママが立っていて、わたしの通学鞄を手にしながら、

「はい、いってらっしゃい!」

 元気に笑顔でわたしに言って、ぽんっと背中を叩いてくれる。


「うん! 行ってきます!」

 わたしも負けじと大きな返事。


 鞄を受け取ると、勢いよく玄関から飛び出した。


 青い空、白い雲、眩しく輝く大きな太陽。

 今日もいい天気!


 わたしは玄関先に置かれた自転車――の横のホウキを引っ掴み、その柄を真横に傾けて、ぽんっとそこに腰を下ろした。


 柄の先に鞄の取っ手を引っかけて、さぁ、出発!



 もちろん、道ゆく人からは鳥に見えるよう、姿を変える魔法を忘れない。


 小さく歌うように呪文を唱えて、ふわりとホウキは上昇する。

 どんどん、どんどん、はるか下へと地面が離れる。


 目指すは学校、わたしの教室!


 ひゅんっ! と前へ進みだすホウキの柄をしっかり掴んで、わたしはパパから高校入学のお祝いに貰った小さな腕時計に目を向ける。


 午前八時過ぎ。やばい、ちょっと遅刻ペース。


「急がなきゃ!」

 独り言ちて、わたしはホウキの柄をしっかりと握りなおした。


 いつもより少し早めに、けれどその勢いで落ちちゃわないように気をつけながら、去り行く景色に目を向ける。


 朝日に照らし出された街並みはとても綺麗で、活気があって。


 渋滞する道路も、通勤、通学でごった返す歩道も、すべてが賑やかだった。


 わたしはそんな朝の町の様子を空から見下ろすのが好きだった。


 別に上から目線で「ふふふ、まるで人がアリンコのようだ」なんてことを宣うつもりなんて毛頭ない。


 ただ単純に、一日の始まりというこの瞬間が大好きなのだ。


 ……まぁ、この景色を独り占めしている優越感がないわけではないのだけれど。


 新しい朝、希望の朝、なんてどこかの歌の歌詞が浮かんでくるような清々しい空気の中をホウキで飛び続けるわたし。


 並みの魔女でも空を飛ぶなんて魔法は使えないから、今この時間は確かにわたしだけのもので――


「えっ」


 その時だった。


 わたしの少し先を飛ぶ人影が見えて、思わずわたしは目を見張った。


 わたし以外に空を飛ぶ人なんて、いったい誰なんだろう。


 少なくとも、わたしはわたし以外に空を飛べる魔女を他に知らない。


 思い、空飛ぶスピードをちょっと緩めて、斜め上空からその人影の様子を窺う。


 わたしと同じようにホウキに腰掛ける一人の少女。




 わたしと同じ高校の制服に身を包んで。


 わたしと同じように、眼下の街並みを眺めている。


 わたしより長くて綺麗な髪を風になびかせながら。


 わたしよりもゆっくりとしたスピードで空を飛んでいて。


 いったい、この子は誰なんだろう。


 同じ制服ってことは、当然同じ高校に通っているっていうことで。


 わたしと同じ一年生? それとも、二年か三年の先輩?


 ……わからない。


 この春に入学して数か月。


 まだわたしは、同じ学年や先輩たちに、どんな子が居るのかすら覚えきれていなかった。


 けれど、まさか私と同じ、空を飛べる魔女がいただなんて。


 驚きながらそんな少女を眺めていると、

「……あっ」

 不意にその少女が頭をもたげて、わたしの方に顔を向けた。


 少女はしばらくわたしの姿を見つめていたが、

「――こんにちは」

 そう言って、にっこりと微笑んだ。

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