8 占いババ
「そこのあんたたち!」占いババは私たちを指差す。
「は、はい!」思わず私は返事をした。
「妙なもん振り撒くんじゃないよ!」
「はい、すみません!」私は即座に頭を下げる。すみません、と隣でレオくんも頭を下げている。
「わかったんなら、次から気をつけな」
「はい、すみませんでした!」
私とレオくんは平謝りしてその場を収めることに徹した。
キィちゃんはいつの間にか居なくなっていた。調子の良い奴め。
「それから、あんた!」
トーンダウンしていた占いババがまた声を荒げる。まだなにかあるのだろうか。
「妙なもんに取り憑かれてるね」占いババが私を見ながら言った。
「えっと……?」
「あんた、大丈夫かい」先ほどまでの怒った様子からは一転、占いババが心配そうな目を私に向ける。
「えええ、あ、はい。今のところは」混乱しながら、私は返事をした。
「ちょっと待っときな」占いババはそう言いながら、店の奥に引っ込んでいった。
え、なにかに取り憑かれてるの、なにそれ怖い。
仮にも占い師だし、当たってても当たってなくても、なんか嫌な気分になるんだけど。
「どうしよう」私はレオくんと顔を見合わせた。レオくんの顔も困惑していた。
「はいよ」
数分経って、店頭に戻ってきた占いババは私を手招きした。
占いババの前に行くと、古びた人形を手渡された。人形の頬には黒ずみがあって、着ている服は薄汚れている。かなり年季が入った品物のように見えた。
「これは……?」
「あんたにはこれが必要だから、持っていきな」
正直に言うと、誰かの人形なんて気持ち悪いし要らないのだが、要らないです、と断れないぐらいの強引さでぐいぐい押し付けられる。
仕方がないので受け取ると、「久しぶりに見たから、あたしゃもう疲れたわ」と呟きながら、占いババは店の奥に戻って行った。
数分後、私は来た道をとぼとぼと帰っていた。
来たときとは比べ物にならないほど、テンションがだだ下りである。
レオくんが気を遣ってなにか喋ってくれているが、右耳から左耳に素通りして、頭の中に内容が入ってこない。
私たちが歩いていると、どこかに隠れていたキィちゃんがこそこそっと戻ってきて、輪の中に加わった。
「やれやれ、ババアには嫌われる香りでしたね」キィちゃんが悪びれない様子で言って、私は思わず吹き出した。
香水を吹きかけた瞬間、ちょっと妖精がこっちを見た気がする。
ババアには嫌われる香りでも、きっと妖精は好みの香りだったと思うよ。
私たちを置いて逃げ出した薄情なキィちゃんには教えてやんないけどね、と私は内心舌を出す。
「ところでその人形はどうしたんですか?」