5 ピタンガ商店街
目指すアイテムショップはピタンガ商店街の北の外れにある。
ピタンガ商店街は昔からある商店街で、灰色の石で造られた小さな店が所狭しとならんでいる。
建物は総じて古く、石でできた壁の割れ目からは緑の草やら、ピンクの花やらたくさんの植物が咲き出ている。
一歩商店街に足を踏み入れると、植物に侵食された遺跡に迷い込んだような気分になる。
南国アダンは温暖な気候で、気を抜くと全てを飲み込んでしまう勢いで植物が繁茂する。
ピタンガ商店街は50軒以上の小さな店がひしめき合ってできている。
店の開店時間はまちまちで、いつ開いているのか分からない店も多い。
薬草、魔獣の肉や魚などの食料、回復薬などの生活必需品を売っている普通の店もある。
定食屋もあれば、昼間は閉まっているが、夜になれば酒場として開店するのだろうムードを漂わせる店もある。
そういう普通の店も多いけど、センスがいいとは言えない柄のローブを売っていたり、怪しげなアイテムを売っていたりして、お店に入るのに勇気が要る店も多い。
ワイバーンは商店街の南側に私たちを下ろしたので、商店街の中心部を通り抜けながら北にあるアイテムショップを目指す。
商店街の通路は狭く、道もところどころ石が飛び出ていたり、路面が割れていたりときれいに舗装されてはいないので気をつけながら歩く。
繁茂した植物が高々と伸びて天井を覆っている店もあるため、日差しが遮られ、商店街の中は全体的に薄暗い。
商品が乱雑に積み上げられている防具屋の前を通り、魔獣の断末魔が聞こえる肉屋の脇の細い通路を恐る恐る通りぬけて、私たちはやっと北側の路地に出てきた。
「きゃー、可愛い!」
北側の路地はたくさんの若い女性で溢れていた。お姉さんたちがきゃっきゃしている。
ここまでの物々しい雰囲気はなんだったのかというほど、その場所だけ明るい雰囲気が漂っている。
「あそこが新しくできたアイテムショップですよ」キィちゃんが指を差す。
今から店に入ろうとするお姉さんたちがいたり、店から出てきて買ったものを嬉しそうに眺める女の子たちがいたり、アイテムショップを中心に人だかりができていた。
店の外の窓辺では精霊たちも、ふよふよ、きゃっきゃ、浮いているのが見える。
噂好きな風の下級精霊フィーが多いが、水の精霊や火の精霊も店を覗いている。
精霊たちはミーハーで人が集まる場所や活気のある場所が好きだ。
おそらく、楽しそうな様子のお姉さんたちについてきて、数が集まっていったのだろう。
「人が多いね」
「これほどまでに人気だとは!」キィちゃんもびっくりしている。
「女性が多いね。僕は遠慮しておくよ。外で待っているから見ておいで」レオくんが困ったように眉尻を下げる。
「ここまで来て何言ってるんですか! レオ先輩は、私とスー先輩の護衛なので最後までしっかりと任務を果たしてください」
「護衛だったの?」
「護衛だったんだ。では責任持って、お姫様たちを守る任務にあたります」レオくんが苦笑してる。
「よろしく頼みますわね。では、皆のもの、参りますわよ!」
人をかきわけるようにして、私たちは入店した。