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3. 護衛 ―1―



 それから二ヶ月後。ラウルの任務をこなしていく生活はいつも通りだが、少しだけ変わったことがあった。アルヴァという婚約者の存在で、もとから変人として有名だった訳だがまた、注目されているということだ。

 以前はあまり依頼されることのない、異国の要人護衛が増えた。それも、その国で大きな権力を持つ貴族と繋がりのある人物からのだ。恐らく、『レアニカ皇国の皇族』と近づきたくてラウルに依頼しているのだろう。


 ラウルとしては、大体がでっぷでぷのじじい·····いや豊かな·····恰幅な体の老紳士·····、なんだよなぁ、という辛辣な感想を抱いているようであまり楽しくないとのこと。たまに可愛いお姫様だったりするけど変な顔されたなぁ。

 そんなことを思いながら任務に務める。ちなみに敵と遭遇したとしても秒で片付けてしまうようだ。恐ろしい戦闘能力だ。


 そして。


「ラウル。·······元気か。」

「アルヴァぁー!!めっちゃ元気だよー!」


 ギルドにアルヴァが来てくれるようになったのだ。週に一度ほどだが、それだけでもラウルはとても嬉しそうにアルヴァに突っ込んで行く。アルヴァは避ける。何故ならラウルの馬鹿力では肋骨が折れかねないからだ。セルシオ情報である。


「にゅふふ、今日も会いに来てくれたんだな!僕はとても嬉しいぞー!!」

「うぅわ引っ付くな、暑苦しい。······任務は?·······怪我とかしてないか?」

「大丈夫です!掠ってすらないぜー!」


 むきっと力こぶを作って見せるも、ラウルは元より筋骨隆々の人間ではないので、見た目からはどこを主張したいのか分からない。アルヴァは、ラウルのそういう抜けているところが面白いのか、くつくつと笑う。


「おっしゃ、アルヴァを笑わせた僕は天才だ。すごいぞ僕。」

「何言ってんだ·······はぁ、本題に入るぞ」


 どうやらふざけるのも一旦ここで終了のようである。

 アルヴァは、一瞬にして皇城では通常運転らしい無表情に戻ると、なにやら書類を取り出した。ラウルが書類の紙を受け取るのを確認すると、事務的な口調で話した。


「レアニカ皇国第二皇子、アルヴァ・レアニカの護衛を、レアニカ皇国ラグナギルド所属SSランクの、ラウル・リーヴァン殿に依頼する。依頼内容は護衛対象の近辺の警戒と護衛。行き先は隣国のスレーナ国、連盟国合同会談。日程は来月のはじめから一週間。依頼金は五万レアーでどうだろうか。」

「――わかった、いいよー。第二皇子殿下の護衛依頼をお受け致します!」


 ラウルはにっこりと笑い、少し畏まった口調で承諾の意を示した。が、笑顔のラウルに反し、アルヴァはどこか申し訳なさそうだ。


「すまないな。俺にも皇宮から護衛のための騎士がつくのだが、やはり俺に割く人員は惜しいらしく、他の皇族より少ないんだ。そこで、俺が勝手にラウルに依頼をした。」

「········――そんな悲しそうな顔すんなって!僕に依頼してくれてありがとね!いつでも頼ってね!」


 アルヴァの悔しそうな、寂しそうな表情を見てしまい、ラウルも一瞬悲しくなってしまう。が、すぐにアルヴァを励まそうと、明るい口調で背中をばしばしと叩いた。その物理的激励のおかげかすぐに元の素っ気なさが復活したようで、「痛い。」と少し呆れ顔で避けるのを見るとほっと安堵した。


「護衛中添い寝してあげよっか?」

「いらん」


(ふっ·······、反抗期かな·····)


 ラウルはオタク脳を持っていた。




     ◇     ◆     ◇




 そして、月日は矢のように飛んでいき、護衛初日。アルヴァの護衛騎士としてラウルは、他の護衛騎士や移動車と共に皇宮の前で待っていた。皇宮、やはりデカい。皇族が住む建造物だからデカくて当たり前だが、充分デカいラウルの実家(リーヴァン公爵家)よりもさらにデカい。若干呆けたように皇宮を見上げていたラウルだったが、不意に「なぁなぁ」と肩を叩かれ、ぱっと振り向いた。


「はじめましてだな!あなたもアルヴァさまの護衛を務める傭兵騎士の方か?俺もだ!俺はテオ、これからよろしくな!」


 テオと名乗る彼はとびきり快活な笑顔を見せ、ラウルと握手を求めていた。短い赤毛にコバルトグリーンの純粋な瞳と、腰に下げる双剣が印象的な青年だ。

 放たれる陽の気がすごい····。と、そんな彼の明るさに気圧され気味ながらも、ラウルも笑顔で握手に応じた。


「はじめまして、テオ。僕はラウル。ラウル・リーヴァンだよ。よろしくね」


 ラウルという名前を聞いた瞬間、テアはとても驚いたように目を見開いた。そしてわたわたと慌てだすと、「ごっ、ごめんなさい!」と何故か全力で謝罪をした。きっかり九十度腰を折る、完璧な謝罪であった。


「おっ、俺、ラウル様とは知らず、タメ語で話し掛けるという失礼を働いてしまい······。本当に申し訳ありません······。」

「いやいや、謝んなくていいよ。顔上げて?失礼なんて思ってないよ?」

「いえ、そんな訳にはいきません。あのラウル様ですよ?『最強最高の傭兵騎士』ラウル・リーヴァン様ですよ?全傭兵騎士の憧れであるラウル様にあんな馴れ馴れしい態度をとってしまうなんて·······恥ずかしすぎて穴を掘って埋まりたいです」

「さい······え、何?てか埋まらないで?」

「そんな訳にはいかないですよ!!」

「なんで必死?!」


 どうやら彼はラウルに尊敬と憧憬の念を抱いているらしく、そんな憧れに対して自分の行為は失礼だったのではと慌てているらしい。

 だがしかし、なんだろうか、この意味が微塵もなさそうなやりとりは。最強最高って本当に何。この子はなんでこんな必死なの。マジでどうしよう。

 何を言い争っているんだこの傭兵騎士たちは、というまわりの視線が居た堪れず、とりあえず強引にこれを終わらせることにした。ラウルは、まだ青い顔で頭を下げるテオの肩に手を置くと、少し困ったような笑顔で言った。


「そんなに謝らないでよ。僕はただ、テオと一緒に任務を遂行したいだけなんだよ。ランクとか関係なく、アルヴァに雇われた傭兵騎士ってことで仲良くしよ?」

「は、はい·······。」

「良かった!よろしくね、テオ!」


 ラウル本人は自覚していないが、その困り顔の破壊力はすごいのだ。国を一つ落とせそうなくらいには美形だし、穏やかな性格や柔らかい口調もあってか相手に好意を抱かせることも容易であることだろう。その証拠にテオも頬を薄く朱に染め、明らかにたじろいでいる。

 それに気づかず、ラウルは同じくアルヴァの護衛陣とコミュニケーションを図っていた。天然の人誑しとは恐ろしいものである。


 さてそろそろだろうか、とラウルは皇宮へと視線を遣る。




――――この会談で、大きな事件が起ころうとは誰も知り得なかった。

【こそっと設定】2026/01/01

レアー······この世界での共通通貨。1レアーは、日本円でいうところの100円だと思っていただければ。今後も登場する単語だと思うので、これを読む際に頭のすみっこに入れていただければ幸いです。


更新が激遅で大変申し訳ありません。全力で執筆に取りかかって参りますので、今後とも、今作と蒼春(作者)をよろしくお願いします。

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