フードコート
三題噺もどき―ごひゃくにじゅうよん。
ざわざわという耳障りな音がこの場所を埋め尽くしている。
とあるショッピングセンターにある、フードコートに来ていた。
時間的な問題もあってか、席は徐々に埋まりつつある。
もう少し時間が経てば、空席を探す方が難しくなるだろう。
まだ、昼食時間の一歩手前という感じなので、すぐに見つけられた。
「……」
6人席に座り、それぞれ何を食べようかと検討し始める。
余った人席には、買い物袋がおかれ、それぞれの鞄はそれぞれで管理する。
私自身は食べるものは決まっている。ここには何度も来たことがあるので、迷う必要もないのだ。私が選んで食べたいと思うものがここにはそれ以外あまりないもので。
「……」
勝手に好き嫌い、食わず嫌いをしているだけなんだけど。
それがなければ、もう少し食事の幅は広がるんだが、気分を害してまで食事なんてするもんじゃないだろう。ましてや、たまにしかしない外食で。
「水とってくる」
まだ他の家族は決まりそうにないので、人数分の水をとりにでも、と席を立つ。
フードコートの中央あたりに設置されている場所まで行き、小さな紙コップに水を入れていく。とりあえず3人分。
「……」
適当に机の上に置き、もう一度戻る。
まだ決まっていないようだ。さっさと決めればいいのに。確かにここにはそれなりにあるけど、そこまで悩むものかな。
「……」
残り2人分を手に持ち、席に戻る。
座ったタイミングで。
「何食べる?」
と聞かれたので。
「うどん」
と、いつもの返事をする。
他に同じ店に行くのがいれば一緒に行ったが、今回は誰もいかないらしい。
「先買ってきていいよ」
そう言われたので、鞄を手に持ち、フードコートの少し端の方にあるうどん屋さんに行く。
注文するメニューも決まっているので、さっさと列に並び、てんぷらをどうしようかと少し悩んでみる。が、こちらも決まっているので、たいして意味がない。
「注文どうぞ~」
「冷かけの小をひとつ」
注文口でそれだけ告げ、お盆を持ち、うどんが出てくるのを待っている。
その間に、割りばしとてんぷら用の皿を取っておく。
「はいどうぞー」
「ありがとうございます」
聞こえているかは知らないが、それだけを伝えて、てんぷらを取るために横へと移動する。
今日はそこまで空腹ではないから、1つで良いかな。海老天か、ちくわの磯部揚げ。
海老天にしよう。磯部揚げあまりにも大きすぎるのは謎なんだが。あのサイズのちくわってどこに売ってんだろうな。
「冷かけ小と、海老天1つですね。――円になります」
財布の中から、小銭をとりだしトレーの上に置く。
「丁度ですねーレシートいりますか?」
「あ、大丈夫です、ありがとうございます」
「ありがとうございました~お次の方どうぞ~」
邪魔にならないように、そそくさとお盆を手に持ち席に戻る。
地味に重いのだから、運ぶのにも神経を使う。レストランとかであんなに持てるウェイトレスの人たちってホントに凄いと思う。絶対出来ない自信がある。
「……注文してきたの?」
席に戻ると、見覚えのない呼び出し用のベルが机の上に1つ置いてあった。
張ってあるラベルを見ると、すぐそこにあるカレー屋さんのモノだった。
「みんなそこで頼んだん?」
「うん」
そうかそうか。
まぁ、別にどうってことはないが。
元々辛いものが苦手なのもあって、カレーはあまり好きではない。味が濃ゆすぎたり、匂いがきついものも積極的に避けていきたい方なのだ。私以外の家族は、辛いものは食べられるし、カレーはどちらかというと好きな方らしい。
「……」
この程度のことで、劣等感を抱くようなことではないと思うが。
食べられないと言うか、食べず嫌いをしている自分がまぁ、この状況を招いてい居るだけなので自業自得でしかないのだけど。
なんというか、まぁ。なんとなく。
気分のいいものではない。
「……いただきます」
まぁ、それなら他を待つ必要もあるまい。
待っている気にも、なれそうにない。
各々スマホをいじっているし、さっさとこちらも済ませてしまおう。
「……」
早食いレースでもしているわけでもないが。
さっさと、黙々と、1人、食事を進めていく。
「……」
冷たいうどんは、しっかりとしたこしがあって、食べ応えがとてもある。
暑いこの時期には、持って来いの食べ物だ。
いつ食べてもここのは美味しい。
てんぷらは、食べるときにつゆにひたして、口に運ぶ。
「……」
「……」
「……」
「……ごちそうさまでした」
ふぅ。
他のが来る前に食べきってしまった。
まぁいいか。
皿をもどして、1人で書店にでも行ってようかな。
お題:劣等感・カレー・レース