オリオ王太子から見た景色
護衛騎士を連れたメリア王女の婚約者、オリオ王太子から見た景色
「あああ、あの王女と婚約破棄したいっ。あの女、屑だろうっ。屑屑屑っーー」
オリオントスジュテリシマジェットリンス王太子、略してオリオ王太子は叫んでいた。
双子の弟のディアトリアスエッフェルニフォレッツエ第二王子、略してディアト第二王子は両腕を組んで。
「だがなぁ、あちらの方が我が王国の二倍の領土を持っているし……。何なら攻め滅ぼす?」
「馬鹿言うなっ。攻め滅ばされるわっ」
二人きりだから好きなことが言える。この二人は双子の王子である。
身長コンプレックスを持っているため、シークレットブーツは欠かせないアイテムだ。
隣国のメリア王女は、見目麗しい護衛騎士エリアスを傍に置いているのだ。
いやもう、メリア王女は普通の茶の髪に緑の瞳の美しいという訳ではない王女だが、エリアスの美しさときたら、月ではなく太陽のような金の髪に碧い瞳。月とスッポンではなく、太陽と亀、勿論、亀がオリオ王太子の方である。
オリオ王太子だって、鏡を手に自分の顔を見れば、金髪碧眼の容姿はそれなりだと思うのだが。いかんせん、身長が女性並みに低いのが悩みで。
そんなメリア王女が隣国から(いやいやながら)こちらに交流に来ると言う。接待をせねばならないが、今から胃が痛いのだ。
ともかく、失礼のないように接待する事にした。
一週間後、メリア王女が護衛騎士エリアスを始め、大勢の使用人達と共にやってきた。
王宮の広間で出迎えるオリオ王太子。
「よくぞ来てくれた。メリア王女。待ち焦がれていたぞ」
「まぁわたくしを待ち焦がれていただなんて、お世辞のお上手だこと」
「世辞ではない。我が王国の未来の王妃だ」
共に出迎えた国王、王妃、第二王子も、にこやかに、
「メリア王女。ゆっくりと滞在していってくれ」
「我が王国を楽しんでいって頂戴」
「兄上が色々と案内すると申しておりますので」
「有難うございます。ああ、お土産がありますの。エリアス。あれを」
「はっ」
隣国の使用人達が何やら大きな箱を4人で運んで来た。
その箱を開ければ、竜の首がどーーんと入っていて、見た者達は悲鳴をあげる。
メリア王女はにこやかに、
「エリアスが仕留めましたの。王宮の広間に飾って下さいな」
オリオ王太子は何度も頷いて、
「凄い土産で……有難う。飾らせて頂こう」
ディアト第二王子が、オリオ王太子に囁く。
「兄上、まずいですよ。あれに対抗した土産を渡さないと、馬鹿にされますよ」
王族同士の付き合いは特に、土産を貰ったら、同等もしくはそれ以上の土産を返すのがしきたりである。
竜の首????そんなもん、どうやって討伐するんだ?
あのエリアスと言う護衛騎士。美しさだけでなく強いのか??強いのか?強いのかぁーー?
非常にまずいとオリオ王太子は思った。
自分は剣技はいまいちだ。
そもそも、強くたって竜を相手に戦えだなんて、我が王宮騎士団にだって命じられない。
竜は恐ろしい生き物で、対等に渡り合える者がこの王国にはいないのだ。
それなのに、エリアスと言う護衛騎士は平然と竜を討伐してきたという。
詰んだ。
いや、詰んではまずい。
いくら隣国の二分の一の領土の王国とはいえ、このままでは舐められる。
オリオ王太子はメリア王女に、
「素晴らしい土産。討伐も大変だったでしょう」
「いえ、エリアスが一撃で仕留めましたの。本当に素敵なエリアス」
エリアスという護衛騎士は頭を下げて、
「メリア王女様の為なら、どんな相手でも殲滅してご覧にいれます」
「まぁ頼もしいわ」
うがっーーーーーーーーーーーーーーーー。叫びそうになった。
相手は英雄っ。英雄なのか?
それに比べて、自分は弟と共に身長に悩む王太子。
なんとしても、この上を行く土産を返さねば。
メリア王女は夕食の席でも背後にエリアスが控えており、それはもう、メリア王女を守る騎士という感じで。
イラつくイラつくイラつく。蹴とばしたい。いや、逆に一撃でぺしゃんこにされるだろう。
食事の味もよく解らなかった。
弟のディアト第二王子は、5歳年下のリアーテと言う婚約者とラブラブだ。
相手はまだ12歳だがな。
手をつけるなと母である王妃が口を酸っぱくして言っている。
弟の事なんて今はどうでもいい。
ともかく、竜を討伐できる相手を探さねばならないと。
そう思っていたのだが、どうでもいいと言っていた弟が、ある人物を紹介してくれた。
辺境騎士団の騎士団長である。
「ディアト第二王子殿下から紹介を受けた。王太子殿下を悩ませる魔を討伐してしんぜよう」
「へ?悩ませる魔?」
「メリア王女殿下の傍にいるエリアスと言う護衛騎士。あれは魔であろう?メリア王女殿下は仮にも王国のいずれは王妃となるお方。それなのにあの護衛騎士と出来ていては、誰の種と解らぬ子が、この王国を乗っ取る事になるかもしれませぬぞ」
「ええええっーーー誰の種とは解らぬ子???」
護衛騎士もオリオ王太子も金髪碧眼である。髪色や瞳の色では判断しづらい。だが、もし護衛騎士の子だったら……
騎士団長は頷いて、
「だから、魔を私が払ってやろうと言っているのです」
「しかし、あの護衛騎士、ただものではなかろう。隣国の英雄かもしれない。それを害したとあっては、下手したら戦にならないか?そもそもあの英雄に勝てるのか?」
「我が騎士団を何だと思っているのです?まずは、土産返しをしっかりとしましょう。それからあの魔を退治致しましょう」
「それで、あの……お金の方は」
「これ位で」
高額だがなんとか支払える額だったので(自分の予算内で)辺境騎士団に頼むことにした。
滞在中もメリア王女はエリアス護衛騎士にべったりで。どこへ行くにも親し気に手を繋いだり、見せびらかすような態度で。
オリオ王太子はイラついたけれども、こちらの方が小国なのでぐっと我慢をして、そして滞在最終日となり……土産返しをしなければならない。
竜の首以上の物を用意せねばならないのだ。
オリオ王太子は王宮の広間に、メリア王女一行と、両親や弟達を集めた。
小さな箱が用意されている。
「こちらが土産返しです」
メリア王女は馬鹿にしたように、
「あら、小さいのね」
「開けてみてくれませんか」
中を開ければキラキラと黒い宝石が20粒も煌めいていて。
「あら、宝石。でも、この宝石は……」
エリアスが口を出して来る。
「黒竜の魔石……それも20粒も」
黒竜は普通の竜より大きくて狂暴で、魔石は心臓の中心にあり、一粒取るのに一頭倒さねばならないのだ。それが20粒。20頭倒した事になる。
オリオ王太子はにこやかに、
「これで首飾りでも作って下さい。メリア王女」
「まぁ、これは素晴らしいお土産を。有難うございます。ところでどなたが?20頭も黒竜を退治したのです?」
「それは我が王国の頼りある者達ですよ」
適当にごまかしておいた。
そして、真の魔を辺境騎士団に払って貰う時が来た。
メリア王女が着替えているときに、エリアスを庭に呼び出した。そこへ現れた辺境騎士団。
エリアスはにやりと笑って、
「オリオ王太子殿下は私が邪魔という訳か」
オリオ王太子は両腕を組んで睨みつけ、
「王家に他の種を入れる訳にはいかない。かといって、メリア王女と婚約破棄をする訳にもいかない。だったら魔を払うしかあるまい」
「私は魔かっ」
辺境騎士団四天王が現れて、エリアスを囲む。
その四天王を制して、辺境騎士団長がエリアスに対峙し、
「お前達では力不足だ。私が相手をしよう」
二人はにらみ合い、大刀を持って互いにぶつかった。
嵐が巻き起こり、オリオ王太子はふっとばされそうになり、家臣の者達に守られながら、城の中に避難した。
二人はさんざん打ち合って、戦っていたが、辺境騎士団長の手によりエリアスの刀は折られ縛られて転がされた。
辺境騎士団員達がエリアスを担いで行く。
辺境騎士団長は汗をぬぐって、
「ひさびさに手ごたえを感じた。魔を払う事が出来た。この魔は貰って行くぞ」
エリアスは辺境騎士団へ連れて行かれた。
その事を知ったメリア王女はオリオ王太子に詰め寄った。
オリオ王太子は平然と、
「貴方は我が王国へ嫁いでくる、我が王国の未来の王妃だ。その王妃が不貞を疑われる護衛騎士を傍に置くとは何事だ。だから魔である騎士を退治した。間違っているだろうか」
「わたくしは、わたくしは……貴方と婚約破棄をするわ。こんな弱小国。お父様に言って滅ぼしてやるわ」
「我が王国には辺境騎士団がいることを忘れずにと、父君に伝えるがいい」
本当は辺境騎士団は正義と金で動くどこにも属していない騎士団なのだが、はったりをかましておいた。
メリア王女は泣きながら帰国の途についた。
結局、メリア王女の輿入れは無くなった。
隣国も事を荒立てずに、メリア王女の妹の王女を新たな婚約者にと、紹介してきた。
いやそのオリオ王太子17歳。相手はまだ10歳なんだけど。
双子のディアト第二王子の婚約者は12歳。更に下なんだけれども。
10歳ってどうよーーー。もっと大人の女性をよこせよっーーー
声を大にして叫びたい。
いや隣国と戦はしたくない。仕方ないので10歳の王女様が会いに来るというので、対応することにした。
また土産を持ってくるから、土産返しをしなくてはならない。
前回は竜の首だった。また辺境騎士団に頼もうかなーー。金がかかるんだよなーー。
10歳のレティシア王女は、可愛らしくカーテシーをし、
「姉上が大変無礼を働いたという事で、お詫びをしてもしきれません。申し訳ございませんでした」
傍にいる、歳を取った外交官が、慌ててレティシア王女に向かって、
「相手は小国。舐められますぞ」
「でも、こちらが悪い事をしたのです。謝るのは当然だわ」
そして、小さな箱を差し出して、
「お土産です。オリオ王太子殿下の瞳の色で宝石をはめ込んで作らせた腕輪です。使ってくれると嬉しいです。後、我が王国の名物のワインを20本お持ちしました」
竜の首ではなくてよかった。これならそれなりに返すことが出来る。
今度の王女様はなかなかよさそうだ。10歳でなければなーーー
歳なんて後、5年すれば、なんてことはないか……
レティシア王女に手を差し出す。
「庭園を散歩致しませんか?貴方の事を知りたくて」
レティシア王女は赤くなって、
「よろしくお願い致しますわ」
新たな恋の予感にドキドキするオリオ王太子。
一国の王太子がそれでいいのか???
空は秋の気配がただよっていて、そんな青い空を庭に出たオリオ王太子はレティシア王女の手を握り、幸せそうに見上げるのであった。