12.『あなたと共に』
アーサーはフェリシティの美しい金髪に自身の指を絡め、その感触を楽しんでいた。フェリシティもそれに嫌がるそぶりも見せず、彼に身を預け、うっとりと瞳を閉じている。
ここ数日、アーサーはフェリシティの屋敷で暮らしている。流感にかかったステラを受け入れたから彼は自分の家に帰れないのだ。
半同棲になったことをいいことに、アーサーは毎晩フェリシティを求め、ついさっきまで彼女を啼かせていたばかりだ。
まるでティーンエージャーの頃に戻ったようだと自身にあきれてはいるが、彼女もそれを受け入れてくれるからつい熱が入ってしまう。
「アーサー、アーサー」
うわごとのように恋人の名を口にしながら上りつめるフェリシティは本当に愛らしい。
凛とした美しさを持つ彼女が快楽におぼれて淫らに喘ぐ姿はアーサーだけが知っている。
その仄暗い事実に彼はますますフェリシティに夢中になり、その最奥に何度となく己の欲を吐き出した。
互いの愛の余韻に浸っていたところで遠慮しがちにドアがノックされた。
「なぁに?」
フェリシティは目を閉じたまま、それに応じた。
「おくつろぎのところ申し訳ございません。マーサさんから先ほどお電話がありまして、ステラさんの熱が上がったようだと連絡がありました」
やってきたのは家令で彼はステラの容態を告げた。
医師の出番だと悟ったアーサーは彼に質問した。
「薬は飲ませたのかな」
「はい、先生の指示通り、少しパン粥を食べさせ、薬を飲んでまた眠らせたそうです」
「それなら大丈夫だ。明日の朝になっても熱が下がらなかったら診察に行くから、また様子を聞かせてほしいとマーサに伝えてもらえるかな」
「かしこまりました」
家令が部屋の前から遠ざかる音がして、また静かになった。
「アーサーは見かけによらず残酷なのね」
フェリシティは体を起こし、グラスにシャンパンを注ぎながら言った。
「どうして?」
「ステラさんがあなたに好意を抱いてることには気が付いているのでしょう?そしてそれには応えられないこともわかってる。それなのに彼女に親切にするなんて」
氷が目一杯に詰めてあるボトルクーラーに入っていたシャンパンはしっかりと冷えていて、フェリシティはその心地よい冷たさでのどを潤した。
「僕は医師として患者に接しているだけだ。行き場のない病人を放り出したほうがよかったというのかい?」
「マーサはきっと、あなたがわたしの家で寝泊まりしていることをステラさんに話してしまうわよ。病気の彼女にはダメージが大きい現実だわ」
アーサーはため息をつきながら起き上がり、フェリシティのグラスを取り上げると、シャンパンを飲んだ。
「僕が婚約をしていることは彼女だって最初から知っていたはずだ。そんな男を好きになったって関係が進展するわけがないのに、好意を持つほうがどうかしている。
ひょっとして彼女には他人の恋人を寝取る趣味があるのか?」
「それはないと思うわ」
原作とは違った結末になっていてもステラが物語のヒロインであることは間違いない。そのヒロインが悪趣味などさすがに原作者に申し訳ない気がしてフェリシティはきっぱりと否定した。
アーサーは少しのためらいのあと、打ち明けた。
「ステラとのパートナーを解消しようと思ってるんだ」
「何故?彼女ほど優秀な看護師はいないと言っていたじゃない」
「実はステラの病院での評判があまりよくないんだ」
「まさか。彼女は患者さんに無礼を働くようなひとではないでしょう?」
「違う、スタッフだよ。ステラの態度が横柄だってあちこちから苦情が出ている」
「彼女はみんなになにを言ったの?」
「『わたしはドクター・ブライトンの右腕なんですよ』だそうだ」
「それは」
アーサーの口にしたステラのセリフを聞いたフェリシティは思わず絶句してしまった。
原作ではステラが同僚と会話をするシーンなど描かれてはいなかった。
彼女は原作でもそんな風にふるまっていたのだろうか。これではまるで虎の威を借りる狐だ。
アーサーは特にそういう行為を嫌う。地位も名誉も持っている彼は自身の栄光にすり寄ってくるハイエナのような人間を心底軽蔑している。
ステラの言い分はアーサーの価値観に照らし合わせればまさにハイエナだろう。
「ステラは確かに優秀だ。だが、その優秀さとスタッフのモチベーションを天秤にかけたとき、どちらに傾くのか正直、判断はできかねるよ。
でも僕のプライベートにまで踏み込もうとしてるのなら、もう排除するしかない。それに是非、彼女に来てほしいという医師がいるんだ。
例の炭鉱の村だよ。小さな村ではないし炭鉱夫を多く抱えている分、怪我人は常に存在する。あの村では医師も看護師も不足しているんだ」
「でもステラさんが承知するかしら」
原作の彼女は大きな街に住んでみたいという希望を胸に、この街に出てきてアーサーと出会い恋に落ちるのだ。
また田舎暮らしに戻ると知ったら抵抗するのではないだろうか。
「このまま居残っても彼女の不利になるだけだ、人事部は退職勧告を検討しているらしい。それは当然だ。彼らは病院で働く人たちに快適な環境を与えるのが仕事だからね。
でも優秀な彼女に勧告による退職は相応しくない」
フェリシティが原作通りアーサーに捨てられていれば、ステラはこんなことにはならなかったと思う。
でも彼への愛を自覚した今、フェリシティは彼を手放すことなどできない。そしてそれは彼も同じだろう。これはうぬぼれでもなんでもない事実。
「わたしにもシャンパンを頂戴」
フェリシティは密やかな甘い熱を含んだ声色で告げた。
その意図に気づいたアーサーは深い笑みを零すと、グラスを呷って残っていたシャンパンを口に含むと、フェリシティを少し乱暴に抱き寄せてその口に流し込んだ。
ほんのりと香るアルコールとアーサーの熱にフェリシティは酔っていく。
「僕のリティ。愛してる、ずっとそばにいて」
懇願するようなアーサーの囁きにフェリシティの熱は高まり、彼の首に自身の腕をからめた。
「もちろんよ、アーサー。離れたりしないわ」
『あなたと共に』
フェリシティは転生したこの世界のタイトル通り、アーサーと共に生きていくことを誓ったのだった。
久しぶりの投稿で失敗をして、タイトルまでもが適当になってしまいました(泣
今後は気をつけます
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました




