婚約破棄をしたら手元に何も残らなくて草が生えなかった
「クリオーラ!貴女との婚約はここで破棄させていただく!」
と言って、隣国出身である貴族の子女と婚約を破棄した。
今、あそこで破棄した事を後悔している。
まずは、親に激怒された。
激怒どころか、家を出ていけと言われた。
側近さえも、兄弟さえも……手のひらを返したように存在を否定した。
まあ、肩身の狭い貴族の型枠から外れるだろうと応じたさ。
それからだ。
仕事が見つからない。
どれもこれも、自分に合っているか分からない。
数十年も城に居りゃあ、庶民の生活なんて分かりはしなかった。
それに、周りの目が気になってきた。
あれやこれや、根も葉もない噂が聞こえてくる。
ついこの間までは、立派な貴族だったのによぉ。
てか、貴族の型枠よりも肩身が狭すぎて笑えない。
そうこうしていると、街から出ていくことになった。
手持ちの物は、本当に最低限の物しかない。
人知れず、立ち去るしか無かったのか。
……そうしかない、としか言えない。
今頃、城はどうなってるだろうか。
こんな兄弟が居なくなって良かった、と言っているだろうか。
手元に残った物は、何もない。
地位も名誉も、城と街、過去に捨ててしまった。
俺は、もう人知れずに生き抜くしかないのか。
あそこで婚約破棄をしなければ良かった。
そう思っても、そう思っても―――
悔いきれない想いは、誰にも分からず、消え去る物となった。