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恋物語  作者: 黒崎月華
七色の恋物語
5/6

お祝いにはならない


LHR後はクラス内での連絡交換会となり、入学初日とは思えないほどの賑やかさだった。

そもそもあって数時間ちょっとの人となぜ連絡を交換しなければならないのかと思った。

だが、今後の学校生活上いつかは交換するのならば今やっても同じと思い、何とか誰かと交換しようと思った。


しかし、──


「現実はそう甘くいない、ってことかな?」


一日目で仲良くなれるかどうかの見分け方なんてどうすればわかるのだろうか。

中学時代に大して友達のいなかった人間がどうやって友達を作るのかなんて知るわけがない。

そもそも友達の定義とは?ってレベルなのに……


そんなことを思いながら私が教室の隅っこで一人ぽつんと立っていると、私に気づいた女の子が近づいてきた。


「えっと、三上さん、だよね?えっと、だ、私と連絡交換とか、し、してほしいなって、お、思って、て、その……」


そのまま言葉が詰まってしまったらしい女の子。

私的にはまず自己紹介からなのでは?とも思ったが考えてみれば先ほどクラス内での自己紹介は一通り終わっているのだから、この子は自己紹介をもうすでに私にしているわけだ。

それを再度お願いするのも失礼か。


「わ、私は、い、伊藤皐です。あの、話しにくいかもだけど、よ、よろしく」


ずっと黙っていたからか向こうから話し始めてくれた。


「ごめんね。私、名前を覚えるの少し苦手だったからさ。気使わせちゃったかな?」

「そ、そんなことないよ!わ、私も、その、よく名前間違えたりとか、し、しちゃう、から」


食い気味に否定されたことには驚いたが、見ていて楽しいし、女の子──皐とはうまくやっていけそうな気がする。


「よろしくね、皐さん」

「は、はい!よろしくです!」


やっぱり見ていて面白い。

私は皐さんと連絡を交換した後も少し話をしていた。

それなりに話は盛り上がって内心ほっとした。


** * * * * * * * * * * * * * * * * * * 


学校に帰って速攻自分のベッドにダイブする。

ベッドのきしむ音が部屋に響き窓をたたく風の音がそれをかき消す。


窓の外は朝とは打って変わった天気になっていた。


太陽が地上を明るくしていたのが、突然物をなぎ倒すような強風に変わった。太陽も雲に隠れあたりは暗くなってしまった。


「多分これから雨降るよな~」


分厚い雲を見上げながらそう呟く。

そのまま時間が経つのをゆっくりと体で感じながら目を閉じる。

瞼の裏に浮かぶのは父と母の姿。

何故かはわからない。

だけど、────


ざぁざぁという音に気付いてはっとした。

予想通り雨が降り始めたのだ。

私は体を起こし、急いで洗濯物を取り込みにベランダに出る。


「ギリギリだった。あぶな~。お気に入りの服が干してある日に雨なんて降らないでほしかったのにな~」


そんなことを言っても仕方ないか、と気を取り直して洗濯物を短時間で片づける。

17時になり、夕飯を作り始める。

今日は私の入学祝だから、ちらし寿司にでもしようかな。母ならきっとそう言うだろう。

私は冷蔵庫の中身を確認する。足りないものはなさそう……


急いでご飯を炊いて、ちらし寿司を作る準備をする。

その時、家のインターホンが鳴った。


「あー、今日はあの日だっけ?」


私は急いで玄関に向かい家の鍵を開け、ドアを開くと目の前に見知った顔の人がいた。


「こんにちは。思っていたよりも早いですね」

「そりゃあそうよ。なんたって今日はかわいい由奈ちゃんの入学式でしょう?私がお祝いに来なくてどうするのよ」

「まぁ、ここで話すのもなんですし中へどうぞ」

「あら、ありがとうね」


目の前にいたのは近所のおばさんだった。私としてはあまり関わりたくないタイプの人種の人だ。

 おばさんは町内会に所属しているらしく、よく近所の見回りをして気になる人の家に訪ねてくる。

私の家は夜遅くまで親がいないからだろうが、その理由でよく訪ねてきており、週に一回は来る。はっきり言って邪魔だ。


おばさんはリビングの椅子に座るとキッチンに目をやった。


「由奈ちゃん、ちらし寿司を作っていたの?」

「ええ、まぁ」

「あらあら、お祝いの日ですもんね。私も手伝ってもいいかしら」

「構いませんよ。ただ、親が帰ってくるまでには帰ってください」

「あらら、まぁ今日はそんなに長居するつもりじゃないわよ。家族水入らずの空間を邪魔しようだなんて思っていないもの。ただ、ね?」


おばさんは不格好なウィンクを向けてくる。

家族に気を使っての事らしいのでありがたく受け取っておく。

まぁそんなことは口にはしないが、


「それにしても、もてなすものなんてありませんよ」

「別におもてなしの為に来たわけじゃないわ。いつもの見回りも兼ねてよ。それで、今日もご両親は帰りが遅いの?」

「ええ。見ての通り。おそらく深夜にでも帰って来るんじゃないですか?」


このやり取りも何度もした。

私の両親はいつも家にいない。帰ってくるのは大体深夜が多い。

その為、日常的に家に一人でいる私を心配しておばさんは見回りにやって来る。


「そう。また困ったことがあれば私を頼ってね?いつでも力になるから」

「ありがとうございます」

「それじゃあ、私は今日のところはこの辺にしておくわ。ご両親によろしくお伝えして頂戴」

「はい。夜遅くにまでありがとうございます」


私はおばさんを玄関まで見送り、姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

毎度毎度同じこと。おばさんが何度家に来ても私の両親には会えない。

なぜなら────


「あ、ちらし寿司!」


思考を一度止め、ずっと忘れていたちらし寿司の事を思い出した。

急いでキッチンに戻ると冷めたごはんと具が中途半端に残った状態だった。


「はぁ、そんなんだったらちゃんと作り終えてから帰ってほしかったな」


もうここにはいない人物に向かってため息を吐く。


その日の夕飯はお祝いにはならなかった。




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