④
「じゃあ行こうか」
ちょっとしたいたずらに気分を良くしつつ、光に話しかけた。
光はなんだか物言いかけた様子だが、悪いのはそっちの方なので納得していただきたい。
いくら彼女とは言え、俺にはシロップの混ざった照り焼きソースの味に挑むことができなかった。
俺を薄情と言うなら勝手に言えばいい。
歩くこと20分。ようやく目的地らしきところに着いた。
目の前にはいわゆる移動式遊園地と言われるものが建っていた。中には意外と本格的な観覧車やジェットコースターなどがあり、少し驚かされた。
某夢の国まで電車で片道1時間以上かかってしまうためあまり行ったことがなく少しワクワクしてたりする。
「ここがそうなのか?」
「うん、この間テレビで特集があって、満久くんと行ってみようと思ってたんだよね」
嬉しそうに笑う姿を見てほっこりする。
だが、個人的にはあまり賛同できない。光の身の上を考えると本当はこういう人混みは避けるべきだ。
事実、今までも何回かそういう目に逢いかけている。
光の笑顔を自らの手で奪わなければならないのは悔しいが、彼女命には替えられない。
「満久くんまた重いこと考えてるでしょ。ハゲるよ」
「それ意外と心に響くからやめてくれ」
今までのシリアスを返せと言わんばかりに反応してしまった。
両親自体は大丈夫なものの、叔父や爺ちゃんにそういう方が居るのでかなり気にしている。
親から今のうちにやっとくべきだと忠告すらされている。
まあその思い悩みの原因は光なのだが、だからといって手放すつもりは毛頭ない。
まだ毛は頭にあります……。
「光!」
そのことを伝えるために呼びかけたが対する光は何もかもわかっていると言わんばかりに笑みを浮かべていた。
「大丈夫だよ。私はそんな簡単に死んだりなんてしない。満久くんの言いたいこともわかるけど、私にはこの"目”があるし、なによりどんなことがあろうとも満久くんが守ってくれるでしょ」
くっ、そんなこと言われてしまったら何も言えないじゃないか。
まったく本当に……
「わかったよ。そこまで言うんだったら行こうか」
笑顔で語りかけて手を差し出す。それを取るのを見てから二人でチケットを買いに向かった。
「わぁー、すごーい。」
いかにも女の子らしい反応を見せながら光が小走りで入園して行った。
なんとなく子供を見守る親のような気分になりながらも心の中で同意する。
今ではすっかり見かけることがなくなってしまった移動式遊園地だが、ここのはすごい部類に入るのだろう。
外から見えていた観覧車やジェットコースター以外にもメリーゴーランドやお化け屋敷といったものもある。
あれはなんだろうか、VRのシューティングゲームがあった。
「光は遊園地とかテーマパークとか来るのは初めてなのか?」
「まあ、そうなるね。知っての通り私中学校になってから引っ越して来たから」
ボソッと「行く時間もなかったしね」という呟きが聞こえた。
確かに、光が猟狼の一員として働き始めたのもここ二、三年のことだろうし、その間は訓練やらで手一杯だったのだろう。
「よし、じゃあ今度一緒に行こうか」
「えっ、いいの」
「うん。確かに遠いけど日帰り出いけない距離じゃないだろ」
「約束だよ?」
「わかってる」
彼氏としてそのくらいはやってあげなければと思って言ったのだが、思った以上に喜んでもらえたようで何よりだ。
さて、これからの話はひとまず終了して今は遊園地を楽しもうじゃないか。
「ねえ、観覧車乗らない?」
「いいと思うぞ。だけど夕方だと日が沈んで綺麗な光景が見れるらしいぞ」
「へぇ、そっか。それじゃあ1番最後に乗ろう」
海沿いに建設されているこの遊園地はちょうど西側を向いているため、夕日が綺麗なのだとグーグルに書いてあった。
やはり大先生は偉大だ。
しばらくぶらぶらと散策していると、外から見えていたジェットコースターの入口が目に入った。
立ててある看板を見ると、待ち時間が5分しかないらしい。これはチャンスだな…
「なぁ、光」
「ねぇ、満久くん」
おっと、揃ってしまった。驚いたような光と目が合う。ここまで来れば何がしたいか流石に誰だって察せるだろう。
「よし、乗ってみるか」
「そうだね」
ジェットコースターに乗るための興奮か、それ以外の理由か。少し楽しそうにしながら列に並ぶ光の後ろについて行く。