③
校門前のじゃれあい?を終えてからしばらく歩き続けている。
ちなみに今日は光の方から誘われており、どこに行くのかについては聞かされていない。正直なところナニされるか分かったもんじゃないので教えて欲しいところだ。
ちょうど今歩いているこの通りは時間帯的に歩行者天国として解放されているらしく、人通りが多い。食べ歩きのためか路肩には串焼きや、少し早いがかき氷の店があったりする。
「満久くん、ちょっとお腹減ってない」
少し上目遣いで尋ねてくる光。あぁ、そういう事ね。口には出さないが、光も漂う匂いにつられてしまったみたい「そうだな、おやつでも食べようか」
「じゃあさ、あのクレープ屋に行こう。あそこね、最近結構有名なんだよ」
「へぇ、じゃあそうするか。ちなみにおすすめは?」
「えっとね、普通のだとチョコバナナだったりが良くて、変わったのだとお肉が入ってるのとかあるらしいよ。うん、全部おいしいと思う」
まくし立てるかのように情報を教えてもらった。最初からその予定だったのだろうが、あくまで俺から行こうと誘って欲しいみたいだ。
その姿に思わず苦笑を浮かべる。
「そっかじゃあ行こうか」
ちょうど列が途切れたところだったので光の手を引いて向かう。
ショーウィンドウに並べられたサンプルを見る限り、軽く20種類はありそうだ。
えーっと、光が言ってたヤツは…
「すいません、このローストチキンとレタスのクレープをひとつ。光は?」
「ちょっと待って、えっとね…じゃあいちごとブルーベリーのクレープに追加でホイップクリームとチョコソースをお願いします」
圧倒的甘党。なんだ、そのカロリーの権化みたいな選択は。
光のチョイスに戦々恐々としていると受付のお姉さんから代金が告げられた。
「以上で1800円となります」
「ここは俺が払うよ」
すっと光の前に出て、財布を取り出す。ここは彼氏として男気を見せる場面だろう。
「ええー、いいよ半分こで」
「いや大丈夫だって。ここは俺に任せて」
「でも私の方が高いの頼んじゃったし…」
「それも含めて大丈夫だよ」
「じゃあ、後で私のも少しあげる」
そこまで言ってようやく引き下がってくれた。
財布から千円札を二枚取り出して店員さんに渡すと、なんか、地味に冷たい目になっていた。
まあ、うん、すみません。
「お釣りの200円になります。クレープの方は出来上がっておりますのであちらで受け取ってください」
店員さんが指した方を見ると、ちょうど光がキラキラした目でクレープを受け取ってるところだった。
「満久くん、クレープできてるよ」
「あら、もう受けとっていらっしゃいましたか」
むっちゃ皮肉られた。丁寧にお辞儀してるが、その顔には「店の前でいちゃついてんじゃねぇ。営業妨害で訴えるぞゴラァ」と書いてあった。
まじですいませんでした。少し会釈をしてからそそくさと店を出る。
「はい、これ満久くんの分ね」
食べずに待っていてくれたのであろう。両手にクレープを持ったままの光がその片方を差し出してくる。
なんだか精神的にどっと疲れたが、まぁ温かいうちに食べてしまおう。
渡されたそれを見てみると、少し分厚めの生地の中にレタス、コーン、ローストチキンが挟まっており、クレープというよりタコスとかそっち系の印象を持った。
ところで…
「この上からかけてある肉汁以外の液体はなんなのかな?」
大体予想はついているが一応犯人に問いかけてみる。
すると光は油が切れたロボットみたいにぎこちない動きでこういった。
「サア、ナンノコトダカ」
「そういうのはいいから食べれるかどうか教えてくれ」
ボケを綺麗にスルーされた光は仕方なくと言ったふうにポケットから小瓶を取り出した。
「一滴でクジラすら死に至らしめる猛毒…って言いたいところだけど、今回はただのシロップだから安心して」
それを証明するためか瓶の中に小指を突っ込んで少し舐めてみている。
それなら一応安全な代物なのだろう。
「ところでなんでシロップなんだ?」
多分というか確実にこれには合わないだろう。さっき見せてもらった小瓶の残りを見る限り、結構な量入れてるみたいなので、味が一切想像つかない。
「あっ、たしかに」
ですよねー。わかってたら絶対やっていないだろうから。
というか、下手な毒よりこっちの方が余計タチが悪い気がする。
目の前の危険物を眺めながら少しため息をついた。
「少し食べる?」
さすがに申し訳なかったのだろう。食べかけのクレープをこちらに差し出して来る。
気を使わせてしまった。そのことを少し反省しながら光の頬についたままだったクリームを拭ってあげる。
気づいていなかったのだろう。今度は頬を赤く染めて俯いてしまった。
そうそう、こういうのが俺が求め…
「あれ、お前ら満久と三条じゃね?おーい」
誰や俺のラブコメを妨害する不届き者は!!
自分の中で理不尽だと分かりつつ心の中でキレる。声のした方を見てみると同じクラスの優輝と春信がこちらに向かって手を振っていた。
「よくわかったな、この人混みの中で」
「いやぁ、聞きなれた声がしたと思ったら気温が上がったからお前らだと判断した」
「優輝お前なぁ」
「いや、実際そうだからね。僕たちの教室でもふたりがいちゃついた途端温暖化が始まるから」
「いちゃついた覚えは無いが?」
「「まじか、自覚なしだと!!」」
真剣に驚いた感じでこちらを凝視してくる。
このふたりは幼稚園来の親友らしく、本当に息があってる。
そのせいでふたりから同時に言葉攻めに会うという今みたいな実害があるものの、結構楽しく過ごさせてもらっている。
「いやぁ、まさかそのタイプとは思わなかった」
「流石学校一熱いカップル」
「周りの視線に気づかないとは恐れ入る」
「おいお前ら」
もうそろそろいい加減にしてもらわないとキレそうなのでやめて頂きたい。
すると光がなにか不満のようで腕に抱きついてきた。
「どうしたんだ?」
「満久くんが急に構ってくれなくなった…」
唇を尖らせて上目遣いでこちらを見てくる姿にはすごい心に響いた。
なんだこの可愛い生き物は。
「ごめんって」
謝りながら頭を撫でてあげると満足したようでへにゃっとした笑みを浮かべる。
「ほーらまた始まった」
「ああ、もうダメだね。なんにも聞こえてない」
バッチリ聞こえてるぞー。今彼女の機嫌取るのが大事なだけだから。
仕方なく手放そうとすると、その手を抑えてもっとやって欲しいとねだってくる。
ああ、もう。
その要求に答えてあげるために今度は髪をくしゃくしゃと少し乱暴にかき混ぜる。
「惚気けやがって」
「しょうがない、僕達は退散するとしますか」
くそ、いいように言われたままなのが悔しい。
待てよ……
「そうだ優輝、これやるよ」
ふと思いついた計画を実行すべく、俺は持ったままになっていた危険物を差し出した。
光は何をするか察したようだったが、黙っていてくれている。
「え?いいのか」
「ああ、買ったけど少し味付けが苦手だったから」
湧き上がる黒い感情が表に出ないように気をつける。
その味付けをした本人が少しムスッとしたが無視だ。
「おっけー。ならお前らの惚気聞いた代金として貰っとくよ」
「そうか、また明日」
「じゃねー」
そうして二人が歩き去っていくの見届けた。
しばらくして
「なんやこれあっまっ!!」
してやったり。