温泉旅行編2日目4
少し遅くなりましたが、温泉旅行今回で終わりです。
「はぁ~…」
ただでさえ分からない謎が、調べる内にさらに一つ増えてしまい、ため息をこぼしてしまう。
「春、少し頼みがある」
「ふぁんへふは?」(なんですか?)
私が春に視線を向けると、試食を食べまくり店員を半泣きにさせている春の姿があった。
いや、なにしてんの?
「もう勘弁してくださいお客様」
「アンタ…えげつない程食べるわね…」
「正直引くわ」
「いやぁ~えへへへ」
照れてるとこ申し訳ないが、誰一人誉めてないんだが…
「それよりも、春、悪いが糖恋と山丘と事件のあった場所の間に同じバックが落ちてないか探してきてくれないか?」
「えぇー…今回は、いつにも増して遠いですし、人使いが荒いですよぉ、ここと糖恋と事件現場がどれ程離れていると思って…」
「見つけてきたらお土産を後一つ奢ってあげようじゃないか」
ビュン!
一瞬で出ていったし…現金な娘だ。
「アンタ達って、いつもあぁなの?」
「まぁ…大方は」
「アンタも大変ね」
「……」
「ありがとうございます!ほんっとにありがとうございます!」
柳さんと橘さんは、私を可哀想な目で見てくるし…
店員さんは、涙目で私の両手を握ってものすごくお礼を言ってくるし、ってどれだけ試食を食べ尽くしたのさ
春がバックを探す間、私は今までのメモの内容を整理する。
・私たちが、悲鳴を聞き付けて駆けつけた時は柳さんと橘さんは二人で一つのバックを取り合っていた。
・取り合っていたバックからは、二人の身分証がどちらも出てきた。
・今日一日の二人の行動から、お土産を買っていた時の糖恋と山丘での間で、どちらかが何かしらのトリックを仕掛けた事になる。
・店員は二人とも同じバックを使っていたと言っていた為、もう一つ同じバックがどこかにある…?かもしれない。
以上が、今わかってる事だが…決定的な根拠となる情報が一つもないな。
春が戻ってくるまでもう少し調べてみるか、しかし、あとは何を調べればいいんだ?
「ねぇ」
「?」
考える私に、橘さんが話しかけてきた。
「もう、いい加減警察に頼らない?いつまでもこれじゃラチがあかないわ。警察なら荷物についた指紋とかとってくれるでしょ?」
指紋…そうか!できるぞ!あのバックに入ってた物で指紋採集が。
そうと分かれば、春も戻ってきていない今のうちに犯人を割り出してしまおう。
「犯人が…」
バタン!
「犯人がわかりましたよぉ~~!!」
私が話そうとしたタイミングで、春が戻ってきた。
どこかでこの状況見てたの?って思うくらいタイミングがいいじゃないか…
「ひぃ!戻ってきた!」
店員さん…すっかり春に怯えちゃって。かわいそうに
「え?犯人分かったの!?」
「わかったというより、犯人を割り出す方法を思い付いたのです!」
「犯人を割り出す?」
この娘は、もしかして私と同じ事を考えているのかもしれない。
「たった今、私はもう一つのバックを見つけてきました!」
春の手には、先ほどまで持っていたバックとは違った同じ種類のバックを持っていた。
それをなぜ、私に報告せずに事件を解こうとするんだ。
「そして、私は思い出したのです!一般人でもあるものを使えば簡単に指紋がとれる!それを使ってこのバックの中身から指紋を取れば、捨てられていたこのバックが、どちらのバックだったのかわかります!
となると、指紋のとれなかった方が引ったくられそうになったバックの持ち主、つまり被害者が分かると言うことです!」
長い説明ありがとう。そして、私に話させてくれ。
「何よ?そのあるものって」
「化粧品とセロハンテープでできる…らしいですよ!」
「らしい?…らしいってどういうこと?」
「私やったこと無いんで!という訳で、先生!お願いします!」
ここに来て私にやらせようってか。
だったら事件も全部私が解きたいものだ。
「はぁ~…わかった。元々私もそれをやろうと思っていたところだ。春に教えるついでに実践しようじゃないか」
「オッス!よろしくお願いしやす!」
どこぞの武道家みたいな返事をする春を無視して、私は準備に取りかかる。
「といっても、何も難しいことをする訳じゃありません。普通に指紋をとるだけなら子供でもできますからね」
「え?そうなの?」
私の言葉に、橘さんが意外そうな顔で聞き返す。
「えぇ、小学生の自由研究くらいなものと思ってもらって結構ですよ」
「へぇ、じゃああんたはやったことあるのね?」
「もちろん、何回かは」
「そ、なら信じるわ」
私は疑われていたのか…まぁ、あまりやるような機会はないから疑われるのも仕方ない…のかな?
「とにかく、今から実際にやってみましょう。百聞は一見にしかずです」
「先生!百聞は一見にしかずってどういう意味でしょうか!」
君、ホントに高校生?
「後で説明してあげるから大人しくしててくれ」
「イエッサー!」
軍隊!?
ツッコミたい気持ちを抑えつつ、私は指紋採集の準備を進める。
用意するものは、セロハンテープ、ティッシュペーパー、化粧パウダー…あとは、出来れば何か、小さくてもいいから画用紙のような紙が欲しいんだが…
「紙…紙…」
「先生、紙ならありますよ」
そう言って、春は試食物の下に敷いてある紙を私に差し出してきた。
「そんな粉だらけの紙じゃ使えないよ」
「それは残念」
バクッ
「おふぁひのあうぃがほほっへへおいひいへふ」(お菓子の味が残ってておいしいです)
いや、だからって紙を食べるんじゃない…雑食極まりないな
「あ、メモ帳の紙でいいか」
私が持っていたメモ帳を開いて今回はこの紙を使うことにしよう。
「では、指紋採集をしていきますね。春、君が見つけてきたバックを貸してくれ」
「返してくださいね?」
君のじゃないだろ。
私はバックを受けとると、バックの開け口に化粧パウダーを降りかけた。
「こうやって、バックに化粧パウダーをかけて、後はティッシュで軽く周りの粉を払い落とすと…ほら」
バックの開け口に付けた化粧パウダーが、ある程度払い落とされ、残った粉は綺麗に指紋の形を浮かべていた。私はそれをセロハンテープに張り付けて指紋を写し採る。
「「「おぉー」」」
「そして、柳さんと橘さんには、自分の指紋を取ってもらいたいんですが」
「どうやって?同じように化粧パウダーでも手にかけるの?」
そんなことしなくても、セロハンテープ1つで人間の指紋は簡単にとれる。
「いえ、セロハンテープの粘着部分に自分の指を押し当ててください。それで採れますよ」
二人はそれぞれ、セロハンテープに自分の指を押し当てて指紋をとっていた。
「ほぁ~!すごいですね~、ホントに採れちゃいましたよ」
ってか、春まで自分の指で指紋採りまくってるし…何してんの?
「勿体ないから止めなさい」
「えぇー!面白かったのにぃ」
オモチャじゃないったら…
「指紋採れたわよ」
「私も」
二人はそれぞれの指紋を採り終えて、私に指紋のついたテープを差し出してきた。
「有難うございます」
「私も採れました!」
「君のは必要ないから」
「そんな!」
そんな!じゃないよ。貰ったところでどうしろって言うのさ。
そして、私は二人の指紋をメモ帳に張り付けてバックについていた指紋と照らし合わせる。
「…これではっきりしました。犯人は、」
「犯人は、柳さん!あなたですね!」
おいコラ
「!?…ちょっと待ってよ!そのバックから私の指紋が出たからって、私達が持ってたバックから身分証が出てきたのはどう説明するのよ!」
「それは、」
「それは簡単です!橘さんと一緒の店にいた間に自分の財布をあえて橘さんのバックに入れ、その後で引ったくろうとした!同じ店に二軒も一緒に居ればチャンスはいくらでもあったでしょうからね。違いますか?」
言われてる…私の言おうとしたこと全て言われてる…このパターンは、まずい
「そして、ただ身分証を入れただけでは意味がない、誰かに中身を確認してもらう証人が必要ですからね!という訳で、あなたは引ったくりを行うと同時に悲鳴を上げて人を呼んだ。違いますか?」
「うぐっ…」
図星のようだな。このトリックをなぜ私に解かせてくれないんだ。
「あとは、いままでのやり取りの通りです!どうですか?私の推理は、かなり的を射ていると思いますよ!」
百聞は一見にしかずは知らないくせに、的を射ているの意味は知ってるんだね…って今はそんなことはどうでもいいか。
「…そうよ…その通りよ。あんた結構やるじゃない」
いや、指紋採ったのは私がやったんだが…
「結構自信あったんだけどなぁ…バレちゃったらしょうがない…大人しく警察に自首してくるわ」
思ったより潔いな…まぁそんな犯人がいてもいいか。
「目的は?」
一応、私は気になったことを柳さんに訊いてみた。おおよその検討はとっくについているが。
「もちろんお金よ。私は仕事をクビになって、生活すら苦しかったからね…残った貯金全部使ってここに来て今回の計画のために、私の持ってるバックと同じ人を探して実行したって訳」
「警察までは、私も同行しますよ」
「あら、意外と用心深いじゃない」
そんなつもりはないが、まぁいいか
それから、私達は柳さんを警察に送り届け、お土産屋さんを満喫し(主に春が)、お土産屋さんの商品と、私の財布を空にして、ようやく事件続きの旅行から帰ることができたのだった。
次回は何にしよう…まだ決まってねぇや