ひーくんのお手紙
お姉ちゃんの葬儀は身内だけでしめやかに執り行われた。
お姉ちゃんがいつも僕に自慢していた学校のクラスメイトも。お姉ちゃんの趣味で仲良くなったお友達も。誰も葬儀に来ることはなかった。
理由は知っていた。
お姉ちゃんが魔法使いだからだ。
お姉ちゃんはいつも言っていたんだ。私はみんなを幸せに出来る魔法使いだって。魔女なんだって。だから、なにか他の人には見せることのできない秘密があって誰も来ないんだって。
葬儀が終わると、僕は早々に家へと帰された。僕も手伝うってお母さんたちに言ったけれど、小学生の僕にはなにもすることがないからと言われてしまった。
お母さんに送ってもらって、一人で家のドアを開けると真っ暗な我が家に迎えられた。いつの間にか、太陽はすっぽりと沈んでしまっていた。
誰もいない。いつもなら、お母さんかお姉ちゃんが料理を作っているような時間なのに。
お姉ちゃん。
葬儀のときは恥ずかしくて我慢していたけれど、今は誰もいない。僕はリビングのソファーで少しだけ泣いた。
少しだけ泣いたあと、僕はお姉ちゃんの部屋に行った。ドアを開けると、お姉ちゃんの匂いがふわりと香って少しだけ悲しくなる。
お姉ちゃんの部屋はあの時のままだった。
少しだけ散らかった部屋。制服をベッドの上に脱ぎ捨ててマンガや雑誌もそこら中に積み上げられている。それでも、お姉ちゃんの机周りだけはいつも綺麗だった。
いつだったか、お姉ちゃんに聞いたことがあった。どうして、お姉ちゃんは机の上だけはこまめに掃除をするのって。
少しだけ困った顔をしたお姉ちゃんは少し考えてからこう言ったんだ。
「ここが、お姉ちゃんの仕事場だからかな!」
お姉ちゃんはここでいつも手紙を書いていた。一枚や二枚じゃない。何十枚も、それも毎日のように。文房具店やネットからいろんな種類のレターセットを買っては、机に向かって毎日夜遅くまで手紙を書き続けていたんだ。
それが、お姉ちゃんの『魔法使い』としての仕事だったから。
いつも言っていた。
手紙で幸せを届ける。それがお姉ちゃんの『魔法』なんだって。
「ひーくんは、手紙を書いたりしたことがある?」
お姉ちゃんの仕事場に手を添えるといつの日かのお姉ちゃんとの会話が甦ってきた。
僕はふるふると首を振った。手紙なんて書かない。だって、今はスマホを使えば簡単にお話できるんだから。
思ったことを伝えると、お姉ちゃんは少しショックを受けてしまったようでよろよろとよろめくような演技を見せた。
「たはは……。まぁ、私の年齢で言うべきじゃないけど、ジェネレーションギャップがすごいね……」
お姉ちゃんは気を取り直すように咳払いを一つしてから、僕の方へと向き直った。
「でもね、ひーくん。手紙は、貰ったら嬉しいものなの。ひーくんだって、お姉ちゃんから手紙を貰ったら嬉しいでしょう?」
僕は頷く。別に手紙じゃなくてもお姉ちゃんから貰えるものはなんでも嬉しいけど、僕は優しいからお姉ちゃんに余計なことは言わなかった。
「誰だってね。手紙を貰うのは嬉しいものなんだよ。だって、手紙を書くのはとても大変なことだから」
大変なこと?
聞き返すと、お姉ちゃんは「そうだよ」とさっきよりも優しい声で言った。
「腕も疲れるし、わからない漢字は調べないといけないし、失敗したら書き直しだし。何度、パソコンを頼ろうと思ったかわからないもの」
でもね、とお姉ちゃんは続ける。
「それだけのことをするから、手紙にはたくさんの想いがこもってるの。だって、こんなに大変なこと好きな人にでないとしないもの。だから、手紙は貰ったら嬉しいものなの。ねぇ、ひーくん」
ひーくんには、誰か大切な人はいる?
お姉ちゃんとの回想はそこでぷっつりと途切れた。
僕の大切な人はもうこの世にはいないから。それを思い出して、僕の視界がまたじわっと滲んだ。慌ててそれをぬぐって、僕は椅子に座る。
お姉ちゃんがいつも座っている椅子は少しだけひんやりとしていた。ここで、お姉ちゃんは毎日のように手紙を書いていたんだ。
そう思いながら机の方に向き直ると、机の隅に青い封筒が置いてあるのが目に入った。手を伸ばしてそれを取る。その封筒はしっかりと封がされていて、軽く振ると中でかさかさと音が鳴った。
お姉ちゃんの書いた手紙だ。きっと、お姉ちゃんが書いて出すことが出来ずに残ったものだ。他にも机を探ったけれど、見つかったのはこの一枚だけ。
これが、お姉ちゃんの遺した最後の手紙。
でも、この手紙はもう届くことがない。
手紙を届ける唯一の人が、もうこの世にいないから。
でも……。
この手紙を待っている人はどうなるんだろう。
お姉ちゃんは言ってた。幸せを届けることが自分の仕事だって。それじゃあ、この手紙を受け取れなかった人は不幸になってしまうということ?
手紙には宛先もなにも書いていない。相手の名前もわからない。でも、これだけは届けなければならない。お姉ちゃんの遺した最後の仕事を終わらせてあげないといけない。そうじゃないと、お姉ちゃんはきっと後悔する。
お姉ちゃんの最後の仕事をポケットにしまって、僕は部屋を後にした。
* * *
翌日。僕は、朝から手紙の渡し相手を探すために家を飛び出した。そうじゃなくても、あの家にはいたくなかった。家に帰ってきたお父さんとお母さんのせいで、家の中はとてもどんよりとしていた。
なんだかその場にいると身体が重くなって動かなくなる。そんな空気をかきわけて、僕はなんとか家の外に抜け出した。
外はまるでお姉ちゃんの笑顔のように太陽が輝いていた。その光が僕にのしかかっていた空気も消し飛ばしてくれたみたいで少しだけ身体が楽になる。
昨日、たくさん考えた。
どこに行けばお姉ちゃんの手紙の渡し主に会えるのか。僕の頭で思いついたのは二つだった。学校とお姉ちゃんがよく行っていた文房具屋さん。
お姉ちゃんの学校も文房具屋さんも僕は何度か連れて行ってもらったことがある。
自転車にカギを差し込んでサドルに跨がる。ペダルを強く踏み込んで、僕はお姉ちゃんが通っていた学校へと向かった。
僕が初めてお姉ちゃんの学校に行ったのは、お姉ちゃんから学園祭に遊びにおいでと誘われたからだった。
そのときは、たしかお姉ちゃんはオカルト研究会の出し物で占いをしていた。お姉ちゃんの周りはまるで壁でも出来ていたかのように誰もいなかったけれど、お姉ちゃんは「ここに誰も来ないのはみんな悩みがなくて平和な証拠だよ」と、笑っていた。
お姉ちゃんの通っていた高校は家からとても近い。僕が自転車を使って十分もすれば着くところにあった。
今日は日曜日。だから、学校の生徒もほとんどいない。本当は平日に行きたかったけれど、それはきっとお母さんもお父さんも、天国のお姉ちゃんも許してはくれないだろう。
自転車を学校の前に置いて、こっそりと中に入る。運がよかったのか、校門から校舎に向かうまでの道に人はいない。でも、校庭の方から何人ものかけ声が聞こえる。
きっと、お姉ちゃんみたいに休みの日でも部活動をしているんだ。
それにしても、どうやって話を聞けばいいんだろう。お姉ちゃんの手紙の届け主を探すことばかり考えていてそのことがすっぽりと頭から抜け落ちていた。
そもそも、その届け主を探すこともお姉ちゃんがいつもいるところに行くくらいしか見当がつかなかったんだけど……。
もしかしたら、手紙の封を切って中身を読めばなにかわかるのかもしれない。
でも、それだけは出来ない。
お姉ちゃんが、手紙に封をすることを『信頼』だって言っていたから。自分の想いを、相手の秘密を閉じ込めた大事なものだから。
だから、その封を切っていいのはその人だけ。そうじゃないと、大事なしまった想いも逃げて行ってしまうから。
だから、なにがあってもこのままで届けなくちゃいけないんだ。
でも、話を聞くにしたって誰に話を聞けばいいんだろ。見つかったらきっと怒られそうだし……。
「あれ、君どうしたのー?」
「ひぅっ!」
いきなり声をかけられて思わず変な声をあげてしまった。慌てて声がした方を振り向くと、テニスラケットを持った二人のお姉さんが僕のことを物珍しそうに眺めていた。
「どしたのー、迷子?」
「誰かの兄弟じゃないの?」
二人はとことことこちらに近付いてくると、僕の目線に合うようにスッとしゃがんだ。
「どうしようか。先生に相談する?」
先生という言葉に僕はビクッと身体を振るわせた。お姉ちゃんの高校のことはよく知らないけれど、先生が来るのが悪いことだってことだけはわかる。
どこの学校だって先生って生き物は子供のことをわかってなんてくれないんだから。
「ま、待って!」
僕の手を引いて連れて行こうとする手を払ってちょっとだけ距離を取る。お姉さんたちは少しびっくりした顔をしていたけれど、構わず僕は続ける。
「僕、人を探してるんです!」
「人?」
首を傾げる二人に僕はポーチの中にしまった手紙を突きつけた。
「この手紙を渡したいんです! なにか心当たりはありませんか!」
毎日のようにお姉ちゃんは手紙を書いていたんだ。きっと、この手紙にも心当たりがあるはず。
けれど。
「その手紙」
お姉さんたちの目つきが少しだけ鋭いものに変わったような気がした。
「この手紙、どこで見つけたの?」
今度は『気がした』なんて曖昧なものじゃなかった。お姉さんの言い方にはなんらかの悪意みたいなものを感じ取った。
「こ、この手紙……。知ってるんですか?」
「知ってるもなにも、この学校では有名だよ。『魔女の手紙』って」
女の子の一人が露骨に嫌そうな声で言った。
「魔女の手紙?」
「そう。この学校のほとんどの人が貰ってる。私のところにも来たし。気味が悪いよ。手紙に書いてあることが絶対に起きるんだから……」
そんな話、初めて聞いた。それよりも、お姉ちゃんがあんなに笑顔で作っていた手紙なのに。みんなが幸せになる手紙なのに。
どうして、この人はそんな顔をしているんだろう。
「この手紙は、お姉さんたちを幸せにはしてくれなかったんですか?」
そんなこと、お姉さんたちの顔を見ればわかるのに、僕はそれを信じられなくて、ついそう尋ねてしまった。
「幸せ? 君も中村さんみたいなことを言うね。幸せになるわけがないでしょ? 私は彼氏と喧嘩するくらいの手紙だったけど、この子は車に轢かれるって書かれてたんだよ? 実際に轢かれかけてるし、本当に気味が悪かったんだよ。交通事故って聞いたけど、死んで清々し――痛ったぁ!」
「真紀、言い過ぎ」
後ろで立ってたお姉さんがテニスラケットで思い切りお姉さんの頭を叩くと、申し訳なさそうに僕のそばに近寄ってしゃがみ込んだ。
「ごめんね。君はたぶん、中村さんのご家族の方だよね」
僕がこくりと頷くと、真紀さんが頭を抑えながら驚いた顔でこっちを見た。
「え、そ、そうなの……?」
「はい。中村莉子は僕のお姉ちゃんです」
「ご、ごめん……」
謝る真紀さんにため息をついたもう一人のお姉さんは改めて僕に視線を合わせた。
「お姉さんのことは残念だけど、ここでその手紙はあまり見せない方がいいと思う。真紀みたいな考え方してる人、たくさんいるから、ね?」
「はい……」
「それと、たぶん誰もその手紙の届け相手が誰かはわからないと思う。私や真紀が届いたものにも、相手のことがわからないようになっていたから」
「え、でも。手紙には名前書いてあったでしょ? ほら、ちょっと手紙を貸してみて!」
「え、ま、待って」
真紀さんは僕の手から手紙をひょいとつまみ上げる。なにをしようとしているのかなんて、すぐにわかった。
でも、僕よりも大人な真紀さんの方がずっとずっと早かった。
手紙には想いが詰まってる。
けれど、お姉ちゃんが最後に遺した手紙は。
お姉ちゃんの想いは。
ビリッと言う音と共に、空気に溶けて消えた。
* * *
学校を出て、僕はとぼとぼと歩く。もう自転車は漕げない。視界がじわじわと歪んでまるで海の中にいるみたいだ。
真紀さんはすごく謝ってくれた。
真紀さんのお友達もすごく怒ってくれたし、わざわざ校舎からのりを持ってきて貼り直してくれもした。
でも、それじゃダメなんだ。お姉ちゃんがしまっていた想いはもうこの中に入ってない。
本当にいなくなっちゃったんだ。お姉ちゃんは、これで本当に。
そう想うともうダメだった。
ぽたぽたと涙は流れ落ちて、僕の服を濡らしていく。
僕の中に光を照らしてくれた太陽も今は雲に隠れてしまった。
もう帰りたかった。
それでも、僕の足が文房具屋に足を向けているのは、きっと文房具の店員さんなら直してくれるかもしれないと思ったからだ。
お姉ちゃんのように、消えてしまったお姉ちゃんの想いをもう一度手紙に入れ直してくれるんじゃないかって。
そうでも考えないと、僕はもうどうにかなってしまいそうだった。
お姉ちゃんの行きつけの文房具屋さんは学校から歩いて五分くらいのところにあった。
お姉ちゃんが学校から近いからとても助かってるってよく言っていたのも覚えてる。
自転車を停めて自動ドアをくぐると、紙とインクの匂いが混じった不思議な空間が広がっていた。
「いらっしゃいませー」
お店の奥からそんな声と一緒に一人のお姉さんがひょこっと顔を出した。さっき学校で会った真紀さんたちよりもお姉さん。
お姉さんは僕の顔を見るなり「あ……」と、小さな声をあげた。
「君、莉子ちゃんの弟くんだよね。前に来てくれたの覚えてる?」
「はい」
お姉さんのことを僕ははっきりと覚えていない。けれど、お姉ちゃんのことを知っているのならきっと。
「あの、莉子ちゃんのことは本当に……」
「お姉さん!」
僕はお姉さんの言葉を遮って手紙を眼前に突き出した。
「これ、莉子ちゃんの手紙?」
「お願い、この手紙を直して!」
「直す……?」
僕はお姉さんにここまでの経緯を説明した。上手く説明することは出来なかったけれど、お姉さんは最後までしっかりと話を聞いてくれた。
そのうえでお姉さんは優しく微笑んで「大丈夫だよ」と、言ってくれた。
「直せるの?」
お姉さんは首を横に振る。
「ううん。君の考えを尊重するなら、この手紙にもう想いは残っていないと思う」
「そんな……」
でもね、とお姉さんは僕の頭を撫でながら続けた。
「この想いはもうとっくのとうに届いてるよ。だって、この手紙はあなたに宛てたものだから」
「え?」
お姉さんは、ほら開けてごらんと僕に促す。言われるままに封を切って手紙を取り出す。
その最初の書き出しは「ひーくんへ」となっていた。
「ほんとだ……」
「莉子ちゃんの最後のお手紙。ちゃんと読んであげて」
「うん」
ひーくんへ
ひーくん。はじめて、あなたにお手紙を書くね。
あなたがこのお手紙を読んでいるということは、おそらく私はもうこの世にいないと思う。
まさか、こんなマンガみたいな言い回しを書く日が来るなんて思わなかったよ(笑)
でもね、本当なの。今から一ヶ月後に私は車にひかれる子供をかばって死ぬ。これを読んでるひーくんなら、きっとここに書いてあることが本当だってわかってるんじゃないのかな。
前にも言ったよね。
私は魔女だって。
それも本当。
未来が見えるの。
近い将来に起こる、悪い出来事だけ私には見えてしまうの。それでね、私はこの力でみんなを救わなきゃって思ったの。自分にそんな力が芽生えたなら、その力を使わなきゃダメだって思ったんだ。
近い将来、その人に不幸が訪れることを知っているのに何もしないなんて、私には怖くて出来なかったから。
だから、たくさん手紙を書いたの。おかげで、たくさんの人を救うことが出来たよ。魔女だなんて言われて気味悪がられてたけどね(笑)
でも、そのおかげでみんなが手紙のことを信用してくれた。ならよかったなって思ったの。
ごめん、嘘。
本当はすごい辛かった。今まで仲良くしてくれた人も離れていって、さみしくて仕方なかった。
なんで、私だけがこんな目に遭わないといけないのって思った。
でも、それでも止めなかったのは、ひーくんがいてくれたからだよ。ひーくんだけは私が手紙で幸せを送っているって言葉を信じてくれていたから。
私もね、ひーくんだけは裏切りたくないって思ったの。
ありがとう、ひーくん。
私を最後までヒーローにしてくれて。
うーん。ここまで書きたいこと書いたけど、上手くまとまらないなぁ。いざ、書こうと思うとなにを書いていいかわからなくなるね。
でも、これでいいのかもね。
手紙なんて、そんなものだよ。
相手のことを想って、書きたいこともわからなくなるくらいに悩んで、本当にこれでよかったのかなってずっと不安で、それで笑顔が貰えたら嬉しいんだ。
お姉ちゃんは、ひーくんの笑顔を確認することはもうできないけど、私が見る未来にひーくんの姿はないからきっと大丈夫だよね。
最後に、魔女らしくひーくんに幸せを送らないとね。
ひーくん、ちゃんと前を向いて歩いてね。
お姉ちゃんはもういないけど、いつも見守っているから。ひーくんも誰かを助けられるような、強い人になってね。お姉ちゃんは信じているから。
さて、こんなものかな。
名残惜しいけど、そろそろ終わらないとね。
それじゃあね、ひーくん。
ばいばい。
お姉ちゃんより。
手紙を読み終えた僕の頭を、お姉さんが優しく撫でる。
「君に見つからないように、莉子ちゃん。毎日ここで書いていたんだよ」
見上げると、お姉さんの目にも涙が流れていた。
「でもね、手紙の内容だけは見せてくれなかったの。これは、弟くんの手紙だからって。もし、わかってたら莉子ちゃんのこと絶対に助けたのに……。ごめんね……」
僕のことを抱きしめて、お姉さんが泣く。僕はそんなお姉さんの頭をさっきしてくれたように優しく撫でた。
「大丈夫だよ、お姉さん」
お姉ちゃんは言った。前を向いて歩いてねって。誰かを助けられるような人になってって。
それは、僕の大好きなお姉ちゃんの姿そのものだ。文化祭で、一人でいても笑って、みんなの幸せを願えるお姉ちゃんみたいな人。
僕は今、この手紙を読んでお姉ちゃんの想いを受け取った。お姉ちゃんはいなくても、お姉ちゃんがしてくれた想いはちゃんと僕の中にあるんだ。
「ねぇ、お姉さん。僕にも手紙を書かせて欲しい」
「手紙を?」
「うん。お姉ちゃんは手紙を出してばかりで誰からも返事を貰っていなかったから」
せめて、僕はお姉ちゃんに返事を出したい。
「そっか。そうだよね。うん、ちょっと待ってね」
涙を拭いて、お姉ちゃんは立ち上がる。
「私も書くよ。一緒に莉子ちゃんにお手紙を出そう」
僕は強く頷いてお姉ちゃんと一緒に手紙を選ぶ。
僕とお姉ちゃんはそれぞれ気に入った便箋を選んで手紙を書く。
中身は教えない。
これは、お姉ちゃんに宛てた手紙だから。
お姉ちゃんへの想いを一心に込めた大事な手紙だから。
二人とも書き終わって、僕たちはそれをライターで燃やした。
想いのこもった僕の初めての手紙は、煙となってお姉ちゃんのところへと高く高く、昇っていった。
(終)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この作品はSSの会メンバーの作品になります。
作者:水城三日