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レクアル幼学校は言わば単位制である。高等学校に入学するのなら卒業に必要な単位は取らなければならないが、卒業と同時に就職先が決まっている者は単位を全て取る必要は無いのである。午前の部は座学中心、午後は実技中心のため、午後から登校という生徒も多くはない。午前中は家事や家業を手伝い、午後に登校をする。イージスもその一人であった。
「始め!」
ペアの相手との模擬戦が始まった。イージスは木刀に大盾。相手の大剣の木刀が襲いかかってくる。
大剣を生かした最大火力での振り下ろし。難なく盾で滑らせ、去なす。流れるように木刀で斬りかかるが、難なく避けれる。戦況はずっとこの繰り返しであった。お互い疲労がたまり、限界を迎えたのはイージス。攻撃をしようとするがタイミングを間違え、大剣と衝突。木刀は弾かれ、そのままがら空きの頭に大剣が突き付けられた。
周りの模擬戦は既に終わっており、勝負の行く末を皆が見ていた、が、終わるとやっぱりか、と言わんばかりの眼差しが向けられた。
「はぁ、はぁ…あんまり時間を取らせるなよ、雑魚が」
「…ありがとうございました」
一瞥され、ペアの相手は仲間の所に戻っていく。イージスは校舎裏へ隠れ手ぬぐいで汗を拭くと、その場に座り込んでしまった。
「いーくん、まーた引き分けてるの?」
ふと声がかけられる。
「キュアさん…」
「もー、さん付けダメだってぇ! いーくんだけだよ? この学校でさん付けするの!」
金髪のツインテールを揺らしながら抗議してくるキュア。王国大聖堂、神父の娘であり、癒しの御手と呼ばれる彼女はその名の通りヒールのエキスパートである。
「私知ってるんだよ? 城壁前で練習してるとき、今日みたいに大盾じゃなくて小盾使ってたよね?」
そっちの方が動きやすくていい感じだったよー?と続けざまに話してくる。
まっすぐに見つめるキュアには嘘やはぐらかしは通用しない。彼女には何故か全てを話してしまいたくなる気持ちになってしまう。これも神父の娘のなせる技なのかもしれない。
じっと見つめてくる彼女に対し、イージスはバツが悪そうに口を開いた。
「…父さんは、まだ体に合わない物は持たせてくれないから、それで…」
ふんふん、と頷くキュア。右上に瞳を動かし、何かを考えること数秒。目を輝かし、ニンマリと笑う彼女。
「いーくんはパパ思いだねぇ、パパの前だとダメだけど、それでも憧れのパパに早く追いつきたくて、練習してるとみた! かっこいいもんねぇルイスさん!」
真っ赤になるイージスを尻目に、隣に座り込むキュア。内緒話をするように、小さい両手で輪っかを作り、イージスの耳に添えた。
「二人の秘密だね」
イタズラそうに笑う彼女は立ち上がる。エメラレドグリーンの毛先が目の前を横切ると、彼女は振り返り口元で人差し指を立てた。
「いーくん、話してくれてありがとう! でもねその思い、パパさんが知ると喜ぶと思うから今度話してみて!じゃあね!」
嵐のように去っていく彼女を見届ける。ふと思い出すと、いつの間にか模擬戦での痛みがなくなっていた。彼女が気付かれぬようにヒールをかけたのであろう。彼女の腕に感服すると同時に予鈴のチャイムが鳴る。
イージスは次の授業の準備を始めるのであった。