遭遇
よろしくお願いします
俺はあまりコミュニケーションが得意では無い。しかしこの学校は授業で問題を教え合わせたりグループで課題に取り組ませたりと協調性を重視しているから俺は孤立することなくそこそこの交流をクラスメイト達と持てている。
俺は朝の教室で今日提出の数学のプリントの空白を急いで埋めていた。俺の他にもやっている奴が数名見受けられ、妙な安心感がある。
「河野って成績は悪くないのに提出物ギリギリまでやらないよね?」
隣の席でスマホを弄っていた野上に話を振られた。
「授業中にある程度終わらせるだろ?あと少しだからいいやってなって放置しちゃうんだよ。お前はやったのか?」
「あと少しなんだし家でやっちゃえば良いのに…。僕はやって来たからもう提出したよ。」
「河野、プリント出してくれる?」
唐突に別方向から声がした。
声を掛けてきたのはこのクラスの委員長で数学の係でもある佐川琴音だ。セミロングで明るめの色の髪の毛をしており、顔立ちも整っている。しかしその顔は何処か不機嫌そうだ。
「家でしっかりやって来たら?そんなに難しい物じゃないでしょ?」
何故彼女は俺に狙いを定めたのだろうか?他にもプリントをやってる奴はいるというのに。
「ごめん、もう少しで終わるから持ってくよ。」
「別に良いわよ、本当にもう少しみたいなんだしここで待つわ。」
彼女は俺のプリントを見ながらそう言った。見られながらというのは恥ずかしい。
「今日は綺麗に書いてるわね。」
「また先生にネチネチ言われるのは嫌だからな。ほら、出来たぞ。」
「はいありがとう、今度はちゃんと家でやってくるのよ?」
「善処するよ。」
「期待しておくわ。」
そう言いながら軽く微笑んで彼女は席の方へ去っていった。
ドキリとしてしまう俺は惚れやすいのかもしれない。
「何で俺を狙うんだか。」
「佐川さんなりに河野を気遣ってるんじゃないかな?この前も助け舟出してくれたし。」
この前、というのは先程の会話でも出た件で、急いでプリントを終わらせたため字が汚くて先生にネチネチ文句を言われたのだ。
その時に佐川さんは先生に授業を進めるよう促して遠回しに俺に助け舟を出してくれた。
「全くあの先生も小さいよなぁ。」
「少しは反省したり感謝したら?」
実際佐川さんには感謝している。ただ感謝を伝えるのがどうにも恥ずかしく、タイミングを逃して今更言うに言えなくなってしまっているんだ。
やはり俺は根っこの所でそういった事が苦手なんだろう。
昼休みになって野上と飯を食べた後、俺は図書室に向かった。
図書室に行く理由は俺が図書委員であり図書室の番をする必要があるからという他に、教室が騒がしいから避難したいという部分もある。
図書室の番は図書委員の仕事なのだが、うちの学校は体育会系寄りで図書室の利用者が極端に少ない。
最初は図書委員が日替わりで行っていたが、誰も来ないと彼らは理解してしまい、6月には来なくなってしまった。
しかも図書委員担当の先生が「どうせ何時もいるんだしお前が常に番をしてくれ。」と言って俺に全ての番を押し付けた為、基本毎日来る必要がある。
図書室に入るといつもの古い本の香りがした。俺はこの匂いが好きであり、どこか安心する。
今日も誰も来ないだろうなと思いながらカウンター席のような所に座り、俺は小説を開いて読み始めた。
ある程度読み進めていると足音が聞こえてきた為それに釣られて顔を上げる。
そして俺は息を飲んだ。
その少女はとても綺麗な漆黒と言ってもいいくらい黒い長い髪をしていた。目付きは鋭いが美しさを感じる。身長と体型は普通の女子高生より間違い無く良いと断言でき、何か人とは違うオーラを放っていた。
彼女は空いてる席に座ると持参したであろう小説を開いて読み始めた。
俺は彼女に見蕩れていたのに気付いて慌てて手元の小説に目を落とした。
図書室に生徒が来るのが珍しい上に、それが美少女な為俺は混乱しながらドキドキしていた。
それ以降昼休みにページは進まなかった。
感想などいただけると嬉しいです