海のはじまり
「物語は、僕たちに呼びかけてる」。そう言った人がいるけど、僕は物語って僕らの話を聞いてくれているものだとおもう。
誰にも話せない、話したことがない。自分でも忘れてしまっているんだけれど、ものすごく大切なこと。世界にはそんな話を聞いてくれている人がいて、あるとき忘れてしまわないように僕らに届けてくれる。それが物語なんだ。
え? みんな同じものを本屋さんで買って読んでいるじゃないかって?
その通り。でも、なんでだと思う?

それはね、みんながおんなじ悩みを抱えていて、みんながおんなじ物語を話してくれるからなんだ。だから、ハリーポッターをつくったのも、モモを話してくれたのも、ドラえもんを描いてくれたのも、全部君と君の友達だよ。
だからもし君が今、誰にも信じてもらえなくて、一人ぼっちでも、どこからか話を聞いていてくれている人がいる。しゃべらなくても、何も書かなくても、布団をかぶっていても、川辺で泣いているだけでも、ぜんぜん上手く伝えられなくてもいい。本当に聞いて欲しい話なら、どんなに長い話でも、どんなに辛くなってても、どんなに遠くにいても、全部聞いていてくれてるから。

そいつの名前は「海」っていう。海は一人なのかもしれないし、大勢なのかもしれない。妖怪でもないし、神様でもない。ちゃんとした人なんだ。僕は国立国会図書館にあった本や新聞を全部調べて、やっとのことでその名前を見つけた。大変だったよ。だって4500万冊もあったからさ。
僕も、小さい頃から海にたくさんの話を聞いてもらった。だから今度は辛い話じゃなくって、ちゃんとしてお礼を言うために、海を見つけに行こうと思ってる。この夏休みが終わるまでに見つけたいんだ。海って、夏によく見つけられてるから。
つづく