偽物の私の真偽者(マリー)
この世界にはドッペルゲンガーというもの存在するらしい。
もし会えば本物は死に、そして偽物が自分の代わりとして生きてくれるらしい。
ーーたとえば、この世界では私が偽物だったらしい。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「見てくださいの。またマリーお嬢様が読書をたしなんでおられますわよ」
黒い巻き髪を肩まで伸ばし、黒いドレスを着たまるで人形のような女性がいた。
彼女の名はマリー=シャルルマーニ。
そんな彼女はお嬢様学校のエリート中のエリートであり、誰よりも優れていた。だが唯一劣っていることがあった。それは……
「マリーお嬢様。いつも一人でいらっしゃいますわよね」
「あなたが話しかけたらどうですの?」
「無理ですよ。相手はマリーお嬢様なのですよ」
彼女は完璧すぎるが故、誰よりも近づきがたかった。
そんなある日、彼女は変わった。
「あらユリア。今日も可愛いわね」
「ありがとうございます。マリーお嬢様」
大人しいはずの彼女は、いつしか変わっていた。
「今日の朝マリーお嬢様に話しかけられましたわ」
「私もですわ」
「朝からマリーお嬢様の声は美しかったですわ」
学校中は大騒ぎ。
だが一人、それを陰から見ている者がいた。その者へとマリーは近づき、お嬢様口調をやめて言った。
「考えすぎよ。あなたは周りなど見ずにただ自分を悲観し過ぎていたの。そういうのは偽ヒロインって言って、悲劇のヒロインを演じる可哀想な奴としか見られない」
マリーは彼女を見るや、耳元で呟いた。
「変われるチャンスがあるなら変われ。今のお前は、お嬢様という肩書きに甘えているようにしか見えないぞ」
「甘えてなんか……」
「じゃあどうする?この先の選択肢は二つに一つ。君はどちらを行く?」
彼女は迷うことなく言った。
「私は偽ヒロインなんかにはならない。可哀想な奴にもならない。私は進みたい道を歩む」
「怖くないのか?」
「全然。それにさ、私は完璧だから、何でもできちゃうから、だからもういいよ。私のドッペルゲンガー。私は君から勇気を貰えたから」
彼女は笑った。
何十年も笑ってこなかった彼女の笑みは、不器用ながらも優しく、そして温かい。
「頑張るよ。私のドッペルゲンガー」
「ああ。また困ったら私が現れるよ」
これから見せるのは本物の私。
もう歩まないなんて選択はしない。
偽物と本物。
私がどちらなのか解らない。
でも私は進むよ。
だって、さらけ出したい自分がいるから。